「あの、相談みたいなの、大丈夫?」
「うん。どうしたの?」
「えっと、何から言えばいいかな。…不老不死…」
「ん?」
「うん…。例えば、生まれて、遊んで、勉強して、大人になって、働いて、結婚して、子供を育てて、歳をとって…うーん」
「どういうお話?」
「ちょっとまとめるのが難しい。ごめん」
「そうね。じゃあ、結論から言ってみたら?」
「結論。…うん。死ぬ瞬間、だね。その時、どう思うかって話」
「死ぬ瞬間?」
「そう。頑張って生きて、そして最期は死ぬでしょ?運が良ければ、老衰。それって幸せなのかなって」
「どうだろうねー」
「生きている間って、色んなこと考えたりするし、動いたりするでしょ?でも、最期に近付いていくと、色んなものがすり減っていって、単純になっていく」
「体が動かなくなって、色んなことが出来なくなるし、ボケてもくるよね」
「うんうん。ちょっと前は、そういうの嫌いだったけど、最近はそうでも無くなってきた」
「どうして?」
「そういうのって、もしかしたら幸せの証拠なのかもって思って」
「幸せ?」
「色んなものをすり減らすってことは、ゼロに向かっていくことだよね。そして、最期はゼロになる。幸せの定義だとか、世の中のこれからとか、この世の真実だとか、天国とか地獄とか、そんなことはどうだってよくなる。まるで、初めから自分の命なんて無かったかのような」
「それが、幸せ?」
「すごく…穏やかなんだろうなぁって。きっとその人は幸せって言っていいと思う」
「…確かに、そうなのかもね」
「でもね…ここからが本題」
「ん?」
「私は今、そんな感じなの」
「どんな感じなの?」
「ゼロって感じ。初めから、自分の命なんて無かったんじゃないかって。そんな感じ」
「まだ若いのに…何ともまぁ…」
「すごく穏やか…。でも私はそれが幸せなのか、ちょっとわかんなくて」
「うーん…。問題の内容がちょっとダメダメな気がするけど。あなたが言った、幸せな老人と、あなたは全然違う。感じ方も、個別であることを抜きにしても、違ったものになると思うよ。幸せな老人は肉体と心が同時にゼロになっている。あなたは、きっと心が先にゼロになっているのでしょ?」
「そう、かな」
「そもそも、何かあったの?」
「これから、どうしようかなって思って、いろいろ考えて、今こんな感じ」
「これから」
「人道的に生きるか、非人道的に生きるか、死ぬか、不老不死になるか」
「そこで不老不死が出るとは」
「人道的に生きたら、運が良ければさっき言った幸せな老人と同じ最期になる。でも、それがもし今の私とイコールなら、なんか嫌」
「イコールなら、ね」
「非人道的に生きる。これはちょっと楽しそう。でも飽きそうだし、終わりは嫌な感じになりそう」
「運が良ければ、人道的な生き方と同じルートは通りそうだけど、大半はろくな死に方はなさそうだね」
「死ぬ。これって穏やかかな」
「穏やかなわけがないと思うよ。どんな死に方でも。場合によっては、生きる以上に色んなことを考えるし、色んなことをしなきゃならいし」
「不老不死。ずっと生きて、世界の全部。時間の全部を観る。これ…どうかな」
「悪くは無いと思う。世界と時間とやらが無限にあるなら、いつまでも楽しめるし、飽きても、いつまでもだらけていられる。だらけるのに飽きたら、また起きればいいし」
「なれたらいいなぁ…」
◆
「とりあえずさ、あなたは自分の運がそんなには良くないってのに賭けてみたら?」
「運?」
「運が良いこと前提で話してるじゃん。麻雀でも打ちに行って、自分の運を試して来たら?」
「…そう、してみよっかな…」
「それが良いよ。運が悪ければ、人道的に生きても、今のあなたのようなラストにはならないって。もしかしたらベターになるかも」
「それって、運が良いって事じゃん」
「ははっ。そうかもね」
「…うん。ありがとう」
「ん。まあ…どういたしましてって言えばいいのかな」
「じゃあさ。最後に、怖い質問していい?」
「何?」
「死んだあと、記憶を消去して命を最初からやり直すか、記憶を継続して新しい世界に行くか、どっちがいいかな」
「自分が嫌いなら前者。世界が嫌いなら後者。そうなるんじゃない。ところで、なんでそれが怖い質問なの?」
「だって…