デリート・オア・ライフ   作:サカズキ

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デリート・オア・ライブ

しばらくした後の誘宵月乃のライブ開催日。 僕はこの日の為にと販売チケットのなかで最高値の 最前列を獲得した。 払った犠牲は大きいがあの子を救うためと思えば安いものだ。そう安いものさ………

 

ライブが始まる前にも、ここにいる奴らは彼女に対して罵倒侮蔑の言葉を吐いていた。その度に殴りたかったが、今そんなことをしてもこれからの行動に支障を来すだけなのでなんとか耐える。

それに、救うなんて言っているが彼女の心に響かなければ、ただの1ファンの戯れ言・暴走と捉えられる可能性もある。

 

(そのための言葉も用意しているけど、できる限りはその場での言葉の方がいいか?)

 

用意していると言っても、やはり心からの言葉には変わりはないが、それだけでは足りない気がする。 もっと感情的に彼女に思いを届けられなければならない。

 

(そう考えると、難しいんだよな。演説みたいなのしたこと無いし)

 

そうこうしてるうちに、ライブが始まり彼女が登場し、マイクを手にイントロの流れ始めた曲(この曲は新曲だろう)を歌い出そうマイクを口に近づけるが、何故か声が聞こえて来ずに、スピーカーからは曲と空気の音が流れているのみ。

 

この瞬間に誘宵月乃の歌は一度死にかける。

けれどそんなことはさせる訳には行かない。

そのために僕はここに来たのだから。そう思うと同時に、僕は今いる最前列の端の方へと移動して、手頃な箱があったのでそれを踏み台にして、高いステージの上へと登り彼女の方へと歩み寄る。

 

「……ぁ…………ぅ」

 

声になら無い彼女の言葉は、顔から察するに寄らないで、怖いなどの表情だ。

だが、スタッフなんかも俺をステージから下ろそうとするだろうから、あまり時間を無駄にはできない。

僕はそのまま僕は彼女に言葉をかけることにする。

 

「怖いならこれ以上は近づかない。ただ話を聞いてほしいんだ。今まで君に酷い事を言ってきた奴らは許せないだろうし、許さなくても良い。けど少なくともここにいる僕は今日この日に、君の歌が聞きたくて、君のためになりたくてここにいる」

 

ステージ脇からあいつを止めろ、下ろせ等の声が飛んでいるが僕はまだ彼女に伝えなきゃならないことがある。

 

「君の歌で救われた人だってたくさんいるはずだ。 今は変な噂でかき消えているけど、きっとそんな声もあるはずなんだ。いや、それは君が一番分かっているだろう?今まで声が出なくなるほどまでに頑張れたのは、君に歌があったからだろ」

 

警備員やスタッフが、僕の事を押さえにかかるが、 抵抗しながら彼女に叫ぶ。

 

「頑張れないなら叫べ!辛いって大声で!誰だって弱音を吐くさ!それが人間だから!」

 

「……っぁ………ぅ…」

 

「泣きたいなら泣け!悲しいなら、痛いなら痛いって言えよ!《俺》が全部受け止めてやる!!」

 

羽交い締めにされながら、僕はステージの裏に連れていかれかけた、その時にスピーカーからが急に大きな声がした。そう彼女の声だ。

 

「辛いです!!」

 

「?!美………九?」

 

「痛くて、苦しくて、毎日が辛かった、でも私には歌がありました!歌があるから私は頑張れました!けれどさっき声が出なくなって、怖くて、必死に歌おうとしても声が出なくて…………でも、もう大丈夫です。私は負けません!……私の歌を!聞いてくださいぃ!」

 

すでに俺は舞台裏の部屋に連れていかれて、色々と質問攻めだが、ここに連れてこられる間、聞こえていた彼女の声は確かに力がある、彼女の自信溢れる声だった。

 

部屋で一人にされると、しばらくして彼女のマネージャーらしき人が、部屋(楽屋というやつだと思う) にやって来た。

 

「君はいったい何をしたか分かっているのか?」

 

上からの物言いはともかく、なぜこうなったかをこの人は分かってないのか?

 

「それはこっちのセリフだ。あの子があんなになるまであんたは放置していたのか?」

 

「そんなわけ無いだろ!私だって、やれることはやっているつもりだ」

 

「やれること?はっ!彼女が歌えなくなるほどになるまで、あなたは放っておいた?違うか!」

 

「っ!それは……」

 

「言い訳か!それを美九の前でできるか?」

 

「なんでお前あいつの名前を……」

 

「それは、彼が私のお友達だからですぅ」

 

ドアをあけて入ってきたのは、ライブが終わったのか、汗が少し額に浮かんだ誘宵美九だった。

 

「マネージャー。少し席を外して下さい」

 

「だが……」

 

「お願いします」

 

「分かった」

 

はっきりとした声でそう言った彼女に押されて、そのままマネージャーは部屋を出ていき、この部屋には僕と誘宵美九だけになった。

 

「さて、まずはお礼を先に言っておきます。さっきはあなたの言葉で声を出すことができました。ありがとうございますぅ」

 

そう言うと彼女は深々と頭を下げてきた。

 

「や、止めてくれ僕はただ君の歌が好きで」

 

「うふふ………それでもあの時貴方が、もう少し歌う勇気をくれてのは確かですぅ」

 

「あ、い、いや参ったな」

 

俺が目をそらしながら照れ隠しに頬を掻く。それを見て彼女は微笑みながら、そこにあったパイプ椅子にふわりと腰掛けて、僕も別の椅子に座る。

 

「それでは、なぜあなたは私の名前を知っているのですか?」

 

「あ~やっぱりそこなんだ?」

 

「当然ですぅ。私は本名は完全に伏せてますから、 事務所関係者以外は知らないはずです。それなのに、どうして?」

 

「え~と。その~~………秘密ってことはダメか?」

 

「さぁマネージャーを呼びましょ~」

 

「だぁーー!分かったわかったから!」

 

そう言うと彼女はニコッと笑う。なんかちょっと怖い。

ここで追い出されるわけにはいかず、それから僕はかいつまんで……かなりバッサリ切り落として、未来の事がわかり、それで今回美九が歌えなくなることを知っていたと話したら。

 

「………………」

 

「信じては……もらえないよな」

 

「……いいえ。信じますぅ」

 

「そうだよな信じてくれるよな~。はぁ~………ってえぇぇ~!」

 

「なんですか、それ?新喜劇ですか?」

 

「いやいやいや!信じるの?あれを?」

 

「はい。信じますぅ」

 

「なんで?」

 

「貴方が嘘をついているようには見えませんしぃ。それに」

 

「それに?」

 

彼女はじっと俺の目を見つめながら微笑み。

 

「私の大切な恩人ですから」

 

あの時の彼女の瞳の輝きは、生涯忘れることの出来ないものだろう。 とても清んでいて、きれいで、そこには決心の炎が揺らめいていた。

 

 

 

 

 

「ただし、条件がありますがぁ~」

 

その言葉で俺のなかで、彼女への評価が少し変わった瞬間だった。




後書きですが特に書くことがありません。

ですので、感想を書いてくださるかたにネタを募集します

書いてくれたネタから独断と偏見で選んで、作品のなかに織り混ぜていきます

あくまで、一発ネタなので設定には影響しません。


こんな事して良いのか分かりませんが、もしこれが面白いなどありましたら
感想に書いてください。それではまた次回

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