暁美ほむらに現身を。   作:深冬

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第二話

 魔法少女とはなんなのか? という疑問をもったことはないだろうか。

 みなさんがどうかは知りもしないが、最低限私はある。なにせ私がその魔法少女なのだ。だから自己の存在について気になってしまったのは必然だったのかもしれない。

 とは言え、アニメ及びその他の二次カルチャーに精通していないという設定である私であるからして、いきなり魔法少女について語り出すのも如何なものかと考えさせられてしまう。ある程度の前置きは必要だろう。

 この混迷する情報化社会である現代において、非常に便利である検索サイト。延いてははみんなに堅苦しく物事を説いてくれるweb百科事典のお力をお借りさせていただくことで前置きとさせていただきたいと思う。これは日本人の九割以上の学生が誰しも通る道と言って過言ではないと思うので、許してくれると非常に助かる。

 彼の百科事典によれば、狭義の魔法少女には三つの条件が満たさなければいけないという。

 まず初めに、少女であること。もちろんのこと、私はこれに当てはまる。小学六年生であり、第二次性徴期の少女である私が当てはまなければ、それは最早魔法熟女であるとか魔法幼女とか言うジャンル開拓をしなければならないだろう。

 次に、超常現象を引き起こす能力を持っていること。これについても私は持ち合わせている。何もない空間にサーベル状の刀剣を呼び出す召喚魔法が使えたり、あまり効果は高くないが治癒魔法だって使うことができる。

 最後の条件は、その能力、もしくは引き起こされた超常現象を、作品本編中において「魔法」と呼称していること。これについては是非も問う必要はないだろう。先の条件を満たしていることを説明するために召喚魔法だとか治癒魔法と言う単語を引っ張り出しているからして、私が魔法を使用していることは明白だ。

 つまり私は魔法少女なのである。この結論は先生の記述が間違いだと指摘され、その内容を改変しなければならなくなった時に初めて覆される。

 

 ……と言うのは結構どうでも良かったりする。

 調べてみた限り、私がなることになった魔法少女が一般的な魔法少女とは少し違うようだし、さして気にする必要もないことがわかった。

 しかして、調べたからこそ知ることになった知識もある。文法が少々おかしなことになっているが、気にした時点で負けである。

 知ったこと、それは『魔砲少女』の存在である。

 普通の魔法少女と一線をかく存在である彼女たちは、その火力において他の魔法少女たちの追随を許さない。

 ここまで語れば理解できたかと思うが、私は出会ってしまった。

 魔法少女であると思っていたのに魔砲少女であった時の絶望感――は特になかったけれど、非常に面倒な先輩に絡まれたものである。

 これは魔砲少女との出会いの話。

 これと言って面白みはないけれど、私の精神的な回復のため聞いてくれると嬉しい。

 

 

 *****

 

 

 キュゥべえと契約し、魔法少女となって一ヶ月と言うところか。

 そろそろ私の手にも馴染んできたサーベル状の刀剣を振り回しながら、感慨に浸っていた。

 刃を蟹の化物のような魔女へと向けている現状からして、そんなことを脳内の片隅に置いておくことすら危ういのだが、それでも不意に思ったのだ。

 私の日常に加わることになった魔法少女として魔女を狩り続ける日々。無骨な刀剣を片手に魔女へと立ち向かっていくこと自体は了承していたけれど、というかそれを込みでキュゥべえと契約したんだけど、ここまで日常生活が何にも変わらないとは思ってもみなかった。

 

「ハァアアアアアッ」

 

 絵具で塗りたくられた絵本の中のような魔女の結界内で、とてもではないが魔法少女には見えないマントを纏った剣士のような格好をして魔女の持つ大きな鋏に刀剣を打ちつける。ちなみに肩出しスタイルである。

 これで何度目だっったか、一向にダメージが通ってないんじゃないかと思ってしまうレベルで蟹のような魔女の大きな鋏には傷一つつかない。

 鍔迫り合いに持ち込もうかと思って打ち込んだのだが、魔女のもう片方の小さな鋏が私目掛けて振り下ろされてくるので堪らず後退する。

 

「やっぱ鋏は頑丈だね」

 

 パワーのある右の大きな鋏に、小回りのきく左の小さな鋏。そのコンビネーションにやや辟易とするが、これで鋏を狙うのは止めにすることにした。本当は相手の攻撃手段である鋏を何とかしてから安全に倒したかったのだが仕方がない。

 

「となると、鋏の付け根かな?」

 

 見た感じ私の刀剣で魔女が纏った甲殻を斬り裂けそうもなく、関節部分ぐらいしか刃が通りそうな個所が見当たらなかった。

 まあ生物として柔らかいはずの眼球を狙うってのも手ではあるけれど、魔女を生物として定義していいのかすら疑問だ。それに顔面を易々と攻撃させてくれるほどあの魔女はバカではないだろう。まあ鋏の付け根も似たようなもんだが、そこは好みの問題である。誰も好き好んでグロテスクなモノは見たくない。

 先ほど後退したことで魔女との距離が開いたので、手にしていた刀剣を投擲する。運良くダメージ与えられないかなーとか思わなかったわけでもないが、やはりというかその大きな右の鋏で防がれてしまう。衝突の際に乾いた音が鳴り響き、刀剣は弾かれ地面に突き刺さった。

 

「それがダメなら――」

 

 胸の前で右手を一振りし、私は目の前にいくつもの刀剣を地面に刺さった状態で召喚する。

 

「これでどうだッ」

 

 それからは誰もが想像できるとおり刀剣を引っこ抜き、力いっぱい魔女へと連続して投擲した。そして最後の一振りは投擲せずに右手に力強く握り込み、私は魔女目掛けて疾走する。

 カンッカンッカンッと投げつけた刀剣は予想通り大きな鋏によって弾かれた。

 その隙をつくようにガードのために固められた鋏目掛け私は刀剣を振りかぶる。すると刀剣はまるで鞭のように刃は断続的に切り離された連結剣となり、大きな鋏を絡め取る。

 

「うぉりゃああああああああッッ」

 

 フィッシングで大物でも釣りあげるように、または背負い投げのような感覚で私は連結剣になった刀剣のグリップを両手で握り込み、魔女を地面へと叩きつけた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 息を整える時間もそこそこにひっくり返った状態の魔女へと追撃を重ねることにする。

 まずは大きな鋏の付け根に突き刺す。しかしこれだけでは切り離すことはできなかった。

 

「……ホントはあんまりやりたくないんだけどなぁ」

 

 ボヤいても始まらない。

 私はグリップの部分に取り付けられている安全装置を解除し、魔女へと突き刺した刀身を爆破させる。

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッッ」

 

 爆破によって魔女の大きな鋏と本体は切り離され、激痛からか魔女は黒板を引っ掻いたようなおぞましい叫び声をあげた。

 こうなれば後は簡単である。最大の矛であり楯であった大きな鋏を失った魔女など、私の敵ではない。

 とは言っても、爆破で私の身体もボロボロになってしまったが、覚悟はできていたので何の問題もない。我慢すれば良いのだ。

 グリップだけになった刀剣を投げ捨て、新たに刀剣を召喚して一閃二閃三閃と小さな鋏を含む九本の脚を付け根から強引に切り離してゆく。大きな鋏とは違って付け根は細く、意外と呆気なく離すことができた。

 

「さて、これで終わりだ」

 

 最後におもいっきり力を込め脳天に刀剣を突き刺して魔女の討滅を完遂させる。それと同時に魔女の結界は揺らぎ、現実世界へと帰還することになった。

 

「ふぅ……」

 

 自分に治癒魔法をかけつつ、魔女を倒したご褒美であるグリーフシードを拾う。

 グリーフシードとは魔法少女が魔法を使用するにあたり必要不可欠な物で、私はソウルジェム――キュゥべえとの契約時に手にすることになった卵のような青い宝石に押し当て、溜まった穢れをグリーフシードに吸わせる。

 一段落つき、魔法少女の格好から私服へと戻ると、不意に声をかけられた。どこか切羽詰まったような優しげな少女の声だった。

 

「あの……少し時間いただけないかしら?」

 

 声の方向へ視線を向けると、黄色い髪を左右でロールさせている中学生の制服着た少女がいた。あの制服は来年私が入学することになっている見滝原中学のモノだろう。先輩になるってことなのかな?

 ひとまず先輩っぽい少女から視線を下げ、一緒にいたキュゥべえに先ほど穢れを吸収させたグリーフシードを、放物線を描くように放る。するとキュゥべえは背中の赤いマークのようなものをパカッと開けると器用にグリーフシードを飲み込んだ。初めて見た時は驚愕したのだが今ではもう慣れた。なにやら穢れたグリーフシードは危険なので回収しているとのこと。詳しくは知らない。

 

「夜明けまでなら付き合ってもいいよ。見たところあんたも魔法少女みたいだけど、そっち系の話でしょ?」

 

 基本的に魔女は暗い時間にその姿を現す。だから必然的に魔法少女として活動するのは両親が寝静まった深夜である。しかも魔法少女には睡眠は必要ないようで、両親が目覚める朝方までが私の魔法少女の時間である。もちろん、小学校が終わった放課後とかにも魔女退治をする時もあるけど。

 

「ええ、私は巴マミ。美樹さやかさん、あなたと同じ魔法少女よ」

『マミと契約したのは、君とほぼ同時期でね。若干、さやかの方が契約時期は早いかな』

 

 と言うことは、魔法少女として私は巴さんの先輩になるのか。まあ同時期に契約したそうなのであんま関係なさそうだけど。

 

「それで何? 自己紹介は不必要みたいだから話を進めるけど、見た目通り私は頼りにならなかったりするよ?」

 

 所詮は小学六年生でしかないのだ。私ができることなど高が知れている。

 ……いや、もしかして魔法少女としてのことなのか?

 

『ああ、それは僕から説明するよ。実は――』

「大丈夫よ、キュゥべえ。自分で説明できるから」

 

 先に口を開いた(テレパシーだけど)キュゥべえを巴さんが遮って私に説明を始めた。

 その内容は予想通り魔法少女に関してのことだった。ちょっと、内容が予想外なものであったけれど。

 簡潔に巴さんの話の内容を要約するとすれば、つまるところ戦い方を教えて欲しいとのことだった。

 

「はぁ?」

 

 この驚きは見逃して欲しいものである。

 なにせ、巴さんは魔法少女であるのに未だ一度も魔女やその使い魔と戦闘をしたことがないというのだ。私と同時期に契約したというのならば、契約してから一ヶ月は経っていることになるので、それなのに戦いを知らないなど私の常識の範囲外のことである。

 理由を問うと巴さんはポツポツと言葉を零し始めた。

 

「キュゥべえと契約したのは一ヵ月ほど前になるわ」

 

 暗い暗い独白。後悔するような懺悔するような弱々しい声色で言葉を紡ぎだした。

 

「私の家はね、ひと月に何度か家族でドライブに出かける習慣って言えば良いのかな……大きな公園とか水族館、それに遊園地とかによく行ってたの。そう、あの日はディナーを頂きに隣の県の有名レストランまで行く予定だった」

 

 語られたのは悲しみの物語。テレビをつけて過去の事故を取り上げたドキュメンタリー番組の中で放映されるようなそんな物語だ。地方紙なら絶対に取り上げるであろう悲しい事件。

 高速道路での玉突き事故だそうだ。自動車が二十台ぐらい巻きこまれた大事故だ。記憶を掘り返すとすぐにその事故は地方局で大々的に取り上げられていたニュースになっていたことを思い出す。

 しかし彼女の口から語られたのはそれだけではない。巴さんは魔法少女である。魔女のとの戦闘を経験したことがないと言っても彼女が魔法少女であることは変わりない。

 

 ――助けて

 

 横転した自動車の中、失われゆく意識下において巴さんが願えたのはそれだけだった。

 その願いはキュゥべえに聞き届けられ、彼女が意識を取り戻したのは病院のベッドの上だそうだ。

 そして知らされたのは奇跡的に自分自身が無傷であったことと両親の死であった。自分の命だけ助かったことに罪悪感に苛まれたようだ。追い打ちをかけるように孤独となった巴さんに様々な手続きが襲いかかった。それに関しては遠縁の親戚が手続きをしてくれたようなのだが、問題はやはり身元の引受先だろう。その辺りは詳しくは話してはくれなかったが、かなりバタバタして一人暮らしをすることに決まったのがつい先日だそうだ。

 

「なるほどね。魔女と戦っていられる状況じゃなかったってことか。でもさ、魔女ってそこまで強力なヤツいないよ? ときどき苦戦させられるヤツもいるけれど、余程の例外を引かない限り駆け出しの魔法少女でも倒せるレベルだし」

 

 ゆらゆらと巴さんから漂うメンドクサイ雰囲気。これから関わっていく上で、彼女のような暗い背景を持つ存在は扱いが難しい。

 せっかくキュゥべえとの契約で出会いに意味を求めたはずであるのに、その第一号なのかよくわからないけれど、それでも出会えたのがこういう存在とは。

 たしかにこの出会いには“ある意味”意味がありそうだけどさっ。

 

『僕からも頼むよさやか。せっかく契約してくれた子なんだ。できる限り死なせたくはないんだ!』

「うーん、でも私って結構危ない戦い方するよ? さっきの戦闘を見てたのなら巴さんにもわかると思うけど。こんな私に教えを乞うなんて平気なの?」

 

 ハッキリ言って自らの近くで刀身を爆破させたのはかなり危ない。本来は連結剣で相手を拘束した時についでに爆破させるなど、自分から刀身を離した状態で爆破させるのだ。地面に刀剣をブッ刺しておけば簡易の遠隔起爆可能な設置型爆弾の完成である……と言いたいところだが、柄を握っていなければ爆発させることができないという制約がある。

 

「……ホントはね。戦うの、怖いんだ。でもね、私はキュゥべえに助けてもらった。せっかく生き長らえた命だもの、私も街のみんなを魔女から救いたいの。それは魔女少女にしかできなくて、私が魔法少女だからこそ救える命だから!」

 

 ああ、説明し忘れていたけれど、魔女は人間を襲う。理由は知らないけど。

 

「お願い……私に戦う力をちょうだいっ!」

 

 ……みたいな流れで私は巴マミの師匠的な存在へとなった。とは言っても一ヶ月もすれば師弟関係はもはやなく、互いに背中を合わせる的存在に格上げされていたけれど。

 はじめは巴さんがリボンを変化させたマスケット銃を使う遠距離型と知って、刀剣で戦う接近型の私に何を教えられるんだと思っていたけれど、巴さんは私の戦い方をすぐに自分のモノにした。これは別に彼女が刀剣を使いだしたとかではなく、マスケット銃を私のように大量に用意して撃っては投げ捨て撃っては投げ捨てという単発式(弾丸は魔法で造られているので再装填ぐらいできそうであるが)であるはずのマスケット銃の欠点を克服したりなどなど。明らかに相手にしたくない物量で攻める魔法少女へと成長した。

 しかも彼女の本来の魔法属性であるリボンを使った拘束魔法はかなり強力である。

 そして、さらに彼女は恐るべき攻撃方法を編み出した。

 なんというか、リボンを大砲に近い巨大な銃に変化させ、その銃口から巨大な弾丸を放つ「ティロ・フィナーレ」なるフィニッシュ技である。技名は巴さんが自分で命名したもので当方は一切関係ございません。イタリア語らしいというのは後で聞いたけれど。

 拘束魔法でガチガチに捕らえた後のティロ・フィナーレ。ものすごく強力なコンボである。巴さんとは絶対にケンカだけはしないでおこうとその時に思った。

 後に知識として知ることになる魔砲少女誕生の瞬間に居合わせることになったのは、泣きたくなるような思い出だ。

 

 巴先輩自体は…………まあ、良い人ではあるんだけれどね。




参考文献
Wikipedia
URL省略

※注意
マミさんの手続き云々で戦えなかったは捏造です。
公式スピンオフではバリバリ戦ってました。
修正するのが面倒なので、そういうこととしておいてください。

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