死体の視界   作:叶芽

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 病気を治すためにはまずその病気を知らなくてはならない。あの病院に求められているのは、病気を治すということではなく、病気を知ることが第一らしい。研究所の要素が大きい。あの病院は病気、主に精神病の類の患者を生産し、それらを研究対象にする。その研究成果を、所謂普通の病院に売ることで運営している。そう保健の先生が教えてくれた。私はあそこの中学校の教師の一人だが、一応私も研究対象の一人であるらしい。

 保健の先生はこうも言っていた。精神病の患者は売れる。白痴であればある程良く、狂っていれば狂っている程良いそうだ。買い手に刺激と満足感を与えるらしい。人間として扱う必要が無いのも大きい。勿論、容姿に関してはいくらでも美しく変えることが出来る。裏で捌かれた患者たちには、病院の経営に大きく貢献している。一応私も売り捌かれた一人であったらしい。

 私が疑問に思ったことは、あの四人は本当に病気なのだろうか、ということだ。楽器があると思い込んで演奏しているならそうかもしれないが、楽器の音を口で奏でる演奏というのは別に珍しいものではないし、もしかしたら楽器を買うお金がないのかもしれない。だとしたら、いつか彼女たちは病気でもないのにいつか売られてしまうのだろうか。少し可哀そうだと思った。

 

 

 私も研究対象ではあるけれど、一応は教師をやっているわけだし、精神病に関しては詳しくなってないといけないのだろうか。今日は土曜日。休日。少し勉強してみよう。そう思ってパソコンを開いた。調べてみるとやたら項目が多い。文字も多く漢字も多い。カタカナも多く、いちいち辞書を開かなくてはならなかった(辞書は本棚にあった)。二時間ほどで飽きて、もう勉強はやめた。

 勉強はやめてネットをまわることにした。あの病院について調べようと思ったけど、あの病院の名前を教えてもらうのを忘れていて、結局調べられなかった。で、何のワードを検索しようかと考えていたら、本棚が目に入ったから、前読んだ漫画についてでも調べようと思って、で、調べた。もう絶版でプレミアがついているらしい。売ろうかな。で、新しい漫画でも買って本棚を埋めたい。お腹が空いたから、もうパソコンの電源は落とした。

 冷蔵庫を開けると食料はもう無かった。買いに行かなくてはならなかった。非常に面倒なことではあるけど、町に降りなくてはならなかった。私は部屋に戻ってノートだけ確認して、その後浴室に行ってシャワーを浴びてから、制服に着替えた。病院に行くわけでもないのに、何故ここまでしなきゃならないかな。私は財布だけを持って、家を出て、町に降りた。コンビニに向かった。

 

 

「あ、先生」

 

 コンビニで四人と会った。ライブの帰りらしい。今日は学校だったのかと訊いてきた。私が制服を着ていたからだ。私の持っている服はこれしかない。(家で服は着ていない)

 

「それじゃ駄目ですよ先生。一応女の子なんですから」

「そうだ、明日一緒に服買いに行きましょうよ」

 

 特に予定があるわけでもないし、断る理由も無かった。

 

「いいわよ。何時に何処に集合しましょうか」

「場所はこのコンビニに集まって、それから行きましょう。時間は…日没までに家に帰れるなら何時でもいいですよ」

 

 日没までというのには違和感があった。中学生ならもう少し遅くまで遊んでいてもおかしくは無い。親が厳しいのだろうか。そのことについて訊いた。彼女たちは口を押えて私を凝視した。そして私の手を掴みコンビニの外へ連れて行った。

 

「先生は知らないんですか?」その声は非常に小さかった。

「何を」

「日没後のこの町についてです」

 

 日没後…。夜か。夜になら一度外に出たことはある。臭かったな。ただ何故臭いのかはわからなかったし、私はその時すぐ家に戻った。それに、私の家は山の上にあるものだから、町のことは知らない。

 

「山の上にまで臭いが行くんですね」

「なんかあるの?」

「………夜は外に出歩いてはいけません。すみません。それしか…私たちには言うことが出来ません」

「うん。いいよ。ありがとう」

 

 明日は朝の10時に集まることになった。ちなみに、彼女たちは服のついでに楽器を買いに行くそうだ。彼女たちが言うに、これまでお金がなくて楽器が買えなかったそうだ。今月ようやく給料が入って買いに行けるらしい。私は彼女たちの仕事を訊ねた。彼女たちは答えなかった。

 

 

 彼女たちの印象から私の出した結論は、彼女たちの病名は仮病だということだ。肉体的にも、精神的にも健康そのものであり、ごく普通の中学生だ。あくまで印象からであるけど、たぶん正解だと思う。

 帰宅後、ノートを確認した。夜、外へは出るなと書かれていた。今は興味はないが、いつか刃向ってみようかと思った。で、もう今日は寝た。

 

 


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