◇
僕は美九との買い物の約束を果たすため、二人で大型ショッピングモールに来ているんだが。
目の前にはいつもとは違い、後ろで束ねた髪に、白のワンピースを着て大きめのサングラスをした美九がいた。
「まぁ~これも可愛いですぅ。どうですぅ似合いますかぁ?」
「あぁ似合うよ」
どうしてこうなった。
今、僕は非常に肩身が狭い思いをしている。
それもそうだろう。目の前には女物の水着が大量にあるのだから。
男なら、誰もそんなところに、好き好んで入っていかない。
だが、今回の買い物の目的が美九の水着を買うと言うことにでなければ。
「あぁ~こっちもいいですねぇ。あ、こっちもなかなか」
(女性客の視線がいたい。しかも夏な事もあり人が多いような)
「かぁくん。どっちが可愛いと思いますかぁ?」
差し出されたのは、水色の生地に白い花のワンポイントが入ったビキニと、同じ色のワンピースだが、こちらはワンピースなのに布地が少なめだ。
つまり彼女はどちらかを、僕に選べと言うのだろうか。
「ど、どっちも似合うよ」
「……………さっきからそればっかりですねぇ。ちゃんと聞いてますぅ?その耳は飾りですかぁ?」
「なんか久しぶりだな、美九のその言い方」
「む~~ちゃんと選んで下さいぃ。じゃないと意味がないんですぅ」
「え、なんで?」
「な、なんででもですぅ!!と、とにかく選んでくださぁい!」
叫びながら二つの水着を、僕に押し付けるようにつき出してくる。
僕は左右に目を揺らしながら、困惑していると、女性客や店員から笑われている気がして、何となく恥ずかしい。
やけくそになって、どちらかではなくそこら辺の、ハンガーを適当に手にとって彼女につき出す。
「こ、これが良いんじゃないか?!」
「え、かぁくんはこんな水着がぁ?」
「へ?」
手に取った水着を改めてみると、黒色のビキニだか、美九が選んだものよりさらに布地が少ない、その………かなりきわどいデザインだ。もし胸の豊かな美九が着たら。
「これを私が着たら………」
「い、いや違うこれは!」
「…………で……………よね…………うん」
「え?なにその頷きは?!」
「すみませぇん。これくださぁい」
「それ買うの?大丈夫なの?おーい美九さん!」
結局美九はそれをそのまま買い上げたのだが、よくよく考えれば水着を買うなら男の僕じゃ無くて、誰か女性と来ればよかったのでは?と思うが、思っても、もうすでに終わったことなので、どうすることもできない。
そこからは僕はもう帰ろうとしたのだが、彼女の『お腹好きませんかぁ?美味しいカフェテリアを知ってるんですぅ』という言葉で、そのままショッピングモールを出て彼女の案内でお洒落なカフェテリアに来ている。
なぜ途中で帰ろうとしなかったのか。それは、彼女が腕を組むように絡めるようにしてきたので、振りほどくことができなかったからだ。
(あんな笑顔で言われたら、断れないだろがぁ!)
色々と思うところがあるが、今は……今はこの状況だろう。
何せここも女性客ばかりか、恋人同士の人ぐらいしかいないので、かなり気まずい。
「さぁて何にしますぅ?これとかお勧めですよぉ?」
「え?あぁ美味そうだな。お?こっちも良さそう」
「ふふふ………やっと普通になりましたぁ」
「いや、開き直っただけだ。今日を楽しまないとな」
(時々忘れるが、僕は一回死んでいるんだ。文字通りの第二の人生。もちろん生きるために色々やるが、楽しまないと)
「じゃあ僕はこれにするか。美九は?」
「私はこれにしますぅ」
「じゃあすみませーん」
それからは軽食をとりながら、雑談をしていて少しずつ冷静さを取り戻すと、いろいろ考えが浮かんでくる。例えば、なぜ水着を買ったのか?とか、さっきも考えたが、なぜ俺と買いにいったのか。あとこんな簡単な変装でよくバレないよなとかの素朴な疑問。
だからと言って問いかけた所で、美九が正直に言うはずもない。
そう言えば、八月の話も何度聞いても正直に話してくれなくて、秘密とか言われてどんなことがあるのか、まったくわからないのだが彼女の事だ、変なことはしないだろうが。
まぁ、期待半分、不安半分って所かな?
◇
食後に僕はコーヒー、美九はカフェラテを頼んでゆっくりしていると、彼女が突然思い出したようにバックをあさって、封筒を取り出した。
「ん?なにこれ」
「今度のライブのチケットですぅ。もちろん最前列ですよぉ」
「え?今度の最前列チケってすごく高かったんじゃ?それで僕、B列くらいまで格下げしたのに。なんで?」
「マネージャーに無理いって用意していただきましたぁ」
「いや、でも………」
「?どうしたんですか?嬉しくないんですか?」
「いや、嬉しいけど、これで他の人が最前列で見れなくなるだろ?それはなんかな……」
「そう……ですかぁ?残念ですぅ。せっかく用意したのに。かぁくんにはいつでも一番近くで見ていて欲しかったですぅ」
「ごめん。でもほら!僕たちこうして会ってるし、出来るだけ俺もライブとか行くからさ」
「そうですよねぇ。プライベート出会ってますし、それに…………もありますから」
「ごめん。最後聞き取れなかった」
「いえ、なんでもないですよぉ。カフェラテおいしいですぅ」
なにかを誤魔化されたような気もするが、彼女がなんでもないと言うなら、深くは聞かないが。
やはりなんとなーく、いやな予感がする。今回の一見と良い僕が恥ずかしくなることばかり起きてる気がするのは自意識過剰だろうか?
でもこれからのことを考えると、彼女との仲を悪くする意味がないし、それに彼女といると毎日退屈だった。前に生きていたときには僕は毎日やることもなく過ごして、美九は声を失って絶望している頃だろう。そんな彼女を思うと、やはり救えて良かったと思うが、あくまでも俺が救ったのは彼女だ。多分誰かが『精霊』になる因果律までは変えることができない。
そんな力は
(?!なんだ今の違和感は?気持ちが悪い………うぅ)
「どうかなさいましたぁ?」
「い、いや。なんでもない。なんでも。ちょっとトイレに行ってくる」
僕はそのまま席をたち、トイレに急ぐ。
トイレに着くと、洋式トイレにさっき食べたものを吐いてしまった。
「うぅ、げほげほっ………なんなんだよいったい?」
生き返ってからのはじめての異変。
しかし、吐いたら収まったので、とりあえず軽く手洗い場で口元を洗い席に戻った。
美九が心配してくれたので、なんでもないと言っておいたのだが、あの感覚はいまだに残っている。
◇
カフェテリアを出る頃には、気味の悪い感覚は消え去り、いつも通りになったが、一人になる気にはなれなくて、美九にある提案をする。
「なぁ、美九。このあと……まだ大丈夫か?」
「え?は、はい。大丈夫ですぅ!」
「そうか。じゃあ、ちょっとぷらぷらするか?」
そのまま僕たちは、街中を適当に歩き回ることにした。
場所は商店街によったり、住宅街にある小さな雑貨屋に入ったり、駅前のCDショップで色々な曲を聞いたりして彼女と笑いながら街を歩いた。
日も傾き始めたので、高台にある、夕陽が綺麗に見える公園のベンチに彼女と座っている。
「…………………なんにも聞かないんだな」
「なんのことですかぁ?」
「こんな事、僕いままでしなかっただろ」
「そうですねぇ。でも、楽しかったですからぁ」
「楽しかった?そうか………うん。僕も楽しかった。ありがとう、美九」
「えっ?!い、いえ、そんなぁ~」
美九はそう言うと顔を伏せてしまった。その時の彼女の顔が赤かったのを、僕は夕陽のせいだと思っていた。
「本当に、ありがとう」
◇
美九のおかげで気分転換ができて、この日はいい気分で帰宅することができたのだが、それでもあの時の感覚について考えなければならない。
あの時の言いようも無い感覚。強いて言うならば、自分の体から自分自身が他の何かに押し出される感覚と言うのか、ともかく自分を失うような感じがして気持ちが悪かった。
(まぁ、それでも美九いて楽しかったし、すぐに治ったから良いか)
◇
一方そのころ誘宵邸・美九の部屋
今日はかぁくんに無理いって、水着を買うのを手伝ってもらいました~
あの時のかぁくん赤くなって可愛いかったです。
そのあとも一緒にお茶を出来て楽しかったのですけど、途中からかぁくんの様子がおかしくなっていました。私といるのがいやになったのかと思ったのですけど、どうもそうではなくて気分が悪くなってしまったようでしたぁ。
そのあとは、かぁくんからまさかのお誘いがありましたぁ。
彼の気分転換も含めてのことですけど~。その~まるでデート見たいでぇ。ってなに言わせるんですかぁもう~~!
とは言え、本番は『八月のあれ』ですねぇ。ふふふ……
書いていて思うこと。
美九って『こんなキャラだっけ?』とか思ったり。
そろそろ時間飛ばさなきゃ原作に入れない。2年丸々は無理だ。尾田先生の「ワン○ース」じゃ無いですが、そろそろ原作に入っていきます。
それと少しずつですが、そろそろUAが500を越えそうです。
読者の方々ありがとうございます。そして、これからもよろしくお願いします
誤字・脱字があれば遠慮なく教えてください。確認してすぐに直します。
それでは、また次回