呉鎮守府より   作:流星彗

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泊地水鬼2

 

 制空争いを続ける艦載機たち。よく観察し続けていると、見えてきたものがあった。特にリンガ艦隊で一航戦を担っている加賀は、艦戦の妖精を通じて観察したことで、それに気づいたのだ。

 赤の力を纏っている白猫艦載機、すなわちアッドゥから送られてきているのは、主に艦爆に類するものだった。制空争いをする艦戦は別の空母から放たれたものが主であり、特に空母棲姫が送り込んでいる艦戦型の白猫艦載機が主力だった。

 

 ではアッドゥが送り込んでいる白猫艦載機は何をしているのか。

 一番の目的はやはり指揮艦へと直接攻撃を目論んでいることだろう。先ほどは一機が到達したが、榛名がそれを防いだ。

 

 それ以外の白猫艦載機は、ただ逃げ回っているのが主で、小型銃で時折反撃はしてきているようだが、必死の抵抗とは思えない。艦戦型の白猫艦載機に比べれば、まるで豆鉄砲のようだ。

 そうして激しく動き、艦戦型のものと混乱させ、彼らの代わりに撃墜される役目でも担っているのか。そう思わせるかのような目立つ動きをしている。

 

 いわゆる囮だ。

 主目的を定め、それを達成させるべく赤の力を纏うことでより機動力を高めた上で、目立った動きを続けて気を引かせる。そうして主目的を担う白猫艦載機を覆い隠し、本命を送り込む。

 そういう意図が見えてきた。

 

「何故そんなまだるっこしいやり方を?」

 

 艦戦を備えていないからだろうか?

 送り込むのは全て艦爆型のみ。艦攻型も見えていない。それも空母棲姫が送り込んできているものだけだ。

 

 空母棲姫らが送り込んできている艦載機は、時々航行している艦娘にも攻撃を仕掛けている。それに追従しているアッドゥの白猫艦載機もいるが、少数だ。

 しかも追従しているというのがミソだ。あの機動力なら追い抜いて攻撃を仕掛けられるだろうに、後ろからとりあえずついていこうという、そんな意図が見える。

 

 傍から見れば、きちんと戦っていますというアピールでもしているかのよう。

 そこからも、アッドゥがこの戦いに妙に本気になっていないような、そういう何かを感じ取る加賀である。

 

(不気味ね。あのような口上を述べておきながら、艦載機の戦いは本気ではなく、かと思えば指揮艦へと上から下から奇襲を仕掛ける。……いえ、見方を変えれば、艦娘を眼中に置かず、ただ提督を殺すことだけに集中しているともとれる)

 

 一瞬の隙を見出して、針の一刺しを行うかのように、白猫艦載機を接近させて必殺を狙う。先ほどの攻撃はまさにそれに値するだろう。

 その好機を作り上げるためだけにこのような戦いをしているのであれば、アッドゥはまさに道化に見せかけたアサシンといえるかもしれない。

 

 だが、手口がわかれば、対処のしようはある。抜けさせないために艦載機を動かせばいい。

 また、空母棲姫へもイタリア艦隊が向かっている。この作戦は艦戦型を投入している空母棲姫らがいなくなれば成立しない。

 

 護衛する艦戦が失われれば、艦爆の脅威は大きく落ちる。道が見えたなら、守りを厚くして抜かせないように時間を稼いでいけばそれで十分だ。

 指揮艦を守るために、ここを超えさせはしないと、加賀は決意を胸に弓を番えた。

 

 

 

(敵の艦載機の動きが少し変わった? ……そう、気づいた誰かがいるのかしら。想定より少し早め。頭が回るのか、観察眼がいいのか、どちらにせよいい艦娘がいるようね。フフ、結構なこと)

 

 艦載機の戦いを観察するアッドゥは静かに微笑む。防がれてはいるが、観察眼が優れた誰かがあそこにいる。その成果だけでも良いことだ。

 リンガとドイツの艦隊は順調に距離を詰めてきている。このままいけば、数分で交戦が始まるだろうが、二方向から攻められてくるというのも、ぱっとしない。

 

 そこで自分を守っている戦艦棲姫に対し、「レパルス、あなた、ドイツの方へと相手をしてあげて」と指示を出す。その命令に、レパルスと呼ばれた戦艦棲姫は首を傾げて振り返った。

 

「ココデ守ラナクテイイト?」

「あの勢いでは、私たちは二方向に対処しなければならなくなる。それは面倒なこと。だから、あなたたちが、ドイツを抑えておいて。私と護衛隊が、リンガを相手にする。その方がまだ戦いやすいわ」

「……ソウ、ソレガ命令ナラ、受ケマショウ」

 

 命令を受諾した戦艦棲姫が、ドイツ艦隊の方へと航行を始める。その動きに、リンガの神通は目を細める。戦艦棲姫らが向かったのはドイツ艦隊の方だ。となれば、敵は二正面で相手をするのを嫌ったと見える。

 その気持ちはわからなくはない。それぞれの隊でぶつかり合った方が戦いやすいというのは理解できる。

 

 アッドゥはいわゆる敵本隊。それを守るための部隊をここで分けてくるという一手は、果たして正解か?

 それだけアッドゥらの実力に自信があるというのか。だとすれば、

 

「舐められたものですね。驕りか、正当な自信か、それを確かめさせてもらいましょうか」

 

 合図を送るための照明弾を頭上に放つ。それを受け取った背後の水上打撃部隊の旗艦、高雄が命令を下す。「敵基地型深海棲艦、泊地水鬼を確認! 各自、弾薬装填!」の声に従って、一斉に主砲へと弾が装填される。

 それぞれが放っていた偵察機も、アッドゥの姿を捉え、弾着観測射撃のための照準合わせも行っていく。射程内に入れば、いつでも撃てる構えだ。

 

 射撃を邪魔するための深海棲艦は、水雷戦隊と水上打撃部隊の護衛の艦娘が処理する。ここまでの戦いを切り抜けてきた彼女たちに、単なるエリート級は止められない。

 足の生えた駆逐艦、後期エリート型であれば、その機動力を以てして一気に距離を詰めてくるのが問題だったが、村雨をはじめとする主力の駆逐艦が、それを抑えにかかる。

 

「見えているって、ねっ!」

 

 村雨の目からは、オレンジ色の燐光が放たれている。青の力の扱いを心得、より自分の力を高めている艦娘らが放つ現象の一つだ。強力な深海棲艦と同じ現象であり、より強い艦娘を計る指針の一つとして確立されたもの。

 それを発現している村雨は、さすが瀬川の秘書艦の一人にふさわしいといえるかもしれない。高速機動をする後期エリート型のイ級だろうと、動きを読み切って主砲で撃ち抜き、追撃の一発を叩きこんで沈めていく。

 

 村雨と同様に力を高めている艦娘が、それぞれ止めに来るリ級フラグシップなどを迎撃し、アッドゥまでの道を作っていき、距離を詰めていく。

 だがそれは同時に、神通たちがアッドゥの射程内に入っていくことに等しい。艤装の中でも目立つ一門の主砲。もちろんアッドゥの攻撃武装はそれだけではない。彼女の背面に展開されている艤装からも、副砲が数門設置されており、それぞれが狙いを定めていた。

 

 目覚めた当初には備えられていなかったアッドゥの艤装。深海のデータベースを参照し、拠点にあった素材を用いて制作されたものだ。データを漁った際に艤装制作についての手段も自分の中にダウンロードしたことで、何とか自分に合わせて調整したものだが、それほど悪くない仕上がりにはなっている。

 だが、参考にした例をもとに水鬼級の自分へと無理に調整した面もあるため、十全なスペックを発揮できるかどうかは怪しいところではある。それでも、自分の目的を達成させるために、それなりに戦うために動かす分には支障はない。最低限の戦闘ができればいいだけなのだから、最善を求めるつもりは彼女にはなかった。

 

「さあ、始めましょう。しっかり抵抗してきてね? でなければ、(おれ)が困るから」

 

 主砲の向きを伸ばした右手で調整し、ぐっと拳を握り締めれば、一斉に砲門が火を噴いた。勢いよく飛び出していく弾丸一つと、追従してくる複数の弾丸。それらが神通たちへと降り注いでいく。

 主砲の一発は旗艦である神通を狙ったもののようで、響く轟音に気づいた神通がすぐさま弾に気づき、「回避ッ!」と叫びつつ、主砲の弾の直撃を避けた。

 

 しかし至近弾ではあったようで、空を切る勢いと、爆発によって発生した波風に煽られて少し体勢を崩す。それをすぐに立て直しはしたが、追撃してくる護衛のフラグシップの戦艦たちがいる。

 アッドゥから遅れて斉射することで、回避行動を取った彼女たちに追い打ちをかける。それは十分プレッシャーになるだけでなく、バランスを崩したところを狙うことで、よりダメージを与えやすくなる狙いもあった。

 

「主砲、副砲、一斉射! 先手は取られはしましたが、相手を調子づかせないように!」

 

 だが、その追撃も十全には行わせない。すでに狙いを定めていて、距離を詰めてきた高雄たちが、彼女の号令に従って攻撃を開始する。降り注ぐ水上打撃部隊の砲弾の雨。それは狙い通りにアッドゥへと届くだけではなく、ル級やタ級らにも襲い掛かっていく。

 

「っ、く……フ、フフ、痛い、痛いわ…………フフフフフフ……!」

 

 体に命中する戦艦主砲の弾丸に、アッドゥは苦悶の表情を浮かべたのも束の間。何故か彼女はその苦痛を感じながら、笑っていた。ぐっと力を込めれば、体に入り込んだ弾丸が血と共に吹き出し、その白いドレスを赤黒く染めていく。

 べたり、と付いたその血を指で遊び、じろりと赤い瞳が後ろにいる高雄たちを見据える。

 

「それでいい、それでいいのよ。もっと、私に傷を付けなさい。もっと抵抗しなさい」

 

 どこか狂気を含んだような笑みを浮かべ、震える瞼に揺れる瞳。チカチカと赤い光が明滅したかと思えば、瞳孔が収束したり拡大したり、白い冠状の角に赤い電光が走ったりと、明らかにアッドゥはまともには見えなかった。

 今までに見られない強力な深海棲艦の個体の様子に、神通たちだけでなく、モニターを通じて見ていた瀬川、マルクスも引き気味だった。

 

 そんな彼らを置き去りにしながら、アッドゥは震える手で自身の顔を押さえ、

 

「私を――(おれ)を破壊してみせてよッ! 出来ないなんて言わせないッ! 今のあなたたちなら、こんな器でも砕けるでしょう? フフ、フフフフ……! 私という脅威を乗り越える様を、見せつけなさいな、艦娘ども!」

 

 その叫びは宣告のようにも、慟哭のようにも聞こえた。口上を述べながら次弾装填したアッドゥが砲撃を仕掛けてくるが、それを回避しながら神通たちは、彼女の言葉の意味を考えざるを得ない。

 

 狂気に感じられる振る舞いと表情をしておきながら、あのような叫びをするなど、普通ではないのは間違いない。最後はできるものならやってみろと煽っているようではあったが、捉えようによっては、やってみせろと鼓舞、激励をしているようにも思える。

 

 何故敵である彼女がそのようなことをする意味が分からない。

 そもそも、この戦いははじめから彼女の意図がまるで読めない。

 どれも今までの深海棲艦らしくなく、それが瀬川たちを混乱させる要因になっていた。

 

 だが、今は戦いの真っただ中。神通たちに考える余裕はどこにもない。

 敵の攻撃を回避し、反撃の攻撃を仕掛けることに精一杯だ。そうした考えをするのは、瀬川たちの役目である。

 

(何かが引っ掛かる。この違和感は拭うべきじゃない。あいつの言葉のどこかに、引っかかるものがある)

 

 開戦を告げる言葉から始まり、先ほどの叫びを振り返る。どこか深海棲艦らしくないことをしでかしてくるアッドゥ。その時点で何かがおかしいことは明らかではある。

 だが、瀬川が引っ掛かっているのはそこだけではない。言葉のどこかに手がかりがあるはずだ。

 

 考えている間にも、敵の攻撃の手はやまない。

 加賀が抑え込んでいる艦載機の進軍。相変わらず一部の白猫艦載機は隙を窺いながら飛び回っている。艦戦が迎撃を試みているが、邪魔する手は止まらない。

 

 それは敵の艦戦だけではなかった。

 敵艦載機もまた、この守りを厚くしているのは加賀だということを見抜いており、加賀たちへと攻撃を仕掛けてきている。自分の身を守るために動く必要が出てきたため、艦載機を操ることだけに集中できなくなった。

 

 彼女らを守るために護衛艦が付いているが、それでも敵の追跡は執拗だ。空母の機動力は駆逐艦程高速ではない。追いつかれれば攻撃を受けるだけ。それだけは避けなければならない。

 

(かといって、大人しくやられるだけの私ではないのです、がっ!)

 

 矢を一本取り、ちらりと背後を肩越しに振り返って位置を確認すると、スピードを乗せたまま跳躍。そのまま体を上下反転させて、背後へと弓を射掛け、艦戦を発現。それは機銃を放ちながら迫ってきた艦爆へと奇襲を仕掛けていき、迎撃に成功した。

 それを確認する間もなく、前へと宙返りをした加賀は、海を滑るように着水する。このようなアクロバティックな動きができるのも艦娘という人型であると同時に、瀬川が体で語るような育成方針を取り入れているためだ。

 

 全ては筋肉が解決する。その教えの下、空母が接近された場合の対処法の一つとして、このような動きも仕込んでいたのだ。これもまた、彼なりの防御術の一つ。

 青の力での防御術を主に考案したのは、こうした艦娘が身を守るための技術を主に仕込んでいた下地があってこそだ。

 

 しかし、この自衛のための動きをしている隙をついて、アッドゥの白猫艦載機が守りを抜け、旋回しながら後退していた瀬川の指揮艦へと迫っていく。

 再び接近する危機に、甲板にいる榛名たちも迎撃のために身構える。対空射撃で牽制するが、白猫艦載機は一度指揮艦の頭上を通り過ぎ、背後で旋回していく。

 戻ってきた白猫艦載機はタイミングを見計らい、爆弾を投下。それは指揮艦へと落下していくのだが、指揮艦は回避行動のために旋回を行っていた。落下していく爆弾は狙いがずれ、指揮艦へと直撃することはない。

 

 それを見切った榛名は、白猫艦載機を狙って対空射撃を行い、指揮艦から離れようとする白猫艦載機を撃墜する。煙を噴き上げ、体勢を崩した白猫艦載機は、何度か左右に揺れたかと思うと、そのまま回転しながら指揮艦めがけて落下していく。

 しかもその先には、艦橋がある方角だった。まさか爆弾が失敗したから、機体そのものをぶつけようというのか。

 

 艦橋にいる瀬川たちが息を呑むのが見えるが、白猫艦載機は艦橋ではなくその下の壁へと直撃し、甲板へと落下していった。直撃の際に機体が爆発するのかと思われたが、それはなく、ひとまずは二度目の窮地を脱した。

 

 秋月が駆け寄り、壊れた機体を見下ろす。先ほど撃墜された機体も照月が回収していたが、これで二つ目が甲板へと落ちてきた。「これもひとまず、中に入れておきます?」と榛名へと伺いを立て、「そうですね、敵艦載機を回収する機会はそうはありません。二つ目も得られたのなら喜ぶべきことでしょう。気を付けて持って行ってください」と、榛名が指示を出す。

 

 そうして得られた二つの白猫艦載機。連続して襲い掛かってきた危機に冷や汗はかくが、しかし瀬川は身震いしながらも笑みが浮かんでいる。そんな中で頭を回していた。

 モニターには、アッドゥへと攻撃を仕掛けている艦娘たちが映っている。別モニターではアッドゥの護衛を離れ、ドイツ艦隊と戦闘している戦艦棲姫の姿がある。

 

 そちらではビスマルク、ティルピッツといったドイツ戦艦をはじめとした主力艦隊と交戦していた。戦艦同士の殴り合い、もはや見慣れた光景といっても過言ではないだろう。

 戦艦棲姫らに押し込まれている雰囲気ではなく、そちらは心配することはなさそうだった。

 

「フフ、いいわぁ。でも、最高ではない。もっと、もっと力を発揮しなさい。出し惜しみなんて許さない。あなたたちは、そんなものじゃないはず。でなければ私を落とすことなんてできない」

 

 不意にアッドゥがそんなことを言いながら、その手を開く。角に走る赤い電光と同じものが、その手からも発せられる。

 深海のより強い力の証である赤の力。それを発揮したアッドゥは、滑走路からではなく、弾ける電光から白猫艦載機を発現させる。

 

「持っているのでしょう? この力を。研鑽されたその力で、(おれ)に至りなさい。生憎と私という器は、そこのレパルスなどとは違うのよ。軟な攻撃では、届かないわ。ただ、私に苦痛を与えるだけでしかないの……フフフフ」

 

 白猫艦載機だけではない。主砲と副砲の照準もまた動き続ける神通らを追尾している。護衛する深海棲艦の数は神通たちによって減っており、その数も残りわずか。これでは神通たちもまた、アッドゥの攻撃に加わるのも時間の問題だ。

 だが、それがどうしたとアッドゥは余裕の構え。神通たちの魚雷はアッドゥには届かない。投げるしか意味はないが、それだけでは無理がある。

 

 倒すべきは後ろの高雄たち。故に白猫艦載機をぶつけるだけでなく、赤の力を主砲へと込め、撃ち放つ。響く轟音と赤い流星の尾を引いて、それまで以上の弾速で大和へと迫っていく。

 それを前に大和はぐっと身構える。回避行動は間に合わない。ならばそれを受け止めるだけだ。

 

 艤装の船体を前に出しつつ、バルジをより前へと展開。そこからバルジシールドを顕現させて、赤の力が込められた弾丸とぶつかり合う。激しい音を響かせながら、弾丸はバルジシールドを突き破らんとする。

 主砲だけではない。副砲から放たれた弾も次いで飛来し、次々とバルジシールドへと到達した。

 

 だが、大和のバルジシールドは、それらを耐える。一発だけなら耐えきれるだろうが、五発以上の弾が突き刺されば危ういだろう。それでも、大和の船体は健在だ。

 世界に誇れる日本の戦艦。その守りは鉄壁である。それを、青の力によってより強く引き出された守りが、現代でも証明されている。

 

 それを目の当たりにしたアッドゥの目は、大きく見開かれている。しばらく呆然とそれを見ていたアッドゥは、ぽつりと、「――素晴らしい」と呟いた。それは聞こえなかったが、神通は口の動きで「素晴らしい?」と首を傾げる。

 

「……神通、何を言っていたのかわかったんか?」

「ええ、彼女は素晴らしいと、口にしました。大和さんの守りを見て、自分の攻撃が防がれたのに」

「防がれて褒める? あり得んな、深海棲艦なら、あり得ない。あれだけワシらにも攻撃を届けておいて、自慢の攻撃も撃ち込んで、防いだ様を見て褒める? まるでこっち側に与するかのような物言いじゃないか」

 

 だが、そうだとするならば?

 瀬川たちと戦っている様を見せつつも、内心ではこちら側に寄っているのだとすればどうするのか?

 それこそあり得ない。人類の味方をする深海棲艦がいるはずがない。その可能性は万に一つもない。

 

 その時、艦橋へと通信が入った。出てみると、それは白猫艦載機を運び込んだ秋月からだった。

 

「提督、少しいいですか?」

「どうした?」

「持ち込んだ艦載機なんですけど、なんか、データが入っているんですよ……」

「データぁ? 何の?」

「それが……共有しますね」

 

 展開されたのは、瀬川たちが息を呑むものだった。

 アッドゥ、泊地水鬼の姿とその性能のグラフ、艤装など、様々なデータだ。

 そして、そこに付け加えられているもの。亡霊のような姿をした何者かが、アッドゥと重ねられていく動きが繰り返されている。

 

 それを見た瀬川は、今まで思案していたことが、少しずつ繋がっていくような感覚を覚えた。点と点が線となる。断片的な情報たちが、一つの答えへと指し示すかのように、まさかといえる仮説が、真実味を帯びていくかのようだった。

 

(……そうか、深海棲艦らしくないっていうのは、正しかったわけか)

 

 深海棲艦だけなら、あり得ることではない動き。そこに別の要因が付け加えられたからこそ、あのアッドゥはこのような行動をしている。

 別の要因のヒントはもう、提示されている。アッドゥが時折一人称がおかしいことになっていること。それが何を示しているのかはわからなかったが、これでわかった。

 

「深海提督と融合した個体。別の意思が、この戦いを引き起こしたんだな。そして、それが深海の意図を裏切る動きをしている。それが、今までの違和感の正体……! アッドゥ、お前さんは――――自分を破壊してもらうことで、深海側の意図を砕こうとしていやがるな?」

 


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