北川第一にきてからはや、二ヶ月が過ぎた。いつもは男女別の体育館だが、今日はもう一つの体育館が使えないということなので、一つの体育館を半分にして使う形となっている。これは余談だが、最初の1日目は女子はすぐ終わるからという理由で一緒にしていた……しかし、次の日から体育館丸ごと使えていたためビックリした。やっぱり、小学校の時とは違う。
「おい!聞いてんのか?」
横を歩いていた飛ちゃんが目の前で手をおーいというように振る。それに、今は飛ちゃんと部活にいく途中だったと思い出し返事をした。
「聞いてる聞いてる」
「嘘だろ!ぜってー嘘!」
「何故にばれたし」
「逆になんでばれてないと思ってんだよ」
飛ちゃんはやっぱり鈍感だからバレてないと思った。でも、バレーをする時は鈍感じゃないんだから日常的にもそれを発揮してほしい。
「で、なんの話だっけ?」
「及川さんの話だ」
「誰?それ」
「俺んとこの先輩。ほんとに凄い人なんだ」
「へぇー、そうなんだ」
正直、興味がない。理由は名前だけでチャラチャラしてそうだから。及川さんが凄いって話を聞かされながら歩いていくと目の前にバレー部の服を着た男子生徒が目に入る。
「ねー、あれってバレー部の人だよね?」
「ん?……及川さん!?」
「あれが及川さん?」
やっぱりチャラそう。
「行ってみよう」
「待って!あれって…女子といない?」
「…本当だ。なにしてんだろ」
「いや、完璧に告白でしょ」
「告白?」
うん、やっぱり飛ちゃんは鈍かった。まだ、行こうとする飛ちゃんの手を行かせないように引っ張っていると、向こうは告白が終わったようでクルリと此方の方へ向き……気づかれた。
「あっれー?これはこれは飛雄ちゃんじゃないか」
「どうもっす。及川さん」
「そっちの子は誰かな?もしかして飛雄ちゃんの彼女?」
「勝手に彼女にしないでください。不愉快です。そして目の前に現れないでください。不愉快です」
取り敢えず、チャライのは嫌いなので最初っから嫌っておく。こういうのって最初が肝心だから。
「なにこの言われよう!まさか!飛雄ちゃんがなにか言った?」
「チャラ川先輩。少し黙って下さい」
「ちょっ、略さないでいいから!」
「すみませんでした。チャライ及川先輩」
「そういう意味じゃなーい!」
肩を上げ下げしながらツッコミをしてくる及川先輩(笑)に飛ちゃんが「大丈夫ですか?」と近寄る。しかし、その手を払い退ける及川先輩(クズ)。
「飛雄ちゃん……俺は負けないんだからねっ!」
「はぁ…なにがですか?」
「だって、可笑しいじゃない!さっき俺、振られたばかりだよ!?なのになんなのさ!飛雄ちゃんはそんな可愛い女子連れて!!」
さっきのは告白じゃなくて振られてたのか……
「いや、こいつ…幼馴染なんで」
「おさ…ななじ、み!?そんな…可愛い子が幼馴染………」
「可愛いですかね?よくわかん……」
「飛雄ちゃん。眼科に行った方がいいよ」
飛ちゃんの肩に手を置き、可哀想な目で飛ちゃんを見る及川先輩(ナンパ野郎)。しかし、可愛いか……言われたことあったっけなぁ?悪い気はしない。まぁ、チャラ川先輩じゃなかったら最高だったかもしれない。
「もうそろそろいいですか?私、暇人と絡んでる暇はないんで」
「性格直した方が可愛いよ君」
「クズ川先輩に言われても直す気が起きません」
「ねぇ…飛雄ちゃん。この子いつもこうなの?」
「いえ……こんなに酷いのは初めて、ですかね」
「なにそれ、遠回しにかなり嫌いっていってんの?」
「私、チャライ人嫌いなんです」
「俺はチャラくないよ!!」
えーー、さっきから校舎の二階の方から「及川くーん」って、言われては笑顔で手を振っている人がチャラくない?そんな馬鹿な。あっ、また手を振ってるし……
「とにかく、失礼します」
「ちょ、ちょっと待って!!」
「なんですか?」
「メアドと名前を教えてくだーーー」
バチーン、
物凄い音を立てて飛んできたバレーボールが及川先輩(ダサい)に当たる。それにバランスを崩してしまうほどの威力。頭をさすりながらボールが飛んできた方を見る及川先輩の顔は涙目だ。
「いたぁ!?」
「クソ川!なにしてんだ!」
「ちょ、岩ちゃん!!これは痛いから止めてっていつも言ってるじゃん!!」
「そんなの知らねーな。体育館前でナンパしているクズ川がいたらボール投げるのは当たり前だろ」
「そんな当たり前俺知らない!!」
体育館から出てきたのは多分3年生の男子バレー部員。こっちの先輩はチャラくないから大丈夫そうだ。
「ねーねー、飛ちゃん。あの先輩は?」
「ん?あぁ、あの人は岩泉さんだ」
「すまんな、うちのクズ川が迷惑かけた」
「いえ私は大丈夫です。さっきのでスッキリしたので」
「ちょっ酷い!!二人して俺をイジメないで!?」
少し涙を流しながら(嘘泣き)及川先輩は岩ちゃんの肩を叩いている。岩泉先輩も大変そうだなぁ、と思いながらその光景を見ているとまたしても体育館の方からボールが飛んでくる。
「いたっ!?」
「ちょっと、及川。うちの後輩をいじめないでくれる?」
「どちらかというと俺の方がいじめられてるんだけど!?」
「ごめんね、桐原。及川のことはほっといていいから」
「はい!佐藤部長」
佐藤部長が来たので、一緒に体育館に入ろうとすると、またもや及川さんに止められた。なんなのかね?イジ川先輩(イジられ及川)。
「そうそう、桐原ちゃん。俺は飛雄ちゃんには負けないから」
「それは本人に言ったらどうです?それに、どれだけ及川さんがすごいのかは知りませんが飛ちゃんには勝てないと思います」
「……へぇ?飛ちゃんを信頼してるんだね」
「?…当たり前じゃないですか」
「でも、飛雄はまだ俺には勝てない」
初めて、及川さんの本当の姿を見た気がした。闘志を剥きだしにした目に誰にも負け無いという威圧。それにあぁ、と納得する。
間違いなくこの人は強い、と。確かに今の飛ちゃんでは勝てないと。
「はは…確かに今の飛ちゃんでは勝てそうにありませんね」
「あれ?認めてくれた?」
「えぇ、チャラ川から昇格してチャ川ですよ、先輩?」
「それ、昇格してんの!?」
この人なら飛ちゃんを任せられるな。まぁ、こんなこと言ったら飛ちゃんに「余計なお世話だ!」って怒られそうだけど。そんな事を考えながら私は体育館の中へと向かった。
◆◇◆◇◇
「ふんだ!飛雄ちゃんとかもう知らない!!」
「いや、及川さん。急になんですか?」
雛が部活に向かった後、俺は及川さんにまだ捕まっていた。岩泉さんはさっき顧問に呼ばれていたので当分戻ってこないだろう。
「なんで教えてくれなかったのさ!」
「いや、だからないがですか?」
「だ〜か〜ら!!あんなに可愛い幼馴染がいたことだよ!なんなの?知られたくなかったの?俺にとられるのが怖かったの?」
「はぁ…聞かれなかったからですけど…」
何言ってんだ。この人は…と思いながら返事を返すと及川さんは面白くないといった感じで頬を膨らませる。雛の何処を気に入ったのかは知らないが及川さんにはなんとなくもう雛と会って欲しくない。
「そんなことよりも、最後、何を話してたんです?」
「最後?…あぁ、別れ際のやつね。それは…ヒ・ミ・ツ☆」
「(カチン)」
「あれ?怒っちゃった?飛雄ちゃん怒っちゃったの?」
「怒ってないですよ!」
何を話していたか気になるが、後で雛に聞けばいいかと考え、俺は怒りを鎮めた。一回一回、及川さんに怒っていては身がもたない。
「及川さん、早く俺たちも行きましょう」
「えーー、もっと必死に聞いてきてよ。面白くないじゃん」
「いえ、後で雛に聞くんで大丈夫です」
「へぇ、幼馴染の名前雛ちゃんって言うのかー」
やべっ、やっちまった。と後悔しても時遅し。ニヤニヤと変な顔をした及川さんはスキップしながら体育館の中へと消える。その後ろ姿を見ながらーー
「はぁ……なんだ、この変な感じ」
と呟いた。
◆◇◆◇◇
「はい、それじゃあ最後に試合をしまーす。みんなそれぞれチームに分かれて!」
『はい!!』
あと練習時間が一時間を切った頃、今日は試合をするということで6人ごとのチームを作る。部員数はマネージャーを入れて14人。十分試合が出来る人数は揃っている。
「桐原ちゃん!こっちのチームに入ってくれるかな?」
「分かりました!」
嵐のような先輩、嵐山先輩(そのまんまだった)に呼ばれてコートの中に入る。セッターは私を入れて二人いるのでこれも丁度いい。
「それじゃ、始めるわよ。マネージャー、審判お願い!」
「はーい」
ピーと笛が鳴る。それが開始の合図のようですぐに試合が始まった。最初は向こう側の攻撃。サーブに備えてレシーブの態勢に入る。
「行くよー!はい!」
綺麗な弧を描いてボールは私の方へ飛んでくる。それをちゃんとレシーブして他の先輩がトスを上げそれを嵐山先輩が打つ。
「よし!!」
出だしは好調! ブロッカーをもろともせずそのボールは相手コートの中へ落ちていった。
練習試合
1対0
及川さん好きの人には申し訳ない。
一応、作者も及川さんは好きです。ですが、主人公には嫌われちゃってますね。
それでも、大丈夫なのです!
あとから、及川さんの好感度は上がっていく…いや上がらせてみせる!!と思っておりますのでこれからも見ていただけると嬉しいです!