呉鎮守府より   作:流星彗

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水雷戦

 

 

 茂樹と深山が合流するとすぐさまダーヴィンに向けて進路を取る。どういうわけか道すがら深海棲艦が襲ってくるようなことはなかった。偵察機を放ち、周囲を警戒してみても、深海棲艦の影すら見当たらない。

 それがより疑惑を生み出していた。

 今までならば少数であっても航行を妨害するように現れたというのに、それがまったくない。これは何かがあるんじゃないかと思ってしまう。

 

「……深海棲艦が策を弄している、と?」

「確証はねえけどな」

「……知性を感じられるようになっているとはいえ、そこまでか? にわかには信じがたいけれど……しかしこの前のレ級のようなこともあるしな……。変化があるというのは確かか」

 

 深海提督の事は知らずとも、深海棲艦が昔と比べると何かが変わっているというのは感じられる。それは次々と新たな深海棲艦が生まれてきていることからも窺える。これも昔に比べると進行が早いのだ。

 最近の深海棲艦は何かがおかしい。

 だから今回の件も警戒しながら戦っていくことにしたい。そう思いながらダーウィンへと近づいていくが、偵察機が何かをとらえたようだ。それがトラックの加賀に伝えられる。

 

「水雷戦隊が確認されました。……その中に新たな個体が確認されています」

「いきなりかい。モニターに」

 

 偵察機から送られてきている映像には、確かにダーウィンを守護するように水雷戦隊が展開されていた。その中に一人、茂樹達が見たことがない個体が悠然と佇んでいる。

 リ級改フラグシップである。

 フラグシップ特有の金色のオーラを纏い、左目からは青い燐光を放っている。

 

「なんだありゃ? 新型か?」

 

 ヲ級改フラグシップとしては以前から中部提督の下にいたが、戦場には出ていない。新たに生まれたリ級改とル級改が今回人間達にお披露目となるので、深海棲艦の改型は茂樹と深山が初の目撃者となった。

 能力を分析してみると、リ級フラグシップとしての能力が更に向上されていることが分かった。フラグシップのオーラを纏っているのは確かだが、それに加えて左目からの青い燐光が特徴的だ。これにより、とりあえず茂樹はリ級フラグシップが改造されている、として仮の呼称としてリ級改フラグシップとした。ここから人間側の間で深海棲艦に改型が現れた、と認識を持つようになる。

 そのリ級改が率いる水雷戦隊の数は目視出来る限りでは五隊はいるだろうか。もちろん水雷戦隊を越えた先にも艦隊が確認できる。恐らく主力艦隊だろう。戦艦や空母らしい影を確認できる。

 それらで守りを固め、超えた先には目的地であるダーウィンがある。

 

「今回は非常事態だ。早急に突破するぞ。一水戦、二水戦で出撃。後方から一航戦の艦載機で薙ぎ払っていけ。主力艦隊は待機。水雷戦隊を突破したらすぐに出られるように」

 

 ラバウルの艦隊も同様であり、指揮艦からそれぞれ水雷戦隊が出撃していく。それに続くようにして空母を基準とした部隊、第一航空戦隊……一航戦が出撃する。だが水雷戦隊のように前に出ることはなく、指揮艦の近くに留まり、艦載機を次々と発艦させていく。

 当然ながら深海棲艦側もまた艦載機を放ってくる。ヲ級が発艦させたものだけでなく、彼女らの後方、すなわちダーウィンの方からも艦載機が舞い上がってくるのが見える。

 

「……ダーウィンからも放たれているよ。港にでもいるのかい?」

「いるんじゃねえかねえ。偵察機をもう少し前に出せばダーウィンの港の状況がはっきりとわかるだろうが、艦載機まで出されたらここまでってやつだ。とりあえず、蹴散らして前に進むまでだぜ。川内、いけるな?」

「任せといて! 夜戦じゃないけど、さくっと蹴散らしてくるからさ! 一水戦の力、ここで見せてやるよ!」

 

 トラック泊地の一水戦は旗艦に川内、以下大井改二、島風、雷、霞、雪風だ。それに並行するように突撃しているのが二水戦の長良、阿武隈、三日月、若葉、黒潮、電である。

 もちろんラバウルの水雷戦隊も出撃している。主砲を肩に乗せるようにしながら先陣切って出撃していく川内達を見送っているのは、ラバウル一水戦の旗艦、名取である。

 レ級の一件で天龍と吹雪を喪い、新たなメンバーが補充されている。現在の一水戦は名取、鬼怒、皐月、初春、時雨改二、初霜だ。主砲に込められた弾薬を確認し、トラック一水戦らの出方や艦載機の動きを確認した敵の水雷戦隊の動きを見据え、名取は自分達のとる進行ルートをシミュレーション。

 

「――では、漏れた敵を殲滅します。鬨の声を……張り上げてください。突撃、殲滅こそ……水雷の華です!」

『おおおぉぉぉぉ!!』

 

 名取以下、ラバウルの一水戦、二水戦がそれぞれの進路をとって加速する。艦載機の先制攻撃によって深海棲艦の水雷戦隊の一部が瓦解する。対空射撃、敵の艦載機との交戦で数を減らされようとも、放たれた爆弾と魚雷が深海棲艦らを貫く。

 そんな中で川内達が一番槍とばかりに突貫する。手にした15.5三連装砲で次々と駆逐級を撃ち抜き、強引に道を作ると後に続く大井改二などが魚雷を発射。特に重雷装巡洋艦である大井に装備されている魚雷はかなりの門数を誇る。

 それらを側面に放てば、群れになっている深海棲艦であればどれかに当たるだろうというものになる。とはいえ次弾装填には時間がかかるため、その間は砲撃するしかない。

 トラックの二水戦も、大井の雷撃に巻き込まれぬように少し遅れて突撃を仕掛け、深海棲艦の陣形に乱れを生み出す。そうして零れ出た深海棲艦を、ラバウルの一水戦、二水戦が仕留めていくという算段だ。

 

「――――ふっ」

 

 名取が元より持っている主砲で狙いを定め、引き金を引く。放たれた弾丸は狙い狂わずチ級エリートの頭部を撃ち抜き、一撃のもとに仕留める。側面から仕掛けられた事に気づいた残りのリ級らが名取達へと標的を変え、続けとばかりに声を上げる。

 それを見て名取は主砲を一旦消し、副砲を手にした。スイッチを切り替えてやると、腰元に展開されている主砲が別々に照準を合わせるように動いていく。

 

「切り込みます……各個撃破……!」

 

 腰を落とし、一気に加速。引き金を引けばマシンガンの如く弾丸が放たれ、名取に砲撃を仕掛けようとしていたリ級の手が止まる。そんなリ級へと一本の魚雷を手にし、投擲。呉の神通仕込みの魚雷術により、リ級を撃沈。

 それでは止まらず、軽巡や駆逐級の群れへと飛び込んでいく。副砲を連射して駆逐イ級やロ級を沈め、軽巡には足止めさせ、主砲で沈めていく。

 当然ながらやられてばかりの深海棲艦ではない。たった一人の軽巡にここまで被害を出されてはたまらない。吼えながらイ級エリートが喰らいついてくる。

 

「――――っ!」

 

 旋回、転身。

 軽やかに身を捻って躱し、まるで格闘術のポージングするように副砲を突き出し、発砲。演武という言葉があるが、そこに銃撃が加わっているような光景である。その場で踊るように立ち回り、両手に持った副砲と腰元の主砲で寄ってくる駆逐級、軽巡級を薙ぎ倒していた。

 

「なんていうか、変わったねラバウルの名取。戦い方も、雰囲気もさ」

 

 ちらりと名取の様子を窺い見た川内がぽつりと漏らした。以前の名取ならばああいう戦い方はしなかった。ラバウルの元々の方針通り、慎重で守りを重きにおいていた。呉鎮守府などの合同演習で攻めを取り入れたことが影響しているのは間違いないだろうが、あそこまで変わるだろうか。

 変わる理由はあった。

 あのレ級の一件だ。

 ラバウル基地はその方針から轟沈艦を出すことは極力避けられていた。名取が指揮する一水戦だけでなく、その他の隊でも轟沈艦は出しておらず、被害が大きくなれば退避し、艦娘は守られていた。

 故にあの戦いにおいて三人もの轟沈艦を出したことは名取にとって大きな衝撃を生み、そして傷となった。一水戦からは天龍、吹雪という脱落者。共に長く戦ってきた仲間を二人も喪ってしまったのだ。

 自分を責めた。もう少しうまくやれたのではないか、と責め続けた。

 その果てに、彼女は変わった。

 上手く立ち回ればいい。呉鎮守府との演習や訓練、そしてもたらされた技術を上手く組み合わせ、殺られる前に殺ればいい。元より水雷屋はそういう部隊だ。これ以上仲間を喪うわけにはいかない。心が傷つき涙を流すのはここまでだ。

 そうしてレ級の一件後に名取率いる一水戦だけでなく、他の水雷屋もまた名取が考案した訓練を積み重ね、このような戦い方へと変わっていった。

 気弱な名取はそこにいない。戦闘となれば鋭い眼差しで敵を見据え、屠っていく一人の戦士がそこにいる。

 

「名取さん、上空!」

 

 皐月が叫び、名取の視線が上を向く。敵艦載機が編隊を組んで名取へと迫っていた。これ以上暴れさせるわけにはいかない、と撃沈させにきたらしい。名取は向かってくる駆逐級らから距離を取るように後ろに跳び、武装を消す。

 続けて両手を肩へと当てるようにすると、そこには一つの兵器が顕現した。12cm30連装噴進砲と呼ばれるものである。艦載用対空ロケットランチャーであり、今のところ通称ロケランとして艦娘の艤装に登録されている。

 ぐっと構え、狙いをつけて引き金を引けば30連発という連続発射される弾が敵艦載機へと向かっていく。それだけでなく腰元の主砲近くにも機銃があり、弾幕を張って対空防御に当たっている。

 

「こっちは大丈夫。あなた達は敵艦を……! 旗艦はあの青い目をしたリ級! あれを仕留めれば、敵水雷戦隊は瓦解する、はずだから……! トラック一水戦たちの援護を!」

 

 自分が標的にされているなら、と名取は他のラバウル一水戦の仲間へとターゲットが切り替わらないように離れていく。バックしながら弾が装填され次第、ロケランをぶっ放して弾幕を張る。

 名取を心配そうに見る鬼怒だったが、意を決した皐月が肩を叩き、「行くよ、鬼怒さん。ボク達はやるべきことをやらなきゃ!」とトラック一水戦らに続いていく。

 トラック一水戦旗艦、川内がリ級改フラグシップへと向かっていく。自分が狙われていることに気づいたらしいリ級改フラグシップは左目の燐光を輝かせる。

 

「あんたを沈めればとりあえずは一つの壁を抜けられる! 仕留めさせてもらうよ!」

「――――」

 

 川内達から放たれた砲撃。それをリ級改フラグシップは避けていく。その中で川内が放った一発がリ級改へと着弾していくが、左腕にある装甲で防御した。

 従える駆逐級や軽巡級と共にトラック一水戦を迎え撃つ。艦載機の第一陣が引き、第二陣が遠くから飛来してくる中、リ級改は川内めがけて突撃してきた。

 

「おっとぉ!? やってくれるなぁ!」

 

 航行の勢いを殺さないままに右手で殴りかかってくるリ級改。急旋回で躱した川内だが、左手の主砲で追撃を仕掛けてくる。バックしながら蛇行し、砲撃を避ける川内。そこに駆逐級や軽巡級が砲撃を仕掛けていく。

 彼女を援護するように大井達が砲撃、雷撃を仕掛けて攻撃の手を妨害する。その中でも大井がリ級改へと雷撃を仕掛け、無数の魚雷が扇状に広がっていくのが脅威だろう。それを見たリ級改は副砲でいくつかの魚雷を起爆させようとする。二、三発は起爆させられたが、それでも間に合わない。

 身を守るように両腕を交差させながら突撃し、魚雷の爆発を受ける。魚雷の一撃は重いが、リ級改の装甲は硬いらしい。多少よろめきはしたが、平然としたように大井へと迫っていく。

 

「――――ッ!?」

 

 だが、リ級改の頭部を撃ち抜くように弾丸が飛来した。見れば15.5三連装主砲で狙いを定めている川内がいた。結構距離が離れているというのに、よもや頭を撃ち抜くとは、とリ級改は目を細める。

 そんな彼女に、今度は額へと弾丸が撃ち抜かれて仰け反ってしまう。続けて二発飛来し、反射的に左腕で顔をかばった。

 どうしてそこまで頭を撃ち抜けるのかといえば、リ級改の上空に偵察機が飛んでいる影響だ。お互いの艦載機が引いている今、偵察機を落とされる確率は減っている。

 呉鎮守府がもたらした技術、弾着観測射撃だ。偵察機の妖精から見える光景と照らし合わせ、リ級改の細かいところまで川内は見えている。そこに照準を合わせ、発砲しているのだ。

 その技術を知らないリ級改からすれば、川内が優れた命中技術を持っている艦娘なのだと感じてしまう。脅威を感じたならば潰さなければならない。

 ターゲットが川内へと再度切り替わり、副砲をマシンガンのように連射した。川内は副砲の弾丸の雨を掻い潜り、リ級改へと迫る。川内が手で指示を出し近くにいた島風と雪風が、川内と挟み込むようにリ級改へと迫っていく。

 ちらりと二人へと視線を向けたリ級改だったが、バックしながら仲間へと指示を出し、島風と雪風を排除するように仕向ける。そうしながら主砲へと切り替えて川内へと砲撃しつつ、右手に力を込めるように握りしめた。

 ラバウル一水戦の皐月達も援護するように砲撃を加えていくが、それではリ級改は怯まない。その硬い装甲が彼女にダメージを通さない。

 空を見れば第二陣の艦載機が飛来してこようとしている。もちろん加賀達が放つ艦載機も援護に向かってきている。両者が交戦する前に、可能ならばリ級改を撃沈し、敵水雷戦隊を瓦解させたい。

 戦いを見守っている茂樹はモニターを見つめながら一考していた。確かに現在水雷戦隊同士が戦っている。残している水雷戦隊が指揮艦を護衛しつつ、対潜の警戒網を張っている。いくつか引っかかり、撃沈させているため潜水艦の脅威は一先ずは落ち着いたといってもいい。

 が、奥にいる主力艦隊と思わしき部隊は前に出てこない。空母が艦載機を放っているが、戦艦ル級などは出てきていないのだ。おかげでこちらもまだ主力艦隊を出すことはないが、深海棲艦の今までの行動から考えると少し首を傾げてしまう。もちろん主力艦隊を出せば一気に薙ぎ払うことは可能だろう。しかしそうすればその分弾薬は減り、ダメージを受ければそれを引き継いだまま主力艦隊に当たる。

 全力を出させるにはここはあえて「温存」する。その方針でやっているのだが、まさか深海棲艦も「温存」しているとでもいうのだろうか。あの深海棲艦が?

 

「水雷は水雷、主力は主力で分けてんのか? あっちが前に出てこねえな。どういうつもりだ?」

「……手加減、というわけでもないだろうに。やはり何かの意図を感じる。……ただダーウィンを落としに来たというだけではないのかもしれない」

「新型投入しているのに拠点つぶしに全力出してねえってか? いや、戦闘じゃ全力は出してんのか……? あのリ級改は……」

 

 リ級改から放たれている殺気は本物だ。あれで手加減していると言われても信じられない。それだけリ級改は川内に対して敵意を持っている。

 左手で砲撃する中で、右手はまだ力を溜めている。川内はそれに気づいており、以前の戦闘経験からあれが何をしようとしているのかは察していた。いつ放たれてもいいように備えながら弾丸を装填し、リ級改へと迫る。

 川内の左右に弾丸が通り抜ける中、足元を狙った一発でバランスを崩そうとする。それを避けるが、着弾による水しぶきの発生に川内が僅かに巻き込まれる。そこを見逃さないリ級改。右手の艤装から深海棲艦のエネルギーを込めた魚雷を一斉射撃する。

 ソロモン海戦で見せた魚雷による強撃だ。複数の魚雷が一直線に標的へと高速で向かう一撃である。艦娘ならば妖精の力を借りて解き放つ必殺の一撃。深海棲艦の場合はエネルギーを一点に集中させての一撃なのだろう。

 初見ならば問答無用で直撃を受けていただろうが、ソロモン海戦で何度か見てきた川内は冷静だった。

 バランスを崩されそうになっていたがそれを立て直しつつ、向かってくる魚雷の強撃のライン上から身を翻すように避ける。紙一重で通り過ぎていく魚雷は背後で爆発し、強い水柱が立ち上る。それに煽られるようにして川内の体が吹き飛ぶのだが、これを利用して一気にリ級改へと肉薄。

 

「雪風、島風! とどめはよろしくぅ!」

 

 空中で体を制御しながらリ級改の顔へと手を当て、目潰しをしながら跳躍。ついでに主砲を撃ち放ち、リ級改から離れていく。川内による頭上を押さえられてからの至近距離の砲撃。いくら装甲が硬くとも、体を使われての跳躍や主砲を撃たれればバランスも崩される。

 海に倒れていくリ級改へと、雪風と島風は魚雷を放った。強撃ではないが、二人から放たれた魚雷はリ級改の硬い装甲を撃ち抜くには充分な威力を誇っている。やはり主砲より、一撃必殺の破壊力を持つ魚雷の威力は侮れない。

 しかも海に倒れるようにしていたため、側面を何発も魚雷が刺さったのだ。これはいいダメージになった。

 呻き声をあげるリ級改。立ち上る水柱の中、動く気配はない。

 どうやら撃沈に成功したようだ。

 警戒するように川内がリ級改がいた場所を旋回しながら移動していたが、気配を感じられないので視線を他の水雷戦隊のメンバーへと向ける。

 だが何やら軽巡級やリ級が言葉を発しているようだった。お互い顔を見合わせ、撤退するかのように潜航を始める。やはりリ級改がこの水雷戦隊らを纏める長だったようだ。頭を失ったことで、戦闘を続ける意味を失ったらしい。

 

「リ級改撃沈。敵水雷戦隊、撤退していくよ。……ん? と同時に向こうで動きが」

 

 と、偵察機を通じて見えてきた光景を伝える川内。

 ダーウィンに向かわせまいとする防壁となっていた主力艦隊。今までヲ級らから発艦される艦載機しか送ってこなかったが、ここで主力艦隊全体が動き出したようだ。

 偵察機から確認出来るメンツには、主力艦隊らしいル級やタ級が視認できる。その中で、リ級改のように左目から青い燐光を放つル級フラグシップを確認した。これを茂樹や深山にも共有させた。

 

「リ級改フラグシップの次はル級改フラグシップってか? そっちにも新型がいるってんなら、どうして同時に放たなかったんだ?」

 

 艦娘を倒すだけならば、奪ったダーウィンを守るためならば、リ級改とル級改を同時にぶつければいい。水雷戦隊と主力艦隊という二つの戦力をぶつければ、問答無用で艦娘の戦力を潰せる。

 南方提督にとっては目障りなトラックとラバウルの基地の戦力を削れるだけでなく、ソロモン海戦の借りを返せるだろう。とはいえ茂樹や深山にとってはそんなことは知る由もない。

 そして偵察機、放たれた艦載機が前進したことで、よりダーウィンの様子を探ることが出来た。

 港は破壊され、瓦礫が散乱している。埠頭に並んでいたと思われる機銃は襲撃の際に破壊されたが、深海勢力の資材を投入したのか、人の手で作られたような外見ではない機銃へと生まれ変わっていた。

 深海棲艦の装甲のような黒い装甲を持つ機銃がじっと空をにらんでいるのだ。

 そんな埠頭に静かに座する存在が一人。

 白い女性とその背後に佇む城壁のような艤装。首長の蛇のような艤装の魔物が、ダーウィンの港湾に入り込もうとしている艦娘達を睨んでいた。

 

「……あからさまに艦艇の艤装じゃないね。ダーウィンの港にあがっているし」

「ヘンダーソンのような深海棲艦ってか? 陸上基地型ってやつか。ってことは、また三式弾が効きそうかね。それでいてあの飛行場姫のように多くの艦載機を抱えてそうだな。こりゃあマジで短期決戦仕掛けた方がいいな」

 

 あの時は夜間突撃によって飛行場姫の優位性を奪いに行ったが、今回は完全に昼での戦いだ。あの無数の艦載機で空を埋め尽くされてはたまらない。早急にル級改率いる主力艦隊を撃破し、そのままダーウィンへと向かった方がいいだろう。

 

「とりあえずあの白い奴が今回の一件の最終目標と見ていいだろうよ。とりあえず……ダーウィンの港湾に座する陸上基地ってことで……、分析は?」

「――――完了しました。ランク的には、姫です」

「――じゃあ最終目標、ポート・ダーウィンの港湾棲姫! 奴を仕留めれば俺達の勝ちだ! 水雷戦隊は一時帰還し、修復にあたってくれ。そして主力艦隊、出撃! 敵主力艦隊を撃破する!」

 

 茂樹の言葉に礼を取り、艦娘達が出撃していく。彼らの戦いを観戦するものがいることに気づかないまま、ポート・ダーウィンにおける戦いは佳境を迎えることになる。

 


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