呉鎮守府より   作:流星彗

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お久しぶりです。

なついべ とても つらかった


間諜

 

 

 4月、また桜が咲く季節になってきた。呉鎮守府に植えられている桜も、ピンク色の海を作るほどに一面に咲き乱れている。

 そして凪が呉鎮守府に着任してから1年が経ったということでもある。

 それを祝うパーティが企画されたが、美空大将からの依頼の件があったために日程をずらすことになった。出港のために指揮艦を調整する中で、東京から件の美空香月が今日訪ねてくることになっている。

 それを出迎えるために凪は今日は工廠に篭らず、きっちりとした身だしなみにしている。

 ただ前日には美空大将から香月を移送する礼として新たな改二のデータと、それに必要なものを特別に支給してくれた。

 利根、筑摩の改二である。

 これにより重巡洋艦から航空巡洋艦へと艦種が切り替わっている。また今までの改二と違い、特殊な改装を施しているため改装設計図というものを必要としている。

 適応する艤装を切り替える、あるいは大きく追加する改装のため、この改装設計図というものを同時に使用することになっているようだ。今回は利根と筑摩の分を支給してくれたが、今後は美空大将に願い出て注文することになるらしい。

 それを使用し、改装レベルに達していた利根を改二にするように工廠へ通達した。筑摩はあと少し足りなかったようなので見送りとなる。

 そして今回の移送だが、従弟が来るということで湊も同行することになった。二人は従姉弟ということもあり、話を聞いた湊が同行を願い出たのだ。

 もう一つの理由としては近海に深海棲艦が戻ってきたということもある。太平洋では深海棲艦は確認されていたが、日本近海では最近までは確認されないままだった。理由はわからないが近海からいなくなっていたために、日本の鎮守府はほぼ暇な状態にあった。

 何せ太平洋にまで出なければ実戦が出来ない状態。遠征となれば交戦する機会はあるだろうが、戦う機会が少なくなったのは好戦的な艦娘からすれば暇でしかない。しかし帰ってきたならば訓練漬けの日々から脱却される。

 だが同時に日本国内を海路で移動する際には深海棲艦に備えて艦娘が必要になるという事だ。近海から脱する際にも襲撃を受ける可能性が高くなったため、それに備えた意味でも湊が同行することになった。

 

「失礼します。淵上さんが到着されました」

「わかった」

 

 大淀の連絡に頷き、凪は埠頭へと足を運ぶ。

 そうして埠頭に足を運んだ凪の陰で、その存在は機を窺っていた。数時間前、暗号が届けられた。艦娘、いや人間達が未だ解明していない深海側で使われている秘匿の暗号だ。

 それによれば、機を見て撤退しろとのことだった。

 あの日以降もちょくちょく情報収集をしていたので、新たな情報を持ち帰ることは出来る。そして今日は凪が呉鎮守府から離れるようだ。ならばその後にでも逃げることが出来るだろう。

 あとはばれないように動けばいいだけ。簡単なことだ。

 埠頭に一つの指揮艦が見える。あれは佐世保のものだろう。

 淵上湊。見覚えのある人間だ。

 どこか懐かしいような匂いを感じる人間だが、気のせいだろう。あの人間もいるとなれば、今は逃げることは出来ないかもしれない。その旨を伝えておくとしよう。

 手にしているものを使って一定のリズムで押し込む。それによって深海側で使われている暗号が発せられる。海に向かってそれが人の耳には聞こえない音となって響くのだ。

 

「――何をしているんだい?」

「――――」

 

 不意に、声がかかった。落ち着いたその声に息をのみ、振り返ればВерныйがじっと自分を見つめていた。思わず足が動く。だが後ろには綾波がひっそりと佇んでいる。

 いつの間に回り込まれていた?

 そもそも、いつから自分は見られていたんだ?

 わからない。わからないが、ここを切り抜けないといけない。

 何でもない、これと一緒に海を見ていただけだ、と伝える。

 

「そうかい? その割には妙な音が聞こえたね? 綾波」

「はい。ノイズのような、モールスのような。普通ならば響くはずがない音でした。……それ、ただの猫じゃないですね」

 

 と、手にしている白猫を指さされる。

 人間の耳には聞こえないが、艦娘ならば聞こえる可能性がある。だから周りに気を付けて暗号を発していたのに、どこからこの二人は現れたというのか。思わず苦虫を噛みしめるような表情をわずかに浮かべてしまった。

 それが、自分に掛けられている嫌疑を認めてしまいそうになるというのに。

 

「さて、もう一度訊くとしよう。なにを、していたんだい? セーラー」

 

 改めてВерныйは問いかける。

 白猫を手にしているセーラー少女妖精へと。

 

 

「いらっしゃい。早かったね、湊」

「どうも。香月はまだ?」

「ん。到着していないね。彼が来るまで少しゆっくりしていくといいよ」

 

 近くにある休憩場所にでも案内しよう、と示したとき、じわりと腹に痛みが走った。ん? と首を傾げて思わず手で押さえてしまう。その動きに湊も疑問を感じ「おなかの不調?」と訊いてしまう。

 

「ストレスでも抱えてるの?」

「いや、別にそういうわけでもないんだけどね。……んん? この痛み……前にも」

 

 と、こうした小さく、じんわりと広がるような痛みは少し前にも感じたことがあった。呉鎮守府に着任した当初だったり、美空大将と直に相対したときだったり、あるいはこの湊と会話している際だったりといった痛みとは違う。

 ストレスによるものではない。これはまた別の何かによる痛みだと、こういった痛みに慣れている凪にはわかる違いだった。

 そう、例えば南方棲戦姫との戦いに感じるようなもの。あの時は強く感じたものだった。じんわり……そう、痛みが広がるような感覚。対人ではきりきりと一点において痛みを発するが、これはじわりじわりと広がるようにして伝えてくる痛みだ。

 南方棲戦姫の際にはそれが強く感じたために、きつい痛みとなって襲い掛かっていたが、弱いパターンを少し前にも感じたはずだ。

 それはクリスマスの日だ。

 決して食べ過ぎ、飲み過ぎという意味で痛んだのではない。あれは呉鎮守府に異物が紛れ込んだから、凪の体がそれを察知して腹痛という形で知らせたのだ。所謂虫の知らせというものである。

 そして美空大将が目をつけていた凪のオカルトな部分だ。

 海藤凪は自分に害があること、自分の危機に対して妙に勘が鋭いところがある。それは正しい。凪はこの虫の知らせを腹痛という形で感じ取ることが出来るのだ。

 それが今、発揮されている。

 今ここで、何かが起きているのだ。

 

「提督、Верныйちゃんから通信です。動いたので、捕まえたとのことです」

「……なるほど。では、ここに連れてきて」

「動いた? なにが?」

 

 事情を知らない湊からすれば何の話かは分からない。そんな彼女に「いやね、スパイがうちに入り込んでいてね」と簡潔に伝える。それを聞いた湊は「ん?」といった表情を浮かべ、後にその意味を理解したのだろう。気の抜けたような疑問の声を漏らしてしまった。

 数分もせずにВерныйと綾波がそれを連れてくる。

 セーラー少女妖精だ。湊はそれを見て首を傾げるが、間をおいて思い出したのだろう。クリスマスの時に見かけたあの妖精なのだと。

 セーラー少女妖精は白猫もろとも縄で縛られている。そんな彼女へと凪はじっと見下ろし、「さて、どうして捕まっているのかわかるよね?」と問いかけるが、セーラー少女妖精は何も返さない。

 

「君、どこから来たのかな? そして、どこに情報を流していたのかな?」

「…………」

「ちょっと、本当にこの子がスパイだっての? 妖精だけど」

「俺も少し信じられないんだけどね」

 

 しかし根拠はある、と凪は説明する。

 まず、どこから来たのかわからない点。それは初めて会った時からの謎だった。しかし妖精だからと、とりあえず置いておいた。妖精だから大丈夫という固定概念で信用してしまったのを突かれたのだ。

 次に大湊へと演習しに行った時に隙を突かれ、凪のパソコンからデータをコピーされた形跡があった事件。凪の部屋には当然鍵がかかっているが、誰かが解錠して侵入したのだ。

 それが出来る誰かが呉鎮守府にいるのか否かで調べていた際、大淀が凪の部屋へと向かっていくセーラー少女妖精とすれ違っている。もちろんどうやって解錠したのかはわからないが、どこから来たのかわからない存在が、あの日凪の部屋の方へと去っていったという証言があるのだ。

 そのため容疑者としてあの日以降、セーラー少女妖精には代わる代わる艦娘が監視するようになっている。

 結果、息を潜めるようにして凪を見ているセーラー少女妖精を、何気ない日常生活のふりをしたり、同じく息を潜めて艦娘が監視したりする状況が成立していた。

 

「…………っ!?」

「おや? 自分が監視されていたことには気づいていなかったかな」

「少し前に先ほどのような暗号を発する素振りが見られたからね。もう少ししたらなにかするんだろうと警戒度を上げていた。すると暗号らしきものを出していたから、今度はこうして話しかけてみたんだ。すまない」

 

 暗号自体の解明はされていない。初めて確認される暗号を、心得のないものが一発で解読できるはずもない。なのであの時どんなやり取りが行われていたのかはわからない。

 しかし怪しい素振りを見せたのだ。その疑惑を問いたださねばならない。

 

「この猫を使って暗号を発していたけれど、やっぱりこれはただの猫の妖精ではないね?」

「もしかすると司令官のパソコンからデータをコピーしたのも、この猫さんだったりしますか?」

「…………」

 

 両脇を固めているВерныйと綾波がセーラー少女妖精へと問いかけていく。セーラー少女妖精は何も答える気はない、と瞑目しているが、同じように縛られている猫妖精は違った。

 ふるふると体を震わせていたかと思うと、猫が威嚇する時のような声を上げて暴れだす。いつも見せていた妖精のような可愛らしくとぼけたような表情ではなく、牙をむき出しにし、黒々とした目を細め、縦横無尽に首を振り回している。

 その暴れっぷりにВерныйは驚き、セーラー少女妖精を縛っていた縄を離してしまった。すると猫妖精の尻尾がぐっと伸び、縄を尻尾の先端で切ってしまう。

 

「いけないっ!」

 

 綾波が何とかセーラー少女妖精へと手を伸ばすが、自由になった手で猫妖精が綾波の手を引っ掻く。凪と大淀も負けじと手を伸ばすが、猫妖精の尻尾が二人の手を弾き、セーラー少女妖精は猫妖精の足を掴みながら距離を取るように後ろに跳んだ。

 

「――――」

 

 何事かをセーラー少女妖精は喋っているが、凪と湊の耳には言葉として認識されない。言葉が通じていないのなら、とセーラー少女妖精は目を細め、手にしている猫妖精を振り回し始める。

 そしてもにゅもにゅと口を動かしたかと思うと、自分もまた猫妖精のようにがたがたと体を震わせ、首が壊れたロボットのようにあちこちへと向いていく。あまりにもホラーな光景に凪たちの進むはずだった足が止まり、絶句してしまう。

 

「――――」

 

 最後に首の動きが止まったかと思うと、ぽつりとまた言葉を漏らし、勢いをつけて猫妖精を投げ飛ばす。それは勢いよく埠頭へと飛び、そのまま海へと落ちていった。凪はセーラー少女妖精か、猫妖精かと一瞬迷ったが、すぐに「潜水隊、埠頭に白猫が落ちた! 捜索を!」と通信で指示を出し、セーラー少女妖精へと駆け寄る。

 だがセーラー少女妖精は近づいてくる凪に何の反応も示さない。どうした? と思う間もなく、セーラー少女妖精は静かにその場に倒れ落ちる。なんだ、と驚いているとВерныйが「待った」と凪を引き留める。

 

「触れてはいけない」

 

 と、セーラー少女妖精を指さすと、小さな煙が立ち上り、その体が溶けていく。残されたのは被っていた帽子やセーラー服だけ。その肉体は跡形も無くなってしまっていた。

 

「……最期の言葉、上手く聞き取れなかったけれど、恐らく『ご主人はきっと、お前を打ち負かす』と言っていたよ」

「ご主人? 打ち負かす……? 俺と戦う……はっ、まさか、深海側だったとでも?」

 

 その呟きに、またじわりと腹が痛みを発する。軽くお腹を押さえるが、虫の知らせが疼いたのならば、それは正解だったのかもしれない。

 深海側から送られたスパイ。

 艦娘側で共有されている妖精の姿を真似て入り込んでくる。それが真実だったならば、もしかすると呉鎮守府だけではなく、他の鎮守府、最悪なパターンならば大本営にも妖精の姿となってスパイが入り込んでいる可能性があるということだ。

 そうなると、深海側にどれだけ情報が流されているのか想像したくもない。

 湊もその危険性に気づき、冷や汗を流している。

 

「……すぐに伯母様に報告しなければ」

 

 携帯電話を取り出して美空大将へと報告するために凪たちから距離を取る。セーラー少女妖精だったものからはまだ小さな煙が立ち上っている。それを見下ろしていたВерныйは綾波に視線を向ける。

 

「綾波、あの言葉は聞こえていたかい?」

「……はい。たぶんですけれど、わかっています」

「言葉? そういえば最初に何かを呟いていたね。俺にはわからなかったけれど」

 

 拘束から解放され、距離をとった後にセーラー少女妖精は何かを口にしていた。そのことを言っているのだろう。Верныйは少し困ったように首を傾げつつ、あの時何を口にしていたのかを語る。

 

『枠を空けて、私』

 

 そう、口にしたのだとВерныйは言う。

 

「枠? 私?」

「はい、綾波の耳にもそう聞こえました。たぶん、これであっているとは思うんですけれど……」

「私? ……枠……。猫に向けて言ったのかな? だとしても猫が私って……なんだよ」

 

 その猫は海に向かって投げ飛ばされている。そしてセーラー少女妖精はこの通り、溶けてなくなってしまっている。

 枠……空けるということは埋まっているもののスペースを空けるという意味だろうか。空いたスペースには何が入る?

 そして語りかけた猫はここにはいない。

 猫妖精は凪のパソコンからデータをコピーした疑惑がある。とすると、あれは妖精というよりも機械と考えてもいいかもしれない。

 妖精を真似た機械。機械として考えれば、枠というのはメモリーの事だろうか。メモリーを空ける。空いたメモリー……データ。そのデータに――

 

「――ああ、信じられないけれど、信じたくはないけれど。機械(マシーン)として考えるならば、まんまとしてやられたかもしれないね」

 

 やれやれとため息をついて凪はセーラー少女妖精が被っていた帽子に手を伸ばす。その質感は普通の帽子と何ら変わりない。小さな雫が落ちたが、それはコンクリートの地面に染み込んで消えていく。

 肉体は確かに消えてなくなっている。セーラー少女妖精だったものは衣装を除いて何もない。だから凪が立てた仮説を証明するものはない。衣装では証拠にならないだろう。この仮説はまさに肉体が必要なのだから。

 

「司令官、何か気づいたのかい?」

「……あんまり信じたくはないんだけどね。あのセーラー少女妖精はここで死んでいない。逃げられたかもしれない」

「どうしてですか? だって、ここで溶けて……」

「うん、溶けたね。肉体は。でも、意識はたぶん……あの猫に」

 

 そう呟いて海を見る。

 あのホラーじみた首の動きをしている間にでも何かをしていたんだろう。動きばかりに意識を奪われ、その内で何をしでかしているのかを悟られないようにしていたのかもしれない。まさに、まんまとしてやられた。

 

 

 呉鎮守府に一隻の指揮艦が入港しようとしている。その近くを、一匹の白猫が航行していた。海上ではなく、海底を。尻尾はまるで船についているスクリューのように高速で回転しており、猫とは思えないスピードで海底を往く。

 この指揮艦には今回凪が移送する美空香月が乗船していたが、この猫妖精は知る由もない。そもそも今はただここから離れることしか考えていなかった。

 

(やれやれ、何とか逃げ切ることは出来たかな)

 

 呉鎮守府にいた潜水艦の艦娘が凪の指示を受けて海底を捜索していたが、その網から素早く逃げ切ることが出来た。伊168、伊58の二人だけではこの小さな猫を素早く見つけ出すことは出来ないでいた。

 それに二人は普段から埠頭近くにいるわけでもない。出動が少し遅れてしまったことにも原因がある。指示を出すのは早かったが、それよりも猫妖精が逃げるのが早かったのだ。元々深海で生み出された存在だ。海の中こそ、この存在にとっての本領発揮の場である。潜航されれば、そして沖合へと出てしまえばこんな小さな存在は見つけられるものではない。

 

(さて、私。今回の情報はどれくらい取れた?)

 

 その問いかけに応えるように、脳裏にいくつかのデータがピックアップされていく。前回送り付けたデータに比べると少々少ないが、あの頃から変わったものを持ち帰ることが出来そうだ。

 

(うん、いいわね。これならご主人も喜んでくれるでしょう。あんなクソッタレな姿で潜り込んだかいがあったってなもんよ。よくやったわ、私。では、元に戻ろうかしら)

 

 そうして瞑目する。

 可愛らしい白猫の姿だったそれは、少しずつ変化をもたらしていく。小さな機械の駆動音のようなものが響き、それは電子音へと切り替わる。

 意識が、同調する。

 まるで今まで別々に動いていたそれらが、本来のものへと戻っていくかのように、それは変貌していった。

 

(――おかえり、私。そしてごくろうさま、私。さあ、帰ろう。ご主人の下へ。オスカーの下へ)

 

 そこには可愛らしい白猫の姿はない。

 笑みを浮かべて開かれた口からは、鋭い人のような歯が生え揃い、丸々とした顔にある目は不気味なほどに丸く、赤い光を放っている。そして何よりその顔には傷が浮かび上がってきたではないか。

 これが本来の顔なのだとすれば、傷付きのものも含まれているのだろうか。

 左目や鼻付近には割れたように裂けた傷が刻まれており、白い毛皮の下には黒々とした肉と赤いシミが浮かび上がっている。いや、シミというよりも血管なのだろうか。まるでマグマのように静かにシミのようなものが明滅し、それを血管のようなものが繋いでいる。

 猫耳は角のように鋭利に、そして硬質化している。それは猫のような毛並みも同様だ。ふわふわとしたような毛並みは鉱物のような質感を感じさせるものになっている。

 こうして見ると中部提督の下にいた黒猫のようだ。両者には共通点がいくつか見られるものだった。しかしそれを凪たちが知る由もなかった。

 そして凪の推測は当たっていた。

 セーラー少女妖精と猫妖精はもとは一つの存在。意識を分離させ、白猫は妖精のような姿をとり、もう一つの意識はセーラー少女妖精の肉体を作り上げ、そこに意識を宿した。それぞれが独立して動くことを可能とし、情報収集をしたあとは海に潜航した白猫がデータを沖合にいる仲間へと渡し、セーラー少女妖精の下へと帰還するといった手法で情報を流していた。

 また猫妖精自身は深海棲艦と同じく機械的な要素を持っているため、パソコンに繋いでデータをコピーすることが出来るし、その内部のデータを処理することが出来る。意識をデータとして処理することが出来るため、逃亡の際にデータを圧縮して空き容量を作り上げ、分離させていた意識をデータとして受け取ることが出来たのだ。

 あとは分けていた意識を統合させる。それが先ほどの電子音の正体である。

 

(さて、聞こえる? 呉鎮守府から脱出成功。今から帰還する)

『――――』

(了解。ではそっちで落ち合いましょう)

 

 沖合で待機している潜水ヨ級と暗号通信を行い、針路を定める。

 こうして呉鎮守府に潜り込んでいた中部提督のスパイ、セーラー少女妖精だったものは、捕まることなく情報を中部提督の下へと持ち帰ることに成功した。

 

 

 


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