呉鎮守府より   作:流星彗

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南方棲戦鬼

 指揮艦に届けられたのは、ノイズが走る映像だった。凪達は確かにそれを見ている。

 艦載機に搭乗している妖精から送られてきているもの。それは映像と音声。

 南方棲鬼が、撃沈された深海棲艦を取り込み、別の姿へと変貌した光景も見届けた。大淀があれを見て資料を確認するのだが、どこにも載っていない。新たな姿だった。

 

「……新たなるカテゴリです。南方棲鬼でも、南方棲戦姫でもないあれは、呼称するならばその中間。南方棲戦鬼でしょうか」

「うん、とりあえずそう呼称しよう。……で、戦鬼を討伐する援軍は送るべきだろうね」

「ああ。うちから送り出すよ。通信はノイズであまり利いちゃいねえが、それでもあれはやばい。加賀さん、出番だ」

「わかりました」

「……それと加賀さん、緊急時だ。あれも持って行ってくれ」

「あれ……なるほど、わかりました。使う事がない状況になる事を願います」

 

 東地の指揮艦から追加の援軍が送られる。秘書艦である加賀率いる第一航空戦隊と、扶桑率いる第一水上打撃部隊。彼にとっての主力だ。凪も送ろうか、と進言したが、温存しておけ、と止められた。

 そして凪から神通達へと通信を行おうとしたが、やはりと言うべきか、ノイズによってあまり相手の声が聞こえない。繋がっているかもわからない状態だった。

 突然、映像が消えた。最後に弾丸が飛来したような気がしたので、映像を送っていた艦載機が撃沈されたのかもしれない。こうなったら凪達はもう無事を祈るしか出来なかった。

 

 

 天秤は、また中間を保った。

 神通達の奇襲によって、確かに艦娘側の有利に傾いたはずのそれは、南方棲鬼が南方棲戦鬼へと変貌した事によって、振り戻されたのだ。

 状況を覆す程の怒り、憎しみが南方棲戦鬼にはある。

 彼女をそうさせたのは、神通達の行動が彼女にとって忘れられない記憶を揺さぶったからだ。セピア色に染まろうとも、深海棲艦へと変貌しようとも、忘れられないかの記憶。

 死出の旅をした最期の記憶なのだ。

 仲間の助けなどない。自分はただ、死を受け入れるしかない。

 自分がそうなったというのに、何故目の前の敵は助けが入っているんだ? それが、どうにも許せない。憎しみが、怒りが、湧き出てくるのだ。

 

「堕チロ、堕チロ……何モカモ、堕チルガイイ……貴様ラモ、染マレ、我ラノ色ニ……!」

 

 そうだ、自分は深海棲艦なのだ。

 その目的は、艦娘達を沈める事。何を迷う事があろうか。その任務に従い、目の前の敵を沈めつくすのだ。例えこの身が絶えようとも、それを果たさねばならない。

 

「No thanks! 生憎ですが、ワタシ達は負ける気はnothing! Youを倒し、生きて帰りマース! 比叡、行きますヨー!」

「はい、お姉様! 徹甲弾装填! 撃ちます!」

 

 だが金剛と比叡の目は死んでいない。この状況を切り抜けるのだと、眩いくらい輝いている。それが南方棲戦鬼の気持ちをより逆撫でる。徹甲弾を防ぐように鈍色の左手が防ぐが、徹甲弾はそれを貫通する。

 威力が落ちた弾丸が人型の腹へと届くが、ほとんどその肉体を貫通しない。

 また攻撃の手は金剛達だけではない。祥鳳、千歳から発艦された艦爆が南方棲戦鬼の頭上に辿り着き、急降下爆撃を行う。両肩にある対空砲がいくつか撃ち落とすも、次々と爆撃が成功する。だが、それらはリボンから発せられる赤いオーラに阻まれ、威力が削がれる。

 その様子を見ていた神通は航行しながら思考する。

 

(艤装は急ごしらえの装着。だからまだ綻びがある。見た目こそ物々しいですが、その装甲はまだ薄いのかもしれませんね。ですが、あのリボンに集まった深海棲艦としての力が生きている限り、南方棲戦鬼の力は回復するのかもしれません……)

 

 分析しながらリボンに向けて砲撃を行うが、艤装の上に立っている形になるため高さが足りず、腹に当たってしまう。そしてオーラがまるで膜のように覆っているため、威力が削られていた。

 まるで小突かれた程度の痛みしか感じない南方棲戦鬼は、視線を落として神通達を睨みつける。

 

「イイ加減、鬱陶シイ……死ニ急ギタイナラ、希望通リニシテヤロウ……」

 

 艤装の大きな口が開き、魚雷が一斉に発射された。続けて重巡の三連装砲が唸りを上げて弾丸を発射。迫りくる弾丸に、神通達は蛇行して回避する。

 

「艤装を落とし、奴を下げましょう。私達がまともにダメージを通すにはそれしかありません。……艦載機か、あるいは戦艦や重巡の砲撃ならば、リボンを狙えるかもしれませんけども」

「それなら、やっぱり魚雷でぶちかますしかないんじゃない? うぉっとぉ……」

 

 付近で着弾した弾丸に北上が軽い悲鳴を上げて振り返る。見れば、新たな深海棲艦としてタ級エリートが現れていた。更にチ級エリートが二隻急浮上し、艤装にライドしながら一水戦に奇襲を仕掛けてくる。

 ぐわっと艤装の口が開かれ、魚雷を発射しようとした刹那、そこに弾丸が撃ち込まれて爆発した。

 

「見えてるよ、残念っぽい」

「気配が漏れてますね。やらせはしません」

 

 夕立と綾波だ。まだ勘が冴えているようで、冷静な眼差しで沈んでいくチ級エリートを見据えている。響も思わず「……ハラショー。さすが、ソロモン組」と呟いてしまった。

 

「そんじゃ、あたしも駆逐艦には負けてられない所を、みせましょうかねー。四連装酸素魚雷、いっきますよー!」

 

 両足にある四連装酸素魚雷の妖精達へと告げれば、それに応えるように妖精達が光を放つ。ぐっと足に力を込めると、二つの四連装酸素魚雷から勢いよく魚雷が発射された。普通に発射されるよりも鋭く、まるで海を貫きかねない程の速さで南方棲戦鬼へと向かっていく。

 反射的に艤装の腕が防御するも、それは魚雷の直撃に耐え切れずに突き破られ、吹き飛んだ。まるで力任せにぶちっともぎ取られたかのように二の腕から先が宙に舞ったのだ。

 艤装が悲鳴を上げるが、南方棲戦鬼は平然とした顔をしている。まるで、それがどうしたのだ、と言わんばかりの表情だ。

 

「愚カナ。実ニ無駄ナ事ヲ……、艤装ガ傷ツコウトモ、代ワリハイクラデモアル。ソウ、水底ニナ……」

 

 また波紋が広がった。それに呼応して深海棲艦のなれの果てが浮かび上がり、艤装が剥がれて肉体が露出する。それが艤装に繋がれると、まるで吸収するように一体化した。

 そうして再生してしまう。

 

「フ、ハハ、ソウ、無駄ナノヨ……。ドレダケ足掻イテモ……ク、フフフ……」

 

 そう笑う南方棲戦鬼の口の端から血が流れ落ちた。ん? と神通がそれに違和感を覚えつつ、反転。やはり、艤装を狙うにしても人型を狙うにしても、あの吸収から再生を行う何らかの力をどうにかしないといけないようだ。

 神通は金剛へと通信を開こうとしたが、こちらもノイズが走っている。ならば仕方ない。彼女達に向けてある艤装を顕現させる。肩に小さく出てきたのは発行信号に使うライトだ。夜戦に使うような探照灯とは違って結構小型なものである。

 何度か明滅させて金剛達の意識を引かせる。

 

「……ん? あ、お姉様。神通さんが信号を送ろうとしていますよ」

「Oh? なんデース?」

「えっと……『リボンを狙え』、だそうです!」

「リボン? ……あの赤いものですかネ? それが攻略のKeyならば、やってやるだけデース!」

 

 主砲の照準を南方棲戦鬼の頭部へと合わせ、一斉射。弧を描いて飛行したそれらは、二発だけ頭部へと着弾した。それ以外は全て外し、海へと落ちていく。

 それに対して南方棲戦鬼はぐっと拳を握りしめ、勢いよく前へと突き出した。

 

「金剛ラヲ落トセ……! 斉射ッ!」

 

 ル級エリート、タ級エリートと共に南方棲戦鬼も反撃するように一斉射。降り注ぐ弾丸を掻い潜りながら南方棲戦鬼へと距離を詰め、高雄と愛宕もまた砲撃に参加。だが代償として、金剛と比叡にもル級エリートとタ級エリートの弾丸が着弾した。

 しかしそれで止まってはいられないのだ。副砲で反撃し、高雄と愛宕が魚雷を撃ちこむ。

 

「さあ、全機爆装! 飛び立って!」

 

 それを援護するように、隼鷹から受け取った艦載機をも補給。飛鷹をはじめとする空母達の艦載機も攻撃に参加し、護衛となる戦艦らが撃沈された。

 

「何故諦メナイ? 何故認メナイ?」

 

 両肩からの対空砲撃で艦載機を撃墜させながら南方棲戦鬼は問いかける。

 金剛らの目が死んでいない事が苛立たせる。この状況で、何故笑っていられるのだと不快になる。

 

「決まっていマス。提督がきっと援軍を出してくれていると信じているからデース!」

「援軍……、援軍、ダト……? 通信ハ使エナイ。オ前達ガ不利ダトイウコト、私ガコウナッテイルコトハ、知ラナイハズダ……! ソンナモノ、来ルワケガナイ……!」

「それでも、私達は提督を信じている! きっと来てくれるって! だから私は、私達は、気合入れて、ここを踏ん張るんです!」

 

 眩しい程に提督を信じた瞳に、南方棲戦鬼は唇をかみしめた。また一筋血が唇を伝い落ちる。飛来してくる弾丸も気にならない。艤装が爆発しても、体を貫かれても、南方棲戦鬼は怒りに体を震わせていた。

 

「――アァ、アタマガ、頭ガ痛イ……! 不快、フカイダ……!」

 

 爛々とリボンの粒子が輝きを増し、今刻まれた傷が回復していく。だがどういうわけか目からも血涙が流れ落ち、そして少しずつリボンの粒子の光が弱まっていくのだ。

 それでも南方棲戦鬼の傷は治癒を進め、口と目から流れ落ちる血は逆に止まらない。

 

「ソウマデシテ、仲間トヤラヲ信ジルナラバ、ソレデモイイ。ドウヤラ、命ヲ失ワナケレバ、貴様ラハ絶望シナイノダナ……!?」

 

 急浮上した駆逐達が金剛達へと喰らいつく。砲撃ではなく、喰らいついたのだ。艦としての攻撃ではなく、生物としての攻撃に、金剛達の反応が遅れてしまった。

 何とかして振り落とそうとするが、がっちりと噛みついているためなかなか振りほどけない。

 

「シッカリ抑エテイロ……!」

「しょ、正気デスカ!? なんて、Crazy……!」

 

 駆逐もろとも金剛を砲撃しようというのか、と驚くも、南方棲戦鬼は容赦なく砲撃した。何とか振りほどいた駆逐イ級を投げつけ、弾丸が着弾して爆ぜる。だが飛来する砲弾は南方棲戦鬼だけではない。

 複数のリ級エリートも砲撃に混ざり、比叡、高雄、吹雪が被弾していく。

 

「みなさん!?」

「空母ニモ、ソロソロ黙ッテ貰オウカ……!」

 

 震える指が示していたのは、艦載機を帰還させていた蒼龍達。思わず金剛がその指を追って視線を動かしてしまう。確かに彼女達はそこに健在だ。だが南方棲戦鬼の言葉の意味を考えれば、彼女達に脅威が迫っているのだろう。

 なんだ? 何が迫っているというのだ?

 それに気づいたのは妙高だった。離れた所から数本の雷跡が迫っているのが見えた。

 

「魚雷です! 迎撃を!!」

 

 撃った深海棲艦が見えない。だがそこに魚雷が迫っているのだ。妙高をはじめとする護衛艦娘が砲撃し、魚雷を爆発させていくが、数本が撃ち漏らされ、飛龍に接触。爆発した。

 

「……ぅぁあ!?」

「飛龍さん!? く、どこから……!?」

「潜水艦だわ……。潜水艦も、呼び寄せたのよ!」

 

 どうして思い至らなかったのか。水上艦ばかり呼び寄せているのならば、潜水艦もまた呼び寄せているはずだ、と。だがあまりに数が多く、正確に位置がつかめずにいたのが災いした。

 異変に三水戦も気づき、五十鈴が潜水艦の反応を探りだす。だが次の魚雷はもう放たれていた。

 

「ま、また魚雷です!」

「何としても止めるのです! 蒼龍さん達はあちらへ!」

「逃ガサナイ……!」

「Shit! これ以上好きにさせてたまるかデース!」

 

 潜水艦から逃げる空母達を狙い撃ちする南方棲戦鬼へ、金剛が砲撃するのだがそれで南方棲戦鬼が止まるはずがない。戦艦主砲が唸りを上げ、飛来した弾丸が今度は千歳へと着弾した。

 

「うあぁぁ!?」

 

 容赦のない一撃中破。更にもう一発が、護衛の初霜まで大破に追い込んでいく。直撃ではなく至近弾だったが、駆逐にとってそれは重い一撃となるものだった。

 巻き上がった爆風で初霜の体が海面を転がり、少し沈みだしている。

 

「――っ、そ、そんな……!?」

 

 自分の体の異変に初霜が恐怖の声を上げる。瞬間、ざわりと空気が変わった。

 深海から暗い気配が初霜へと忍び寄ってくるのだ。少しだけ沈んだ体を更に引きずり込もうとする気配だ。

 恐怖が呼び寄せた幻覚なのか?

 だが、今の海は赤く染まっている。南方棲戦姫が広げた力によって深海棲艦の領域と化しているのだ。そんな恐怖を感じても不思議ではなかった。

 

「初霜、しっかりしなさい! 大丈夫、私が傍にいるから、そんなものに打ち負けちゃだめよ!」

「か、霞、ちゃん……」

 

 霞が呼びかけ、手を引っ張り上げる。その肩を支え、蒼龍達と合流する。だが潜水艦という脅威はどこかにまだいるのだ。三水戦が何隻か撃沈しているようだが、全てではないだろう。

 まだ深海棲艦は水底から蘇ってくる。潜水艦が何隻復活しているのかわかったものじゃない。

 

「サア、震エナサイ……! 死ハ、水底ハ、モウスグソコニ――」

「――恐怖と窮地は、乗り越えるものよ」

 

 風に乗って、静かな言葉が耳に届いた。

 次いで聞こえたのはプロペラの音。

 空を往く翼が頼もしく羽ばたくのが彼女達の目に入った時には、もう攻撃が始まっていた。

 

「ガ、グ……!? ナ、ナニィ……ドコカラ……!?」

「第二次攻撃隊、発艦! 護衛を、殲滅しなさい!」

 

 遠くに見えるのは赤と青の衣。そして迷彩柄をした二人の少女。彼女達が万全の補給を整えている艦載機を次々と飛ばしているのだ。

 何度も攻撃を行った事で少しずつ燃料弾薬を消耗し、力が落ちている艦載機とは違う。万全の状態の、それも高練度の一航戦の艦載機が援軍として現れた。これほどまでに頼もしい援軍はない。

 続いて巫女服のような出で立ちをした二人の黒髪の女性の艤装の主砲が、南方棲戦鬼へと照準を合わせる。

 

「主砲、撃てぇ!」

 

 黒い長髪をした女性、扶桑が命じると弾丸が南方棲戦鬼へと着弾する。追撃として頭上からの正確無比な爆撃が、彼女のリボンへと直撃した。容赦のない攻撃に、ついにリボンが霧散する。

 

「アアアアァァァァァ――――!?」

 

 刹那、甲高い悲鳴が響き渡った。

 両手で頭を押さえ、痛みにもがくように頭を振り回す。周りの護衛要塞やリ級エリートらが一航戦の四人の艦載機によって掃討されていく中、南方棲戦鬼の悲鳴がより一層、その戦場に耳に入る。

 

「アタマ、痛イ……! アタマガ、私ノ力ガ……! 失ワレテ……ク、ソンナ、マサカ……ソンナコトガ……!」

「私の仲間達をよくも可愛がってくれたものね。少し、頭にきています。もう少し苦痛の中においておきたいところですが、今は速急に沈めましょう」

 

 それは、一航戦加賀による死の宣告だった。初撃を喰らわせた艦載機達を回収し、補給を行う中、じっともがき続ける南方棲戦鬼を見据える。

 深海棲艦の力を集めたリボンが失われた事で、ツインテールがほどけてしまっている。とはいえ彼女自身が持っている深海棲艦の力が完全に失われているわけではない。推察だが、失われたのは沈んだ深海棲艦を再び呼び寄せるものや、残骸を艤装へと変える力、そして人型の傷を癒すものではないだろうか。

 つまり、今の南方棲戦鬼は先程までの継戦能力を完全に失った。

 

「待たせたわね、金剛。でも、もう終わるでしょう」

 

 痛みにもがき続ける南方棲戦鬼に攻撃の気配もない。水上艦が全滅した事で、潜水艦の探知も容易となった。三水戦や空母の護衛を務める阿武隈、如月が潜水艦を沈めていく。

 南方棲戦鬼を守る邪魔者はもういない。

 すっと指を突きつけ、「――やりなさい」と一言告げる。

 

「Yeah! 今度こそ間違いなくFinaleデース! Fire!!」

 

 徹甲弾が装填され、放たれた弾丸は南方棲戦鬼の胸を貫いていく。それだけでなく、一水戦の全員が魚雷を装填し、魔物のような艤装へと一斉に射出した。

 次々と襲い掛かる攻撃に、南方棲戦鬼はなす術がない。一面に大打撃を受けてしまったため、装甲が脆い艤装が大爆発を起こし、右へと傾いていく。

 

「本当ニ、援軍ガ……? 嘘ダ、ソンナコト、ガ……。負ケル、沈ム……? 私、ガ? アリ得ナイ……、私ハ、モウ……負ケル、ナド……」

 

 その言葉を言い終える前に、第二撃が飛来し、南方棲戦鬼は爆炎の中に沈んでいった。

 最後まで彼女は仲間が、援軍が助けに来てくれたことを信じはしなかった。そんな現実があるはずがない、と。

 しかし今、こうして来てくれた。東地の主力である一航戦達が。

 

「……間に合ったようね。これを使う事にならない状況で良かったわ。さあ、帰りましょう」

 

 そんな加賀の手元には一人の妖精がいた。それはすぐに消えたが、加賀は心底それを使わなくて良かったと安堵する。被害状況を確認し、無傷の艦娘達が護衛しつつ、指揮艦へと帰還した。

 

 

「――敗レタカ。フン、所詮ハ、私ノ成リソコナイヨ」

 

 彼女は艦隊の中心でその報告を受け取った。

 南方棲戦鬼の敗北、その事実は彼女にとってはまだ痛くもないものである。

 自分がいれば、まだその失態を取り返せるのだから。

 それに南方棲戦鬼はよくやってくれた。敵の戦力を確認する事が出来たという成果がある。それだけは認めてやろう。

 

「トハイエ、マダ一隻ノ艦カラノ戦力ハマダデテイナイノデショウ? 恐ラク、次出ルワ。ソノ戦力ノ偵察ヲ行イナサイ」

「…………」

 

 彼女の指示に海中にいたヨ級フラグシップが一礼し、他のヨ級らを連れて移動していく。

 

「サア、歓迎シマショウ。前ノ艦娘ドモノヨウニ、何度デモ、水底ニ送ッテヤロウジャナイカ。精一杯、モテナシテヤリナサイ、オ前達……!」

 

 不敵に笑う彼女――南方棲戦姫の傍らには、魔物のような艤装に繋がった白髪ポニーテールの女性と、その彼女によく似た風貌をし、別の魔物のような艤装に腰掛けた女性だった。

 そして取り巻くは、多くの護衛要塞に、金色のオーラを発する深海棲艦の群れであった。

 

 

 




今でも思う。
南方棲戦鬼の装甲10って、装甲100の間違いなのではないか、と。
でもそれは、ほとんどのプレイヤーが思っている事でしょうね……。
駆逐より柔らかい戦鬼ちゃん、カワイソス。

またリボンについてですが、これは今は失われたゲージ回復のあれを元にしています。


そして、五十鈴おめでとう。
朝潮ちゃんも大人になっちゃってまぁ……。

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