呉鎮守府より   作:流星彗

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飛行場姫2

 

 

 岩影に息を潜めて隠れ、タイミングを見計らって飛び出した駆逐艦から放たれた魚雷は目標である南方棲戦鬼を打ち砕き、その艤装が悲鳴のような機械音を響かせながら煙を吹かす。まだ周りには多くの深海棲艦が取り囲んでいるが、頭である南方棲戦鬼が崩れれば容易に撃破できるだろう。

 深山はそう睨んで南方棲戦鬼の撃破を優先させた。その甲斐あってようやくそれは果たされる。だが、艤装が爆発して宙に舞い上がった南方棲戦鬼の人型。暗き海に着水し、そのまま沈んでいくものと思われたが、ゆらりと立ち上がって赤黒いオーラを立ち昇らせていく。

 

「……マダ、マダ終ワラナイ……」

 

 身を包む服は戦いによってぼろぼろだ。あらわになっている肌も赤い血や線に彩られ、ギギギ……、とまるで機械のような音を立てながら前のめりになっている体がゆっくりと起き上っていく。

 そうして見えた顔には、赤黒い光を放つ瞳があった。エリート級のような燐光を放つようなものではない。瞳全体が怪しい光を放っているのだ。

 

「止メル、ソレガ私ニ与エラレシ役割……ソレヲ果タセヌ兵器ニ意味ハナイ……!」

 

 その出で立ちはまるで南方棲戦姫のようだ。南方棲戦鬼の時よりも力が増大しているために、余計にそう思える。だがかぎ爪のような手や服が残っているし、艤装も南方棲戦鬼の時のまま。そのため完全に南方棲戦姫になっているわけではない。

 今のあれはまだ倒れるわけにはいかない、艦娘という敵を沈めてやるという妄執によって突き動かされているだけの亡霊だ。だが手負いの獣ほど危険という。油断なく仕留めたいところだが、深山の艦娘達の消耗も大きい。

 もうすぐ日の出になりそうという事もあって、焦りはいよいよもって大きくなってくる。

 

「……作戦失敗、か?」

 

 ぽつり、と漏れて出た言葉だが、それがかき消される流れがその戦場にもたらされる。

 北西から入ってきた艦娘らが、次々と南方棲戦鬼を守る深海棲艦を撃破していった。

 

「前方、南方棲鬼確認クマ! 魚雷用意! 食い破るクマよ、遅れないように」

「突撃突撃ぃ! 大物食いだぁ!」

「盛大な一発を喰らわせてやりなさーい!」

「…………お前ら、ちょっとうるさいクマよ」

 

 夜戦続きでもうテンションがマックスになっているらしい川内と足柄に、いよいよ球磨も呆れを通り越し始めている。これにはずっと一緒にいる皐月もため息をつくばかりであり、新人として新たに加わっている暁と時雨は困惑しっぱなしだ。

 

「いつもあんな感じなのかい?」

「やー……いつもってわけじゃあないんだけどね。今回は、ちょっと異常かなぁ。ボクも見たことないや」

「レディーなら、もう少し落ち着きを持つべきだわ。いいタンメン教師ね」

「……いや、それを言うなら反面教師だよ」

「……駆逐も、目標がすぐそこクマ。攻撃するクマよ!」

 

 接近してくる球磨達に気づいた南方棲鬼が砲撃体勢に入るが、もう遅い。高速で横を通り過ぎながら一斉に魚雷を発射し、そのまま離れていく。まるで辻斬りをするかのように魚雷を置いていった事により、砲撃を受けずに一気に南方棲鬼へと大ダメージを与えていった。

 たまらず膝をついた南方棲鬼。反撃するために歯ぎしりしながら後ろを振り返るも、魚雷を受けた艤装が誘爆を起こし、大爆発へと発展してしまい、そのまま撃沈してしまうのだった。

 守り手が失われていく南方棲戦鬼だが、彼女の思考は危機に陥ったことで単純化されている。

 即ち、敵を止めるために倒せ、というだけのこと。

 反撃のために両手を掲げ、次々と主砲と副砲を放ち、魚雷も発射していく。だが深山の艦娘達の練度は決して低くはない。今までは深海棲艦の邪魔があったために動きが悪くなっていたが、それがなくなれば洗練された動きを見せる。襲い来る攻撃を回避し、次々と砲撃や雷撃を仕掛けていくのだ。それこそ、水雷戦隊の力というもの。救援に来た水雷戦隊よりも練度の高い動きがそこにある。

 

「……誰だ、まさか、呉か?」

「電文です。『呉、佐世保艦隊、貴官ノ救援ヲ行ウ』との事です」

「……やはりそうか。しかし、何故ここに?」

「えっと……『羅針盤ノ狂イニヨリ、導カレリ』、だそうで」

「……羅針盤、か。そういえば強い深海棲艦の力の影響下では、そういった事例もあったんだったか。夜という事もあって、狂いに気づかずここに来てしまった、とみるべきかな。……だが、逆に感謝しよう。呉に電文。『呉提督、ガ島ヘ向カワレヨ。救援ハ佐世保ノミデ良イ』と」

「よろしいのですか?」

「……構わない。救援は欲しかったが、佐世保だけでもいい。……呉の海藤は、友を助けに向かった方がいいだろうさ」

 

 そう呟く深山の下にまた電文が届く。「イイノカ?」と一言だけだったが、それを聞いた深山は大淀の下へと駆け、自ら暗号電文を打ち込んでいく。『我ノヨウニ危機ニ陥ッテイル可能性アリ。疾ク友ヲ助ケロ』と送ってやった。

 そして深山の電文を受け取った凪は一つ息を吐いて淵上へと電文を送らせた。『我、ガ島ヘト向カイ、東地ノ救援ヲ行ウ。貴官ハココニ留マリ、支援ヲ続行セヨ』といった内容で送ると、すぐに『承知』と返事が来た。

 東地との連絡は取れないまま。これは何かあっただろうと思わせるには充分だったため、急いで救援に向かいたいところだった。だがどういうわけか羅針盤が狂い、気づけばガダルカナル島に向かうのではなく南下しており、それが奇しくも深山を助けることになった。

 だが考えを変えれば、深山を足止めしている南方棲戦鬼の方へと誘導されたともとれる。

 となればもしかすると今以上の戦力が送られてくるかもしれないのだが、本命である飛行場姫も何とかしなければならない。

 

「神通、球磨達に通達。ガダルカナル島へ向かう。煙幕用意。奴らを振り切るよ」

「了解。煙幕よーい! 進路変更!」

 

 指揮艦を操縦する妖精達も大淀の言葉を復唱するように、人には理解出来ない言葉を発し、動いていく。窓の外から見える光景を頼りに、進路変更しつつ煙突から煙を立ち昇らせる。

 もくもくと広がっていく煙が指揮艦を隠していくため、外の様子はわからなくなってくるが、進路はもう変更されている。電探の反応と照らし合わせつつ慎重に北上する事が出来た。

 だが戦場を離れていく反応を察知したのだろうか、南方棲戦鬼の視線が北へと向けられる。それを引きもどしたのは、陸奥達戦艦の砲撃だった。

 

「そっちには行かせないわ。第二射、てぇーッ!」

 

 陸奥、長門、霧島による砲撃によって南方棲戦鬼の体勢が大きく崩される。その隙をついて淵上の二水戦が突撃を仕掛ける。龍田が手にしている薙刀のようなものを勢いよく回転させながら先陣を切っており、後ろからは由良、黒潮、初風、舞風、響が続いている。

 

「砲撃、雷撃、いくわよ~。私達も負けてはいられないわ~」

「魚雷発射! 続けて砲撃、てー!」

 

 陸奥達へと今度は意識が向いたことで、龍田達に気づいていない。暗がりの向こうから放たれた魚雷にも気づいていない。そこから移動しながら砲撃を加えるのだが、軽巡や駆逐の砲撃よりも、戦艦、重巡の砲撃の方が奴にとっては痛手だ。

 薙刀の切っ先付近から放たれる弾丸。天龍と龍田の独特な艤装は他の艦娘には見られないものだからこそ、際立っている。しかも砲という役割だけでなく、薙刀としての見た目は飾りではなかった。

 イ級エリートが噛みつきに来ると、薙刀を薙いで迎撃する。それも艦娘としての力で艤装となっているせいか、刃によるダメージはしっかりと通っているようだ。その装甲を貫くように突き刺し、肉へと直に砲撃を与えて吹き飛ばす。

 そうしている内に魚雷が南方棲戦鬼へと到達し、次々と爆発を起こして多大なるダメージを与えた。

 

「ァァァアアア……! マダ、マダ……! 私ハ、役割ヲ……!」

「眠りなさい。見苦しいわ」

 

 それでも南方棲戦鬼は動き続ける。満身創痍であるはずなのに、まるで妄執のように自分に与えられし役割を遂行しようとしている。それは例え敵であったとしても、見ていられるものではなかった。

 副砲を撃ち続けながら接近し、魚雷によって体勢を崩した南方棲戦鬼へと装填し終えた主砲を放つ。距離が縮まったことで狙いどころが暗くてもよく分かる。被弾して脆くなった部分を更に撃ち抜くように放たれた徹甲弾。それは南方棲戦鬼の体力を一気に奪うに充分な力を発揮した。

 妄執に取りつかれた哀れな兵器を、沈めることで戦いから解放してやる。

 苦しげな悲鳴を上げながら、ゆっくりと沈んでいく南方棲戦鬼。間もなく、日の出の時間となる。これから自分達もガダルカナル島へと合流した方がいいだろう。陸奥は残党を見回しながら、ちらりとガダルカナル島へと意識を向けるのだった。

 

 

 その戦いはじり貧どころではないもの。

 飛行場姫へとダメージを与えても、護衛要塞らを生贄に捧げて回復する。そうして一度は沈んだ護衛要塞らは、少しすればまた別の護衛要塞か、あるいはまた命を与えられて復活してくる。

 一方扶桑や金剛らはただただ砲撃を繰り返して弾薬を消費し、動き続けることで燃料を消費する。それが長く続けば、補給した資源は消えていくだけであり、それに従って砲撃の威力が低下していく。

 そして燃料が失われていけば、もしもの撤退すら出来なくなってくる。

 取り巻きらを処理している高雄達も同じことがいえる。どれだけ減らしても復活してくる敵。消費されていく弾薬によって、その処理速度も低下してくる。となれば、数にものを言わせて自分達の被弾が多くなり、前に出ることすら出来なくなってくる。

 

「ダカラ、無理ナノヨ……。貴女達ノ勝利ナドアリハシナイノヨ」

 

 苦しげな表情が蔓延しているが、それでも彼女達は完全には折れていない。それが飛行場姫にとっては不快だった。小首を傾げて「何故、笑ッテイラレルノカシラ?」と金剛へと問いかける。

 

「Youを前にして笑みを完全に消してしまった時、ワタシは負けを認めた事になりマス。それだけは、避けたいものですヨ」

「ソウ。ナラ、笑エナクシテアゲヨウカシラ」

 

 手を挙げながら飛行場姫は砲撃を行う。彼女のサインに従ってタ級フラグシップやタ級エリートが動き、金剛達へと砲撃を仕掛けてきた。特に金剛へと攻撃が多く飛来し、回避しようとした彼女は動きが鈍くなっていることをより自覚する。

 それにより、飛来した弾が金剛の右足を撃ち抜き、たまらず海へと倒れてしまった。

 

「あ、うぅ……!?」

「お姉様!」

「来てはダメです、榛名!」

 

 助けようとした榛名を制止すると、二人の間に次々と着弾し、水柱が上がる。止めなければ榛名も多く被弾していたと思われるコースだった。

 

「諦メガ悪イノネ、金剛。ソンナニナッテモマダ続ケヨウトイウノ?」

「…………」

「フフ、言葉モ出ナクナッタカシラ? ヤット、砕ケ始メタノカシラ? フフフ」

「……No、それは違うわ、Crazy princess。こうなってもワタシは何も悲観はしていないワ」

「何デスッテ?」

 

 金剛の周りに高雄達が集まり、何とか彼女を守ろうとしてくれる。そんな中で金剛は笑みを崩すことはない。宣言したように、こうなってもなお飛行場姫の前で笑みを消す気はないのだろう。

 

「こうして仲間がいる。そして例えワタシ達が倒れても、きっとYouを倒す誰かがここにやってくるワ。意志は、消えることはないのヨ」

「……不快ネ。ヤハリ不快ダワ、金剛。コノ海ニ、ソンナ色ハイラナイノ。黒ク、赤ク、暗イ闇ニ染マレバイイ。ソンナ光ハコノ海ニハ似合ワナイノヨッ!!」

「――それでも光は差し込むってね! 突撃ぃ! 私に続きなさい!」

 

 深い闇夜を切り裂くような、頼もしき声が戦場に響き渡った。

 やってきたのは川内率いる東地の一水戦。だが先頭を往くのは島風だった。周りには彼女の艤装である自立する連装砲が海を航行し、思い思いの方へと砲撃を仕掛けている。

 

「魚雷いっくよー」

 

 背を向けて背負っている魚雷発射管を敵に向け、一気に五連装酸素魚雷が放たれる。そんな島風に続くように川内達も砲雷撃を行いながら金剛達の前に出る。

 その様子を飛行場姫は唇を噛みながら見つめていた。

 

「金剛達は撤退を。私達がその時間を稼ぐよ」

「今回は失敗。そう司令官は判断したよ。あまりに時間をかけすぎたからね」

 

 長良率いる二水戦も合流し、比叡が金剛を支えながら後ろに下がっていく。

 どうやらあの後、東地の指揮艦は付近の島に身を寄せ、側面をカバーしつつ凌いでいたようだ。島を盾にすることで一面を防御し、三方向に対して守りを固めて耐え続けていたらしい。

 足止めしてきた深海棲艦を倒しきり、一水戦と二水戦を支援に向かわせたようだ。

 水雷戦隊の砲撃と魚雷によって少しでも多くの護衛要塞をはじめとする深海棲艦を処理していく。向かって来れば魚雷で迎撃し、道を塞ぐならば砲撃によって壁をこじ開ける。

 それでも追撃してくるタ級フラグシップには、雪風をはじめとした駆逐艦による魚雷の強撃で無理やり撃沈した。

 

「雷撃なら私も負けてられないわ。二十発、発射よ!」

 

 雷巡の大井は北上と同じような装備をしている。ならば一人でそれだけの魚雷を一斉に放つことが可能だ。暗い海に扇状に放たれた魚雷は、群れている敵にとっては逃げ場のない攻撃と言えよう。次々と被弾し、撃沈数が一気に増えることとなった。

 そうして追っ手を減らしていくのだが、逃亡を許すほど飛行場姫は優しくはない。「――逃ガスナ。逃ゲラレルト思ワナイコトネ!」と怒りが篭った声で叫べば、川内達が入ってきた方に突如として伏兵のように多くの深海棲艦が浮上した。

 その中にはリ級フラグシップも交じり、魚雷の強撃を一斉に放ってきた。執拗に金剛を狙う深海棲艦の魔の手から守るべく、比叡と榛名がその身を投げ出した。戦艦の装甲といえど、魚雷の強撃ともなれば一気に中破へと持っていくことは容易い。悲鳴を上げて海に倒れる妹達に、たまらず金剛もまた悲鳴を上げる。

 

「鳴イタワネ? ソウ、ソレガ聞キキタカッタノヨ、金剛……! 貴女ノ嘆キノ声、アア、耳ニ心地良イワ……! モット、モット聞カセテチョウダイ?」

 

 そんな金剛へと飛行場姫も砲撃を加えていく。飛来してくる砲弾になす術なく被弾する金剛は、顔を庇いながら苦い表情を浮かべた。普通ならば一気に中、大破に持っていきそうな砲撃のはずだが、どういうわけか威力が抑えられている。

 手加減しているとでもいうのか、この状況で?

 

「……っ、そうやって嬲り続けるというのですカ……!?」

「エエ、貴女ハタダデハ沈マセナイ。苦シンデ、苦シンデ沈ンデイキナサイ」

 

 金剛だけではない、比叡や榛名にも同じように手心を加えた砲撃が次々と襲い掛かってくる。完全に勝利を確信しているからこそ出来る事だった。一体、どういうつもりだ、と思えども、金剛達にとって反撃も逃げることも出来ない状態。

 川内達が代わりに反撃するが、それでも飛行場姫による攻撃は止まらなかった。やがて彼女はそれまで以上の笑みを浮かべた。

 

「……ホラ、時ハキタヨウネ」

 

 そう言って東の空を指さす。それは立ち位置的には金剛達の背後になる。

 背中に差し込む光。東の海の彼方はゆっくりと白み始めている。

 ソロモン海に暁の時刻がやって来たという証である。

 

「私ハヘンダーソン飛行場。ナラバ飛行場ラシク、貴女達ヲ飛行機ニヨッテ沈メテアゲルワ。モチロン、貴女達ノ取リ巻キモネ。独リハ寂シイデショウ? 安心シナサイ。皆仲良ク、深海ヘ招イテアゲマショウ」

 

 朝がもう間もなく来るのであれば、問題なく翼を広げることが出来る。

 タイムリミットだ。

 飛行場姫の滑走路から次々と深海棲艦の艦載機が飛び立っていく。艦戦の姿はない。空母がいないために必要はないのだろうと考えたのだろう。艦爆と艦攻のみが放たれるという攻撃的な采配だ。それらは一定の高度を得ると、光を放って複数の艦載機へと分かれていき、金剛達へと迫っていく。

 空母ヲ級の放つ艦載機の数など目ではない。飛行場という基地から放たれる艦載機は、彼女一人だけで無数の翼が空を埋めていく。

 それを前に、川内達水雷戦隊がどうにか出来るはずもない。

 そして弾薬尽きている金剛達にもどうする事も出来ない。燃料もないので、逃げる足もない。そもそも金剛は足をやられている。例え金剛以外が逃げることが出来たとしても、彼女だけは犠牲になるだろう。

 詰みである。

 

「オ疲レ様、金剛。カツテノ再現ナド、出来ルハズモナカッタワネ。私達ノ勝チヨ」

 

 唇から血を流しながら、飛行場姫は勝利宣言をした。音を立てて金剛達の頭上を取りに来る艦載機を見上げながら、金剛は静かに目を閉じる。

 せっかく川内達が助けに来たというのに、犠牲者が無駄に増えただけだ。もう少し早く撤退することが出来たらこうはならなかっただろう。

 機会を見誤った。それがこの結末を招いたのだ。

 荒い息をつきながら金剛は自らの不甲斐なさを嘆く。だがそれは彼女だけではない。隣に立つ扶桑もまた同じだった。

 

「……ごめんなさいね、金剛さん。私が、余計なことを言ったから……」

「No、それは違うネ、扶桑。あなたの言葉で、確かにワタシ達は心が奮い立ったネ。それは戦いにおいては大事なこと。……折れることがなかったのは、あなたの言葉があったからこそ、ネ」

 

 だが、それでも結果は変わらなかったかもしれない。でも折れた心で死を受け入れるよりは、少しだけでも戦意が残されたまま死ぬ方がまだマシだろう。

 しかしやはり死ぬとなれば、今まで共に戦ってくれた東地に申し訳ない。そう思うと、静かに涙が零れ落ちた。

 

(――テイトク、どうか武運長久を。ワタシ、Valhallaから見ているネ……)

 

 暁の空に、悲鳴が響き渡った。

 

 


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