死体の視界   作:叶芽

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 下校前、教室で男子に告白された。その人の名前は知らない。その人は男子にしては髪が長かったので、私はその人の髪を掴んで、その頭を机の角に叩きつけた。角は目に当たったらしく、目は潰れたらしい。その男子は叫んだ。痛いとか言っていた。いてぇ、だったかも。何しやがる、とも言っていたのかな。よく覚えてない。ああああって。少しうるさかったから、私はそれをもう少し速くもう三回叩きつけた。それでも黙らなかったから、もうちょっと速くもう六回叩きつけた。静かになった。

 教室は二人っきりってわけではなくて、その告白はクラスの生徒に公開されていた。でもその現場を止めようとする人は一人もいなくて、場は静かだった。怖くて動けなかったのかもしれないし、あるいは観ていたみんなは人じゃなくて人形だったのかもしれない。マネキン…。うんマネキン。あと少ししたら、先生とか警察とか来るのだろうか。でも、どうしようもないと思う。

 なぜそんなことをしたのかと訊かれても、その男子の髪が長かったからとしか答えられないし、特に大した理由は無いと思う。それより気になるのは、今何時なのかってことと、今私は何歳で、ここは小学校なのか、中学なのか、高校なのかってこと。制服があるから中学だろうか。それとも高校。でも制服を着た小学生もいる気がする。背の高さも、高い人もいれば低い人もいるし、そもそも誰も何も言わないものだから、私にはわからない。

 

 

 目を覚ますと15時…午後三時だった。時計が目に入って助かった。部屋は静かで、外からも音は聴こえないから、たぶん家には私一人なのだろう。今、私が知りたいのは私が小学生なのか中学生なのか高校生なのかということだった。部屋に制服はかけてあったから、やっぱり学生なのはわかったが、それでもわからない。私は制服のポケットをあさった。中にはハンカチとティッシュと、あとカッターしかなかった。手帳でもあればよかったのだが。

 とりあえず着替えた。鏡はこの部屋に無いものだから、私は部屋を出て、手洗い場に向かった。一応、顔は洗った。順番を間違えたと思った。普通は顔を洗ってから制服を着るんだっけ。袖が濡れた。鏡を視ても、自分の年齢がいまいちわからない。小学校の低学年ではなさそうなのはわかった。少なくとも一年や二年ではない気がする。たぶんかっこいい男子に告白されたのだから、たぶんそこまで悪い顔でもないかもしれない。

 家にはやっぱり私一人で、そもそも私に両親や兄弟といった家族がいるのかもわからなかった。おなかは空いてなかったし、顔も洗って制服にも着替えたのだから、次にするべきことはやはり登校だろうか。だけど、この時間に行っても仕方がない気もする。それにどこに私の行くべき学校があるのかもわからない。そもそも、今まで学校に行ったことがあったのかもわからない。学校らしきところに居たことは覚えているのだけど。

 

 

 妙に臭かったから、私は外に出た。そしたらさらに臭かったものだから、最終的にはたぶん自分の部屋に戻った。たぶん自分の部屋は臭くなかった。制服でいても仕方がなかったから、脱いだ。部屋を見回すと、さっきよりも物が増えている気がした。少なくとも本棚や机、パソコンは無かった気がする。物が増えるなら、今度はエアコンが欲しいと思った。

 本棚には一冊のノートと、漫画や小説がいくつかあった。私は漫画の方を手に取り、ベッドで(ベッドもあった)横になって読んだ。ただその漫画は、シリアスなのかギャグなのかよくわからなくて、少なくとも面白いものではなかった。あるいは両方なのかもしれない。内容はやくざさんの抗争。二時間もしないうちに、全二十巻読み終えてしまった。主人公がころころ変わっていたけど、最後は主人公が死んでおしまい。

 次に、私はノートを取った。最初の一ページ以外は、すべて白紙だった。そのページには「一人殺せ」と書かれていた。一人なら、たぶん殺したと思う。実感はあまりないものだから自信はない。そもそも、あの程度で人は死ぬのだろうか。もしかしたら気絶しているだけかもしれない。少し不安になった。私は今からでも学校に行くべきなのだろうか。だが、道がわからない。二時間ほど、考え込んだ。

 

 

 一応、外に出てみた。暗くなっていて、もうこれでは学校にはどのみち行けなかった。家に戻ると、人間が三人倒れていた。臭かった原因がわかった。念のため、その中の大人の男性の首を切ろうと思った。私は台所に向かった。包丁はあった。そしてそれで切ろうと試みたけど、骨が切れなかった。首と胴体を切り離すことが出来なくて残念だったけど、これだけ血が出ればもう大丈夫だろうか。

 ノルマは達成した、ということにしておこう。最初の一人が殺せていれば、今日は二人ということになる。明日あのノートが更新されるなら、明日は誰も殺さなくていいのだろうか。それとも明日は違う内容が更新されるのだろうか。けど、どっちでもいいか。私は浴室でシャワーを浴びた。でも風呂には入れなかった。浴槽には裸の女性が入っていた。

 部屋に戻って、もう今日は寝た。

 

 

 


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