呉鎮守府より   作:流星彗

169 / 170
欧州ノ目指ス先

 

 コロンボ基地へと到着した瀬川たちは、艦娘たちを休ませてやり、三人もまた基地で休みつつ、話をしていた。一番の話はやはり、何故マルクスとブランディがここに来たのかという目的だった。

 欧州戦線の現状は厳しいことに変わりはない。それは瀬川も知っていることだ。そんな中で、どうして二人がここまで出てきたのか、それを知りたかった。

 

「日本と取引をするためよ」

「取引? 何を提供すると?」

「艦娘と装備のデータよ。……当初はそれらと戦況だけだったのだけど、今回の戦いでもう一つ加えておきたい気持ちも出てきたわね」

「というと?」

「指揮艦の改修データ。あの速さは、私たちの船にはないものだわ。ぜひとも私たちの指揮艦にも組み込んでおきたいものね」

「なるほど、理解はできるなあ」

 

 船の航行スピードは重要なポイントだ。移動速度が向上すれば、様々な面でメリットをもたらしてくれる。また指揮艦そのものの装甲にも手を加えているため、生存率の向上も期待できる。

 指揮艦の改修は、欧州の海軍にとってぜひとも取り入れたい要素に挙げられる。

 

「で、艦娘については? ワシも今のうちに知っておきたいものだが?」

「取引については、そちらの海軍の責任者を通して行いたいものだけれど……」

「なぁに、固いこと言うなよマルクス。彼は僕らを助けてくれた恩人だ。その恩人に報いるのも大事なことだろう? それに取引が成立すれば、周知されるものだし、何より僕としてもカードは見せておいて損はないと考えている。これくらいのカード、瀬川に知っておいてもらった方が、話を通しやすそうだからねえ」

 

 と、ブランディは気にした風もなく語った。その様子に、瀬川は彼の性格を感じ取る。

 そうしたフレンドリーさはらしいといえはらしいが、ついでに言えば、イタリアが出せる艦娘のことを考えれば、あまり数はいないのではないかという予感があった。

 どうしてもイギリスという大きな存在を前に霞んでしまう印象がある。だからイタリアが出せるカードというのは、イギリスと比較すれば出しやすい部類ではないだろうか。

 

 だからあんな風に気軽にすっと出しても問題はないと言い切れるのではないかと、瀬川は考えた。とすると、ある意味己の身を切りつつ、話を進めてきているかのような印象を受ける。

 それを計算に入れているとするなら、このブランディという男はある意味食えないかもしれない。

 

「イタリアが提供するのは、リットリオ、ローマ、アクィラ、ザラ、ポーラさ」

「んっんー、随分と気前がいいではないか。戦艦が二人、空母が一人、重巡が二人と、そんなに簡単に出していいのかい?」

「かつての同盟相手に遠慮はいらないだろうって上の判断だそうさ。それに、ドイツは先んじてビスマルクと、Z級を二人提供しているんだろう? なら、イタリアとしても、今回ドイツが提供するものに合わせて、それなりの数を揃えておこうというのもあるらしい」

「なるほど、それならまだ納得はいくかねえ」

 

 かつての三国同盟の縁もあり、イタリアとしてもできる限りのことをしておこうという誠意を示す形をとったようだ。そう考えると、今回はドイツもそれに応じた艦娘を用意してくれていることになるのだろうか。

 そんな意図を込めて、改めてマルクスを見てみると、視線を受けて小さくため息をつかれた。

 

「……ドイツからは三人を提供する予定よ」

「三人か。大体数は合わせてるなあ、確かに」

「それに加えて、UKからも二人のデータをもらってきているよ」

「んん? イギリスからも?」

 

 この場にはいないイギリスからも艦娘が提供されるということに、素で驚きの声を漏らしてしまった。それにブランディは頷くが、マルクスは「ちょっと、何漏らしているのよ」と少し怒りの声がかかる。

 

「いいじゃないか。それだけ僕らが本気の取引をしたいという気持ちを示すんだから」

「それはそうだけど、順序というものがあるでしょう」

「確かにイギリスからもデータが回ってくるっていうのは本気を感じる。が、イギリスの提督が動かなかったのは、やはり……」

「うん、あそこで戦い続ける必要があるからだね。欧州の戦力といえば、やはりあの国が一番強いからね。人は、派遣できない」

 

 故にデータだけを二人に預けたのだろう。

 しかし、それだけ提供するものが多いが、日本からもそれ相応の艦娘のデータなどを用意する必要があるということなのだろうか。

 これに関しては瀬川が何かをするわけではない。全ては大本営で対応する人に委ねられることだろう。

 

「欧州戦線は長きにわたって人類が劣勢を強いられている。正直、いつ崩れてもおかしくはない状況にある。だというのに、奴らはとどめを刺しに来ない。だからこうして、僕らも秘密裏に抜け出てこられるわけだけども」

「んんん? とどめを刺さない? つまり何か? 奴らはどこかで手を抜いているとブランディは言いたいんかね?」

「でなけりゃ、欧州の全ての港は崩壊し、海岸線に沿った街は全てやられているさ。何年僕らが戦い続けていると? あれだけの被害を出しているのに、まだ国としては生きている。奴らは攻めはするけれど、完全に息の根を止めに来ない。まるで、死にぞこないの状態にして生きながらえさせ、息を吹き返したらまた死にぞこないにする。その繰り返しさ」

 

 実に悪趣味な行動だと、ブランディは拳を震わせている。

 追い込みはするが、完全に殺さず生かし続ける。そうする意味は何だろうかと瀬川は考える。艦娘を敵対視しているのに、新たな戦力を生み出すだけの時間を与え、また殺す意味は何だ?

 

 やはり艦娘を殺すことで、自分たちの戦力を拡充させるのが目的だろうか?

 艦娘を堕とすことで深海棲艦化させることは、もう周知の事実といってもいい。これを狙っているなら、なるほど、完全に殺しつくさずに生かし、なおかつ戦力を立て直す時間を与える意味はあるだろう。

 

 だが、あまりに悠長ではないだろうか。

 欧州戦線はもう5年以上もあの状態だ。1、2年程度なら、おおよその戦力拡充を終え、もう欧州を滅ぼしてしまい、別の国へと攻め入ればいいではないか。

 

 しかし奴らはそうしないという。

 あくまでも欧州戦線を維持し続け、欧州の国々を相手に立ち回り続けていた。

 

「……こうした欧州戦線についても、共有させてもらう予定さ。こちら側の状況と、そちら側の状況のすり合わせも、大事な情報といえるだろうからね」

「了解した。明日、補給を終えればワシが同行し、日本へと送り届けよう。それまではゆっくり旅の疲れを癒していくといい」

 

 用意された部屋へと案内し、その日は三人とも休むことになった。

 艦娘たちもまた修復され、戦いの傷を癒していく。

 アッドゥ環礁での戦いは簡易的にまとめ、移動中に詳細なレポートへと記録していくことになった。

 また、アッドゥから渡された艦載機についても、日本へと持っていくことになる。内蔵されたデータの解析は、より詳しく手を入れられる第三課に任せた方がいいだろうという判断だった。

 

 翌日、それぞれの指揮艦へと乗船し、欧州の二人の船に合わせたスピードで日本へと向かうこととなったが、マルクスから可能ならば日本から指揮艦を借り受けたいという申し出があった。

 今は時間が惜しいため、移動を早める手段があるならば、それを用いたいということだった。

 

 彼女の気持ちも理解できるため、日本へと連絡を送り、指揮艦を手配することとした。これによりリンガ泊地でそれぞれの艦隊が乗り換えることとし、先んじて三つの艦隊が日本へと向かい、リンガ泊地から本来の欧州の指揮艦が追従してくるという形にすることにした。

 これにより本来想定していた移動時間の短縮をさせつつ、日本へと向かっていったのである。

 

 

 

 いつものように紅茶を嗜みながら、欧州提督が優雅な時間を楽しんでいた。出身国の影響からか、彼女にとって紅茶を楽しむ時間というのは何よりの楽しみである。

 とはいえこの紅茶は人間たちの間で用いられるような茶葉は使用していない。何らかの物質から抽出した液体を紅茶のように見立てて楽しんでいるだけに過ぎなかった。

 それでもこの口当たりは紅茶に近しいもののため、形だけでも欧州提督はティータイムを毎日満喫している。

 

 そんな彼女の下へと、あの白い女性が訪れる。気配を感じ取り、振り返らずに欧州提督は「早かったわね、リシュリュー」と迎え入れてくれる。傍らに置いてあるデスクからカップを取り出すと、ポットから新しい紅茶を淹れ、差し出してやった。

 

「そう苦労するものでもなかったわ~。私にとっては単なる戦いの経験を積ませてもらったって感じかしらね」

「そう、それは何より。あなたが強くなっていくなら、安心できる。より奴らに対して絶望を与えられる。それが今の私たちにとって必要なことだもの」

 

 深海リシュリュー率いる深海欧州艦隊が、ドイツなどの連合軍を相手に勝利を収めたのは当然のことだろうとし、欧州提督は話を進めていく。それだけ深海リシュリューらに対して、高い信頼をおいていることの証明だった。

 むしろより経験を積み、強くなっていくことこそ良しとしている。今の状態でも強いのに、更なる高みへ至れることを願っている欧州提督に、深海リシュリューは紅茶を口に含みながら嬉しく思っていた。

 

「それに、あちらの方も順調に事が進んでいる。アッドゥが私の下に合流すれば、事を一気に進めることも可能になる。そうなれば、時はもうすぐそこまで迫っている証となる。北米がうまくやってくれれば、来年にでも成就させることは不可能ではないでしょう」

「あら、もうそこまで進められるの? それはとても素敵なことだわ。それだけアッドゥの成功は大きなことだったのね」

 

 あのアッドゥが生まれたのも、欧州提督が少し後押しした結果でもある。彼に対してストレスを与えた結果だ。生まれ来るアッドゥが印度提督を取り込み、より進化を果たすことこそ、次の段階に進むための鍵。

 そんなアッドゥを迎え入れれば、更なる改良を進めるも、新しい素体を生み出すための重要なサンプルとして活かすも色々できる。

 

 まさしくこの先の深海勢力にとって重要な存在といっても過言ではなかった。

 だからこそ、この報せが届いたとき、欧州提督は珍しい反応を示してしまった。

 

 深海リシュリューと談笑を楽しんでいた時にやってきた伝令。その内容に、欧州提督はカップを置き、眉間に皺を寄せ、揉み解した。今聞いたことが信じられないという風だった。

 隣で聞いていた深海リシュリューも、呆けたような顔になってしまい、ちらちらと欧州提督へと視線を向けている。

 

「……聞き間違いではないのよね? アッドゥが、死んだと?」

 

 その問いかけに、伝令を行ったヨ級は頷いた。

 アッドゥ環礁での戦いにより、リンガ艦隊によって完膚なきまでに破壊されてしまい、改修に足るものは何も残されていない。コアも当然なくなってしまい、あのアッドゥのデータは永遠に失われてしまったのだと、改めて報告される。

 

「…………そう、続けて。何があって、そうなったのかを」

 

 ひとまず冷静さを取り戻すように何度か深呼吸をし、報告を続けさせる。怒鳴るようなことも、取り乱すようなこともせず、欧州提督は詳細を報告させた。

 そして知る。

 欧州から逃げ出した二つの艦隊がリンガ艦隊と合流し、アッドゥと戦ったことを。欧州から逃げる指揮艦へと攻撃を仕掛けたアッドゥだが、彼らを迎えに来たリンガ艦隊と合流され、拠点を発見され、交戦したようだと。

 

 戦いの詳細については、欧州からの目は一つもなく、あの戦いを生き延び、欧州へと逃げてきた深海棲艦からの言葉が主だった。当事者からの報告なので、ある程度は信頼できるものとみていいだろうとのことである。

 ただ、その報告内ではアッドゥの振る舞いについては、語られてはいなかった。アッドゥが心の中に秘めていた思い、そしてリンガの瀬川へと託したものも、欧州提督へは伝えられなかった。

 

 これに関しては、アッドゥの作戦勝ちといっていいだろう。欧州提督への意趣返しは、無事に成ったといえるものだった。艦載機に隠した様々なデータは、しっかり瀬川へと渡り、そして日本へと持ち込まれることとなる。

 知らない内に深海勢力が抱えているものやデータが、敵である人類の手に渡される。これ以上ない裏切り行為だが、アッドゥが自ら艦娘たちに自分を破壊させるように仕向けたこともまた、重大な裏切りである。

 

 こうなったのも全て、アッドゥに印度提督が取り込まれた結果だ。事を進めるにあたって必要だったものが、よもやこのような結末を生むなど、欧州提督にとっては重大な計算違いであった。

 

「……リンガ艦隊、か。そう、印度が潰されることは想定内ではあったけれど、よもや何もかもなくす程にまで破壊されるとは想定していなかったわね」

 

 そこに少し違和感を持つ。あの個体はただ印度提督を取り込むだけではない。

 個体としての性能の高さにも目を付けていた。瀬川たちの間で泊地水鬼と呼称される程に高いスペックを有しているのだから、完全に破壊されることはないと予測していた。

 アッドゥ自身が自分の価値を理解している。故に命の危機に晒されてなお逃げることなく、大人しく破壊されつくしたのか。

 

 そんな思考をするのは取り込まれた印度提督の方だ。生まれたばかりのアッドゥが持ちうる思考ではない。

 ならば、印度提督の意思が働いたといえるだろう。

 

(――追い込まれたから、諸共全てを無に帰そうとしたのか。生き残っても何の意味もないと、死にに行ったのか)

 

 だとしたら、随分と余計な真似をしてくれたものだと、欧州提督は歯噛みする。

 例え死んだとしても、コアが無事なら蘇ることができる深海棲艦にはできない行為だ。自殺したとしても復活する手立てがあるため、次に繋げる何かができるのが深海棲艦というもの。

 

 しかし人間にとってそれはない。次がないからこそ、追い込まれたときにより必死になるか、全てを諦めてしまうかの選択肢が出てくる。どちらにしても、ろくでもないことだ。

 そのろくでもないことを、あのアッドゥはやってしまった。せっかくのサンプルが永遠に失われてしまったのだ。

 

 見た目は人間に近いものでも、欧州提督は人間ではない。海から来る化け物、深海棲艦だ。そして弱者の思考を理解することはできず、印度提督が抱えた闇がもたらす思考の果ても想定できなかった。

 その結末に、欧州提督は納得がいかない、いくはずもない。道から外れた思考を読み解く術を彼女が持ちうるはずがない。姿が似ていようとも、彼女は人間に寄り添う艦娘ではなく、人間を脅かす化け物なのだから。

 自分が理解を示す行動を取らなかったアッドゥの結末は、納得できるはずはないが、それでも起きてしまったことをグチグチと文句を垂れても意味はない。時間の無駄だ。そう考えて、欧州提督はぐっとそれを飲み込んだ。

 

「まあ、いいでしょう。印度が消えたのなら、あの一帯は全て、リンガが押さえたということにしておきましょう。今は、ね」

「いいの、欧州?」

「ええ、元よりそういう想定はしてあったわ。印度が次第に不利になっていった時からね。だからこれに関しては、何の問題もない。だけど、そうね……欧州の二つの艦隊が日本へと向かっていったのなら、話は少し変わるわ」

 

 この時期に日本へ向かったということは、最近勝利を積み重ねている日本と何らかのやり取りをしようとしていることは間違いない。きっと情報だけではなく、艦娘などのデータも受け取る算段だろう。

 この絶望的な欧州戦線を何としてでも変えるべく、希望を求めに行ったのは確実。二人の提督は希望を手にし、欧州へと帰還してくるはずだ。

 

 それは困る。

 せっかく数年にわたる戦いを続け、人々と艦娘に絶望を与え続けてきたのだ。これほどまでに素晴らしい絶望に満ちた世界に、一筋の希望を持ち込むことなどあってはならない。

 それでは、この先思い描いている結末に支障が出るではないか。

 

「いつになるかはわからないけれど、彼らは戻ってくる。その手に希望を抱いて」

「ええ、そうね……」

「その時もまた、リンガの提督も同行するでしょう。あれはそういう役割を担っているのだから」

「ついてくることは確実でしょうね。えっと……だいたいスエズへの道までは来るかしらぁ?」

「なら、今回のことも含めた借りを返すのは、そこね」

 

 ヨ級へと目を向けた欧州提督は、指を立てて宙に何の気なしに滑らせていく。今、彼女はそこに至るまでの道筋を思い描いていた。

 彼らが日本に向かうことは止められない。なら、狙うのは欧州へと戻ってくるとき以外にない。遠征を行った二つの艦隊はもちろんのこと、アッドゥを破壊しつくしたリンガ艦隊に対しても、欧州提督は全てのことに対して、礼をする心づもりだった。

 

「奴らに監視の目を向けなさい。日本を発ち、欧州へと戻ってくるようならば連絡を入れるように。そうね……リシュリューの言うように、スエズ付近まではリンガも同行してくるだろうから、そこにこちらから艦隊を向かわせる。リシュリュー」

「はぁい」

「あなたもそこに同行させる予定で立てていきましょうか」

「わかったわ。でも、あなたは行かないの、欧州? やっぱり、ここから離れるつもりはない?」

 

 その問いかけに、欧州提督は思案する。長きにわたってこの海域に座し続けていた欧州提督は、他の海域への遠征はほとんどしたことはない。多くは監視の目を派遣させ、通信を通じて他の深海提督とやり取りをするだけに留めていた。

 自分自身が遠くまで行くというのは、欧州提督が思い返すにあたり、ほんの数回しかないだろう。

 

「……そうね。気が向いたら、久しぶりに足を伸ばすのも悪くはないかしら。実際にリンガの提督と顔を合わせてみるのも、一興かもしれないわ」

「ええ、だとしたら一緒の遠征になるってことね~。た・の・し・み、ふふふ」

 

 楽し気に笑う深海リシュリューに微笑を返し、また紅茶を飲み始める。先ほど感じた苛立ちも、気づけばすっと落ち着いてきた。やはりこの紅茶だけでなく、この深海リシュリューの雰囲気が、欧州提督にとって良い影響を与えてくれている。

 自分一人だけで報告を聞いていたらこうはならなかっただろう。常に優雅たれ、上に立つものならば、気品を失ってはならない。怒りに任せて怒鳴り散らすなど、もってのほかである。

 

 紅茶の味を楽しみながら、欧州提督は次のことについて思案した。

 アッドゥは失われた。なら切り替えて次を考える必要がある。自分たちの手では恐らく生まれることはない。

 絶望は存在しているが、かといって詰め込む器づくりに欧州提督は長けているわけではない。

 

 現在それを成し得るのはただ一人、中部提督の星司だけ。少し癪ではあるが、彼に全てを委ねることになるだろう。

 それにいい感じに彼もまた色々と事が進んでいる。これもまたかの神の想定した通りの流れに違いない。

 

 アッドゥが消えたのは残念だが、一つの事例の証明にはなったのだ。

 すなわち、素体は魂を取り込み、器をより高められるという証明である。

 

 これもまた大事なポイントであり、器の拡張と並行して行わなければならない事柄だ。より優れた素体を生み出し、優れた器として完成させると同時に、取り込んだ上で崩れることなく健在である。

 これが成されなければ、最終的な到達点には至れない。その点、アッドゥは取り込んだうえで問題なく戦えていた。器を成長させるだけの魂を取り込み、なおかつ戦闘行為も問題ない、これが果たしていることこそ、喜ぶべきことだ。

 器を満たした魂に異常が発生したが、あれは印度提督の問題であり、その問題は別で対処すればいい。もちろん問題が発生しなければ、何事もなく最終段階へ進めるだけだ。最高の器を用意し、そこにかの魂を満たしてやるだけである。

 

 中部提督の腕ならば、これら全てを満たせる器をいずれ作り上げるだろう。

 日本海軍でいうところの水鬼級にまで至った素体。ついにそこまでたどり着いたのならば、ゴールは近い。北米提督の動きも組み合わせれば、きっと近い将来に大願は成就される。その時まで、欧州提督はこの絶望に満ちた欧州戦線を維持し続けるまでである。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。