万屋鎮守府   作:鬼狐

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万屋鎮守府本編
第一話―THE BOMB:GANG HOUSE―


「吹雪くん。他人を傷つけるのは好きかね?」

 

 目の前の男が私――駆逐艦型艦娘、吹雪にそう囁いた。

 奇妙なことに、男は鶏頭のマスクを被っている。天井に備え付けられたスポットライトに照らされているせいで、マスクの目が怪しく光っているように見えた。

 ライトに照らされているのは彼だけではない。私に対しても向けられているし、彼の両側に置かれた椅子に座った二人も、光で闇から浮かび上がっていた。しかも、片方は馬のマスクを、もう片方は梟のマスクを付けている。本物の生首なのではないか、と思ってしまうほど三つのマスクはどれも精巧だ。

 梟の方はほぼ間違いなく女性だろう。身体の一部分が、とても大きい。先程から、私の方に顔を向けてずっと貧乏揺すりを続けている。怒っているのだろうか? 

 

「お前なんか知らねぇ。何しに来た? 呼んだ覚えはないぞ」

 

 じっと見ているのに気づかれたのか、梟は怒気の篭った声で私に向かってそう叫んだ。彼女のマスクの瞳もまた、真っ白なライトが反射してこの世のものとは思えないような色を見せている。

 

「あら、覚えていないのね。自分が何者なのか……。でも、いいのじゃ……よ。何も心配いらないわ」

 

 馬のマスク――声からすると、どうやら女性らしい――が、優しい声色で言った。自分が何者か。分かる。分かっているはずだ。けれど、こうも現実離れした光景を目にしていると、なんだか段々と自分の存在が怪しく思えてきてしまう。いったい、なぜこんなことになったのだろう。

 

「答えられないか? もう一度聞こう。『人を傷つけるのは好きかね?』」

 

 鶏マスクが、さきほどと同じ質問を投げかけてきた。あぁ。私はこれに対して、なんと答えればいいのか。何が正解で、何が間違いなのか。私は何を聞かれているのだろうか、何を試されているのだろうか?

 いったいなぜ、こんなことになったのだろう。私は心のなかでもう一度そう呟く。記憶に間違いが無ければ、私は、私は……就職面接に来ただけのはずなのだが。

 

『万屋鎮守府 第一話―THE BOMB:GANG HOUSE―』

 

 艦娘。それは、『深海棲艦対策』のために開発された人型生体兵器だ。深海棲艦たちは、ある日なんの前触れも無くこの世界に現れた。そして、この地球の海を荒らし回った。

 人類は即座に奴らに攻撃した。だが、既存の兵器で相手にするには深海棲艦は余りにも厄介過ぎた。人間大のサイズのモノが、戦艦や空母と同じだけの戦力となる……歩兵一人一人が携行核ミサイルランチャーを持っているような話だ。いや、それは言い過ぎか。それでも人類は次第に、追い込まれ始めていた。

 だがそんな時、とあるバカな天才が言い出した。『だったらこちらも同じモノを用意すればいい。それも、奴らよりもたくさん』。そして、彼は拿捕された深海棲艦をバラバラにして解析し、『艤装』を作り出した。人間の身体能力を数倍に引き上げ、それ自体が文字通り『艤装』としてその人の武器になる発明。装着出来るのは拒絶反応を起こさない限られた人間だけだったが、たしかな人類の希望となった。

 更に別のバカな天才が言い出した。『それを付ける人間の身体能力を元から普通の数倍にしておけば、数倍の数倍で数十倍になるんじゃね?』と。その結果、後に『艦娘』と呼ばれる適応者たちは様々な方法で強化された。科学的に――そして、魔術的に。深海棲艦という非科学的な生物が現れたことで、世界が存在をひた隠しにしてきていたいわゆる『オカルト』な組織も表に出てきたのだ。化学、生物学、医学、工学、錬金術、陰陽術、魔術、その他諸々。ありとあらゆる手段をごちゃ混ぜにして、艦娘たちの身体は強化された。……ちなみに特に生命に危ないことはしていないらしい。すぐに死んでしまっては困るとのことで、むしろ寿命も長いそうだ。無駄に優しい。

 そうして作り出された元人間の艦娘たちは、軍事的な訓練を施された。演習も何度も行った。最初に奴らが目撃され、かつ最も被害が多く、近海に深海棲艦がたくさんいるという理由で、深海棲艦に対する最初の反撃として艦娘のほどんどが日本に集められた。政府はいくつかの鎮守府を建設した。そして。いよいよ、実戦投入となったその日……出撃した艦娘たちは、何の成果も得られずに帰還した。『どこにも深海棲艦がいない』――その一言を手土産に。

 数週間をかけて、艦娘たち、および既存の各国非艦娘海軍は世界中の海を調べた。深海棲艦は、駆逐級一匹ですら見つからなかった。『深海棲艦は、消えた』。対深海棲艦臨時国家合同軍のトップは、世界に向けてそう発表した。地球は平和になったのだ。深海棲艦が現れた時のように、唐突に。

 艦娘たちの扱いは、宙ぶらりんになった。超特例的に日本に『軍』として存在していたため、突然に振って沸いた『戦後』の処理に困ってしまったのだ。この国の政治的な動きは、とても鈍い。『またいつか深海棲艦が現れるやも』という理由で引き続き日本が艦娘たちを所有していく、という結論が出る頃には、艦娘たちの大半が他国へと逃げ出したり、艦娘自体を辞めてしまっていた。……その結論が決まるまで、私たちの国籍や人権すらよく分からないことになっていたのだから仕方がないが。クレジットカードが作れなくて絶望した日が懐かしい。選挙権とかも無かったし。なお、艦娘自体が国家機密になってどこにも出られないのではないかと思われそうだがそうはならなかった。バカな天才の一人が艤装製造や艦娘強化の技術を世界にバラ撒いたからだ。惚れた艦娘のためにやらかしたらしい。愛とは恐ろしい。なお、その天才も艦娘も現在では行方不明である。

 私は日本に軍人として残った数少ない艦娘の一人だった。だが、とある事情で軍を辞めることになり……『ここ』へやってきた。事前にきちんと就職を希望する類の連絡をし、面接をしたいということで履歴書を片手に訪れたのだ――この、通称『万屋鎮守府』に。

 なのになんでこんな謎のマスクを被った人達に囲まれてるんだろう。なにこれ。これが噂の圧迫面接だろうか? たしかに圧迫はされているけども。

 

「……答えないか。なら次の質問だ。『君はなぜここにいる?』」

「就職のためですけど。どこにも雇ってもらえなかったので」

「え、あ、うん。それは答えるのか……」

 

 鶏頭の質問に、私は冷たく返した。薄々気がついていたが、これ某ゲームの再現だ。わざわざマスクを買ったのか作ったのかは分からないが、無駄な熱意を感じる。だからこそ腹が立つ。こんな辺境の地まで来たというのに。

 いや、正確に言えばここは辺境ではあるが『地』ではない。太平洋の上――それも、座礁した巨大タンカーの中だ。場所は日本ととある国の境い目。しかも両国が領有権を主張している場所の近くため、色々な意味でグレーゾーンな所だ。『万屋鎮守府』はそのタンカーを拠点としている会社だ。たしか、正式名称は『艦娘派遣サービス』とか何とか。要は、艦娘たちがたくさんいる仕事場……軍の同僚から聞いた話では、更に別名がある。『艦娘たちの流刑場』。他の国や組織で問題を起こした艦娘たちが流れ着く場所、という意味で外部からはそう呼ばれているらしい。『艦娘墓場』とか『マザーベース』とかもあった気がする。マザーベースはどう考えてもおかしいけれど。メタル○アかな。

 この会社はいわゆる『なんでも屋』らしい。あくまでも噂でしかないが、下は『ネトゲの手伝い』、上は『核輸送』ととにかくどんな仕事でも引き受けるそうだ。『ありとあらゆる任務を、全力を以て艦娘ががんばる会社』……とあるルートで手に入れた、この会社のパンフレットに記載されていた社の企業理念だ。いったい何人の艦娘がここに所属しているのかはわからないが、戦艦や空母と同じだけの戦力として数えることのできる人間大の兵器を会社、いや個人が複数所有しているという時点で十分異常な話である。

 そんな会社に就職しようというのだから、色々な感情をないまぜにした気合を入れて面接に臨んできたというのに……海を長時間走ってたどり着いた私が案内されたのが、このカーテンを閉めて暗くした上でわざわざ明かりをスポットライトだけにしているこの部屋だ。とてもふざけた話である。

 

「えーと、じゃあ次の質問だが……」

 

 そういって鶏頭が取り出したのは紙だ。おそらくはカンペだろう。雰囲気台無しにもほどがある。どうせやるなら最後までちゃんとやってほしかった。

 

「……なぁ、飽きてきたんだが」

 

 いつのまにやら、梟マスクの貧乏揺すりは止まっていた。声も、さきほどまでのような怒気を含んだモノではなくなっている。どうやら、演技していただけらしい。

 

「我輩もじゃ。口調変えるのめんどくさいのでの。このマスク暑いし」

 

 ぱたぱたと手で自分の顔を仰ぎながら、馬マスクの女性がそう言った。よほど暑かったのか、半分ぐらい脱げて鼻のあたりまで見えてしまっている。もういっそ外してしまっていいんじゃないだろうか。

 

「もうちょっとで終わるから頑張ってくれ二人とも」

「そもそもなんでこんなことやらされてんだ俺たちは」

 

 梟マスクが再び貧乏ゆすりを始めたが、おそらくあれは演技ではなく本物の苛立ちだろう。さきほどと違って、私ではなく鶏頭の男に向かっているのだろうけれど。

 

「さて、気を取り直して最後の質問だ。……その前にクソ暑いなこのマスク。外そ」

「外すのかよ」

「外すんじゃな」

 

 外すんだ。本当に何がしたかったのだろうか。マイアミごっこをやりたかっただけか。鶏頭の下から出てきたのは、……えーと。男。男だ。顔だちはよくわからない。サングラスをつけて黒い軍帽を被っている。あれらの上からマスクをつけていたのか。改めてみると、服もすべて黒で統一されている。軍服……いや、黒アレンジされた提督服か。顔がほとんど見えないので、年齢も推測できない。とりあえず細い。とにかく細い。黒い針金のような男だ。間違いない――アレが、『提督』だろう。

 軍時代の同僚から、通称『提督』……艦娘派遣サービスの社長である彼のことは聞いていた。『黒い針金みたいな見た目の無能そうでアホっぽいバカを見たら提督だと思え』、と。なので間違いなくあれが提督だ。黒い針金みたいだし、無能そうだし、アホっぽいし、明らかにバカだし。

 だが、しかし。油断するわけにはいかない。どれだけ無能に見えても、彼はこの会社のトップなのだ。他所でやっていけなかった頭のおかしい艦娘たちを制御し、まとめあげて仕事をさせる……簡単なことではない。おそらくは、すべてが演技。無能、あるいはただの道化としての自分を見せることで、対外的な警戒を少しでも下げようという心積もりなのだろう。

 おそらくはこの面接という名の茶番は、計算立てられたモノだ。間違いなくここからが本番。パクリ質問でこちらを油断させてから、本心を突くような質問をぶつけるつもりなのだろう。だが、私には通じな――

 

「君は野球をすることになった」

「は?」

 

 ん? あれ?

 

「どこのポジションを選ぶ?」

 

 ……………。とても既視感の覚える質問だ。というか元ネタを知っている。なんなんだこれは。キャッチャーと答えたら監禁されて牢屋で質問攻めにされるのだろうか。

 

「え、あの。キャ、キャッチャーで」

「なるほど。つまり君は人造人間か」

 

 やっぱりそれか。いや艦娘だしある意味では人造人間だけれども。色々改造されてるし親からもらった部分の九割方は別のモノに変わっているけども。

 

「よし。質問は以上だ。これにて面接を終了する」

「エエエエ!?」

 

 身体から力が抜ける。まさかの終了宣言。入れ直した気合が小さい穴からプシューと抜けだしていくかのような感覚に陥る。

 

「ま、待ってください! 今までので何が分かったんですか? まともな質問も無ければまともな答えもほどんどなかったし!」

「……フッ。色々と分かったぞ」

 

 そういって、男はにやり、と口の端を歪めて笑った。その笑みに、私の動きが止まる。まさか、ここまでの過程で何かを読まれてしまったのだろうか。迂闊なことは言っていないし、顔にも出していないはず。だが――噂で聞いた彼の異名が頭の中に蘇る。『人脈のみの怪物』。ありとあらゆる世界、界隈、業界に彼は友人を持っている。数十、数百、数千……そんな尺度では測れないほど、無尽蔵に『知人』がいるという。彼が社長……提督としてこの会社を立ち上げ、そして今でも維持できているのも、その知人友人たちによるモノだと聞いている。マフィアのボス、スーパーのレジ係、とある大会社の会長、風俗街のサンドイッチマン、政府の高官、盛り場のホームレス、ギャングの下っ端、銀行のクレーマー、ある大国の情報機関の部長、商店街のタバコ屋……多種多様、老若男女、魑魅魍魎。彼自身でも把握できないほどに、広すぎる人脈を持っている――という噂だ。

 逆にいえばそれ以外の長所は何もないらしいが。

 だがしかし。なるほど、と納得はする。そこらの人間の何倍、何十倍も彼は『人』と会っているのだろう。であれば、人を見る目もまた鍛えられているに違いない。彼の瞳に、いったい私はどう映ったのか。恐ろしくも、どこか期待を感じながら私は彼の次の言葉を待った。

 

「……」

「……」

 

 あれっ。

 

「……あの」

「なに?」

「何が分かったんですか?」

「え? いや、そりゃいろいろと。なぁ天龍。わかったよな? な?」

「な? じゃねぇよ」

 

 いつのまにか梟マスクを外していた胸が豊満な女性が舌打ちしながらそう言った。私もイラつきを顔に出しそうになったけれど。そこで人に振るんですか!? と叫びたくなった。さっきからこんなんばっかだ。勝手に男に期待や畏怖を胸に抱いては、ばっさりと斬られている気がする。

 

「いやほら、俺も色々分かったけど天龍の口から言ってほしいなーって」

 

 目を泳がせながら男が梟マスクだった人にそう言った。彼女は天龍、という名前らしい。天龍型軽巡洋艦の一番艦、『天龍』……この人も艦娘であれば、間違いなくそれだろう。

 

「嘘つけボケ。……まぁいい。そうだな、まず分かったのは――『マトモ』な娘だってとこだな」

「この鎮守府にはアレな奴らしか来んからのう。天龍も含めて」

「殺すぞ利根。テメェの顔見ながら言え」

「ハッハッハ、殺すぞ?」

 

 馬マスクの人も既にマスクを外していた。黒髪のツインテールが生きているかのように笑い声に合わせてぴょこぴょこと動いている。どうやってマスクの中に入れてたんだろう。なんか物騒な語尾付いてたけど、ギリギリ普通に話せそうな人だ。

 利根、という名前も知っている。利根型重巡洋艦一番艦の『利根』であろう。本名かあるいはアダ名で利根と呼ばれているわけでもなければ、この人もまた艦娘に違いない。

 

「とにかくだ。この鎮守府では珍しい普通の性格で真面目な思考だっていことだ。様子を見た限り、緊張感も持ちあわせているし色々と使えそうだ」

「武蔵みたいにスイッチが入るとブッ壊れる性格かもじゃが、そういうのが無いなら本当に貴重な人材じゃな。こっちの頭がおかしくなるようなことを言わない駆逐艦というのも実に珍しいのう」

 

 自分自身が分析されていることに、妙なむず痒さを覚える。なるほど、天龍さんと利根さん、この二人が男を支えているんだ。……支えないと共に沈没するだけ、ということなのかもしれないが。

 ……それにしても。利根さんが今まで会ってきた駆逐艦はいったいどんな人たちだったんだろう。持っている先入観がひどすぎる。

 

「『慣れ』させればそのうちチームリーダーも出来るかもしれんの。実際の働きを見てみないことには分からんが」

「そうだな。艦娘は身体能力とかが高いとはいえ、それを使う思考能力までは弄られてねぇし。採用するならしばらくは多めに仕事を回すべきだな。慣れさせるべきだ」

「うむ。経験を積ませて、慣れさせるべきじゃ」

 

 慣れ、という単語が二人の会話に頻繁に出てきている。その意味は分かっている。この鎮守府は『なんでも』やる。時には人間を、もしかしたら同じ艦娘を殺すこともあるかもしれない。それに慣れろ、と言っているのだ。

 とはいえ。元軍人だし必要とあれば必要なだけ殺すし、不要なら殺さない……ぐらいの訓練と経験はあるんだけど――

 

「「ベインの適当な指示に慣れさせよう」」

「どういうことですか!?」

 

 ぜんぜん違った。思わず叫んでしまった。

 

「あぁ、悪い。ベインってのは提督のアダ名だ。社長ってことで艦娘たちの司令官ではあるが実際には国に任命されたわけでもねぇしまともな司令も寄越さねぇから最初は『便宜上提督』って呼んでだんだが……そのうち略されてベン提督って呼ばれ出してな。で、それにベインが『なんか響きが汚い』って文字通りクソみてぇなこと言い出したから『ベイン』ってことに」

「いやそっちじゃないです! そっちも気になりましたが! 適当な指示って……」

「そっちか。本当に真面目な娘じゃのう。まぁ、そのままじゃ。そっちの意味は……実際に仕事をしてみれば分かると思うぞ。実に酷いからのう。それに慣れ、改変して自分で最善の指示を出せるようになるようになったら一人前じゃぞ」

 

 え。司令塔の言う事って間違っていると思ってても聞くモノでは。複数人での行動に一番大事なのは統一性、と習ったのに。ここにいると常識が色々とブッ壊れてしまいそうだ。

 

「よーし。じゃあ、採用ってことで早速仕事してもらうかな。天龍、お前と吹雪で組んで行って来い」

「は?」

「我輩は休みじゃな! くだらない茶番面接で疲れたから寝直すかのう」

 

 さきほどまでずっと黙っていた提督が喋り出した。口を挟むタイミングが無くて静かにしていたのだろう。やっぱり何も分かってなかった。

 提督。うん。もうこの人は提督って呼ぼう。ベインと呼び捨て――名前ではないが――するのは気が退けるし、だからといって司令官と呼ぶのも躊躇われる。魂はそう呼べと言っているが、頭が『やだ』と言っているのだ。

 ……というかいま、採用って言った? すごく軽い感じで就職が決まってしまったようだ。書類とか書かないでいいのだろうか。まぁ、ほとんど非合法組織だからいいのかな。……いいのかな?

 

「まだ自己紹介もしてねぇんだが……まぁ、道すがら話すか、吹雪」

「あ、え、は、はい。が、がんばります。いや、今日からここで働くことになりましたこれからよろしくおねがいします? えっと」

「あー、混乱してんな。まぁそうだよな、今日は面接だけだと思ってたんだろ? まさか当日に採用されてそのまま仕事、なんて予想してねぇよな。俺がちゃんと手を引いてやるからゆっくりと状況と仕事の内容を飲み込め」

 

 そういって、天龍さんは私の頭をがしがしと撫でた。優しさと頼り強さを感じる温かい手だ。……だからこそ、不安になる。彼女のような艦娘がなぜ、この鎮守府にいるのか。この『艦娘流刑場』に。

 

「ところでどこに行きゃあいいんだ?」

「ん? あぁ、言い忘れてたな。あ、これ仕事の概要書いた紙な。覚えたら燃やしといて」

「紙に出力せずに口頭で言えっていつも言ってるだろボケが。盗聴器の心配も無いんだからここは」

「覚えられるわけないだろうが!」

「開き直ってんじゃねぇよ」

 

 大きな溜息と共に、天龍さんはそう言った。毎回毎回、似たようなやり取りをしているに違いない。呆れを通り越しているような表情だ。

 

「で、結局どこに行くんだ。それぐらいは覚えてるだろ?」

「えっと、たしか――A合衆国だな」

 

※※※

 

 三時間後。私はA合衆国の土を踏んでいた。三時間。たった三時間である。『今からA合衆国に行くんですか!? 私、今日が初出勤なんですけど!? そもそも面接も今日だったんですけど!? パスポートも無いですし! なんかこう研修期間とかそういうのはないんですか!?』と一応抗議はした。したが、特に聞き入れられることなく謎の輸送機――提督のツテで借りているモノらしい――に乗せられてここまで運ばれてきたのだ。三時間で。普通の飛行機なら十二時間は優にかかる距離を三時間で。今にも吐きそうだ。よく気絶しなかったものだと自分をほめてあげたい気分だ。あんなに速い輸送機初めてだ。

 ちなみにパイロットは加賀という名前の艦娘だった。正規空母の加賀の艦娘であろう。じゃあ操縦するほうじゃないじゃん飛ばす側じゃん、と今更ながらに思う。

 突っ込みを入れたい部分はそこだけではない。あんな超高速度の輸送機で真っ直ぐにやって来たというのに、迎撃される様子すらなかった。大国の防衛網を潜り抜けられる輸送機て。誰が作って、誰が提督に渡したのだろうか。改めて、彼の人脈が恐ろしく感じた。

 ……。それにしても、だ。身体の節々が痛い。血が足りてない気がする。肉も。あと寒い。身体がビチョビチョだから仕方ないけど。私たちは海からA合衆国の陸地に上がってきたのだ――輸送機から、海へ。つまり……。

 

「オイ、えーっと……吹雪だったな。気をつけろよ、お前。危うく死んでたぞ。まぁ、今日が初だから仕方ないけどよ」

「じゃあパラシュートくださいよ!」

 

 首をコキコキと鳴らし、ぐぐ、と身体を伸ばしてリラックスしている天龍さんに私は声をあげた。そう、私たちはパラシュート無しで超高速で移動する輸送機から落下させられたのだ。なぜ輸送機なのにパラシュートが入ってないのか。下が海だったとはいえ、どうして死んでないんだろう私。艦娘だからか。怖い。たとえ本物の艦であってもあんな超高度から落ちたらブチ壊れると思うんですけど。

 

「慣れればノーペイン、ノーダメージで行けるぞ? こう、着地の瞬間に衝撃を殺して」

「経験の有無の問題なんですか!?」

「ま、下が海だったからな。陸地だったら死んでたぜ。流石だよな、海」

「海からどんな影響を受けてるんですか私たち!」

 

 『このキャラクターが海マスに存在している時、ステータス増大』とかそういう職業パッシブスキルでも付いているのだろうか。いやそれにしても天龍さんの無傷っぷりはおかしいが。

 

「さてと。じゃあとっとと移動するぞ。夕方になっちまう」

「あ、はい。……ええと、タクシーでも拾いますか?」

「目立つだろ。運転手に顔を覚えられてしまう可能性も避けたいんだよ。少し待て……あぁ、ほら。足が来た」

 

 そういって、天龍さんは――上を見上げた。何を言っているのだろう、と思いつつも釣られて私も顔を空に向けた。

 

「なにあれ」

 

 思わず呟いてしまった。間違いなく……私はいま、ポカンと口を開けていることだろう。空。空から、何かがゆっくりと落ちて来ている。黒いナニカ。あれは、まさか……車? こちらに近づくにつれ、その姿がはっきりと見えてきた。上に風船の付いた、ジープだ。

 

「吹雪。そこ危ないぞ」

「いやいやいやいや! なんですかあれ! どうやって降りて来てるんですか! 誰がどこからあれを投下したんですか! なんでゆっくりなんですか! どう考えてもあっちの方が目立つじゃないですか!」

「質問が多いなオイ。アレはまぁ、車だ。何の変哲も無い盗難車だよ。俺たちと一緒に加賀が輸送機から投下したんだ。風船は……まぁ、なんかオーパーツガスが入ってるとでも思っとけ。俺もよくは知らねぇ。ベインがどっかから買ってきてるやつだし」

 

 また提督の人脈ゆえか。なんなんだあの人。謎輸送機だの謎ガスだの、オーバーテクノロジーというレベルじゃない。万屋鎮守府の拠点自体もそうだ。なぜあのタンカーは浮き続けているのかも分からなければ、電気だのガスだの飲水だのも全部『原理は誰もよく分からないし理解できないけど海水を分解したり再構築したりとかでなんとかする不思議な機械』で担っている。担えてしまっている。アレらを売ればいくらになるかも分からないし、いくつの大企業が倒産に追い込まれるかも想像つかない。そんな爆弾めいた物体がタンカー内の至る所にある上に、それらをどこから買ってきたり借りてきたりした提督がその価値をまるで理解していない。恐ろしいにもほどがある。

 

『あー、あー。こちら提督。聞こえてるか?』

「こちら天龍。聞こえてるぜ」

「こちら吹雪。聞こえます」

 

 片耳に入れているイヤホンから、件の提督の声が聞こえた。無線機による通信である。……地球の裏側からの通信にしては随分とクリアだ。大国の通信衛星を複数台も間借りしている、なんて噂もあったがひょっとして本当なのだろうか。

 

『そこから車で三十分ほどのところに目的地がある。依頼人のアジトだ。ジョンのとこだな。そこへ言って仕事を――』

「どのジョンだよ。お前の言う『ジョン』は多すぎるんだ。殺し屋のアイツか?」

『いや、ブギーマンじゃない。アイツはいま別の組織で強盗してる。ストリートギャングの方だ』

 

 短い会話の中にツッコミどころが多すぎる。彼女らの言うジョンってまさかあの伝説の殺し屋のことかな。まさかね。でもブギーマンって……。

 

「ストリートギャングの方……あいつらか。了解」

 

 ジョンという人と天龍さんは既に知り合いのようだ。ストリートギャング……たしか、日本語でいうと不良集団だっけ? ギャングだけだとヤクザに近い集団になるんだったかな。

 

『上手くやれよ。ジョンの方も、もう一個の方もな』

「あぁ。わかってる」

 

 もう一個? 仕事がもう一つある、ということだろうか。それを訪ねようとしたところで、天龍さんが耳に手を当てたままこちらを向いた。

 

「せっかくの初仕事だし、とりあえずコイツ一人でジョンと話させてみるわ」

 

 えっ。

 

※※※

 

「………」

「………」

 

 帰りたい。故郷に帰りたい。いや、いっそ時間を戻したい。どこからやり直せばいいだろう。万屋鎮守府に就職する前か、軍に入る前か、それとも艦娘になる前か。そんな現実逃避思考が頭の中に溢れ出る。

 私の目の前にいるのは、赤いジャケットとジーンズ、そして金色の髪の厳つい男性だ。顔も怖い。ギャングというか、マフィアか何かにしか見えない。彼はあるギャング組織のリーダーのジョン。私が座るソファの対面の大きな椅子に、どっかりと座っている。

 彼の周り……というか、部屋の中には彼の部下たちが数十人いて、私を囲んでいる。怖い。本当に怖い。男性恐怖症というわけではないが、女一人で屈強な男たちに囲まれるのはやっぱり恐ろしさを感じてしまう。私まだ処女だし。

 女一人。そう、女一人。この部屋……ジョンさんをリーダーに据えた彼らギャングたちが根城にしている古びた建物の一室にいるのは、私と彼らだけだ。天龍さんは、私をジョンさんに紹介してすぐにどこかへと行ってしまった。まさか本当に一人で相対させられるとは。どんな新人研修だ。

 

「これが艦娘ってヤツですかい、兄貴。ちょいと幼いが、どうみてもただの女にしか見えねぇなぁ。全員で抑え付けたら、どうとでも出来るんじゃないですかい? さっきの天龍っつー女も捕まえて一緒にみんなで楽しみませんかい?」

 

 男たちの一人が、下卑た笑みを浮かべて私の身体をジロジロと見ながらそう言った。これは本当にヤバいのではないか。誰か助けて。私まだ処女なの。

 

「艦娘は艦娘を止めるまで孕まないって言うし、何をしても面倒なことにはならないだろうしなぁ……」

「やめろ、新入りのジョージ。知らんのか」

 

 さきほどまでずっと黙っていたジョンさんがそう言った。良かった。流石はリーダー。客人たる私に手は出させないようだ。……艦娘って妊娠しないんだ。初めて知った。

 

「何を知らないってんです?」

「その孕まないって噂な。とある駆逐艦娘が……たしか如月とかいう名前だったか……まぁ、そいつが広めたモノだ。想いを寄せてた男に自分を襲わせるために割と国家機密に近いそんな情報をバラ撒いたらしい」

「あ、その噂なら聞いたことありますわ。しかも別の噂も」

 

 ジョージと呼ばれた人とは別の男が、手を上げながら言った。

 

「なんでも、あるヤリマン駆逐艦娘が男千人斬りをしたいがために便乗して更に広めたって話ですよ。そいつに喰われた男は全員、その駆逐艦がイった瞬間に超人的な膣圧でチンコが千切られるか……もしくは、心臓発作起こすまで途中から完全に逆レイプされてそりゃあもう無残な死を遂げているとかなんとか」

「ジョニーの言うとおりだよ。こいつら、船そのものを人型にしたような存在だしな。ジョージお前、本物の駆逐艦を傷つけたり犯したりできるか? できないならやめとけ。ここにいる全員で飛び掛かっても吹き飛ばされるだろうし、よしんば出来たとしても股間のブツが弾け飛ぶぞ」

「……こええな、艦娘。近寄らないことにしますわ兄貴」

「それが懸命だ。それに、なんだ。天龍の姐御には世話になってるしな。裏切れねぇよ」

 

 何やってんの、他の駆逐艦娘。艦娘に対するイメージが性欲の化物以外の何者でもない。私は違う、と叫びたい……ところではあるけれど。処女だし。実際に行為に及んだ時、どうなるかは自分でもわからない。

 とはいえ。天龍さんのおかげでもあるようだけれど、彼らが私を襲って来ないことがわかって私は少しだけ安心した。それゆえか、ずっと固く閉じていた口がようやく開いた。

 

「あの、よろず……いえ、艦娘派遣サービスへのご依頼とのことで馳せ参じた次第なんですが」

「あんた……ええと、吹雪とか言ったな。新人だろう?」

「えっ!? い、いえ。そんなことは」

 

 動揺し、言葉が少しだけ濁った。いったい何故バレたのだろう。緊張しているのを察せられてしまったのか? 見かけによらず、洞察力が高いようだ。

 

「あんたんとこの艦娘、誰も『艦娘派遣サービス』なんて言わねぇしな。どいつもこいつも『万屋鎮守府』って名乗る。久々に聞いたぞ、その正式名称。わざわざそれを言うのは新人ぐらい、って推理だ」

 

 そんな理由かーい。あれ。待てよ。久々? 彼は『提督』の知り合いで、提督経由で仕事を依頼しているらしい。いつも艦娘が代理で彼に会っているのでなければ、提督と話す機会も多いはずだ。つまり。

 

「……ひょっとして『提督』も『万屋鎮守府』と?」

「……あぁ」

 

 自分の会社名ぐらいちゃんと言って下さい、と帰ったら苦言を呈しておくことにしよう。

 

「わざわざ新人を寄越すとはな。天龍の姐御、俺でお前を磨くつもりかねぇ。そういや、すぐさまどっかに行っちまったが、最近の姐御はどうだ?」

「えっと……今日初めて会ったので比較できないですね。面接も入社も今日でしたし」

「あ、あぁ。そうか。……そうか、今日からなのにいきなりあのタンカーからこの国に移動させられたのか……」

 

 すっごい哀れみの目で見られた。悲しい。

 それにしても。どうやら天龍さんは彼らにかなり慕われているようだ。姐御と呼ばれているし。なんか分かる。彼らのようなギャングや日本のヤンキーに『お疲れ様です姐御!』と言われてそうな雰囲気の艦娘だし。

 

「まぁいい。あんたが新人だろうがなんだろうが関係ない。ジャック、ジャン、ジャーニー。例のブツを持ってこい」

 

 ジョンに指示され、三人の男が部屋を出た。ジから始まる名前多いなぁ。覚えづらい。…………覚えなくていいか。

 それから数分して、三人は大きなゴルフバッグを一人一つずつ抱えて部屋に戻ってきた。なんだろアレ。コカインとか金塊でも詰まってそうな鞄だ。

 

「えと……アレですか。今回の仕事はひょっとして運び屋ですか?」

「まぁ、近い所ではあるな。中身は金になるモノじゃなく爆弾だが」

 

 ……はい?

 

「ば、爆弾?」

「あぁ。そうだな、新入りならウチの状況なんて聞かされてないだろ。あの提督がわざわざ説明するとは思えねぇし。掻い摘んで話してやる」

 

 ある意味信頼されているようだ、私の新しいボスは。決してポジティブなモノではないが。

 

「ウチには俺より更に上がいる。デカいバックがいる、といったほうが正しいか。いわば俺は雇われギャングスターだ」

 

 ふーん。まぁ、日本の暴走族にヤクザのバックが付いているようなモノだろう。大して珍しい話でもない。

 

「そんで、俺たちはいま、上部組織に命令されて、この辺りの地価を下げるためにこの屋敷を買い取って住んでいるわけだが……」

 

 あぁ。なるほど。それもまたよくある話だ。上部組織とやらの息のかかった企業の誘致でもあるのだろう。節約か単に税金対策かは知らないが、そのためにギャングを送り込んで治安を悪くさせ、土地を安くしようとしているのか。なんかそんな話どっかで聞いたな。同じA合衆国だった気がする。アレは失敗してそのままスラム街と化していた気もするが。

 

「で、最近までは順調に土地価が下がっていたんだが……困った事態が発生した。俺たちとは別のギャングがこのあたりに住み着き始めやがったんだ」

「なるほど。それでそちらとこちらで小競り合いでも始まったわけですか」

「その通りだ」

 

 もしかしたら、上部組織と対立する組織の下部ギャングかもしれない。妨害工作のためにあちらもギャングを雇った、というところか。

 

「このままだと治安が悪く『なり過ぎる』。土地価は底値まで下がってくれるかもしれないが、下がり過ぎるのも困る――らしい。深くは知らないがな。ほどほどが良いってことだろう。腰の重い政府やサツがその腰を浮き上がらせないように使う金が土地代より高くなっちゃ何の意味もない」

 

 深くは知らない……上部組織からそういう苦言が入っただけだから、それ以上の情報は無い……ということだろう。いや、あるいはそういうことにしておけ、という私に対する言葉かもしれない。望む所だ。深入りして虎の尾を踏むつもりは無い。

 

「ここまで言えばだいたいわかるだろ? あんたらに頼みたいのは俺たちの敵対ギャングの排除。それも、俺たち以外の人間による……な。泥沼の抗争なんてゴメンだ。金と人ばかり消耗する。運良く生き残った奴がいれば俺たちを疑うだろうが、一介のギャングがこんな大規模かつ入手難易度の高い爆弾を使うだなんて『表向きは』思うまいよ」

 

 表向きは、か。ギャングの……あるいは警察のレベルでは『敵対ギャングがあんなのを手に入れられるはずがない』で終わり、敵の上部組織のレベルでわかることはこちらの上部での話し合いだが抗争だかになる、ということだろう。深い事情までは分からないし、分かるつもりもないし、分かりたくもないが。

 

「これで背景の説明は終わりだ。あとは依頼内容だが……まぁ、一言で終わる。『俺たちの敵対ギャングのアジトにこちらが用意した爆弾を仕掛け、崩壊させてほしい』。報酬は……四本、いや爆弾代を差っ引いて三本だな。さて。どうする? この仕事、引き受けてくれるのか?」

「…………」

 

 依頼の中身は分かったし、深い所以外の背景も理解できた。で、あるならば。私が言うべきことは、『イエスか、ノーか。』それだけだ。……本当に?

 いやいや、ちょっと待って。よく考えたら私は仕事の内容を聞きに来ただけだったはずでは。あれ? もう提督の方で受けるか受けないかは決まっていると思っていたのに。私の一存で決めていい話なのか。……良いわけないか。何らかの認識間違いを起こしていたようだ。ここは、提督に連絡すべきだろう。

 

「えと」

「?」

「少々お待ち下さい。いま、提督に確認しますので……」

「え?」

 

 ジョンさんが怪訝そうな顔で不可解な声を上げた。……え、どういうことですかその反応。なんかおかしいこと言ったかな。やっぱり提督との間で話が通っていたのだろうか。

 

「確認するのか?」

「え、えぇ。私、飽くまで提督の代理なので。依頼を受けるかどうかは提督に聞かないと」

「そうか……いや、いつもなら代理の艦娘がその場で返答するから驚いてしまった。『どうせ提督に聞いてもうんとしか言わないし、依頼を選り好みできるほどの余裕はウチにはない』とかで」

「ええぇ……」

 

 それでいいんですか、提督。……まぁ、いいや。それなら私が受けるか受けないかを決めても構わないだろう。

 ふと疑問が浮かんだ。私、まだ受けるか分からない仕事の依頼のためにアメリカに連れて来られたのか。しかも依頼人と一人で会わされている。私が受けないと考えて断ってたらどうなっていたんだろう。滞在時間数時間で日本に帰らされていたのかな? 酷い話だ。

 いや、待てよ。それはないか。たしか出発前に天龍さんが提督から仕事の概要の書かれた紙をもらっていた。多分、既にざっくりとした内容は聞かされていたのだろう。詳細を聞くために私が送られたに違いない。つまり、ある程度は既に提督……天龍さんも把握しているのだ。その上でここに寄越されたということは――ここで私が受けると答えても、問題はないはずだ。

 

「受けます、その仕事」

「そいつは素晴らしい。頼んだぜ」

 

 ジョンさんから手を出され、私はそれを握った。交渉成立。万屋鎮守府での初仕事の始まりである。

 

 ……始まりだよね? 私、何も間違ってないよね?

 

※※※

 

「ほお。爆弾ねぇ」

 

 ギャングのジョンさんの家から出てすぐの所に、天龍さんは立っていた。煙草――あれはハイメンかな――が足元に数本落ちているあたり、結構待たせてしまったようだった。時間をかけてしまったことを謝りつつ、ジョンさんから聞いた依頼内容を掻い摘んで説明したあとに彼女から発せられたのがそのセリフだった。

 

「報酬三本で爆弾もあっち持ちか。景気がいい話だぜ。いや、儲かってるのはあいつらの上かね」

 

 既に私と天龍さんは例の敵対ギャングのアジトに向かって歩き出している。天龍さんが場所を知っているらしい。やはり事前にジョンさんからの依頼内容を聞いていて、下調べしていたのだろう。

 ……あれ、でも天龍さんはこの国に着くまで誰から依頼を受けるのか知らなかったような。……いや、そっか。ジョンさんの口振りだと、彼は何度か万屋鎮守府に仕事を持ち込んでいるようだ。きっと以前にも敵対ギャングの妨害依頼があって、その時に天龍さんが敵のアジトの場所を知ったのだろう。

 

「で、どうだったジョンのヤツは。元気だったか?」

「あ、はい。元気そうでした。口振りは荒かったですが、筋は通してくれそうな人でしたね」

 

 そうか、とだけ一言つぶやいて、天龍さんはそのまま違う話題へと話を切り替える。好きな食べ物だとか最近観た映画とか、中身のないなんてことない雑談をしているうちに……私達は敵対ギャングのアジトが見える位置まで着いた。着いてしまった。ジョンさんのアジトを出てから十分も歩いてないのに。

 

「えええ!? いやいやいや。近すぎないですか?」

「そんなもんだ世の中」

 

 そんな言葉で片付けていいことなのだろうか。そりゃ別のギャング組織がこれだけ近くに二つあったら小競り合いにもなる。全く無関係の組織でも争いになるだろう。もしかしたらこっちのギャングには上なんていないんじゃないのかと思えてきた。

 

「ま、まぁいいです。それで、えと。どうしましょう。爆弾、どうやって仕掛けるんですか?」

 

 選択肢はいくつかある。郵便配達員の振りでもして届けるだとか、しばらく彼らの動向を見てアジト以外にも集まる場所があるならそこにあらかじめ仕掛けておくとか。うーん。初の仕事、初の場所。私が決められることではない。ここはやはり提督の指示を聞くべきではないだろうか?

 

「単純に行くぜ。俺が表で騒ぎを起こして、その間にお前が裏口から侵入して家の要所に仕掛ける。ひとつの仕事に時間かけてらんねぇしな。迎えのヘリは二時間後だ」

 

 なんかすっごい脳筋の発想な気もするが、時間が無いのなら仕方ないか。……って、待って欲しい。なんでそんなタイトなスケジュールになっているんだろうか。

 ……というか。聞き流しそうになったけど、潜入するの私なんだ。本当に、本当にぶっ飛んだ新人研修だ。

 

「ほれ、お前の装備だ」

 

 ごそごそと車から降ろしていたカバンの中から、天龍さんはいくつかのモノを取り出し、私に投げ寄越してきた。慌ててそれを受け取る。ふむふむ。サイレンサーと思しきモノが装着されているハンドガン。取り回しの楽そうなアサルトライフル。それと、謎のお面。……なにこれ。こんなの艦娘の装備じゃない。

 

「お前の銃の腕がわからんし、とりあえず取り回しの良いコイツをメインアームで渡しとく。ストック可変式のHK33A3……だったかな。サブマシンガンにしようと思ったが、あいつら普段から防弾チョッキ来てるし効果が薄いかもしれねぇし。だが基本はサイレンサーで殺せ。飽くまで潜入だからな」

「は、はぁ。艦娘同士の作戦前会話とは思えないですねコレ。あの、このお面は?」

 

 ピエロのような顔貌のお面だ。なんだか厳つい感じだけど。白を基調としたそれの右上には、日本国旗が描かれている。

 さらに特徴を上げると、とにかく分厚い。しかも、頭の後ろに当たる部分の紐は、祭りで売っているようなちゃちな一本の紐ではなく、太い何本かのベルトのようになっている。うっかり外れないようにしているようだ。……見たことあるなぁ、これ。

 

「この国でその防弾マスクを付けて暴れると、何をやってもとある組織のせいになるんだよ」

 

 やっぱり! やっぱり最近話題の犯罪組織の人たちがつけてる奴だった! 提督とは違うBainがフィクサーの!

 

「え、あの。大丈夫なんですか、色んな意味で」

「安心しろ。あっちのBainとは話が付いてる。俺も提督も会ったことはねぇが。あちらさんから直接提督に連絡があったらしい」

 

 うわー。例のネットのフィクサーとも知り合いなんだ提督。なんなのあの人マジで。

 

「業務提携のような形であちらさんとは仲良くさせてもらってる。あっちのほうが儲かってはいるけどな」

「なんていうか、その。予想の範疇を超えたことばかり起きますね、この会社……まさかあの犯罪組織とも繋がっているとは」

「そうか? ……そうかもな。あの提督に付き合ってると、どうも感覚が麻痺しやがる」

「そのうち私も麻痺してしまうんでしょうか」

「そうかもしれねぇな。……それにしても吹雪。よくあそこを知ってるな。日本じゃそこまで有名でもなかったと思うが?」

 

 ……!

 

「えーと、いや、その。FBI長官の演説がMETUBEに上がっていたので」

「はーん。それならいいけどな」

 

 たらり、と冷や汗が頬を垂れる。まさかいきなり私のことに切り込んでくるとは思いもしなかった。……油断しすぎだ。落ち着け、私。

 

「さて。そんじゃ、早速仕事と行こうじゃねぇか」

「……あの、その前に。さきほどから提督が静かなんですが。何かこう、指示とか命令とかを聞く必要は」

「要らんだろ。……だがまぁ静かなのは気になるな。潜入後の吹雪への支援もいるしな……もしもし? 応答しろ、ベイン」

 

 天龍さんが耳に手を当てて、無線機に向かって提督へ呼びかけるが返事はない。

 

「もしもーし」

「あの、ひょっとして……会社の方に何かあったとか……?」

「無いだろ。核兵器撃たれても平気だったんだぞ」

 

 か、過去形? 『撃たれたことあるんですか?』と聞こうとして――やめておいた。聞きたくない。虎の尾どころか虎の顔面を踏みつけてしまいそうなネタの臭いがする。

 

「まぁ嘘だけどよ」

「心臓に悪いジョークはやめてください」

「ん? 待て。微かに声が聞こえる」

 

 彼女の言葉を受けて聴覚に神経を集中させてみると、たしかに何か小さな音が無線機から聞こえてきた。男の人の声……多分、提督だ。ボリュームをあげて、もう一度耳を傾ける。

 

『うーん。思ったよりもボリューム少ないな。まぁ1500円にしては楽しめたか。ジョニー・ギャットがカッコ良かったし充分に満足な出来だ』

「天龍さん。あのおっさん、私たちが働いているのにオープンワールドゲーやってます」

「よし。無線機のチャンネルを他のヤツに合わせてベインのところに向かわせる」

 

 数十秒後。無線の向こうから、甲高い悲鳴が聞こえてきた。向こうにいる他の艦娘に折檻されたのだろう。うん。念のためボリュームを戻しておいてよかった。

 

『痛ぇ……なんだよもう。何の用だよ』

「何の用じゃねぇよ。戻ったら眼球抉りだしてやるから覚悟しておけ」

『怖っ……俺が何をしたというんだ』

「何もせずにゲームしてたから問題なんです。……あの、提督。私たち、いまからジョンさんじゃないほうのギャング組織に侵入するところですが」

『あぁ、はいはい。了解、了解。作戦は?』

 

 彼の声の調子は、全く変わらない。少しは真面目そうにして欲しいモノだが、……多分、この提督に求めても無駄だ。

 

「俺が表で騒いで、その間に吹雪が裏から潜入」

『んじゃ……えーと……あれ、見取り図が無いな……さっきまでここに……あー、紙飛行機作ってゴミ箱に入れたヤツがそうだったのかな……あ。あったあった。よし。吹雪くん、君には私の方から指示を出そう』

「真面目くさった声出しても無駄ですからね。その前のブツブツ言ってたの全部聞こえてますからね」

 

 このタイミングで真面目そうな声になってほしくなかった。全く信用できない。指示。指示か。聞いてもいいのだろうか。ちらり、と天龍さんの方に顔を向けた。彼女と目が合う……それと同時に、彼女は私の肩にぽん、と手を置いた。そして。首を振った。

 諦めろと。そういう意味の首振りですかそれ。それとも今回はどんな結果になろうとも聞いてみろ、という感じですか。どちらにしても不安しかない。

 

「よーし。じゃあ、派手に騒いでくるか」

「あ、は、はい」

 

 天龍さんが豊満な胸を見せつけるかのように身体を伸ばし出した。同時に、私の心が緊張していく。いよいよ初仕事。しかも初潜入。見つかったらどうなることか。

 ……どうなるんだろう。そっか。よく考えると……最終的に爆弾で皆殺すんだから、別に見つかっても撃ち殺せばいいのか。設置して、脱出して、起爆するまでに爆弾が見つからなければ良い、はず。……だよね?

 ふぅ、と息を吐いた。なるべく見つからない。見つかったら殺して、隠す。それでよし。そう思えば、少しは気が楽になる。

 

『それでは二人とも。……仕事を始めてく』

 

 提督の言葉に、私が返事をしようと――

 

「よし、吹雪。仕事を始めるぞ」

 

 したところで、天龍さんが提督の台詞を奪うかのようにそう言った。実に。実に締まらない。

 

※※※

 

『ヘーイ。こちら提督。聞こえるか、吹雪くん』

「聞こえてます」

 

 簡潔かつ、小さい声で私は提督の若干ハイテンションな呼びかけに答えた。敵対ギャングのアジトである屋敷の裏口が見える場所に潜みながら、だ。……なんとなくだが、ジョンさんのアジトと似たような作りになっている気がする。まぁ、同じ地区だから仕方ないのかもしれない。

 幸いなことに、見張りはゼロだった。あとは天龍さんの合図……天龍さんから提督へ、提督から私に連絡が来れば、このドアを開けて中へ入る手はずだ。それまでは息を潜め、気配を消さなければならない……のに……。さっきから、耳が五月蝿い。

 

『ふぅーんふぅーんふぅふぅーん! ふふふふふふぅん! ふふふふーんふんふふーふ! ウルトラソウルッ!』

「言いませんよ」

 

 一部飛ばしてるし、歌詞も曖昧過ぎる。さきほどから提督はこの調子だ。コール&レスポンスの必要な曲ばかり鼻歌で歌っている。鬱陶しい。邪魔がしたいのだろうか?

 

「あの、五月蝿いんで少し死んでくれませんか」

『ハッハッハ、悪い悪い。冗談――いま死んでくれって言わなかった?』

「言いましたけど。天龍さんからの合図、まだでしょうか」

『え、やっぱ言ったの? ……お。ちょうど連絡が来た。行け、だとよ』

「了解です」

 

 なるべく音を立てぬように、しかし素早く私は裏口のドアの前に移動し、しゃがみ込んだ。

 

「裏口に着きました」

『よし。そこのギャング共は割りかし危機感が少なくてな。その裏口は台所に繋がっているが、飯時前で無い限りは誰もいないらしい。安心して開けろ。そしたら台所を出てすぐ横の物置に爆弾設置だ。ウチの爆弾マニアの計算だと、そこに仕掛けて発破すれば家ごと崩れてほぼ全滅だとよ』

 

 おや、と私は首を傾げた。マトモな指示だ。天龍さんや利根さんの口振りからして、もっと酷く適当なモノが寄越されると思っていたが。これなら別に問題は――などと考えながらドアノブに手をかけ、ぐるりと回して引いた。

 開かない。押してみた。開かない。鍵かかってるこれ。

 

「あの。提督。裏口に鍵が」

『あ? あー。銃で撃てば壊れるだろ』

 

 困惑した私の言葉に返ってきたのは、酷く適当な指示だった。しかも。

 

「これ、カードキーで開けるヤツなんですけど」

 

 よく見れば、ドアの横にカードリーダーと思しき機械が付いている。ドアノブを壊しても、おそらくは開かないだろう。

 

『えええ……?』

 

 えええ、と言いたいのはこちらの方である。ど……どうしたらいいんだろう。

 

『えーーーっとな。あー。上。上から行け。窓から入れ』

「は、はぁ……」

 

 提督の言葉で、上を見上げる。二階の窓……はダメそうだ。板みたいなのが打ち付けられている。三階も板がありそうだ。もちろん一階の窓にも。あれ、これこっそり入るならカードキーがないと絶対入れないヤツだ。なんでこんなに厳重なんだろう。前の持ち主が防犯意識の高い人だったんだろうか。板は多分ギャングたちが張ったんだろうけど。

 

「あの、これ詰んでませんか」

『エェー……どうしよう』

「どうしましょう」

『どうしようかねぇ』

「……いやあの、指揮する側にぶん投げられても困るんですが」

『そんなこと言われても』

 

 そんなこと言われてもと言われても。

 

『なんかこう、周りになんかない? その屋敷より高い建物とかよ。ロープで繋いでなんやかんや出来るかもしれん』

「なんやかんやて。いま昼間なんですごく目立ちますよ? えっと……」

 

 ぐるぐると辺りを見回すが、どうにも条件に当てはまりそうな建物は見受けられない。いくつかの建造物はあるが、どれもこれも高さはない。

 

「何かの工場と……ガソリンスタンドと……コンビニと……運送会社と……この家と似たような外観の屋敷と……それぐらいしかここからじゃ見えませんね」

『それだ』

 

 どれだろう。嫌な予感がする。

 

「えっと?」

『よし。作戦を伝える』

「え。え。え?」

 

 そして、提督が話した作戦内容は――

 

※※※

 

「優雅。実に優雅だ」

 

 そんな独り言を呟きながら、俺はカップに入った紅茶を啜った。俺の名はジョージ。今はしがないギャングさ。え? いまどこにいるのかって? ジョンの所の敵対組織にいるよ。

 ふふ、みんな不思議がってるね。『お前、さっきジョンの所にいたイケメンじゃあないかッ! 同姓同名かな?』ってところだろうね。実は俺はダブルスパイ。とある事情で二つの対立するギャング……その両方を監視しているのさ。午前はジョン、午後はこっちで優雅に過ごしているよ。こちらではジョルジュと名乗っているのさ。

 さてさて。今日も優雅に午後の紅茶を楽しもう。表にあの人がいるのは知っているが、裏口の方が何やら騒がしい気がする。だが、まぁ。どちらも俺には関係ないさ。ティータイムというのは誰にも邪魔されてはならないし、してはいけない。ただただ優雅に、エレガントに紅茶を味わう、ただそれだけの――しかし何物にも変えられない時間なのだ。人は常に孤独だ。誰かと一緒にいても、心の奥底には奇妙な孤独感がうねうねと蠢いている。けれど。紅茶は……ティータイムはそれすら忘れさせてくれる。もしこの世にティータイムが無ければ、人は孤独感で潰れて消えてしまうだろう。フフ。紅茶は嫌いだって? 構わないよ。ティータイムとはもはや概念だ。何を飲もうと、それどころか何をしていたって問題はない。孤独を忘れられる時間。それこそがティータイムなのだから。であれば、コーヒーだってタバコだってお茶だってなんだっていい。大事なのは心だ。ふぅ。でも紅茶おいしい。外の喧騒すら気にならな……。

 ……いや、待てよ。気になってきた。騒がしいってレベルじゃあないな。なんか悲鳴とかも聞こえる。あとすごい爆音も聞こえてきた。なんだこれ。ドドドドって聞こえる。ジョジョかな。誰かが裏口でスタンドバトルでもしているのだろうか。見たい。奇妙な好奇心がむくむくと湧いてきた。

 顔をほころばせながら、俺は椅子から立ち上がった。そのまま裏口の扉へ近づき、覗き窓から外を見る。ワクワクした顔をしているであろう俺の視界いっぱいに写ったのは――

 こちらへ向かって爆走してくる、巨大なトラックだった。

 

※※※

 

『なぁにしてんだお前はぁ!!』

「あ、えと。ごめんなさい。なんかテンション上がっちゃいまして」

『いや、吹雪。お前は悪くねぇ。新人だしな。従うしかねぇだろ。悪いのはこんな作戦考えたであろうテメェだベイン!!』

 

 無線の向こうから、天龍さんの怒号が聞こえてくる。相手は私じゃなくて提督に対してだけれど。まぁ、仕方がない。何をしていたのかは知らないけど、天龍さんの陽動が全く無意味になってしまったし。

 提督が出した作戦。それは――『トラックにガソリンとジョンさんの爆弾を乗せて突っ込む』というシンプルなモノだった。シンプルというかもはやただの脳死作戦だけれども。これ、大丈夫なのかな。どこかの誰かが、不思議なことに『普通』の『裏』手段では手に入らないような爆弾でギャングを皆殺し……というストーリーだったはずだが、これでは『頭のおかしい奴がトラックで突っ込んだせいでみんな死んだ』というなんともお粗末な物語になってしまっている。……そんなに大差ないか。

 それにしても結構大変だった。マスクをつけて運送会社にこっそりと忍び込んで鍵を盗み、ガソリンスタンドの店員に銃を向けて脅して縛ってからガソリンを奪って積み込んで。タンクにガソリンを次々と入れている間あたりで、妙なテンションになっていた気がする。途中まではいやいやだったのに、トラックに突っ込む瞬間は間違いなく楽しんでいた。ガソリン臭のせいかな。

 それにしても民間人に見つからなかったのは幸いだった。通報でもされて警察が来ていたら面倒なことになっていただろう。まぁ、流石にこうも派手な破壊音を響かせてしまった今はされてしまっているだろうけれど。

 ちなみに私はいま、台所だったであろう場所にいる。トラックから降りた所で天龍さんから無線が来たのだ。トラックは半分ぐらいしか家の中に入っておらず、裏口だった所からは出られそうにない。

 

『吹雪、まだ中か!? 急いで出てこい! サツが来る前に逃げる。捕まったら意味がねぇ』

「あ、はい!」

 

 裏口は潰れて――潰したのは私だが――使えない……ならば表から出るしか無いだろう。裏口からちょうど反対側に入口があったはずだ。私はすぐさま、地面を蹴って走り出した。

 

「いったい何が……? ッ!?」 

 

 おっと。ギャングと思しき人間が今まさに私が開けようとしていた扉を開いて中をのぞき込んできた。二階にでもいたのだろうか。多分、音を聞いて確認しに来たのだろう。その頭をハンドガンで撃ち抜いて蹴りでどかしつつ、私は扉の先へと走った。

 

「廊下だ……あれが玄関かな?」

 

 床に大きくて赤基調のカーペットが敷かれた、長い通路に出た。横側にいくつかのドア、奥には観音開きの扉が見える。あれが玄関だろう。私はそれに向かって駆け出した。

 

「なんなんだいったい……テメェ!? 誰だ!?」

「わあっ!?」

「ウゲェ!」 

 

 び、びっくりした。廊下側面の扉が開き、ギャングが顔を出してこちらに向かって叫んだので思わず思い切り扉を蹴ってしまった。首の辺りで挟まれたせいか、蛙が潰れたような声と共に男は倒れ、そのまま動かなくなった。死んだかな。

 

「よい……しょっと!」

 

 生死の確認はせずに再び廊下を走り始め、玄関扉に十分近づいた所で――床を強く蹴って飛んだ。艦娘の全力ジャンプで前向きに勢いのついたまま、その姿勢を横にした。ガチャガチャドアノブを弄り回したあげくに鍵を銃で撃ち開ける時間すら惜しくなった私が選んだ選択肢。ドロップキックだ。

 バキン、やバリン、などというのではなくガリン! という感じの鈍めの音を立てながら、私は玄関扉を蹴破って文字通り外へと飛び出した。

 

「あ」

  

 そういえば。やり方は知らなかったけれど、天龍さんが表にギャングたちを誘導していたんだっけ。そのせいだろう、上手く扉の向こうの地面に着地した私が顔を上げたその目の前には、数十人のギャングたちが立っていた。全員が全員、唖然とした顔でこちらを見ている。しまった。

 

「う……撃ち殺せェーッ!」

 

 男の一人がそう叫んだのをうけて、その男も他の人たちも一斉に懐に手を入れた。ヤバい。撃たれる。蜂の巣に……は艦娘ゆえにならないだろうけど、間違いなくとても痛い。ど。どどど、どうしよう。勢いをつけて飛び過ぎたせいで、銃弾を防いでくれそうな壁は無い。アサルトライフルで応戦したとしても、撃たれるまでに殺せそうなのは精々二、三人だ。どうしたらいいんだろう。目まぐるしく頭を働かせ、どうにかこの場を切り抜ける手段を思いつこうとしていた私――を笑うかのように。突然、男たちが悲鳴を上げながら飛んだ。文字通り、撥ね飛ばされたのだ。彼らの背後からやってきた車によって。

 

「て……!」

 

 天龍さん、と叫びそうになった声を必死に抑えた。こちらへ向かってくる車には覚えがあった。ここらへ来るために私達が乗ってきた車だ。運転席には天龍さんが乗っていて、その顔には私のに似たマスクが着けられていた。名前を叫ぶ訳にはいかない。マスクの意味が無くなってしまう。

 

「ここです! 私はここにいます!」

 

 そう叫んで、私は彼女に向かって手を振った。あの車は私の目の前で止まってくれるだろう。急いで助手席から車に乗って、すぐさま発進してもらわなくては。……そう考えていた私の耳に、天龍さんからの無線が聞こえた。

 

『掴まれ!』

「……はい?」

 

 思わず、私は呆けた声を出した。そしてその直後――私の身体に、物凄い衝撃が走った。天龍さんが一切速度を落とさず、そのまま私に向かって突っ込んできたのだ。

 

「ちょ!? えええええ!?」

 

 驚きの叫びを発しながらも、私は車の全面の出っ張りを強く掴んだ。ほとんど無意識の行動だった。

 そのまま、身体が横方向に向かって引っ張られる。車がドリフトしながらターンしようとしているのだ。驚くほどの遠心力。吹き飛ばされないように、必死で手に力を込めた。

 

「うわああああああああん!」

 

 ドリフトに合わさって、ほとんど涙声の私の悲鳴が線を引くように付近に響き渡る。走馬灯でも見えてきそうだ。こんなところで死にたく無い!

 

「うぐぅ」

 

 次の瞬間、再び私の前面に……特にお腹の辺りに強く押されているような圧力がかかった。ドリフトで百八十度回転した車が、前向きに走り出したのだ。

 何が起きているのかわからないというような顔をしているギャングたちを横目に、私達は猛スピードでその場から去っていった。

 

※※※

 

 数分後。マスク付き艦娘で前面が装飾されていた車は、ギャングたちのアジトが遠くから見える場所に辿り着いていた。少し小高い丘になっている所で、斜め下に彼らのアジトが見えた。

 

「うう……乱暴ってレベルじゃないですよ、さっきの助け方」

「しゃーねぇだろうが。秒単位で時間が惜しかったんだからよ。マスクだけならともかく服まで見られたら流石にバレるだろうしよぉ……あぁ、もうマスク外していいぞ。あいつら追ってきてねぇみたいだし」

 

 天龍さんの言葉に従い、私はマスクを外した。ふぅ。割と暑かった。

 

「見ろ、吹雪。あいつら、屋敷の中に入っていきやがる。何が起きたのか確認したいんだろうな」

 

 彼女の言葉通り、たしかにさっき殺人未遂ドリフトをしたあたりには既に二、三人しか……いや、彼らも家へ走って行った。これであのアジトには、ギャングたちのほとんどがいることになる。

 

「このタイミングで発破すりゃあ、今日という日にたまたまあそこにいてしまった不幸な人々は全滅かね。さて、楽しく花火を見ようじゃねぇか。お前の入社祝い代わりにな」

「人間が肉の細切れになる花火を観て喜ぶ趣味は無いですけど……あの、ひとつ聞いていいですか?」

 

 いそいそと遠隔起爆のスイッチを構える天龍さんに、私はそう声を掛けた。気になっていることがあるからだ。

 さきほどのギャングの集団。彼らが私の姿を見たとき、銃を構えた――それはつまり、あの瞬間までは構えていなかったということだ。天龍さんが陽動していたはずなのに。

 彼女が陽動に成功していたのほ間違いないだろう。家の中で出会ったのは二人だけ、ほかは多分みんな外にいたのだと思う。にも関わらず、武器を構えていなかった……それが疑問だった。

 

「天龍さんは何をどうやって、彼らを誘き出したんですか?」

「あん? なんだ。そんなことか。大したことはしてねぇぞ。『遊びに来たぞお前ら』ってな」

 

 ………え?

 

「それって――「爆破」」

 

 カチリ。私の言葉を遮るように。天龍さんが遠隔起爆のボタンを押した。次の瞬間……とてつもない爆発音が聞こえた。腹の底に響き渡るような、本当に大きな音。爆風も感じた。かなり遠い所にいるから、些細な風だったけれど。

 ぐらり。目眩が。目眩がする。私の耳が狂っているのでなければ――いまの爆発音が。私には二つ聞こえた。私の目がイカれてるのでなければ。今まさに黒煙を上げて燃え盛っている建物は。ジョンさんの敵対組織のアジトと……ジョンさんのアジトだ。

 なんだこれは。何が、何がいったい、どうなっているんだ。

 

「吹雪。俺たちには、この地域でもうひとつ仕事があった。ジョンのアジトの爆破。それも、ジョンに渡されたモノと同じ爆弾を使ってな。……根っ子が同じだったんだよ。二つの組織ともな」

 

 私の混乱に気がついたのだろう、天龍さんが口の端を吊り上げながら話し出した。

 

「ジョンの上部組織の更に上と、敵対組織の上部の上が同じだったんだ。そして、その幹部にもベインの知り合いがいる。そこから依頼が来たんだ。『何も知らずにウチの下部の下部組織を爆破しようとしている馬鹿を殺せ』ってな。独断だったんだよ、ジョンの依頼は。ジョンとその一つ上の上部のな。おっと、わかりづらいか?」

「………」

 

 彼女は淡々と、私に説明を続けてくれている。気になっているなら教えてやるよ、という感じで。実際その通りなのだろう。天龍さんの雰囲気は何一つ変わっていない。私にはそれが信じられなかった。なぜ、どうして。頭の中に疑問符が次々と浮かぶ。

 

「元々ジョンの野郎、勝手な行動が多かったらしい。上から来たコカインの値段をこっそり吊り上げたりとかな。最上部の組織はヤツを疎んでいたんだ。そんな時に、下部組織による爆破テロの情報が入った……というか、ベインがジョンの依頼の概要を聞いて確認したらしいんだがな。これ幸いとばかりに、こっちに仕事を寄越してきたってわけだ。あえてジョンの依頼も受けさせて遂行させたのは……なんだろうな。そっちはそっちで邪魔だったのかもなぁ」

 

 ゴクリ、と私は唾を飲み込もうとした。けれど、口の中が乾燥しているせいか上手く飲み込めない。

 

「お前をジョンと一人で会わせたのは陽動だ。気が付かれないように秘密にしてたけどな。お前のことをあいつらが囲んでいる間に、俺があの家に爆弾を仕掛けておいたんだ」

 

 そう言いながら、天龍さんはタバコを銜えた。青いパッケージのハイライトを――あぁ、そうか。家を出た時に天龍さんの足元に合ったハイメンの吸殻は、どこかの誰かがポイ捨てしたモノだったんだ。あれを見て、私は勝手に彼女がずっと待っていたと思っていたけど、違った。裏で仕事をしていたんだ。

 

「ヘンリー……あぁ、ジョンの敵対組織アジトにお前がトラックで派手に突っ込んでいった時はどうしようかと思ったが、結果オーライだな。二つの組織の爆破は無事完了。仕事は終わりだ」

「……どうして、ですか?」

「あん?」

「だって、その。……友達かは分からないけど、少なくとも彼らと知り合いだったんじゃなかったんですか?」

 

 天龍さんはさっき、『遊びに来たぞとだけ言った』と話していた。それに、彼女はあのアジトの場所を把握していた。調べておいたんじゃない。知っていただけだったんだ。つまり、ギャングと彼女は気兼ねなく家に訪問できるぐらいには親しかったはず。それなのに。天龍さんは何の躊躇いもなく、爆破した。彼女を姐御と呼んで慕っていたジョンさんも一緒に。いったい。なぜ。

 

「あぁ。ハハ。ハハハハハハハハハ! そんなことか。お前、お前は本当に真面目だな。殺さにゃならん見ず知らずの人間は石ころでも蹴るみたいに殺せるけど、知り合いは抵抗がある……良心的な軍人の鑑みたいな奴だな」

 

 楽しそうに笑う天龍さんの目は……どこか優しい。なんていうか、可愛い妹を見ている姉のような、そんな瞳だ。

 

「たしかにアイツらは友人と呼べる存在だったし、ジョンの所のワルガキ共も弟分として可愛がってたよ。あぁ。だがな。それがどうした?」

「ッ!?」

「艦娘となる前……いや。物心ついた時から『こう』なんだよ、俺は。『どんな相手でも簡単に切り捨てられちまう』。異常だとは自覚しちゃいるが、治そうとも思わないぐらいに簡単にな。友人だろうと、仲間だろうと、親だろうとな」

 

 そう言って、天龍さんはニィ、と笑った。その笑みは、何ら負の感情が見えない。本当にただ、おかしくて笑っているのだ。……恐ろしいことに。

 

「吹雪。艦娘派遣サービスは……万屋鎮守府は……あの艦娘の墓場はな。頭のおかしい艦娘しかいないんだよ。お前もそれは知ってたはずだ。だが、どんな風に壊れているのかは知らなかっただろ?」

「……はい」

 

 全くその通りだ。『イカれたのしかいない』……そんな、ただ軽口を叩くような程度でしか聞いていなかった。ヤク漬けの艦娘とか、笑いながら人を殺すようなのがいっぱいいるだけだと。

 

「利根の奴は全くの無感情に――入りたい部屋の前に扉があるから開ける、ぐらいの感覚で数百人単位の人間を殺す。逆に一人殺しては銃撃戦の最中でも構わず十字架を切って懺悔する奴もいるし、恐ろしいほどの熱量で全ての生き物を憎んでいる大和ってのがいる」

 

 多種多様。そんな四字熟語が頭に浮かんだ。一人一人に個性があるといえば聞こえはいいが、どうやらあの鎮守府にはバラバラのベクトルに歪んだ艦娘しかいないらしい。

 

「思考回路が全く把握できない言葉を吐く夕立っつー駆逐艦がいれば、人どころか虫すら殺すのを嫌がって引き篭もっている初霜っつー駆逐艦がいる。笑いながら何かを壊したがるバカもいるし、泣きながら歪んだ治療をするアホもいる。規模のデカいサークルクラッシャーや所構わず見事なブレイクダンスを始めるなんて変わり種もいるし――異常性を自覚してるのもいれば、してないのもいる」

 

 天龍さんは前者、己のネジが外れた部分を認識できている方ということだろう。締め直す気はないみたいだけれど。私は。私はどうなのだろうか。先程の彼女の笑みが頭にフラッシュバックする。何ら裏のない、ただただ面白そうに口の端を吊り上げている笑顔が。私は本当に、まともなのだろうか? そう思い込んでいるだけなんじゃないか。そんな気持ちになる笑み……。

 

「共通してるのは、他所ではやっていけなかった部分だけだ。艦娘の流刑場なんて通称は、欠片もおおげさじゃねぇんだよ」

 

 モクモクと、天龍さんの後ろの空に黒煙が上がっていく。爆弾と、それに火を着けられたガソリンがあのあたりを燃やしてその煙を出しているのだろう。黒い。どこまでも黒い煙が、天龍さんの背後に立ち昇っている。それが私には、何かの暗示に見えた。 

 

「慣れろ、吹雪。この鎮守府でやっていきたいのなら、慣れろ。何か目的があって来たんだろ? だったら慣れろ。俺たち全員にじゃない。俺たち一人一人にだ。お前が本当にマトモならな。ハハハ!」

 

 手を広げて、天龍さんは笑っている。楽しそうに、嬉しそうに、可笑しそうに。笑っている――

 

「万屋鎮守府へようこそ、駆逐艦型艦娘の吹雪!」

 

 そう言った天龍さんの顔には、やはり何の屈託の無い笑みが浮かんでいた。

 

 

 

『おーい』

「!?」

「あん?」

『さっき天龍の怒声聞いて以降、連絡ないけどどーした? 爆破終わった? そろそろ迎えが着くぞ?』

 

 ……空気読んでそのまま永遠に黙っていて欲しかった。

 

「え、ええと。お仕事は既に終わりましたよ提督」

『もー、それならちゃんと連絡しろよ。たるんでるぞ!』

 

 ついさっき無線付けっぱなしでセインツ○ウやってたであろう男が何を言うか。

 

『ヘリは五分後に着くぞ。俺の知り合いがやってる飛行場に行って、そこから行きと同じ輸送機に乗って帰ってこい』

「おう。……さてと」

「? 天龍さん、どうしてまたマスクを?」

 

 いや、マスクだけじゃない。銃も構えている。あの特徴的なフォルムはP90……うわ、二丁構えてる。艦娘だし反動はなんとかなるんだろうけども。なんだか突然モノローグでポエムを吐きそうな感じになっている。

 

「この国の警察、意外と優秀なんだぜ?」

「……あっ」

 

 私は急いでマスクをつけた。さっきの一言で察することができてしまったあたり、今日一日だけでも随分と染まってしまった気がする。 

 あぁ。パラパラという音が聞こえてきた。間違いなく迎えのヘリのプロペラ音ではない。早すぎる。ということは――と、私は音のする方に顔を向けた。

 

「フリーズ! そこで止まれ、テロリスト共!」

 

 私の目に映ったのは、黒と白でデザインされたヘリコプター。間違いなく警察のだ。特殊部隊かもしれない。私達にライトを浴びせつつ、拡声器で投降を求めていた。そして、ヘリの横が開いて武装した 黒い格好の人間が数人、ロープで降下してきている。見れば、ヘリは一台ではなく何台もいた。

 はー……迎えが来るまでの五分間、銃撃戦か。生きて帰れるといいなぁ。

 

※※※

 

「ういー。お疲れさん、吹雪くん。どうった初仕事は」

「移動に恐怖を感じたりギャングに恐怖を感じたりトラックで突っ込んだり天龍さんに轢かれたり天龍さんに恐怖を感じたりこの鎮守府に恐怖を感じたり警察に恐怖を感じたり帰りに恐怖を感じたりといろいろ最悪でした」

 

 初仕事の次の日。私は提督に呼び出され、マイアミごっこを見せつけられた部屋でもある提督の執務室に呼び出されていた。ちなみに既に昼だ。無事に帰ってこれた私は、支給された自室のベッドに即座に倒れ込み、そのまま十時間ほど眠り果てたのだ。起きた時に、扉の下には提督からの呼び出しの手紙が挟まれていた。多分、何度も室内電話を掛けても私が出なかったのでそうしたのだろう。

 眠りこけて遅れてしまったことを謝るつもりだったが、部屋に入って執務机越しに立った私への開口一番の声が『ういー』とかいう気が抜ける上にムカつくモノだったので止めた。

 

「そうかそうか。なんかすまんな。まぁ、無事に終わって良かった。というわけで早速次の仕事だ」

「え、えぇ? もうですか?」

「うむ。まぁ、普通だったら一仕事終えたら一週間ぐらいは休みにするんだが……天龍が『アイツは色んな意味で実に使える。たくさん経験積ませとけ。今は指示にしたがってそつなく仕事をこなすことが出来るってだけだが、いつかはリーダーポジションとして使えるだろうよ』って言っててな。じゃあたくさん仕事させようかなーと」

「いや、多分天龍さんはそういうつもりで言ったんじゃないと思います」

 

 慌てて抗議がてら彼の発言を訂正するが、どうやら既に思考の海に入っているのか私の声が耳に入っていないようだ。

 

「誰と組ませるかな……天龍と利根は休みだしなぁ……いや、吹雪はリーダーポジションって言ってたし誰と組ませてもいいか。となると……」

 

 『そのうち』! そのうちって言ってたじゃないですか! なんで数秒前の自分の発言を忘れることが出来るのか。

 

「よし、吹雪。同じ駆逐艦の夕立と組んで仕事してくれ」

「は、はぁ……」

 

 夕立……白露型四番艦の夕立だろう。たしか昨日の最後に天龍さんが名前を出してた気がする。なんだっけ。思い出せない。これは多分、私の記憶力が悪いんじゃなく、とてつもなく嫌な予感がするというか……思い出して不安で胸がいっぱいにならないように、脳が防御しているような感じだ。

 

「えっと、どんな仕事なんでしょうか」

「モナリザって知ってるか?」

 

 馬鹿にしてるのかな。

 

「芸術には詳しくないですが、流石に知ってますよ?」

「そうか、なら話は早い。吹雪くんに盗み出して欲しいんだよ」

 

 え。モナリザを、だろうか。アレってたしかすごい大きな美術館に展示されてなかったっけ。どう考えても警備は厳重だろう。無理だと思うけれど……どこかに輸送でもされるのかな。それでその途中を狙うとか……?

 次々と浮かんでくる疑問に首を傾げる私に向かって、珍しく真面目な表情で提督は言った。

 

「そう――『百万人目のモナリザ』をな」

 

 ……はい?

 

to be contined.

 




ハーメルン初投稿です。よろしくお願いします。

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