呉鎮守府より   作:流星彗

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宮下の相談

 

 その日、凪は思わぬ通信に困惑していた。

 冬に演習を申し込んで以降、あまり絡まなかった大湊の宮下から繋いできたのだから無理はなかった。思わず居住まいを正し、通信に出ると、「お久しぶりですね、海藤凪」と、微笑を浮かべる宮下の姿がモニターに映し出された。

 

「お久しぶりです、宮下さん。突然のこと驚いております」

「でしょうね。わたしとしても、このような時間にあなたのところに通信を繋ぐ予定はなかったのだけれど、考えたところ、あなたぐらいしか話す相手がいなかったものでして。お付き合いいただけるかしら?」

「はぁ……わかりました。私でよろしいのでしたら、拝聴いたしましょう」

「感謝します」

 

 そこで一つ、宮下はお茶で唇を濡らし、一間置いて話し始める。

 以前に大湊で話したように、彼女は海神を祀る神社出身であり、ひと昔であればオカルトと言われるようなことにも携わっていた経歴がある。大湊を去る際にお守りを受け取った凪だが、それ以外にも占いをすることを凪に話す。

 そしてその占いにて、凶兆を視たとも。そのことに、凪は目を細めた。

 

「凶兆、ですか」

「ええ。ついでに言えば、もう終わったことかもしれないけれど、あの日、あなたの未来に凶兆を視ていたのですよ」

「私に?」

「その結末は恐らく、本土防衛における一連の流れだったのではないかと、今なら振り返れるわね。わたしでは助けにならないとも出ていましたから、ほぼ間違いないでしょう。わたしはウラナスカにいましたからね、どうにもならないため、あなたに伝えるようなことはせず、せめてものとお守りだけ渡すだけに留めました」

「あのお守りはそういう……」

 

 どうして突然お守りを渡されたのだろうとずっと疑問だった凪だったが、そういう理由だったのかと得心がいった。しかしあのお守りは長門に渡し、そして沈んでいった。そのことについて宮下に伝えると、彼女もそう、と目を伏せる。

 

「お守りとはいっても、急ごしらえですからね。そう大した効果が秘められているわけではありません。ですが、そうですか……長門と共に。お守りによって守られるというような効果を発揮できず、すみませんね」

「いえ、良いのです。……辛い現実ではありますが、いずれは訪れるかもしれないことではありました。それを受け入れ、前に進むだけです」

「それは結構。止まることなく進めるだけの気力があるのでしたら、わたしとしてはあなたに対して少し評価を付けましょう。そんなあなたに伝えるべきこと、それは先ほど行った占いの結果です。わたしは再び、凶兆を視ました」

 

 どのような凶兆なのかを凪に話しだす。

 複数の海域に見出した澱み、それが凶事の訪れを暗示しているとのこと。数としては四つ、それに加えて離れた場所に二つ、合計六つの澱みが視えたらしい。

 更にいくつかの澱みに対して、より深い闇の兆しを視たようだ。詳しく視ようとしても底が見えない程に深い闇。それこそが自分が真に気にするべき凶兆ではないか。そう思える何かを、宮下は視てしまったのである。

 

 澱みの位置を考えれば深海北方艦隊は深い闇ではなく、別の何かを感じるものだったようだ。この深い闇の兆しは、二つあるそうな。少し離れた位置に、近い位置で二つ。それから南に離れた方に一つある。深い闇ほどではないが、深海北方艦隊と似たような雰囲気で、何らかの力の胎動を感じられるらしい。

 そして西には小さな澱み、そこから更に西には、力強い闇が脈動しているという。

 

 占いに使う器に満たされた水に映し出された凶兆。このような結果が出たということを一から説明すると、凪は小首を傾げて唸る。実際に見ているわけではないため、説明されたことを頭の中で想像する形にはなったが、彼女の丁寧な説明から想像するに、凪でも少し考えれば何となくこう捉えればいいのではないかと考えられる凶兆だった。

 

「…………深海提督について視えた感じですか?」

「わたしはそう考えています」

「西にある大きなものが欧州勢力を相手取る強大な存在、北がミッドウェー海戦で姿を見せた三笠。となると東で闇が迫っているというのが、中部とアメリカを相手にしている存在、南が先日現れた南方。残る一つが、何ですかね。リンガと戦っている存在でしょうか」

 

 そう考えると、深海勢力の残りは六つあると考えていいのだろうか。それらが占いによって視えたのであれば、何も知らない人からすればにわかに信じられないものだろう。今もなお謎めいている深海棲艦の勢力図が、急に明らかになったようなものだ。それも占いなどというオカルトじみたもので判明したなど、頭がおかしいとされかねない。

 なるほど、確かにこれは報告しづらい案件だ。話す相手に困るのも理解できる。

 

「単に奴らの勢力図が明らかになったというだけではないわ。それだけならば、わたしは凶兆とは言わない。重要なのは、深い闇。澱みすら食いかねない何かが、東に存在している点ですよ」

「澱みを食う闇? ……より強力な深海棲艦が現れる予兆のようなものでしょうか?」

「さて、そこまではわたしにはわかりません。これが何かについては情報があまりにありません。あくまでわたしは占っただけであり、千里眼で全てを見通したわけではありませんので。現時点で言えることは、東の勢力には注意するべし、ということだけです」

 

 ただ、と宮下は指を立てる。

 以前にアメリカのサンディエゴ海軍が、アメリカと敵対している勢力の拠点を潰している。深海提督らしき存在は逃亡したが、敵艦隊はほぼ壊滅に追い込んでいる。ならば、この勢力が動き出すことは、しばらくはないだろうとみられている。

 

 注意すべきは中部提督ではないかと推測されるが、かの勢力も先日のパラオ襲撃において、裏で指示を出した疑惑がある。自分で動かなかったのはミッドウェー海戦の影響が考えられるが、この期間に戦力を回復させたのならば、動き出す可能性はゼロではないだろう。

 今はまだ、深い闇が澱みを食うような感じはないが、いつそれが果たされるかはわからない。そのためより注意すべき存在だろう、と宮下は説明する。

 

「なるほど、忠告、承知しました。ですが、疑問があります」

「何でしょう?」

「何故それを私に? 大本営には伝えづらい話であることは理解できます。このような突拍子もないこと、真面目に取り合ってくれないだろうということも。……ですが、そこで何故私なのでしょう?」

「いい質問ですね。あなたの疑念も理解できます。ですが、簡単な話です。わたしと繋がりがあり、なおかつこのような話を笑い飛ばさずに聞くような輩が、あなたぐらいしかいなかっただけの話です。以前、こちらで艦娘と深海棲艦についてのわたしの見解、あなたは耳にしていたでしょう?」

「ええ、そのようなこと、ありましたね」

 

 長門と一緒に話を聞いたことを思い出す。

 艦娘と深海棲艦はそれぞれ艦の魂をその身に降ろすことができる、巫女や式神のような存在である。巫女や式神というからには、上には神が存在すると考えられ、艦娘は海神、深海棲艦は冥界の神がそれに当たると推測される。

 

 両者は光と闇で表裏一体の関係であり、何らかのきっかけがあればどちらかに反転する可能性がある。これについては実際の例があるので、疑う余地はない。

 色々聞いたが、重要な点はこれらだろう。凪は思い出しながら頷いた。

 

「あの時話したこと以外にも色々想定できることはありますが、それはひとまず置いておきましょう。わたしはこの話をしたことがあるからこそ、この占いをあなたに話しました。そしてもう一つ、理由があります」

「それは?」

「あなたが美空大将との繋がりがあるためです」

 

 そのことに、凪は目を瞬かせる。そういえば以前、大湊に訪れた際にも、傍から見れば凪は美空大将の派閥に属する提督に思われると。

 実際、凪は幾度となく美空大将と直に通信を繋いだことがあるため、言伝があったとしても、誰かを経由することなく、直に伝えることができる。そのことに宮下は目を付けたのだろう。

 

「下を経由すれば、妄言と切り捨てられる可能性がありますが、あなたから直に伝えていただければ、美空大将に情報を届けられることが期待できます。わたしとしても、にわかには信じられない情報ではありますが、しかし今まで視えたことは少なからず実際に起きる確率は高いものでした。そのためわたしとしても切り捨てるようなことはできません。加えて、これからの戦いに影響があることのため、報告しないわけにもいかないと、悩ましい問題でした」

「だから、私に伝え、なおかつ私から美空大将殿へと」

「そういうことです。よろしくお願いします、海藤凪」

「わかりました。あなたの占いについて、私から伝えましょう。あなたには演習をお願いした身でもありますからね。それに、本当にこれが敵勢力についての情報ならば、伝えておかなければならないのは間違いありません」

 

 どこから来るのか、どのような勢力なのか不明な点が多かった深海棲艦。各地で現れる情報からある程度推測できるようになっており、なおかつここ最近の戦いによって深海提督が明らかになったことで、勢力の絞り込みができるようになった。

 この情報によってそれを確定できれば、それぞれの勢力に対処すべくしっかりと指針を固めて行動できる。わからないことに怯えることで迷いを生むよりも、はっきりとした対象に向けて行動した方が安心感がある。

 

 何より深海勢力が残り六つという具体的な数字が良い。潰すべき数がわかる、それすなわち最終目標が明らかになったともいえる。日本としては北方、中部、南方を撃滅すればいいのではないかと考えていたが、それ以外にも勢力がいるのかどうかが疑問点だった。だが、数が分かればこの三つを潰し、それ以外の勢力へと支援へと移れる。

 少々西にある澱みとやらも、日本側か欧州側かで気になるところだが、日本側に近いとなれば、リンガ泊地の瀬川の担当になるだろうか。その辺りの具体的な方針も、美空大将に報告した後に決めることになるだろう。

 

「お話は以上でしょうか?」

「ええ、時間を取らせてすみませんね」

「いえ。……個人的には先ほど、ひとまず置いておくという話も多少気になるところではありますが」

「これですか? 別段、はっきりとした情報もない、推測多数の説ですよ。面白味はあるものではないかと思いますが」

「今までも十分興味深い話ですし、突拍子もなくとも、聞くだけでも損はしないでしょう」

「そうですか。……では、これも神々に関する話ですが、あなたは神を信じますか?」

 

 その問いかけに、凪は少し考える。ひと昔は神とは縁のない生活をしていた。凪だけではない、恐らく多くの人々がそうだろう。初詣などで、神社にお参りをすることはあるだろうが、日常的に神を信じるかどうかといえば、否と答える。

 

 だが現在はどうだろうか。

 艦娘と深海棲艦という人外の存在、妖精というファンタジーから抜け出たかのような個体と、彼らがもたらす現象が当たり前に存在する世の中になった。その世界で、神を信じるかどうかと問われれば、

 

「……多少は信じるようになったかもしれません」

「現在はそうでしょう。しかし以前はそうではなかった。かつては世界にその力を示し、姿も見せていたかもしれない神々が、何故世界から消えたか。その理由の一端をあなたは想像できますか?」

「そうですね……やはり、信仰されなくなったからでしょうか? 科学の発展により、神を信仰する機会が失われたからと考えます」

 

 昔は自然と共に生きていた人類。自然現象などに神を見出していた人類にとって、神々は身近な存在だった。しかし科学の発展により、人は自然と触れ合う機会を少しずつ失う。それでも、まだ神を信仰する人は存在していたが、古代ほどではない。

 

 加えて神を見出していた自然現象なども、科学によって解明されるようになった。様々な事が科学で説明がつくようになってしまったこともあり、それが人が神から離れる要因の一つとなっただろう。

 

 またかつては神託という言葉もあった。何かあった際に神に祈り、教えを乞う。そうして行動を決めていた時代もあったが、人が文明を発展させるにしたがって、神託を受けることも減った。人は、神の手から離れ、自立した存在になったのだ。

 

「信仰も神々にとって大事な要素ですが、それだけではありません。畏敬という言葉が示すように、ただ敬われるばかりではなく、畏れられる存在でもある。信仰と畏れ、二つがあってこそ神はその存在を保つのです」

 

 神の祟りというものがあるように、神は人にとって良いものばかりではない。神の奇跡と、神の罰。これらがあってこそ、神々は畏敬の念を抱かれた。人々からそうした念を受けることで、神の存在が許されたが、人々からそれが消えれば、神の力は地上では振るわれない。

 

 超常の力を示し、畏敬の念を受け、神の力が保たれる。この循環があった古き時代は、まさに神々にとって良き時代だったろう。だが人類が成長と発展を遂げた現代において、そうした超常の力を持つ神々は不要の存在となった。

 だから人々から受ける畏敬の念を失い、神々の存在は地上から消えたとされている。

 

 そのはずだったが、何の因果か、その超常の力は再び地上を覆う。

 人類に牙を剥ける形で始まったそれらと、人類は戦い続けることとなった。

 

「再び神々の存在を匂わせるようになった今、どのようにして始まったのかは問うべき問題ではないでしょう。もはやそれに意味はない。わたしとしては、恐らくもうその時は近いものと考えていますので」

「近い? 何がです?」

「――神の裁き、とでも言いましょうか。そうした、大きな何かが振るわれる時ですよ」

 

 いたく真面目な表情で、宮下はそう言った。

 凪としてはそれは笑い飛ばしたいことだったが、あまりにも真面目な空気のため、そのようなことはできなかった。

 

「そう思い至る理由はあるのでしょうか?」

「先ほども言ったように、畏敬の念が神の存在を保ちます。それすなわち、力が振るわれる土壌が再び構築されているということです。深海棲艦はまさに、人類にとって脅威的な存在であり、畏れを振りまく重要な役割を担います。ただの不可思議な現象として、人類に恐怖を与えているわけではないというのがいいですね。異形の存在というのもそうですが、兵器として見ることができるからこそ、具体的に恐怖の度合いがわかります。異形の存在が兵器を行使し、人類と敵対している。この構図が摩訶不思議な出来事でありながら、リアリティさを保ち、迫りくる死と恐怖を想像させます」

 

 そして、と宮下は二本目の指を立てる。

 

「兵器は、改装して強化できるものです。深海提督という存在が手を加えれば、よりアップデートが容易になるでしょう。人が手を加えて改装、拡張ができる。ここがポイントですよ」

「……?」

「以前わたしは説明しましたね。深海棲艦は冥界の神が遣わした巫女、式神のような存在であると。これらは神をその身に降ろし、神の意志を代行する存在でもある」

「…………っ、神を、降ろす、そこですか……!?」

「通常はできません。そも、この現代において神が降りることなど不可能です。かつての時代ほど神秘性がないですし、神に対する信仰も畏れもなかった。ですが、深海棲艦によって畏れは高まっている。……ただ、信仰心については冥界の神ではなく、艦娘側の神に向けられているかもしれませんが、畏れはただ募るばかりでしょう。そして戦いの年月を経るごとに、艦娘も深海棲艦もより強化されていっている。いい意味でも悪い意味でも」

「強力な個体が作られることで、神を降ろす個体の誕生に近づいている、そういうことですか?」

「ええ。ここまで想像しておいてなんですが、わたしとしてはほぼ無理だとは思っています。良くて神そのものではなく、神の力の一端が降りてくるだけでしかない」

 

 理由は簡単だ。

 畏れは確かに満ちているが、それでも神そのものが降りてくるほどではない。神々が存在したとされる神代と比べても、この世界は神が存在を保てるだけの神秘性はない。

 

 また、神を降ろす器が耐えられない。神という強大な存在を収めるだけの深海棲艦となれば、それだけでも十分強力な個体である必要がある。神が発揮する力に耐えられる体であると同時に、神をその身に満たすだけの器の容量が必要だ。

 

 何かを入れるには器が必要だ。水を満たすにしても、器には様々な形が存在するが、コップ、タイル、ボトル、樽とこれだけでも色々ある。タイルに満ちた水をコップに入れれば、誰が見てもタイルの水全てがコップに入らないのはわかるだろう。入りきらないものは溢れてしまい、コップの質によっては水の勢いに負けて損傷する。

 神も同様だ。これだけ強力な存在が、果たして誰かの体に全てを収められるはずがない。

 そうした理由を説明すると、凪もなるほどと頷いた。

 

「ですが、敵は『水鬼』という存在まで作り上げてきました。計測された力の波動も、空母水鬼は空母棲姫のそれを上回っているようです。あなたの仰る器の制作は順調と見えましょう」

「それは否定できないのが痛いところですね。まったく、敵の作り手は相当腕がいいのでしょう。恐らくそれを見込まれて深海提督とやらに抜擢したのでしょうが、これまでのわたしの推測が当たっているのでしたら、冥界の神とやらの選択は大したものですよ」

 

 美空星司は生前よりそういった技術を保有する人物だった。仮に宮下の想像通りの動きを期待されているならば、かの星司が大きな鍵を握っているやもしれない。ならばこそ、早急に星司を倒す必要がある。

 トラック泊地の茂樹を中心とした艦隊で事を進めれば、空母水鬼以上の強力な個体が生れ落ちるスピードが低下するかもしれない。奴を討つ理由が、また一つ増えたようなものだが、あくまでもこれは宮下の推測によるものだ。でも、懸念すべき事柄ではあるし、当たっていれば目も当てられない。

 

「では、トラックの茂樹にも伝えておきましょう。中部提督の拠点を発見し、全てを滅する。それが叶えば、あなたの思い描く未来は遠ざかるやもしれません」

「そう願います。……長々と話してしまいました。時間を取らせてすみませんね」

「いえ、実に興味深い話を伺いました。美空大将殿へは明日、お伝えします」

「よろしく頼みます」

 

 お互い頭を下げ合って通信を切る。一息ついて冷めてしまった紅茶を口に含みながら、彼女の話を思い返す。色々と興味深い話だった。にわかには信じられないことばかりであったことは間違いない。

 だが彼女が不思議な力を持っていることは間違いないことだ。それは、彼女の目によって大和のことを見破られたことが証明している。ならば彼女が視たという凶兆、そして彼女が思い描く未来のことも、多少は信じられることだろう。

 

 深海提督のことを考えた時、一つ思い出されたことがあった。

 本土防衛戦の最後、大和へと中部提督が声をかけてきたことがあった。その場にはおらず、艦載機を通じたものだったが、呉にとってはそれが初めての深海提督とのやり取りだった。

 

 また宮下も北方提督とやり取りをしたのだとか。しかも指揮艦へと直接通信を繋いでのものである。中部提督は間接的な、北方提督は直接的なもの。この前例を活かしてみてはどうだろうかと、凪は考えた。

 

 北方提督の場合は、宮下の協力が必要になるが、中部提督の場合はあの時の波長の記録が残っていれば使いようがあるかもしれない。これらのデータを用いれば、もしかするとこちら側から深海側へと繋ぐことができる可能性が出てくるのではないか。

 この新しい推測と課題をクリアすれば、次に邂逅する機会があれば……と考えてしまう。

 

 そして翌日、早速美空大将へと宮下の話を報告しようとしたのだが、通信に出たのは彼女を補佐する大淀だった。どうしたのだろうかと首を傾げると、大淀の話によれば、美空大将は連日工廠に詰めていて忙しいとのことだった。

 

 色々な計画を同時に進めているようで、忙しい日々が以降も続きそうな目途とのことである。これらの計画を完遂させれば、色々な艦娘の追加や強化を望めるので、止められない。ただ本当に忙しそうなので、大淀もブレーキをかけなければならないと、他の部下と一緒に美空大将に交代制で付いているようだ。

 

「急ぎの報せでしたら、私からお伝えいたしますが」

「いえ、そこまででは。時間が取れましたら俺から大将殿へお伝えしますので、その際には連絡いただければと」

「わかりました、そのようにします」

 

 宮下の願いについていきなり出鼻をくじかれてしまったが、元より彼女は大将の地位にある人だ。気軽に連絡がつくような相手ではないのだ。今までがスムーズに取り次げることが多かったのが、運が良すぎただけのような気がしないでもない。

 今日のところは美空大将への報告は先送りにするとして、トラック泊地の茂樹へと通信を繋ぐことにするのだった。

 


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