死体の視界   作:叶芽

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 昔、数年前なのか、それとも数か月前なのかは知らないけれど、援交がバレた。恥を知れ、と言われた。言われた通り私は恥を覚えた。裸になれば胸などは隠すようになったし、相手に対し「嫌」だとか「やめて」だとかを言うようにもなった。相手の行為は以前より激しさを増した。私が行為を拒めば拒むほど、相手の望みは増大するそうで、それ自体は別に構わなかったけど、醜かった。気持ち悪い。私はそう言った。そしたら頭を掴まれて壁に叩きつけられた。回数は途中で数えるのをやめた。

 子供ができたらしい。相手はおろせと言ってきた。その時その言葉の意味はよくわからなかったけど、たぶん恥ずかしいことなのだと思った。相手が求めて来た内容など、全てそうだった。だから断った。そして怒られた。翌日には、たぶん相手は死んだ。最終的に私は浴槽で産んだ。でもどうすればいいかわからなかったものだから、そのままにしておいた。

 お腹が空いたものだから、その日は肉を食べた。全部は食べきれなかった。その後シャワーを浴びて、うがいをした。口の中に変な臭いが残っていて、何度もうがいをした。結局臭いはとれなくて、私は諦めてもうその日は寝た。2、3日寝たら臭いは消えた。ただ、部屋はやけに臭くなっていたものだから、もう私は外に出た。あまりにも寒かったが、臭いよりはましだった。

 

 

 今日こそ学校とやらに行こう。朝、目を覚ましたら真っ先にそう思った。顔を洗って制服に着替えて、そして鞄を持って家を出た。駅まで走った。駅には昨日見た四人もいて、時間はぴったりだったらしい。相変わらず人もそれなりに多く、電車は満員だった。前と同じように、あの四人を見失わないようにした。ただ、朝飯を食べてくるのを忘れたことを思い出した。

 前と同じように、電車の中の人がある程度減ったあたりで(もう私は席に座っていた)あの三人の男子を見つけた。少し離れた位置に居た。そのうちの一人と目を合わしたら、そいつは目をそらした。そして他の二人となにやらこそこそと話し出した。非常に不快だった。一言ほど言ってやろうと思って席を立ったら、あの四人は下車した。三人の方は諦めて、私は四人の後を追って下車した。

 それからずいぶんと長い時間歩いたように思えた。たぶん朝飯を抜いていたからか、力やら何やらが出ないのだろう。少し視界も歪んでいたかもしれない。途中で車にクラクションを鳴らされた。ごめんなさい。それでもなんとか目的地らしきところにはついた。門の所には学校の名前が記されているが、漢字が読めないものだから、結局小学校なのか、中学校なのか、それとも高校なのかはわからなかった。四人が校舎に入っていくのを追って私も校舎に入った。そのあたりで力尽きたのか、私は倒れた。

 

 

 目を覚ますとベッドで寝ていた。根拠はあまりないが私は保健室だと断定した。体を起こしたらそこに保健の先生(と断定)が居たから挨拶をした。こんにちは。ここはどこですか。

 

「ここは病院です」

 

 小学校でしょうか。中学校でしょうか。高校でしょうか。

 

「ここは病院です」

 

 私は私と同じ制服を着た、女子生徒の後をつけてここまで来ました。ここは学校ではないのですか。

 

「ここは病院です」

 

 正確にはここは精神病院らしい。病院の中に学校があって、小学校もあるし中学校もあるし高校もある。驚いたことに大学もあるそうだ。また、いくつもの企業も中にあり、会社に勤めているものもいるらしい。

 

「君がここの在校生なのか、それとももう卒業した子なのかは私は知りません。調べるのも少し時間が掛かりますし、また明日来てください。君が知らないのでしたら、ですが」

 

 私は承諾し、少しばかしご飯(白いお米)を頂いて、それから家に帰った。

 

 

 家に帰って、私は真っ先にシャワーを浴びた。なんとなく浴槽に目を向けた。寒気がしたものだから、すぐに目を前に戻した。終えたら部屋に戻って、ノートだけ確認した。白紙だった。線も無くの白紙だから、何か意味はあるのかもしれないが、もう今日は寝た。

 

 


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