死体の視界   作:叶芽

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 朝、あまりの寒さに目を覚ました。やはりエアコンが欲しい。そう思っていたら、エアコンはあった。リモコンも時計のそばにあったので、スイッチを点けた。時計を見ると五時。今日は学校に行ってみようと思った。今度は先に顔を洗い、それから制服に着替え、外に出た。だけど朝飯を食べていないことを思い出して、家に戻った。冷蔵庫にはサンドイッチがいくつかあった。ツナのを取って、それを片手にもう一度外に出た。

 食べながら見回した。田んぼが視界の6から7割を占めていたので、おそらく田舎なのだと知った。家は山の上の方にあったので、そこから下の町が視えた。駅を発見した。私はそこに向かった。不思議なことかもしれないが、外は暖かかった。丁度よくて、空も青空だったものだから気持ちがよかった。サンドイッチを食べ終えた私は、勢いよく山を駆け下りた。途中でこけた。その時、鞄を持ってくるのを忘れたのを思い出して、家に取りに帰った。

 鞄は私の部屋にあった。手提げ。教科書やノートらしきものはすでに中にあって、財布(お金)もあって部屋の中で他に要りそうな物はわからなかった。その時私は思い出したように、ついでに本棚のノートを確認した。更新はされていなかった。今日は何もしなくていいのだろうか。でも…でも…でも…でも包丁は要ると思った。万が一のために要ると思った。部屋のエアコンを消し忘れているのを思い出し、消した後私は台所に行った。包丁を回収して鞄の中に入れた。

 

「いってきます」

 

 

 駅に向かった理由は、こんな田舎でも移動する人間が一番多いと思ったから。通勤時間に近かったのもある。実際ホームには2、30人程居た。学生もいた。私と同じ制服を着た人もいた。4人の女子のグループで、私はその子達を追跡しようと思った。別にゲームをしているわけじゃなかったけど、なんかゲームをしているような感じで、結構その時はワクワクしていた。まるで冒険。奇妙な冒険だった。

 電車は満員だった。4人のグループは視界のなかにいた。それを見つけたあたりで、後ろの会社員に尻を触られた。実際は事故だったのかもしれない。触れたのは1から2秒。撫でまわされたわけでもなかった。手ではなく、もしかしたら鞄だったのかもしれない。でも、刺激があって面白かった。正直事故でなくてもよかった。私は電車の揺れに合わせて少し後ろに下がり、その会社員の何かに体が触れるようにした。しかし会社員も後ろに下がったようで、実際は何も当たらず、少しだけ残念だった。

 四つ目の駅に止まった頃には、人も半分以下になっていた。椅子が空いたので座った。あの4人のグループもまだいる。どこで降りるのだろう。彼女たちを見ていたら、その視界に三人の男子が入ってきた。制服を着ているからたぶん学生。三人とも背は高い。彼らは私の前あたりに立った。偏見だとは思うが、服装はだらしがなかったからたぶん不良なのだろう。そのうちの一人と目があった。

 

 

 私は次の駅で下された。三人は私を人気のない橋の下に連れて行った。橋の下の壁には落書きがしてあったが読めなかった。漢字や英語は読めない。どうしてこうなったのか。三人が言うには、私は誘っていたらしい。どうしよう。抵抗しようか。負けるだろうけど、抵抗したら抵抗したで面白そうだ。嫌々言いながら犯されるのは、向こうにとってもこっちにとってもたぶん楽しいだろう。だが、私はそれ以上に面白い遊び方を思いついた。

 

「抵抗はしません。ただ少し待ってもらえますか?」

 

 私は鞄から包丁を取り出した。

 

「安心してください。貴方たちを刺したりはしません」

 

 私はそれを自分の腹に刺し、横に流した。状況は違うけど、やくざさんの漫画にこういうのが確かあった。実行していたのは15歳の少年。責任を取るためにしていた。私は少し違う。彼らの反応が視たかった。さあ…どう動くだろうか。興奮するだろうか。これから死にゆく人間を犯す機会などそうはない。一方私は痛みと快楽を同時に味わいながら逝けるのだろうか。それならそれで、やはり面白い。

 

「おい!救急車!」

 

 何でそんな単語が出てくるのか理解できなかった。何を血迷ったことを言っている。貴様らは下種だろう。下種なら最後まで下種らしくしていろ。

 

 

「ただいま」

 

 あまりにもつまらなかったから、私は家に帰った。学校は明日でいいや。

 部屋の本棚のノートを確認した。腹を切れ、と書かれていた。つまりこのノートは私が実行したことが記録されるのだろうか。あまり面白いものではなさそうだということが分かった。

 制服を脱いだ。部屋は少し寒かったから、私はエアコンを点けて、ベッドに横になって、もう今日は寝た。

 

 


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