呉鎮守府より   作:流星彗

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戦艦水鬼3

 

 飛来する砲弾を、お互いに前に出てやり過ごす。それでも届いてきた砲弾に対しては、大和は腕に赤の力を込めて振り払い、弾道を逸らした。深海長門も手に力を込めて、文字通り叩き落す。

 そうして両者は目の前まで迫り、勢いをつけてお互いを殴る。深海長門に至っては途中までは魔物と繋がるコードを維持していたが、自らその接続を断ち切った。否、切ったというより切った上で、魔物の手を一時の足場とし、そこから跳ぶことで一気に加速をつけて大和を殴りに行っている。

 

 そのため、大和の拳よりも深海長門の拳の方が深く相手へと突き刺さり、そして、大和は押し負ける。よろめく大和に対して反対側から一発、もう一発と殴る。そのたびに重い打撃音が響き、そして大和の顔を掴み、海へと叩きつける。

 

「ふんっ!」

 

 ただ叩きつけるだけでは飽き足らず、がりがりと海に顔を付けたまま海上を走っていく。地面なら顔が削られていくような痛みが走るだろうが、海上だろうとそれは似たようなものだ。

 艦娘は海上を自由に動けるが、潜水艦と違い、大和は戦艦。顔を水につけたままであれば、呼吸ができない。がぼがぼと口から泡を出し、反射的に目を閉じたままの状態で、海上を深海長門の手で引きずられている。

 

 そうして勢いを乗せたまま深海長門は大和の顔を勢いよく投げ飛ばす。舞い上がるその体はトラック島の崖へと叩きつけられるだけに止まらず、その投擲の勢いを知らしめすかのように、岩肌へとめり込み、穴をあけている。

 そんな大和へと更なる追撃をするべく、深海長門は離れたところにいる艤装へと「撃て」とただ一言命じる。

 

 戦艦棲姫の艤装と同じく、コードを用いて繋がっている素体と艤装だが、深海長門の場合、例え物理的な繋がりがなかったとしても、命令を下すことは出来ている。あくまでもコードは艤装の魔物を動かすエネルギーのやり取りをするためのものであり、バッテリーに蓄積されたエネルギーを消費すれば、動くことは不可能ではないということだろうか。

 放たれた弾丸は狙い通り大和へと届く。めり込んでいる大和は防御する間もなく、その砲弾を受けてしまい、力なく海へと落下する。

 

「ざっとこんなものか。初撃からわたしが競り勝った形となったが、よもやこれで終わりと言うまい?」

 

 後ろから艤装が合流してくる中で、軽く手を振りながら深海長門は大和へと問いかける。しかし海に落ちてから大和から返事がこない。まさか、本当に終わったのかと僅かに疑ってしまう。

 それは少し拍子抜けにも程がある。これくらいで終わる戦いとなれば、一体自分は大和に何を期待していたのだろうと、逆に自分の観点を疑いそうになる。

 

 少し困ったようにしていると、殺気を感じて咄嗟に右手で防御態勢を取った。刹那、炸裂音に次いで腕に弾丸が撃ち込まれた。一瞬赤の力によって防がれたが、しかし弾丸はそれを貫通し、深海長門の胸へと到達。

 そのまま体を貫いてくるかと思いきや、胸に弾がねじ込まれるだけに留められた。腕の防御がなければ推進力を削がれることなく、体を貫通していたかもしれない威力。

 

 ぐっと力を込めて体に入った弾を全て排出し、貫かれた腕の具合を確かめる。軽く振って流れる血の具合を見て、深海長門は少しばかり考え込み、そして唇の端を歪めた。

 

「初撃は確かにそっちの勝ちでしょうけど、最終的に勝てばいいのでしょう? ええ、それなら問題ありません。むしろ、最初にこうして痛みを知っておけば、目が覚めるというもの。頭に昇った血が流れて、頭も冷えます。ありがとう、適度な血抜きをしてくれて」

「ふっ、鳴くな鳴くな、大和。それは血抜きというには少々量を盛っている」

 

 微笑を浮かべつつ肩を竦めてみせる深海長門。彼女が指摘しているように、体からだけではなく、額からも血を流しており、少し体を庇いつつ海上に立っている形だ。

 何度か深呼吸を繰り返し、呼吸を落ち着かせると、なんてことがない風に立つ。自分はまだ戦える、そんな風に示しているが、それを見ている星司は「無理はいけないなあ、大和」と離れたところから声をかける。

 

 相変わらず埠頭の近くにいる星司だが、量産型の深海棲艦が護衛をする形だ。そして、何かあった時にはすぐに逃げられるようにバイクも備えている。その上で星司は大和へと話しかけていくのだ。

 

「大人しく負けを認めておこうじゃないか。このまま続けても、意味がないだろう? あの長門は僕にとって最高の仕上がりだ。君との一騎打ちがなければ、早急にこの戦いを終わらせられるだろう。……いや、むしろ今からでもそうしてもらいたい気分だけど、どうなんだい長門?」

「断る。殲滅戦ほどつまらないものはない。己が性能を最大限に発揮し、撃ち合う戦いこそ、己の価値を示し、何よりも勝ちを掴み取る実感を得られる。……そも、敵に敗北を植え付けるなら、こうして戦ってこそだろう。心をへし折り、屈する時ほど闇が高まる状況はない」

 

 そしてまた深海長門は己の胸を示すように指を立てた。その行為に、大和はついつい指の先を見てしまう。彼女がそうしてクセのように繰り返すため、深海長門の胸を見てしまうのは仕方がないことだった。

 だからこそ、深海長門の胸にある違和感に気づいてしまう。ご丁寧に指のすぐそこに不明な箇所が存在しているため、恐らく深海長門自身がこの違和感を知りながら、あえて指で示しているかのように邪推してしまう。

 

「大和の心をへし折り、完全に敗北感を与える。そうすることで、大和の言葉とは裏腹に、また深海側に堕とすことができるだろう。わたしはお前の力を買っている。再び肩を並べて戦うことを期待している程だ。そのためにも、お前を殺すのだ」

「お生憎様、私はあなたたちの望む通りにはならない。というよりすでに勝った気でいられるのも気に食わない。特にお前、そのような所で見物気分でいられるのもアレですね。とっとと終わらせて殺してあげましょう」

 

 と、再度狙いを定めて撃ち放つ。深海長門が指し示すポイント、胸を狙った砲撃はしかし、深海長門が両腕で防御して防がれた。あからさますぎたが故に誘われたかと思ったが、「ダメだな」と小さく息をつかれる。

 

「やるならもう少しうまくやってほしいものだ。狙っているのが見えている」

「……そう、そういうダメ出しをしてくるわけ」

「そうだ。期待している以上、もう少しやり方というものを考えてほしいものだな。でなければ、こっちも性能を存分に試せない。お前もそうだろう?」

「なるほど、そんなに力をぶつけ合いたいと。そう言われては断りにくいですね。何より、そう誘われれば思い出してしまいますね、あの頃を。だからこそ――無性に腹が立つ」

 

 呉鎮守府で過ごした輝かしい日々。長門との戦いは日常となり、二人なりのコミュニケーションとなり、心を躍らせる楽しい時間となっていた。始まりは殺し合いだった長門との戦いは、いつしかお互いを高めあう鍛錬にも、暇つぶしの遊びにもなっていた。

 だからこそ声に出しにくいものになり、結局長門本人に伝えられなかった言葉。長門は大和にとっての戦友(とも)と呼べる存在になっていた。

 

 その日々を思い出させるようなことを、この深海長門が口にしている。彼女もわかっていてこう口にしているのならば、なおさら性質が悪い。より大和の心を逆なでするようなものでしかなかった。

 そうだ、これはまた彼女なりに誘ってきている。誘いをかけた上で逆に討ち倒す、そのような流れを作っているのだろう。大和は怒りをあらわにしつつも、心の中では冷静だった。

 

「はぁッ!」

 

 気合一閃。殴りに行くのではなく、副砲で深海長門を撃ちに行くが、その全てを深海長門の艤装が腕で守り抜く。魔物がまた背中に控える状態になったのだから、そうしてくるだろうとはわかっていた。

 その上で大和は主砲を構え、狙いすました一撃を放つ。腕によって守られることはすなわち、深海長門の視界が閉ざされるということ。赤の力を乗せた一撃でそれごと粉砕するのみだ。

 

 先ほど以上の速さで迫る弾丸に、魔物もまた力を込めて防御力を高めた。だがそれをも上回る火力が、腕に重く突き刺さっていく。腕の肉が砕け、貫かれる音を間近で聞いてなお、深海長門は慌てることはない。

 それでいい、と心の中で笑みを浮かべ、腕を突き破ってきた弾丸を大人しく受け止める。肩、胸を貫く弾に体がよろめく。自分を守っていた右腕が崩れ、視界が晴れていく中で、深海長門はじっと大和を見据えて、ただ一言「撃て」と命じる。

 

 腕が崩れたからなんだと言わんばかりの反撃の一射。

 被弾したからどうしたというのか? 戦艦はその高い装甲と耐久で攻撃を耐え、反撃の一射をぶちかます海の要塞だ。その完成形ともいえる深海長門、戦艦水鬼が、一発二発を受けたところで止まるはずがない。

 余裕を持った反撃の様子に、遠くで見守っている星司も、嬉しそうに頷いていた。

 

 

 

「ヒャッハァ! そらそらそらそらぁ! こんなもんで終わらねえってなぁ!」

 

 山城たちを前に、アンノウンは嬉々として動き回る。艤装である尻尾を勢い良く振り回すだけでも、それはいわゆる鞭のようにしなり、複数を纏めて薙ぎ払える。よくしなるだけではなく、艤装でもあるが故に、硬さもしっかりある。それが遠心力を乗せて当たってくるだけでも、被弾のダメージは決して小さくはない。

 

 一度体を回転させて尻尾が唸りを上げて薙ぎ払われ、それでは止まらずもう一度回転して、より威力を高めた薙ぎ払いと同時に、艤装の口が開いて魚雷もたくさんばらまかれる。回転に従って旋回するため、魚雷も広い角度で発射され、それぞれの方面からアンノウンを攻めていた山城たちにも、一気に雷撃の危機が迫る。

 

 だが副砲を用いて迫る魚雷を爆破させていった山城は、あえてアンノウンと大きく距離を取ることなく、そのまま手にしている飛行甲板から瑞雲を発艦。一気に距離を詰めた瑞雲がアンノウンの頭上を取り、爆撃を仕掛ける。

 それは狙い通りにアンノウンの顔へと爆撃に成功し、たまらずアンノウンが目元を庇ってしまう。

 

 自ら視界を閉ざしたアンノウンへの追撃として、山城が主砲を構えて一斉射。同時に後ろにいる瑞鶴、翔鶴も艦載機を放ち、更なる追撃に備えた。しかし、見えなくとも、危機が迫っていることはアンノウンとて理解している。

 目を庇いながらも、アンノウンは赤の力を用いて交差する腕に障壁を展開させ、山城の砲撃から身を守った。

 

 それだけではない。アンノウン自身が見えずとも、艤装の顔は周囲を認識している。撃ってきた山城に対して砲撃を行いつつ、艦載機も発艦させて迫ってきている艦載機の対処にも当たらせている。

 艤装が尻尾に集約されているが、その分、砲撃雷撃に艦載機と多機能を搭載しているアンノウンは、本体が止まろうとも、艤装が独自に動いて反撃を行えるのだ。

 

「ボク一人相手に、攻めきれないんじゃあ、やっぱり勝ちの目はないなあ? 大人しく、沈めよ、山城」

「そうしていい気になっていると、足元を掬われるわよ?」

「掬ってみせろよ。ボクを転ばせるだけのドッキリもできないんじゃあ、笑い話も笑えねえなあ?」

「本当に調子に乗っている……わねッ!」

 

 側面に回り込んだビスマルクが砲撃を行うも、涼しい顔で避けていく。ただ防御力が高いだけではない。小柄なために機動力にも優れている。「なんか見た目変わっているみたいだけど、それがどうしたってんだぁ?」と、改三になっているビスマルクを煽っていく。

 だが、そのかわした先に魚雷が迫っており、アンノウンはそこで大きな被弾をすることとなる。

 

 アンノウンにとってビスマルクの方から魚雷が来ることは想定していなかった。自分はそういう風に調整され、装備も備えているから戦艦であろうとも魚雷を発射できる。しかし艦娘は今まで砲撃を主体としており、魚雷を装備するケースは一度もなかった。

 しかしビスマルク改三はかつての装備を復活させ、魚雷発射管も備えた上で性能を高めるという、もしもの形を具現化させた改装だ。ただ見た目が変わっただけではない。アンノウンは、そのもしもの形を想定していなかったという驕りから、文字通り足元を掬われる。

 

「おらぁ! 叩き込むぜ!」

「主砲、発射! この好機は逃しません!」

 

 摩耶と鳥海も加えて、魚雷を受けて体勢を崩したアンノウンへと四方から砲撃を叩きこむ。逃げる隙間すら与えない必殺の攻撃に、次々とアンノウンは呑み込まれていった。

 単なる主砲の強撃ではない。青の力をも込めた、より威力を高めた砲撃だ。重巡である二人の砲撃では、先ほどの様子からしてまともにダメージは入らないだろうと推測した。

 そのため静かに力を溜めて、攻撃の機会を窺い続けたのである。それが今、爆発した形だった。

 

「――――あーあーあーあー、全く、いい気になってくれちゃってさあ」

 

 爆風の中からそんな声が聞こえたかと思うと、勢いよく飛び出してきた小さな影が鳥海へと向かい、彼女の顔を掴んで海面に叩きつけられる。それだけには止まらず、勢いをつけて背中を踏みつけられ、尻尾は後ろにいる摩耶へと砲撃を与え、吹き飛ばした。

 何かが折れるような音を響かせた鳥海は、呻き声をあげる間もなく、まるで球遊びをしている子供のように、アンノウンへと勢いよく腹を蹴り上げられ、海上を転がっていく。

 

 ゆらりと山城へと振り返ったアンノウンは、焼けたフードと髪を垂れ下げながら、顔に流れる血を拭うこともせず、爛々と赤い目を輝かせている。あれだけの砲撃を受けてなお無傷なら絶望的だったが、しかしあの通り、アンノウンは傷を負っている。

 おしゃれなマフラーのようなものも焼けて切れており、煩わしそうにそれを取って後ろへと放り投げたアンノウンは、「いいよいいよ、そういうの。そうして抵抗してくれた方が、まだ楽しみはある」と、まだ自分が上であることを示している。

 

「残り四人。ほら、続けようぜ? ボクはこの通り、まだ戦えるさ」

「……ビスマルク、ニ方向から。鶴はそのまま、分かれたまま適宜攻撃を」

「わかったわ、何とか合わせましょう」

「球磨、摩耶と鳥海の回収を。できる限り急いで」

「了解クマ。隙を見て通り過ぎておくクマよ」

 

 通信を通じてビスマルクと鶴姉妹、呉二水戦へと指示を出す山城は、青の力による砲撃は効いていると判断した。強撃をも上回る威力だ。これで通じていなければ、自分たちには火力が足りないと嘆くところだったので助かった。

 しかし反動はある。ビリビリとした違和感が体に負荷としてかかっている実感がある。そのため連発できるものではない。ひとまずの休息を取った後に、再び叩き込むことになるだろう。

 

 それまでの時間、アンノウンの攻撃を捌きながら凌ぐ必要がある。

 アンノウンは山城を標的としている。ビスマルクにもちらりと視線を送りはしたが、主な標的を山城に定めている。それに関しては山城にとっては助かることだ。

 あの時の因縁をここで果たせるのならば、アンノウンから乗ってくれるのは助かる。あの時のことは片時も忘れたことはない。屈辱も悲しみも、そして怒りも全て込めて、アンノウンに対して何発拳を入れても足りないだろう。

 

 揺らめく青の炎に、少し深い蒼が混じり始める。それに従って、冷たい感情、昏い気配が体の奥から湧き上がるものを感じた。

 

(いけない、これは抑えなければ。私は、そっちには堕ちない)

 

 だが、それをアンノウンが見過ごすはずはない。小首を傾げて「はっ、まーだ抑えてるのか? それを」と、どこか楽しそうにしながら歩いていくのを、ビスマルクは良くないものを感じ、「やめなさい!」と砲撃を入れる。

 それを尻尾が受け止め、返しの砲撃を入れつつ、アンノウンは小走りとなり、山城へととびかかっていった。

 

「解放して楽になっちまいなぁ、山城ぉ!」

「っ……! お断りよッ!」

 

 振るわれた拳をいなし、カウンターを決めるように肘でアンノウンの顔を捉えつつ、ぐっと極めた腕と、肘打ちのままアンノウンを海面に叩きつけ、更に一発副砲を背中に撃つ。だがアンノウン本体を抑えたところで、尻尾はまだ活きている。

 副砲はそっちにも撃ったが、体を湾曲させて弾を避け、尻尾は山城へと喰らいついていった。ご丁寧に口内の奥から魚雷を撃ち出しており、ゼロ距離から雷撃を決めてくる魂胆だった。

 

 たまらずアンノウンから離れ、アンノウンもまた転がりながら山城から距離を取る。極められた腕を少しさすりつつ、「つれねえなあ、その溢れそうになるモノを解放すれば、苦しまずに済むだろうにさ」と、呆れる。

 

「ボクが憎いんだろ? 殺したいんだろ? そうすればいい、気持ちに素直になっちまえよ。そうすれば、ボクに勝てるかもしれないんだからさ」

「それ以上喋るんじゃないわよ!」

「外野は黙ってなぁ! これは山城の感情とボクとの因縁の話なんだからよぉ!」

 

 瑞鶴の言葉に砲撃を放ちながらアンノウンが叫ぶ。瑞鶴へと視線が向いた隙をついて、山城はいくつかの瑞雲を発艦させ、それぞれ別の方へと飛行させ、そこに翔鶴の艦載機が護衛についた。

 

「そうね。これは私の中に潜むモノがどうなるかの話。だから、すっきりさせるためにも、今、ここで! 因縁の清算をするのよ!」

 

 吼えながら強力な一撃をアンノウンへと撃つ。感情の篭った強撃を前に、アンノウンはあえて前に出て砲撃をやり過ごした。体勢を低くし、加速を乗せて背後へと着弾した際に爆発した風すらも利用して、アンノウンはぐるんと身を捻って勢いよく尻尾を山城へと叩きつける。

 重たい一撃だった。防御する腕が痺れ、しかもその重さによって体がずしんと海に沈みそうになっている。だがアンノウンはそれで終わらず、また体を捻り、今度は鋭利な足を突き出して山城へと降下していく。

 

「できるといいなあ、清算をよぉ! キッヒヒヒヒヒ! 感情に左右されているようじゃあ、どれだけ性能が高くても、万全に運用できない兵器じゃあ悲しみを背負うってもんだぁ!」

「……ッ! 知った口を……!」

 

 感情に左右される兵器という言葉に、山城の苛立ちは更に募る。

 アンノウンは前から兵器に感情はいらないとのたまう、深海棲艦らしい個体だ。だが、彼女の言動はどれも、相手の感情を揺さぶるようなことばかりだ。

 

 アンノウンの性格ということもあるが、恐らく彼女は理解(わか)っていてそうしている。自分の言葉で艦娘たちが揺さぶられ、十全に力を発揮できないようにした上で狩るのだ。

 怒りのままに動けば、本来の性能は発揮できない。どこかで隙が生まれ、そこを突けばいとも簡単に崩壊する。そうしたチャンスを生み出すために、彼女の性格も加味して、相手を煽り続ける。

 そうすれば、どこかで綻びが生まれ、崩壊すると理解しているのだ。

 

 兵器にある感情を否定するが故に、その感情を揺さぶられた果てへと自分で叩き落し、「ほら、やっぱり感情を持つ兵器は弱い」ということを知らしめる。アンノウンの戦い方はそれに集約されていた。

 

 故に山城はアンノウンの戦い方を否定しなければならない。

 どれだけアンノウンが煽ってこようとも、思い通りになるつもりはない。

 静かに、己の内で怒りを溜め続け、爆発させる機会を窺う。アンノウンがそうであるように、山城もまたアンノウンの僅かな隙を狙いすました一撃を放つタイミングを計っているのだ。

 


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