呉鎮守府より   作:流星彗

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友のために

 

 不定期な通信を日課としていたラバウルの深山と、パラオの香月。定期通信にして、深海側に通信を気取られることで、不利益が生じないように、それぞれの周期を決めてお互いに通信を行い、無事を確認する。

 そう決めてから欠かすことはなかった日課だった。その日もまた、二人は時間が来たことを確認し、通信を繋いだ。モニターに映るお互いの顔、朝の挨拶を交わして、そこで二人はもう一人がいないことに疑問を覚える。

 

「パイセン、どうしたんすかね?」

「……こういうのに遅れてくる奴じゃないんだが」

 

 と、パソコンの通信でコールを送りつつ、携帯電話でも同時にかけてみる深山。しかし一向に電話に出ないため、そこで二人は悟った。瞬時に表情が引き締まり、それぞれの秘書艦へと指示を出す。

 

「……むっちゃん、空母にすぐさま艦載機の発艦を。同時に指揮艦の準備を!」

「赤城、出港の準備だ!!」

「承知したわ」

「承知いたしました」

 

 すぐに二人が執務室を出て、それぞれの基地の艦娘たちへと指示を飛ばす。その間に、深山と香月は出撃する艦娘たちをリストアップし、それぞれ指揮艦へと移動するように指示を出した。

 その合間に、「まさか、本当に奴らが動くなんて……」と、ぽつりと香月が漏らしてしまう。つい頭に手をやって、

 

「オレのせいか……? オレが、守られたから、パイセン、奴らに目を付けられて、襲撃する理由を……」

「……違う」

 

 このままぐるぐると自責の念に苛まれ続けるだろう香月を止めるべく、いつもより強い声色で、深山が言い切った。顔を上げる香月を、深山はじっと見据えて、「……それは違う」と、もう一度否定する。

 

「……どのような形であれ、敵は機を見計らって動くだろう。たまたま、今回はそういう理由に見えただけだ。何せ奴らは人類の敵だ。海上だけで戦うに飽き足らず、最近は僕らに対しても基地攻めをしてくるようになったんだ。君が自分を責める理由など、どこにもない。奴らは自分の敵を潰しに来た、それ以上でもそれ以下でもないんだよ」

 

 そして、と深山は立ち上がり、「……僕たちは、敵の目的を遂行させない」と、強い意志を込めて口にする。

 

「……攻めてきたのなら迎撃する。友人の危機は助け出す。これが、今回の僕たちのやるべきことだ。行くよ、美空香月。共に、我らが友人を救い出すんだ」

「……うっす! 全力で戦います!」

 

 ぐっと拳を握り締め、顔を上げて立ち上がり、モニターに向けて香月は敬礼する。それに頷きで応えた深山は、パソコンを落として執務室を後にした。

 決めた出撃部隊を大淀に伝えて放送で流し、それぞれの指揮艦へと乗船し、出撃準備を整えるまでも迅速。できる限りの速さで事を進め、載せる物資もまたあらかじめ決めておいた分を積み終えて、二人はラバウルとパラオを出港する。

 

 二隻の指揮艦もまた、改装が施されているため、そのスピードは他の船よりも段違いに早い。その速さでも指揮艦にガタがこないようにと改装されていることもあり、まさに波を切れ味の良い刃で切り裂き、突き進むかのように海を往く。

 すでに放ってある偵察機の連絡を待ちながら、それぞれの進路をトラック泊地へと向けて、彼らは茂樹のもとへと救出のために動いた。

 

 

 

 一方、トラック島では、星司が決めた布陣に従って深海棲艦が展開されていた。

 お試しとして星司は埠頭に上がり、基地の方へと歩いていこうかと思いはした。しかし、海から離れていくにつれて、足取りが重くなっていった。

 

 勢いが落ち着いているとはいえ、今もなお燃え続けている基地はまだ遠い。それでも、この足は大地に根付いているかのように、重く動かなかった。呼吸も苦しくなったように感じてしまうため、仕方なく基地に背を向け、海の方へと戻るしかなかった。

 こういう反応が出るのもまた、星司は自分が人間ではないのだと実感する要因の一つとなる。自分は海から離れることができない。懐かしい地を踏むことも出来なくなっているのだと、改めて思い知らされる。

 

 陽の光は思ったより、どうということはなかったように思えた。太陽の光は、少々鬱陶しく感じる程度で、これで苦しくなるほどではなかった。怖い感じがしたのは、恐らく自分が死んだから、怖がってしまうのではないかという思い込みに過ぎなかったらしい。

 やれやれとため息をついていると、空母棲姫の深海赤城がどこか心配そうに声をかけてくる。

 

「ドウシタ、提督? ドコカ、悲シソウナ顔ヲシテイル」

「ん? いや、何でもないさ、赤城。それより、ミッドウェーは定着しそうかい?」

「難シソウダ。ヤッパリ、適性トイウ問題ナノダロウカ。アノ地ニ特化シタ影響? ソレノセイデ、ドウニモ力ガウマク合ワセラレナイ、トイウ話ダッタ」

「そうか。うーん、ミッドウェー海戦に向けてひたすら調整したのが仇になった感じかな。しかたないか」

 

 トラック泊地に攻め入ったのだから、基地型の深海棲艦を配備することも当然行った。しかし星司が保有している基地型深海棲艦は、中間棲姫のミッドウェー。彼女は特に念入りに調整に調整を重ねた一品物といっても過言ではない。

 そのためかミッドウェーに完全に適応しているようで、他の島への配備ができないピーキーな性能に仕上がってしまったようだ。

 

 飛行場姫や離島棲鬼は深海中部艦隊にはいないため、トラック島には基地型の深海棲艦を配備することはない。だが、それがどうしたというのか。

 すでにこうしてトラック泊地は壊滅した。朝になっても艦娘たちが反撃に出てくる気配はない。基地の方へと艦載機を飛ばし、確認もさせたが、誰かが動いている様子はまるでなかった。

 生きている誰かがいる気配もない。隠れているなら艦娘の反応も見られるはずだが、それもなかった。

 

 つまり、トラック泊地は死んだも同然だ。

 念のためずっとトラック島の上空で偵察は続行させている。しかし、誰かが出てきたという報告はまだ上がってきていない。

 無駄な行為ではないかと思うかもしれないだろうが、そうして手を抜いたところを突かれたらどうするのか。ここで慢心はしない。そのため、交代制で、常にトラック島の上空から警戒は続行させるつもりだった。

 

「なら、ミッドウェーは下に戻していい。赤城、パラオやラバウルからの目はどうなっているかな?」

「今ノトコロ、マダ敵影ハ見エナイ」

「そうか。引き続き、探りは入れておくように」

「了解シタ」

 

 一礼して深海赤城が去っていくと、近くで寝転がっているアンノウンが、ちらりと視線を向けてくる。何か言いたげなその瞳に、「……何かな?」と先んじて訊いてみると、

 

「いいやぁ、油断してねえなあってね。いいよ、とてもいい。今まで負け続きだったからねえ。ここでようやく勝ちを拾ったんだ。この調子で勝ち星をあげていこうじゃない」

 

 うんうん、と頷いてアンノウンが星司が次のために動いていることを褒めてくれる。だが、その視線はすっと海上にいる深海長門へと向けられる。遠くで艤装である双頭の魔物へと背を預けながら佇んでいる様は、腕を組んでいることも相まって、クールな美人を思わせる。

 今回の作戦は、まさに彼女がいたからこそ成功したようなものだ。超遠距離から砲撃を届かせ、基地を破壊していった様は、まさしく強力な戦艦の在り方といえる。

 

 アンノウンよりも射程距離が長いため、初撃こそ譲ったが、距離を詰めた後はアンノウンも基地砲撃に参加した。とはいえ、射程距離だけでなく、火力もまたアンノウンより上回っているのは、星司の調整あってのものだろう。

 より強力な深海棲艦へと生まれ変わった深海長門は、まさに深海中部艦隊の新たなる戦力としてふさわしい船出を飾った。このままいけば、彼女こそ新たなる旗艦として立つのもおかしくはないほどのものだった。

 

(何事もなければいいんだけどねえ)

 

 今のところ問題は何もない。

 敵が迫ってきたとしても、ここには深海中部艦隊だけでなく、深海南方艦隊もいる。それに深海吹雪曰く、今回の作戦では新たなる深海棲艦の完成に至り、デビューを飾ろうとしている個体がいるとか。

 それはアンノウンにとっても実に楽しみなことだ。

 

 また、星司も北方から発信された新たなる量産型として、鈴谷を導入している。彼女たちもまた、現在深海長門の部隊などに配備されている。彼女たちの性能についても楽しみなところだった。

 今は勝利を飾っている作戦だが、ここからどう転ぶのか。久しぶりの戦いということもあり、アンノウンは寝転がりつつ、静かにその時を待っていた。

 

 

 

「トラック島を確認しました。深海棲艦が布陣しています」

 

 偵察機から見える光景を確認した赤城が、そのように報告する。時間をかけて航行した指揮艦は、少しスピードを落としつつ、モニターに島の様子を映し出した。その映像はラバウルの指揮艦にも共有され、二人は現在のトラック島の様子を知ることになる。

 

「埠頭は完全に奴らの手に落ちてるっすね……。それだけじゃない。そちらの方にも艦隊が布陣しています。奴ら、あなたの方にも警戒心を向けてますよ、これ」

「……そのようだね。旗艦らしきものは……あれは、空母水鬼かな? それに……ん? あれは」

 

 ざっと深海棲艦の顔ぶれを確認していく深山は、ある一点を見て目を細める。気になったところをより映せないかと申し出、偵察機がそのように動き、拡大していく。

 そこに映っていたのは、深海提督の証らしきマントを羽織っている少女、深海吹雪だった。それを確認した深山はぎゅっと拳を握り締めて、唇を噛みしめる。

 

 本当に、彼女も出陣していたとは。そしてよもや、このラバウル艦隊を警戒するように布陣するとは、とこの数奇なる巡り合わせに複雑な思いを感じてしまう。

 しかし、これは好都合ともとれる。自分たちの手で、あの深海吹雪を終わらせることができるのだ。そう決めていた深山たちにとって、これ以上ない好機といえよう。

 何としてでもここで深海吹雪を仕留める。それを改めて決意させるのに十分な布陣だ。

 

「……こっち側は任せてくれ。何としてでも早急に決着をつけ、そちらに合流するよ。それまでは、トラック島の方の敵艦隊を押さえておいてくれ」

「任せてください。オレたちが奴らを仕留めていきます。オレたちだって力をつけてきたってところを、あいつらに見せつけてやりますよ」

 

 ぐっと拳を握り締めて、どんと胸を叩く。

 そんな彼はまだ知らない。トラック島を落とした敵艦隊を統べるもの、香月が戦おうとしている艦隊の主が、兄である美空星司であることを。

 

 知らないまま、これから戦おうとしているのだ。これもまた数奇な運命のいたずらによるものなのかもしれない。

 だが、もうすぐ両者は相まみえる。

 深山は大きく深呼吸をし、通信機を手に取って告げる。

 

「……これより、ラバウル艦隊とパラオ艦隊による、トラック島に展開した深海棲艦との交戦を始めるものとする。出陣する部隊はあらかじめ伝えておいた通り。各自、持ちうる力を出し切り、トラックの東地たちを救うべく、奮戦することを期待する! 総員、出撃せよ!」

 

 その号令に従い、次々と艦娘たちが海へと飛び込み、トラック島に向けて航行を始めた。

 展開される布陣は、秘書艦である陸奥率いる主力艦隊をはじめとする、ラバウル艦隊の文字通りの全力での大艦隊である。

 もちろん、指揮艦周りには護衛のための部隊も残されており、万が一空母水鬼から艦載機が送り込まれたとしても、対処できるようにしてある。

 

 同様に、パラオ艦隊もトラック島へ向けて艦隊が出撃する。こちらもまた秘書艦である赤城たちから、艦載機が発艦され、艦隊に先んじてトラック島へ向けて飛行を始めている。

 ここに、ラバウルとパラオの連合艦隊による戦いが幕を開けることとなる。

 

 その動きは、当然ながらトラック島でも把握された。

 警戒していた偵察機からの連絡が深海赤城へと届けられ、「提督、奴ラガ来タ」と報告される。それを受けて、星司は「いよいよか」と腰を上げる。

 

「向こうからパラオ、あっちからラバウル。それでいいんだね?」

 

 問いかければ、肯定の意が返ってくる。それを聞いて、星司は静かに肩を震わせる。

 笑いがこみ上げて止まらない。よもやあの時、深海吹雪に任せて仕留めそこなった相手が、こうして出撃してくるとは。

 想定していた通りの展開ではあるが、まったく、自分の手でやりたくはなかったから、パラオ襲撃作戦を任せたというのに、と星司は声には出さずに思わざるを得ない。

 

(でも、仕方ないよね、香月。あの時死んでくれなかったから、この僕の手で君を殺さなくてはならない。悲しい、実に悲しいことだよ、香月……!)

 

 悲しみに手が震えている。否、そうではない。

 目から金色の光が明滅し、全身を震わせながら星司は、己の手を見下ろしている。

 

 湧き上がる感情は――怒りだ。

 どうしてこうなったのかという、運命への怒り。

 どうしてあの時死んでくれなかったのかという、香月への怒り。

 まんまとここまで来てしまったという、愚かしさへの怒り。

 

 そして、どうして自分は、そんな香月を殺そうとしているというのに、口は笑みを形作っているのだろうという、己への怒り。

 

「は、はは、ハハハハハ……! ああ、嗚呼、どうしてだろうねえ……!? どうして僕はこうして笑っているんだろうねえ!?」

 

 ぐっと口元に手を当てながらも、その手に伝わる感触が、はっきりと自分は笑っているのだと如実に伝えてくる。かつては骨しかなかった己の手は、今は深海棲艦を構成する皮に覆われていて、感触がわかりやすくなってしまっている。

 ああ、どうしようもなく、自分は歓喜している。自分で作り上げた艦隊が、血を分けた弟を殺そうとしている現実を嘲笑っている。

 

「いけないんだぁ……、ダメだよ、香月。僕の思う通りに動いてくれるな、香月。僕の手で終わらせたくなかったのに、ハハハハハ……、終わらせないといけないなあ。君の夢もろとも、この手で命を終わらせてしまう」

 

 知っているとも。記憶が蘇っている今ならわかる。

 自分は第三課へ、香月は提督への道を歩もうとしていた。時を経て夢を叶えて、提督着任を果たした香月は、ただ深海棲艦との戦いを続けているだけに過ぎない。

 

 だからこそ、こうして戦場で相まみえる。

 彼は提督として、自分は深海棲艦として。

 こうなってしまうのは自然なことだ。

 

 彼は知っているのだろうか?

 自分がこうしてここに在ることを。つい、深海提督のマントについているフードを深く被り直してしまう。香月にこの顔を見られたくはないと、心のどこかで思ってしまっている。

 

 でも、だからといって戦う手を緩めるつもりはない。トラック泊地陥落の勢いを殺さず、のこのこと出てきたパラオとラバウルの提督もここで仕留めるのだ。

 それを実現させることによって、ソロモン海域からトラック、パラオまでの海域を深海勢力の手中に収めてしまう。南方海域を、完全に深海勢力のものとすれば、欧州海域と共に、二大勢力として成長させ、より深海勢力の優位性を示すことができるだろう。

 

 この戦いは、まさに深海勢力にとっても、大きな節目となるだろう。何としてでも勝利を収めなければならない。

 

 だからこそ、星司はフードの下で笑みを浮かべながら告げるのだ。

 

「――諸君、敵がやってきた。哀れにもパラオ艦隊がトラックを助けるために僕たちの前に出てきてしまった。吹雪率いる艦隊に負けそうになったというのにね? そんな奴らに、僕たちが負ける道理があるかい?」

 

 その問いかけに、深海棲艦たちは、否、否、否と声を上げる。

 

「そう、あり得ないことさ。トラックの提督や艦娘を救い出そうなど、思い上がった忌々しい艦娘たち。まだまだ未熟な奴らに、現実ってものを教えてやるといい。迎え撃て、諸君! 奴らに、敗北を思い知らせてやるんだ!」

 

 星司の言葉に、深海棲艦たちが湧き上がる。我先にと先陣切ってパラオ艦隊の方へと出撃していき、空には深海赤城たちが放った艦載機が舞い上がる。

 浜辺で寝転がっていたアンノウンも海へと降り立ち、すっと航行して、静かに佇んでいた深海長門の方へと向かっていった。周りで出撃していく深海棲艦らを見ても、深海長門は動かない。どこか冷めたような眼差しで、遠ざかっていく背中を見つめている。

 

「乗り気じゃないなあ、長門? 何か思うところがあるのかい?」

「……いいや、何も。ただ、そうだな……」

 

 少し言葉を考えるかのように、首を傾げつつ口元に手をやる。その考えるしぐさもまた様になっていて、小柄なアンノウンはそれをじっと見上げていた。その視線を合わせてくるのが、双頭の片割れの魔物で、低く唸りながらじっとアンノウンを見下ろしている。

 やがて答えが出たのか、「――ああ、そうだ」とぽつりと漏らした。

 

「――わたしに、弱者をいたぶる趣味はない。ただ、それだけのことだ」

「はっ、なるほど、そりゃあ崇高な性分だあ。でもさ……」

 

 と、アンノウンはとん、と長門の腰に軽く手で叩くようにしつつ、目を細める。

 

「それは人の性分だ。兵器にとっちゃあ、何の意味もないことだな? 兵器は使う側の意に応え、平等に敵を葬るだけ。強者も弱者も、平等に、さ? お前もそういう存在に堕ちたんだからさ、つべこべ言わずに敵を葬ろうじゃない。折角性能を上げたんだぁ、使わずに戦場を去るってのは、兵器としては無駄極まりない」

 

 と、深海棲艦らしい言葉を並べていく。それに対して深海長門はまた、どこか不機嫌そうにも見える表情を浮かべる。だが、そんな彼女から出たのは「確かにそうだな」と、意外にも同意の言葉だった。

 

「わたしは兵器だ。どのような敵であれ、戦って性能を示す。それには特に疑問はない。つまらない言葉だった。それについては謝罪しよう」

 

 と、どこか素直な様子に、逆にアンノウンが訝し気に目を細めた。

 そんなアンノウンへと軽く頭を撫でてやりつつ、すぐに離れて前へと出ていく。自分の調子を確かめるように、軽く肩を回し、首を傾げ、指を鳴らしつつ、艤装である主砲が唸りを上げて旋回する。

 

「だが、こうも言いたくなろう。簡単に兵器だったものが、ただのガラクタに成り下がる。性能を示すにはあまりにも脆い相手に使うなど、兵器としてはつまらない光景というものだ」

 

 何の気なしに、そう告げながら、照準を合わせた深海長門が、気だるげに手を伸ばす。

 瞬間、轟音が海域に響き渡り、数秒の時間をおいて、遠方で爆発する。アンノウンもそちらを見やると、深海長門と共に見えたものは、立ち昇る水柱と共に、吹き飛んでいる人の影だった。

 この長距離から正確に標的を射抜く技術。それはトラック泊地襲撃の時からわかっていたことだが、よもや艦娘相手でも成功させるとは。

 

(こいつ、まさかボクの想定した以上に進化しやがったか……? はっ、さすがは長門だったモノ。あいつ、とんでもないものを仕上げたなぁ、おい……)

 

 涼しい顔をしている深海長門を改めて横目で見上げながら、苦笑しか浮かばないアンノウン。呉の長門を称えるべきか、そんな彼女を堕とした上で、ここまで調整しきった星司を褒めるか。

 どちらにせよ、星司にとっての最高傑作と呼ぶにふさわしい仕上がりだ。この戦い、万事うまくいけば、勝利は揺るがないだろう。

 

 そう思わせる初撃に対して、アンノウンはとりあえず、拍手を送りながら自分もまた戦場に飛び込んでいった。

 


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