呉鎮守府より   作:流星彗

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お久しぶりです。
イベントが終了しましたので、少しずつ投稿再開していきます。


夜戦突入

 

 ソロモン海域へと突入する指揮艦が四隻。東地の艦は北上してサンタクルーズ諸島へと向かい、深山の艦は南へと向かっていく。そして凪と淵上の艦は海峡を潜り抜ける中央のコースへと入っていく。

 指揮艦の明かりは落とし、操舵は全て妖精達が行っている。辺りは真っ暗であり、星と月だけが静かな明かりを灯していた。

 海は赤く染まっているが、夜の闇によってそれはあまり判別がつかなくなっている。だがここはもう既に奴らの領域になっている。

 電探の反応を探りながらゆっくりと進んでいくと、向こうから接近してくる深海棲艦の反応が見られた。ならばこちらも出撃の時である。

 

「敵艦隊接近。二水戦、三水戦出撃を」

 

 凪の指示に従い、指揮艦から二水戦と三水戦のメンバーが海へと飛び降りていく。淵上の艦からも水雷戦隊が出撃し、それぞれ前方へと散っていった。

 

「ふっふっふ……ついに来たのね。夜戦の時がぁ!」

「興奮するのは結構クマが、だからといってはりきりすぎても困るクマ」

 

 夜戦大好き川内としては、これぞ待ちに待った夜戦といえよう。今まで実戦と言えば昼ばかりだった。訓練で夜戦をしたことはあるが、実戦では全然経験はしていなかったのだ。不敵な笑みを浮かべて拳を鳴らす程度には興奮している。

 そして三水戦もまた阿武隈を旗艦として敵艦隊へと接近していく。

 反応を確認できたのは以下の艦隊だった。

 軽巡ヘ級フラグシップ、雷巡チ級エリート2、駆逐ハ級、駆逐ロ級2。

 重巡リ級エリート、重巡リ級2、軽巡ト級エリート、駆逐ハ級2。

 戦艦ル級エリート、重巡リ級エリート2、駆逐ニ級3。

 それぞれを一隊ずつで相手する事にする。

 

「さあ、皆さん。落ち着いていきますよ。あたしの指示に従って、きっちり仕留めていきますよー!」

 

 阿武隈の指示と導きにより、軽巡ヘ級フラグシップの艦隊へと接近。だがその姿はよく見えない。探照灯があれば姿が見えるだろうが、ないものねだりをしても仕方がない。

 電探の反応で距離を探り、狙いを定めなければならない。目を凝らせば闇の中で何かが動いているような影は何とか見える。

 

「砲撃雷撃ぃ! 女と夜戦は度胸が一番ってねぇ!」

 

 先陣を切ったのはやはり川内だった。エリート級ならば、闇の中でもうっすらと光る赤い燐光が目印となる。フラグシップも同様だ。黄色い燐光が輝き、その尾を引く光でどう動くのかは読み取れる。

 それを見切り、川内が放った弾丸はリ級エリートを撃ち抜いていた。続くように二水戦のメンバーが攻撃を仕掛けるも、リ級エリートも負けてはいない。両手に砲を装備し、連続で砲撃を仕掛けてきたのだ。それを援護するようにリ級が砲撃し、ハ級は魚雷を吐き出してくる。

 普段ならば雷跡が見えるものだが、闇のせいで見えづらい。電探の反応、そしてハ級が向いていた方向から推測するしか出来ない。故に、川内が言ったように度胸が試される。

 

「びびって止まってるんじゃないわよ! さあ、ついてきなさいな!」

「血気盛んな奴はこれだから困るクマ。しかし、ここまで来てしまったからにはやるしかないクマよ!」

 

 もうすぐそこまで敵がいる。逃げることなど出来るはずもない。足柄に続くように果敢に主砲副砲を撃ちながら同航で航行し、装填が済み次第にお互い撃ち合っている。こればかりは被弾なしで切り抜けられるはずもない。肩に、体に、時に頭にも被弾し、のけぞってしまうが、それを堪えて撃ち続けるのみ。

 阿武隈率いる三水戦もル級エリートが率いる艦隊に肉薄し、その装甲をぶち抜く魚雷をお見舞いしてやり、後ろに続くリ級エリートにも届く魚雷を放ってやる。魚雷に抜かれてル級エリートが撃沈したが、リ級エリートは魚雷を凌ぎ、砲撃を加えてくる。

 ふと、電探が大きな反応を捉えた。

 闇の向こうに現れたのは泊地棲鬼と思われる反応だ。その周囲にはル級エリート、リ級エリートといった存在が見られる。ここから先は通さない、という意思が感じられる。

 

「ここで泊地か。まあ、いるよね。じゃあ茂樹と深山に電文。『我、泊地オニト邂逅セリ』」

「はい!」

 

 本来の日本語を改良した暗号を用い、先程の言葉になるような電文を送らせる。また被害状況を確認させると、やはりというべきか二水戦の被弾が多いとの事だったので帰還させることにした。代わりに一水戦を出し、二水戦の入渠を行う事にする。

 三水戦は少しずつ後退させて、一水戦を前に出す。更に支援として榛名率いる第二主力部隊も出しておくことにした。

 

「以前とは違い、夜戦での泊地戦だ。各自、注意して当たるように」

 

 この言葉を簡略化し、大淀が暗号にして艦娘達に電文を送る。艦娘との通信も傍受されないように、暗号としてやり取りさせる。淵上の指揮艦からも水雷戦隊が交代で出撃し、警備にあたらせた。

 そうした中で、先程の暗号を受け取った東地はというと、サンタクルーズ諸島へと入っていくところだった。北から回りこむように移動している彼らもまた、深海棲艦と会敵している。

 

「海藤さんからの暗号電文です。『我、泊地オニト邂逅セリ』、との事です!」

「泊地棲鬼か。やれやれ、中央で泊地棲鬼を配置か。……ん? 中央でそれって事は、こっち側とかには何かそれよりも上がいそうだな」

 

 既に警備の水雷戦隊と、攻撃のために出撃している水雷戦隊、そして水上打撃部隊がいる。それぞれが敵の艦隊と当たり、ゆっくりと南下しているのだが、どうやらこちらも大きな敵がいるようだ。

 軽巡ヘ級フラグシップを攻撃していた五十鈴が、それを捉えた。闇の向こうに動く存在、電探の反応と力の波動から、それが装甲空母姫であると察した。それだけではない。別方向からは装甲空母鬼まで接近してきているのだ。

 

「こっちは装甲空母かよ。やれやれ、あいつらに電文! 『我、装甲空母ヒメ、オニト邂逅セリ』。とっとと押し通るぞ! 第一水上打撃部隊も出撃してくれ!」

 

 扶桑率いる水上打撃部隊が指揮艦から出陣し、装甲空母姫の方へと向かっていく。

 装甲空母鬼は複数の水雷戦隊で当たらせ、五十鈴が率いる東地の三水戦が先に装甲空母姫と交戦する。奴の艦載機発艦能力は夜のために発揮不能。純粋に砲撃と雷撃、そして回避能力だけの勝負となる。

 

「大きな的ね。五十鈴には丸見えよ! 雷撃用意っ!」

 

 他の深海棲艦よりも巨大な艤装を持っているためか、その闇に浮かぶ影は一際大きい。そこに向かって魚雷を撃てば何本かは当たるだろう。だが敵は装甲空母姫だけではない。闇に紛れてタ級エリート、ホ級フラグシップが接近してきている。

 軽快な動きをしながら距離を詰め、砲撃してくるホ級フラグシップ。負けてなるものか、とニ級エリート、ハ級エリートが続き、追撃のための弾丸を撃ってくる。

 

「提督、深山さんからの電文です。『我、イクサオニ、装甲空母ヒメト会敵セリ』とのこと!」

「イクサオニ……ああ、南方棲戦鬼か。ってそれまで出してきたんかい。北も、中央も、南も封鎖。どうしてもガダルカナル島には行かせねえってか」

 

 だが奴らは過去に勝ったことがある敵だ。

 昼戦と夜戦の違いはあれど、勝ったことがある敵なのだ。

 ならば勝てない道理はない。その先に用があるのだから、いつものように勝利をもぎ取って進むまで。

 

 

「そこかなー? そんじゃ、いっきますかねー」

 

 弾が着弾し、爆発している場所。影の大きさからも判断し、北上が狙いを定めて魚雷を構える。妖精達が北上の意思に呼応し、その光を放つ。狙いすまされた一撃は収束した光の如く、海を切り裂く弾丸となる。

 雷巡としての高い雷撃能力が集結した一撃は、泊地棲鬼の艤装など簡単に吹き飛ばしてしまった。甲高い悲鳴を上げて傾いていく泊地棲鬼。文字通り、破壊的なまでの一撃が勝利への道筋を切り拓いたのだ。

 駆け引きも何もない。そこにあったのは、暴力的なまでの雷撃能力による勝利である。神通達のとどめの魚雷によって、無残にも泊地棲鬼は大した壁にもならずに沈んでいった。

 

「響ちゃん、報告を。みなさん、先へ進みますよ。索敵も念入りに」

 

 響が暗号電文で『泊地オニ、撃沈。進軍』と報告し、艦娘達は更に進軍する。ガダルカナル島はもうすぐだろう。だからこそ奴らは更に強力な防衛部隊を配置しているはずだ。

 だが泊地棲鬼に対してあれだけの快勝をしたのだ。夜戦であろうとも、彼女達にとってもう泊地棲鬼は脅威でもなんでもなかった。それだけの力をつけたという証でもある。

 だからこそ、少し気が緩んでしまったのだろう。

 闇の向こうから高速で魚雷が迫ってくるのに気付くのが少し遅れた。

 

「――っ、ぁぁ!?」

 

 北上がその直撃を受けて吹き飛ばされる。神通が北上の方へと一瞬目を向け、しかしすぐに前を向いて魚雷が来た方を睨む。

 

「っ!? 魚雷、次来ます!!」

 

 先程北上が放ったような、収束した力を込めた魚雷が高速で迫ってきているのだ。何とか回避した神通だが、吹雪、木曽に魚雷が掠めてしまいバランスを崩す。だがそれだけでも服と肉を削り取るだけの力があった。

 闇の向こうに光るは黄色い燐光。それを放つは、重巡リ級フラグシップ。恐らく北上のような魚雷の一撃を放ったのは、あのリ級フラグシップだろう。それが三人いる。

 

「雪風ちゃん、北上さんを連れて後退! 他の方も、被弾した人を護衛して後退を! 健在な人は、ここで踏ん張ってください! 響ちゃん、電文! 『入渠者、増加。支援求ム』」

「了解……!」

 

 北上、吹雪、木曽に付き添うように雪風、朝潮、村雨が後退する中、残った艦娘達がその時間を稼ぐために戦う事になる。だが、敵はリ級フラグシップだけではない。

 戦艦タ級フラグシップ、戦艦タ級エリート、重巡リ級エリート……恐らくは敵の水上打撃部隊とも呼べるものが、防衛部隊として待ち構えていたのだ。

 主砲が音を立てながら展開され、砲門がじっくりと獲物を見定めるように照準を合わせてくる。だが夜の闇がお互いの正確な距離を判別させない。魚雷の次発装填をしている神通達も主砲の用意をするが、こんなものではタ級に通用しない。もっと肉薄し、狙いすました一撃をぶちかませなければ戦艦の装甲は抜けないのだ。

 

「ここは榛名達にお任せを! 神通さん達は榛名達が引きつけている間に、側面からお願いします!」

「……お任せします」

 

 三水戦も一水戦も二人を失っているので、残る四人ずつで当たらなければならない。それは榛名達第二主力部隊も同様だ。だが水雷戦隊とは違い、戦艦主砲ならば当たれば距離が離れていようとも問題なくタ級にダメージは与えられる。

 

「―――!」

 

 闇の奥に暗い光が揺らめいた。それはタ級フラグシップの主砲に纏わりついており、まるでそれは北上が鋭い魚雷の一撃を放つ前触れのような光の揺らめき。まさか、と榛名が息をのみ、「回避を!」と叫んだ。

 瞬間、タ級フラグシップの主砲から連続して弾丸が飛来してきた。主砲だけではない、副砲もまた連続して火を噴き、深海棲艦らしい蒼のオーラを纏った弾丸が迫ってくる。

 二人のタ級フラグシップから放たれた無数の弾丸が雨のように降り注ぐ中、榛名達は何とか被害を抑えるように回避行動をとる。迫ってくる弾丸は見えない。ただそれぞれが蛇行して動くだけ。そうした中で榛名達もまた主砲で反撃する。

 

「きゃぁあ……!?」

 

 それでも被弾は避けられない。榛名、比叡、鳥海、筑摩は被弾しながらも前へと進み、タ級フラグシップへと砲撃を仕掛ける。

 そんな彼女たちを支援するように背後から砲弾が飛来した。それらは数発タ級フラグシップへと着弾し、攻撃の手を止めた。

 

「攻撃の手を緩めずに! 今が攻め時デース!」

「佐世保のお姉様……?」

 

 そこにいたのは金剛率いる艦隊だった。淵上が出撃させた水上打撃部隊のようだ。

 金剛、青葉、古鷹、最上、初春、不知火の姿が背後から接近。榛名達を助けるように砲撃支援をしていく。

 

「ワタシ達が支援しマス! 水雷戦隊も来ていマース!」

「……わかりました。感謝します、佐世保のお姉様」

 

 タ級フラグシップらと向かいあい、砲撃ながら前進する。続くようにタ級フラグシップとリ級フラグシップへと攻撃をしかける金剛達。更に佐世保の一水戦が突撃する。

 

「那珂ちゃんセンター! 一番の見せ場が到来ッ! 呉の神通ちゃん! 魚雷、どうかなー!?」

「問題ないです。ではみなさん、突撃します」

 

 まるで鶴翼の陣のように左右、斜めに展開する水雷戦隊。そこから魚雷を発射し、クロスするかのようにそれらがタ級フラグシップ、リ級フラグシップへと迫っていく。前方は榛名と金剛達による砲門が睨みを利かせ、後退しようとも逃がすつもりはない。

 死なばもろとも、というつもりなのか。

 リ級フラグシップの魚雷発射管が暗い光を放ちだす。それに気づいた神通が「魚雷来ます! 気を付けて!」と叫んだ。放たれた鋭い魚雷の強撃。それが三発。それぞれが別方向へと一気に突撃していく。

 だが神通達が放った魚雷もまたリ級フラグシップ、タ級フラグシップを捉え、全て撃沈させる。そして奴らが放った魚雷だが、一本は金剛へと迫っていた。それに気づき、古鷹が金剛を庇うように前に出る。

 

「――っ、くぅ……!」

「古鷹っ!?」

 

 鋭い一撃と爆発によりその体が吹き飛び、金剛を巻き込んで海に倒れて滑っていく。もう一本は那珂達の佐世保一水戦へと向かっていき、暁へと直撃した。悲鳴を上げて成す術なく宙に舞う暁。リ級フラグシップが残した置き土産は佐世保の艦娘二人を一発で大破へと追い込んでしまった。

 残りの一本は神通達、呉一水戦へと向かっていった。だがその音で彼女達は見切る。通常の魚雷より勢いよく海を貫き進んでいくその一撃。闇で見えづらいが、だからこそ音に意識を専念。

 故に夕立、綾波は二人の間で魚雷が通り過ぎるように回避する事が出来た。

 

「敵の反応は?」

「…………ないね。とりあえずは凌いだみたいだ」

「ならばすぐさま被害を受けた方々は帰還を。健在な方々はこのまま待機。一時的にここに留まり、体勢を立て直しましょう」

 

 神通は指揮艦にいる凪へとその旨を報告した。

 大淀を通じて神通の言葉を受けた凪もそれに同意する。戦いの様子は見えないが、リ級フラグシップやタ級フラグシップによる被害の数々は想定外だった。

 夜戦だからこそその力を発揮したとでもいうのか。

 北上が放つような魚雷の強撃。妖精の力を加味し、装備の力を最大限に発揮して攻撃を放つ。艦娘に出来て深海棲艦が出来ない道理はない。両者は異なる存在だが、その成り立ちは似たようなものだ。

 深海棲艦に妖精がいるのかどうかはわからないが、それでも奴らには負の力が、深海棲艦ならではの闇の力が存在する。その力を使ってあのような攻撃を放つことが出来たのではないだろうか。

 

「茂樹や深山にも注意を促しておこう。いや、もしかするともう遅いのかもしれないけど……」

「一応伝えてはおきます」

「頼むよ。入渠ドック、治療はどうだい?」

『北上さんたちはバケツで治療はかんりょーしておりますっ!』

「そうか。なら悪いけど、すぐさま二水戦と共に出撃してくれ。大淀、三水戦、榛名達も帰還。治療する」

「はい」

 

 初戦は被害を被ったが、それでも勝利する事は出来た。治療のために一度足を止めることになってしまったが、まだ日付が変わる前。日が昇るまではまだ時間はある。

 ガダルカナル島はもうそこまで迫っている。自分たちでなくとも、東地や深山が目的を達成することが出来ればこちらの勝ちだ。

 まだ、慌てる時間ではない。

 そう凪は考えていたのだった。

 

 

 


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