コロンボ基地近海まで進んできた欧州からやってきた指揮艦二隻。その姿を確認したコロンボ基地から発艦された艦載機が、基地へと連絡を送る。それを受けてコロンボ基地から艦娘たちが出迎えに上がる。
コロンボ基地に務めている艦隊の旗艦である飛龍が、指揮艦へと通信を送ると、すぐにマルクスが応答する。
「こちらコロンボ基地の飛龍です。リンガ泊地へと暗号通信を送った方々とお見受けしますが?」
「はい。こちら、ドイツより参ったマルクスです。もう一隻はイタリアのブランディが乗船しています。こちらに関しては初めての顔合わせになるでしょう」
「ハイ、揃えられた黒髪にたなびくハチマキが似合うお嬢さん。僕はブランディ。イタリアより使者として参上した者さ。この出会いに感謝を」
「いきなり口説くなたわけめ。今はそんな場合ではないでしょう? わきまえてもらえるかしら?」
「はは……うーん、これがイタリア男性ってやつなのかしら? こほん、ただ今、うちの提督がコロンボ基地を目指しています。もうそれほど時間をかけずに到着される見込みですので、ひとまずはコロンボ基地へと案内させてもらいます」
苦笑を浮かべながらも、飛龍は指揮艦と合流するべく前進する。そこで周辺を警戒している艦載機の妖精からの連絡を受け、目を細めた。
南の方角から敵艦載機が飛来してきているというのだ。
「敵機接近! 迎撃態勢を!」
素早く指示を出しながら、弓を構えて南へと艦載機を放つ。飛龍だけでなく、共に来た祥鳳などからも艦載機が放たれ、一斉に接近してくる敵艦載機を目指していく。
敵艦載機は見つかったこと、迎撃のために飛来する艦載機に気づいたのか、一度その場を旋回し、あっさりと南へと転進していく。
なりふり構わず交戦してくるものと思っていた飛龍は、その身の引き方があまりにもあっさりしすぎて怪訝な表情を浮かべた。今までの深海棲艦なら、艦載機だろうとそのまま突っ込んでくるものだ。
艦娘や海軍兵を見たら攻撃してくるようなもの。ましてや今回は指揮艦を襲撃してこようというタイミングだ。お構いなしに攻めてくるものと思っていたのに、すぐに反転するなど、考えられないことだった。
「一部はそのまま追いかけて。残りは反転して指揮艦の護衛に」
飛竜の指示に従って艦載機がそれぞれ別に動いていく。分けはしたが、それでも追跡する艦載機の方が数が多い。襲撃して来た分の敵艦載機に圧し負けない程度には優位を取るためだ。
「提督たちはそのままコロンボ基地へ向かってください」
「援護をしなくてよろしいのでしょうか?」
「私たちの任務はあなたたちを無事に基地へと送り届けることです。敵の脅威があるならば、これに対処します。今は、敵の本隊を叩くことではありませんので。脅威が去るまでは、私たちはこの先へと敵を行かせませんし、あなた方が無理に向こうへと行かせることもしません」
「……わかりました。健闘を祈ります」
「うーん、凛々しい。いいじゃないか、日本の艦娘というものも。あれがブシドーというものなのかな?」
「だからのんきか、ブランディ!? 妙なことを口走っていないで、指揮艦周りにでも艦娘を出しなさい! 守られてばかりというのも、私たちとしては恥ずべきことですよ!」
それぞれの指揮艦からも護衛のために艦娘が出撃し、並走するようにコロンボ基地へと向かっていく。その様子を確認するように、何機かの敵艦載機が旋回したが、またすぐに南へと向かっていく。
それを追いかけていく艦載機ではあるが、どうにも追いつきそうで追いつかないような速さを保たれているような気がした。
スピードを変えてみても追いつかないのだ。まるで一定の距離を保ってきているような、そんな意図を感じさせる。
まるで強制的に追わされているかのような流れに、飛龍は不気味さを感じた。
海は少しずつ変化する。
気づけば青い海ではなく、広がり始めている深海の力が満ちている赤い海へと突入ていた。それに従って空気も変質していく。
そこはまさに、強力な深海棲艦が海域を支配していることの表れだった。
(これはまずいかもしれないわね。いったん引く……?)
引くタイミングを見誤ったかもしれないと、飛龍は冷や汗をかく。無理に追わされたのなら、この先に敵の本拠地があるだろう。そこから追加の敵艦載機が発艦してしまえば、成す術なく呑み込まれてしまうだけだ。
だが、ここで追跡を続行すれば、敵の本拠地が分かるかもしれない。
深海棲艦の拠点はどこも見つけづらいものだ。奴らとの戦いも数年にわたる長い時間をかけているが、拠点を見つけ出したのは少し前の北米の事例だけ。
深海と名がついているだけあって海の下にあるのではないかと推測されており、潜水艦型の艦娘もなかなか生まれなかったこともある。それだけに、拠点がようやく見つかっただけでなく、壊滅まで追い込んだというのは、世界中のニュースになったほど。
だからこそ、今ここでこの海域にあるかもしれない深海の拠点が見つかるとなれば、これもまた大きなニュースとなる。そのチャンスを逃していいものか。
飛龍は考える。艦載機が全滅するかもしれないリスクを冒してでも、追跡して拠点を見つけるというリターンを取るか。
(……ここは、押し切る。誘われているのだとしても、ここを見逃して好機を失ったら、次いつチャンスが巡ってくるかわからない!)
追跡を選択した飛龍。艦載機の妖精たちに、しかし警戒は怠らないようにと改めて伝えつつ、指揮艦の方はどうかと問いかけると、無事にコロンボ基地へ到着したと返ってきた。
護衛任務は無事に果たされた。それについては喜ぶべきだ。
しかしこちらはまだ油断できない。
赤い海の上空を飛行し続ける艦載機は、やがて一つのエリアを捉える。
遠くから見てもわかる、円状に変色している海域。
赤い海の中でもひと際濃い影が見られる一帯。それを囲むように点在している島々。
アッドゥ環礁だ。
その島の一角で、浜辺に腰かけてじっと空を見上げている人影が一つ。
それは遠くに飛龍らが放った艦載機が接近してきたことを認めると、静かに手を挙げる。
その合図に従って、アッドゥ環礁の周りに深海棲艦らが一斉に浮上した。
姿を現したその数は、まさに本拠地を守る深海棲艦。眼下に見える景色そのものが、アッドゥ環礁がかの深海棲艦の本拠地であることを如実に語っている。
手を挙げた深海棲艦が、その手に赤い力を込めれば、逃げていた艦載機の一機が反転し、ノイズを発する。まるでチャンネルを合わせるかのように、一定のリズムで発せられるノイズに、艦載機の妖精が思わず顔をしかめてしまった。
やがてノイズが少しずつ落ち着いてくると、
「――聞こえる? 艦娘、あるいは妖精」
流れてくるのは高い女性の声。それに戸惑いの声を上げる妖精だったが、飛龍はいったん追うのをやめて、その場で旋回するように伝えた。
敵艦載機もまた、反転はしてきたが攻撃はしてこず、その場で旋回している。何かを話そうという意思が感じられたのだ。
「話を聞いてくれる気があるようで何より。私はアッドゥ、あるいはポートT。はたまたこれを纏っているからこうも名乗るべきかしら。印度提督、と」
そうして浜辺にいる女性、アッドゥは身を包む黒いマントをなびかせる。
それに対して飛龍は何の反応も示さない。妖精が見ている光景を通じて飛龍も見えてはいるのだが、マントが何を示すものなのかは知らなかった。
しかし、印度提督と名乗った意味は何となく察せる。
深海勢力が提督と名乗る意味は一つしかない。その周辺の海域を担当する深海棲艦を束ねる存在だ。
「……反応がないわね。聞いてはくれているみたいだけど、そちらからは何も伝えられないということ?」
「いえ、どう反応していいかわからなかったのよ。名乗っておくべきかな? 私は飛龍。提督と名乗ったということは、あんたがここらを束ねる存在でいいのよね?」
「肯定しましょう。故に、私を討ち倒せば、おめでとう艦娘。フィリピン周辺だけでなく、アラビア海にわたるまで、この一帯は人類の手に取り戻されることとなる」
「そう。それは何とも魅力的な言葉だけど、そうして姿を現すってことは、ただでやられない自信があるとみていいのかしら?」
飛竜の問いかけに、アッドゥは微笑を浮かべるだけで何も答えない。
ただ静かに手を動かし、アッドゥ環礁に浮上した深海棲艦の中の一隊、空母機動部隊に指示を送る。
すると艦載機が発艦され、空へと舞い上がる。旧型の艦載機だけだった空に、新型である白猫艦載機が混じり始めた。見れば、空母棲姫が混じっているようだった。深海印度艦隊にも、かの空母棲姫が参入したという証だった。
「今回は我らの戦力を知らしめるための顔見せよ。去るならそのまま去りなさい。でも、こうして私が姿を現したのだもの。あなたたちとしては、これを見逃す手はないのでは? 飛龍といったわね、あなた、リンガのものでしょう? そして、西からの客人がいる以上、リンガの提督も動いている」
「……何が言いたいの?」
「リンガの提督に伝えなさい。顔合わせといきましょう。望むのであれば、一戦交えても私は構わない。覚悟を決めたのであれば、ここまで来なさい。来ないのであればそれも結構。リンガの提督はそれまでの存在だったということ。ならば私は、動かせてもらう。コロンボ基地から順次、殲滅に動くとしましょう」
あからさまな挑発。乗ったとしても乗らなくても、戦いは避けられない。戦場が変わるだけだ。
今まで大きく動かなかったというのに、ここで大きく動くなんて何かがあったとしか思えない。
でも、今ここで飛龍たちだけで動くわけにはいかない。
挑発してきた彼女に対し、飛龍は一つ呼吸を落ち着かせて返答する。
「わかった、こちらの提督にあなたからの言葉を伝えることにするわ。わざわざここまで連れてきてそんな言葉を伝えてくるんだもの。提督へと連絡し、どう動くかを待つ気はあるのかしら?」
「ええ、もちろん。それほど時間の猶予は与えるつもりはないけれどね。私たちはお前たちを見ている。コロンボ基地でどう動くか、見物させてもらうわ。フフフフ……」
飛龍たちの艦載機は、あっさりとコロンボ基地へと撤退を許された。
追加で放たれた艦載機も、空母棲姫らの上空にいただけで、要は見せかけだけのものだった。自分たちの戦力を誇示してみせただけのものだったらしい。
今までの深海棲艦の動きならばあり得ないことが連続している。これが深海提督とやらを擁する深海棲艦の動きなのだろうか。
それぞれの深海提督ごとに動き方が異なるのならば、まさに深海棲艦は深海提督の意思一つで行動が変わる軍隊のようなもの。
そして印度提督は、今までが静かすぎただけで、何かのきっかけを得て、今こうして動き出したと考えていいのだろうか。となればここ最近に何かがあったと考えられるだろう。
そんなことを思いながら、帰還してきた艦載機を回収し、飛龍たちはコロンボ基地へと入港する。
すでに入港していたマルクスとブランディが飛龍たちを出迎えてくれるが、何事もなかったのかと少しだけ疑問を感じているようだった。彼らにはアッドゥ環礁で起きたことは何もわからない。
あくまでのあのやり取りは、飛龍との間でのみ成立したものだからだ。
「詳しいことは我が提督が到着されてからでいいですか? 長旅で疲れたでしょう。基地でお休みになってください」
「よろしいのかしら? 深海棲艦の危機は、もうそこまで来ているのでは?」
「いえ、そうでもありません。……先ほども申し上げた通り、詳しいことは後程で。到着されてから、お二人を交えて話をさせてもらいます」
「ふむ、ではそのようにしようじゃないかマルクス。基地の守りは、変わらず君たちが行ってくれるのだろう?」
「はい、そのように」
「わかった。では僕たちは休むことにするよ。マルクス、ここは彼女の顔を立てて、申し出通りにしよう。ここはごねるところじゃない」
深海棲艦は標的を見つけたら攻撃してくるものだ。特に欧州ともなれば、常に危機に晒されていた。そんな日々を過ごしていたのだから、先ほどの敵艦載機が本隊に知らせてきたと考えるのも当然だろう。
しかし先ほどの話を、飛龍だけが伝えたとしても、信じてもらえるかどうか。欧州戦線との差異に、非常に困惑するだろう。その状況で瀬川なしで事を収める自信はない。
そのため瀬川たちが到着してからというのが飛龍の考えだった。
マルクスも納得はしていなかったようだが、意外なほどすんなりとブランディはそれを受け入れ、マルクスを促した。女性を立てるというのだろうか、あるいは問い詰めて困らせるようなことはしたくないという心遣いか。
何にせよ、すっと話を打ち切ってくれて助かった。
マルクスとブランディ、その艦娘たちはコロンボ基地で休息を取り、飛龍たちは近海へと出て警戒に当たる。
アッドゥはあんなことを言っていたが、言葉を違えて攻め入ってくる可能性もゼロではない。偵察機も展開して、周辺をあたってみたが、深海棲艦の影すら見えなかった。
結局、瀬川が乗船する指揮艦が入港するまで、深海棲艦の襲撃は起きなかったのである。
瀬川を迎え入れ、マルクスとブランディと顔合わせをすると、瀬川はにっと笑みを浮かべて「んんん、久しいな、マルクス。元気そうで何よりだよ」と握手を求める。マルクスもそれに応え「あなたこそ、相変わらず暑苦しそうで」と、少し皮肉めいたことを口にする。
「こちらがイタリアのブランディ。今回、私と共に日本へと取引と、情報交換のために同行することになったわ」
「初めまして。噂はかねがね。いやはや、聞いた以上の雰囲気だ。よろしく頼むよ」
「うむ、存分に我が筋肉に見惚れるといい。よろしく頼む、ブランディさん」
それぞれ挨拶を交わし、瀬川が促すと二人が席に着く。瀬川も着席し、その後ろに飛龍と今日の秘書艦である高雄が控えた。
瀬川が視線で促して飛龍が一礼すると、敵艦載機を追いかけていった先で起きたことを説明する。
警備をしている間に、飛龍から瀬川に簡潔に何が起きたのかの報告は行っていた。瀬川はそれを興味深そうに聞き、この先起こるであろうことに胸を躍らせていた。
今、改めて詳しい状況を耳にし、胸の棚借りはより強くなっていた。よもや深海提督からここまではっきりとした挑発、挑戦状を受けることになろうとは思わなかった。
一方、欧州戦線で戦ってきた二人からすれば、深海提督がそのような提案をしてくるなど、意味が分からない。会話をしているところからしておかしいが、待ってやるから攻めないと言いつつ、本当に攻めてきていないという現状も信じられない。
そんな深海棲艦がいるのかと、衝撃を受け続けていた。
「罠じゃないの? あなたたちを呼び寄せて、万全の状態で迎え討とうっていう魂胆では?」
「だろうよ。だが、それに臆していては、奴らに人類が勝利するなど、夢のまた夢。そも、この一帯の海域を根城とする深海棲艦は、ワシがずっと探し続けていた相手よ。それが顔を出してきた上に招待状を出したのだ。ここで乗らねば漢ではない」
瀬川の言葉にブランディはなるほどと頷いているが、マルクスはそれでも渋い表情を浮かべている。彼女から見れば、男の矜持を胸にして、まんまと罠に飛び込んでいくようにしか見えないのだろう。
そんな彼女の気持ちも理解できるようで、瀬川は安心させるように笑みを浮かべる。
「なぁに、ここで行こうが行くまいが、戦うことには変わりない。だが、考えてもみろマルクス。飛龍」
「はい」
「奴の名乗りを復唱してみろ」
「最初にアッドゥ、次にポートT、最後に印度提督と名乗っていました」
「ポートT、これはかつての戦いの際に、イギリスが構えていた基地の名前だったな? 場所はアッドゥ環礁。艦載機が発見した場所と一致している。ならば奴は基地型の深海棲艦と推測できよう」
そこで指を立てる。「今までの例からして、基地型は海上を移動して戦いに出てきたことがない」と、日本海軍の戦闘例を出した。
飛行場姫、港湾棲姫、離島棲鬼、そして中間棲姫。そのどれもが、島の上に立ちながらの戦闘だった。基地型らしく、海上で戦うよりも、島の上の方が十全に力を発揮できるものと推測できる。
「んん、となればワシらが罠を警戒して動かなかった場合、攻めてくる艦隊に印度提督とやらは出てくる可能性が低いであろうよ。深海棲艦を束ねる存在が戦場に出ないのであれば、ワシらは再び海中に身を潜める奴らを捜索する手間を抱えることになる。それは避けたいものだろう?」
「…………確かに」
「ではこちらから打って出た場合はどうか? 基地型らしく奴は島の上に座して戦うだろう。ならば、ワシらができることは、防衛にあたる深海棲艦を蹴散らし、印度提督を討ち取ることにある。そのチャンスを、どういうわけか奴は自ら提供してきた。故にこそ、ワシらは防衛に当たるより、リスクを承知の上で攻めに出るのよ」
出撃する理由を説明すると、ブランディは納得したように頷く。マルクスも口元に指を当てて思案するが、理由をもう一度吟味し、出ていく際のリスクとリターンを考えれば、まだ出る価値があるかもしれないと結論が出た。
一応の納得の意思を示し、その上でマルクスは手を挙げる。
「あなたたちだけで戦うと? 私たちも出た方が良くないかしら?」
「んんん、そのつもりだが? ワシとてリンガだけで事に当たろうとは思わんよ。勝つために、何より我が艦隊を崩壊させないために、敵より優位を取れる方法があるならば、それを採用するのはやぶさかではない」
「そう。愚問だったわ。なら、私たちは共に戦いましょう」
「もちろん僕も共に行こう。ここで守ってもらうってのも性に合わない。それにこっちの深海棲艦の顔ぶれにも興味があるしね。噂の……インド提督? いったいどのようなジェンティルドンナなのか、興味深いよ」
「あんたはそういうことばかり言っていると、いずれ痛い目を見るわよ?」
どこまでいってもイタリア男性らしい言葉を発する様に、マルクスが呆れた表情でたしなめる。
そんな様子を前にしながらも、瀬川もまた腕を組んで少しばかり上を見上げながら思う。確かに飛龍が見たというアッドゥはどんな姿をしていたのだろうかと。願わくばいいおっぱいをした、いい感じの女性像ならいいなあと、そんな風に思っていると、
「提督? 異国の方々の前です。特にマルクスさんの前です。自重された方がよろしいのではなくて?」
「――む? 別に声に出しておらんだろう?」
高雄に後ろからそっと耳打ちされ、瀬川もまた小声で応える。その際、屈んできた高雄の豊かなものが、ふわりと後頭部に感じて、つい表情が緩みそうになってしまったのはご愛敬だ。
「あなたは目は人から心を読まれづらいですが、その分、鼻や口、耳が少々読まれるポイントになるのですよ。気が緩めば、出てしまうくらいにはね。ほら、マルクスさんから見られていますよ」
「…………どうかしたのですか?」
「いいや、何もないとも。仲がよろしくて結構なことじゃあないか」
「別に仲がいいと思ったことはないのですけれど」
「おいおいマルクス、こんなところでもつれないなあ君は。僕は君にこんなに親しみを感じているというのに」
「やめなさい、そういうのは」
そんなやりとりをしながらも、とりあえず明日の出撃のために、それぞれの保有する艦娘たちについての情報交換を行った。マルクスに関しては何度か顔を合わせたことがあるため、ある程度は知っている瀬川だが、ブランディは初顔合わせになる。
どのような艦娘がいて、練度がどれほどのものか。それを知っておく必要があった。
もちろん瀬川のリンガ艦隊についても、今出せる情報を提示し、すり合わせを行っていく。
それぞれの戦力を確認し、アッドゥ環礁を海図で確認しながら、どのように動いていくか。いくつかのシミュレーションを行いつつ、その日は終えていった。