久方ぶりの投稿ですかね?
いつだしたか忘れましたが
そんでもって今回は言い回しが分かりにくいかもしれません。
それでは、本編どうぞ
◇
一也の視界は暗闇におおわれている。
それだけではなく、手足には何やら太い縄のようなもので大の字のように縛られている。
近くには人の気配がするが、話しかけてもこないしずっとこちらを見ているかのよう。
(いや、何となく誰だかは分かるんだけど)
彼を縛り監禁紛いの事をするのは、大体二名程度だ。
一人が五河琴里というかフラクシナスという一括り。
もう一人は、誘宵美九。一也の彼女であり少々愛が逸脱した人気アイドルだ。
「い、いるんだろ美九」
恐る恐るという感じで目隠しで見えないが、気配のある方に声をかける。
するとその方向から聞き覚えのある美九の笑い声が聞こえてくる。
いつもなら可愛いと思うその声も、いまの状況では恐怖でしかない。
美九の気配が近づいたと思うとギィという音がして、一也の体が少し沈む。その際に少し衣擦れの音がする。
音と感触からしてベッドに寝かされていると思われる。
「かぁ~くん。ふふ」
「これはどういうことかな、美九?」
「ふふふ。かぁくんがいけないことするからですよ」
「いけないこと?なんのことだ」
見えないが一也は美九が、顔を近づけたのがわかる。
息がかかるほどの距離で美九はその声を発する。
「かぁくんは私の彼氏ですよね?」
「あ、あぁそうだな」
「じゃあ、あの女は誰ですか?」
「あの女?誰のことだ」
「前に街で一緒にいた黒髪のポニーテールの女ですぅ」
「なッ?!(見られてた?十香とのデートを見られてた?)
「かぁくんの彼女は私なのに、なんでかぁくんはあの女と一緒にいて、一緒に笑って楽しそうに。私はかぁくんとデートあまりできないのになんで?なんであの女とはデートしたの?ねぇ、なんで私がいるのにどうして!!」
一気に捲し立てるように、言葉を一也にぶつける美九。
いつものおっとりとした口調からは想像できないほどの早さだ。その上、歌手なので声量もそれなりにあり、すぐ近くに耳のある状態ではかなり大きい声だ。
「み、美九あのな、あれには深い訳が………」
「訳ってなんですか?と言うか、そもそもかぁくんは他の女とは事務的な会話以外は話す必要なんて無いんですぅ。かぁくんが話していいのは、見ていいのは私だけなんですぅ!」
「ぁぐ………」
またもや捲し立てられ、なんにも言えない一也。
だが次の言葉は今までとは、少し違う感じだった。
「私には……かぁくんが……必要………なんです。かぁくんがいなくなったら私は………歌うことも、生きていくこともできません」
「美………九?」
「私にとってかぁくんは私が歌えるようになった恩人で、大好きな人で、一番大切で………そんなかぁくんがいなくなったら、歌うことがまた出来なくなります。嫌われるのも嫌です。出来るのならば、ずっとかぁくんと一緒にいたいです」
その言葉とともに美九が顔を離すのがわかる。
同時に一也は自分の胸に何かが落ちてくるのを感じた。
液体のような何かで、正体はすぐにわかった。美九が泣いているのだ。
「……美九。手足のほどいてくれ」
「でも、ひっく……ほどいたら、どっか……行っちゃうんじゃ」
「どこにも行かない。だから、な?」
しばしの沈黙のあと手足のロープが緩み、手足が自由となった。
自分の手で目隠しをとると、そこにはベッドに所謂女の子座りで泣いている誘宵美九がいた。
それを見た瞬間に、一也はばっと美九のことを抱き締めた。
「ほぇ?」
「大丈夫。どこにも行かない。僕は美九のそばにいるから」
「ずっと?」
「あぁ、ずっと」
「私の事好きですか?」
「好きだよ」
「愛してますか?」
「うん。愛してる」
「…………なら、安心できます」
彼女は擦り付けるようにして、一也の胸に顔を埋める。
幸せそうに、微笑みながら。
「でも、それとこれとは話が別です」
「へ?」
次の瞬間、抱き締めていた一也が今度は逆に美九にがっちりと抱きつかれて、離れられない状態になる。
一也を見上げた彼女の目に光は無く、どんよりとした目になり、一也は背筋に悪寒が走った。
「さぁかぁくん。今日はしっかりと、私との関係を深めましょうね?あんな女が近づけないくらいに………」
「え?ちょ!美九さん待っ…………ギャァァァァァァァァ!!」
その後、一也に会った士道や十香に、琴里を含めたフラクシナスのクルーはこの時の一也のことをこう言っていた。
「生きた屍」と。
◇
それから数日後。フラクシナス艦内にて
春も深まったこの季節に、士道と一也は完璧な空調の効いた場所にいる。その理由は二人のメディカルチェックと、あとはこれからの事を説明するためである。
「シンは問題なし。カズは相変わらず精神状態が芳しくないな。イライラするならカルシウムをとりたまえ」
医務室で村雨令音解析官の問診や機器の使った検査が終わり、ベッドに座るようにしている一也と士道。
士道は当然健康で、一也の場合は数日前の後遺症が残っているようで、たまにふらつくことがあるらしい。
「おい……一也大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない」
手を挙げてなんとか虚勢を張るが、内心は結構グラグラ来ているよう。
その証拠に地についた足が少し震えている。
「おい、本当に大丈夫かよ……」
「ダイジョブダイジョブ!慣れてるさ、ははははは!」
笑う一也の目に光は宿っておらず、どこを見ているのかもわからない。
「ふむ。これはメンタルをしっかりケアしなければ、いつか壊れるな」
「令音さん他人事のようですね?!」
「シン、そうはいってもな、これは彼の問題だ。それに我々が介入するのは、いかがなものかと思うぞ」
「そ、それは……そうですけど」
士道がそういって下を向いたとき、一也が普通に戻り彼の事をフォローした。
「本当に大丈夫だから。自分で何とかするし」
「う、う~ん。そうか?」
これでは埒が明かないと思った一也はパンッと手を叩いて、ここで終わりと言って話を終わらせる。士道は少し納得してないようだったが、それを気にしていたら終わらないので、あえて無視した。
数日後の天宮町・繁華街
◇
「で、なんで荷物持ち?」
「元はと言えば、かぁくんが悪いんですよ?」
一也は手に持っているブランド物の服が入った袋を持ち、古き日本の妻のように美九の三歩後ろをついていく。今日はこの間の惨状、もとい誤解を解くさい半ば強制で、取り付けられたデートの約束。
最初はこれくらいと思った一也だったが、美九が店を回るたびに増える袋が何だか無機物なのに怨めしくなってきた。
「はぁー重い」
手頃にあったベンチに7、8個ほどの袋をおく。
「かぁくんは男の子なんですから、しっかりしてください」
「こっちは学校休んだんだぞ。美九が一大事だからって」
「それは悪いと思いますが、今日を逃すとしばらくオフが無かったんですから」
美九の仕事柄、休みが少ないだけでなく、最近は歌だけでなく色々な仕事もしている。
それにともない人気が出る。そうするとさらに仕事が増えるという循環で、実質の休みは3ヶ月に1日程度。そんな限られた時間を一也と過ごすと言うのだ。彼氏として、いや男として嬉しいことはない。それが弱味でもあるが。
「だからって……まぁしょうがないか」
愚痴ることをしたところで、何かが変わるわけでもない。
それなら久しぶりの美九とのデートを楽しむのがいいのだけれど。
(でも荷物持ちだよなこれ)
手が千切れるほどの重さを産む、目の前の袋に視線を向ける。
しかも美九はまだ買うらしい。本人いわく、給料が入るのだけどそれを使うことがほとんどないらしく、たまのデート(あるいはその準備)で発散するくらいだとか。
お金が無いのも困り物だけど、元々美九はあまり金欲が無いため、使うすべが無いらしい。
けれど一度それならなぜ、時々こういう高い服を買うのか聞いたところ。
『かぁくんの彼女として、恥ずかしくないようです』
と言っていたが、一也は彼女の服を見てから、次に店のガラスに映った自分を見る。
棒有名安価服屋のシャツにパンツ。ジャケットもセールで安かったから購入しただけのもの。
そこにあるのは彼女に似合うばかりか、猛烈に劣っている自分がいる。
「…………………」
ベンチに座りさっき買ったジュースのストローに、口をつけながら思案する誘宵美九に目をやる。彼女はどこまでもきらびやかで、輝いている。そんな彼女の隣にいるのが、端から見たら変なことに巻き込まれている事を除けば、極々普通の学生。
(釣り合ってないのは、わかっているけど……)
それでも一也には彼女の事が好きだと言う気持ちがあり、それは美九も同じだと思っている。
事実先日の事を踏まえると、それに偽りはないと断言できる。
(でも。…………僕は)
自分のあり方に疑問を抱く。一度死んで、生き返って、それで美九を助けられそうだから助けて、彼女も一也の現実味のない話を信じて、メル友になって、それで好きになった。
何かがおかしい。そもそもよく考えれば九十九一也は本来、この世界にいたのでは?そしてこの一也は、その存在を上書きしたのではと。栓も蓋もない話だが、今の一也は思考回路が明後日に飛んでいるので、もはや止めることは出来ない。
(それなら、僕は?美九は?でも……いや……それじゃあ)
浮かびそうな考えを否定するように頭を横に振る。
(これではまるで狂言者ではないか)
十香を助けたあたりからか、最近はふとしたことでこんなことを考えてしまう。
不安と恐怖の半々で形作られた今の感情。どうかき消せば楽になるのか。一也はそればかりを考えている。一也は我に帰ると、いつの間にか美九の顔が目の前にあった。
「ど、どうした?」
「つらそう……でしたよ?」
ポーカーフェイスを自称している一也は、その発言をオーバーに否定した。
美九は覗き込むのを止めて、姿勢を戻しても一也をじっと見つめたまま目線を動かさない。
「あなたの考えていること、顔に出てますよ?結構分かりやすいです」
美九の言うことも間違ってはいないが、自称する通り一也の表情は一日二日の関わりでは分からないだろう。
だがそこは恋人。そばにいて、一番よく見ているのだから些細な違いもわかる。
いや、分かってしまうのか。
「そうか………けど」
一也は言い訳をしてやり過ごそうかとした。だが、間髪いれずに美九の口が開き、言葉を紡ぐ。
「私には、貴方だけです。今までも……これからも。私の歌は貴方に救われたこと。それは事実です。貴方の存在が私を受け入れてくれた。廃れて、傷付いて、一人で抱えていた私を」
彼女の言葉は、落ち着いていて淡々としていて、それでも真摯な言葉で続く。
「夢を………見るんです。いやな、夢を。悪夢と言っても過言はない。そこでは貴方は私を救えなくて、私は酷いこと言って貴方を傷付けて。それでも貴方は私を救おうとして、私もその手を掴もうとするんです。でも」
俯き陰りのせいで見えないその顔から光る何か。
それを見て一也の心臓が早鐘を鳴らすように脈動する。
彼女は泣いている。本気の涙で。
「貴方の手はすり抜けて、落ちていくんです。暗い暗い闇の底に。そこで叫んで目が覚めるんです。汗なんて全身にかいて。ただの悪夢でしかない。貴方の居ない世界なんて」
「美九……………」
「辛いなら叫んでください。これは貴方の言葉ですよ?」
彼女を救ったあの日。確かに一也は絶望に打ちひしがれ掛けた彼女にそう言った。
自分の言葉を叫べばいいんだと、ここにいていいのだと。 それを今度は彼女が逆に、悩んでいる一也に対して言っている。
「ふぅ~………そうだな。ありがとう。それから、また泣かせてごめん」
一也は自然と微笑んでいた。美九の優しさに触れて、少しは心が軽くなったようだ。
「かぁくん………」
彼女も同じ様に笑ってくれた事に、一也の思いは変わった。
悩むのもいい。けれど、自分を心配してくれる人がいる。その人達を頼ってもいいだろう。辛いならそう言っても、泣いてもいいだろうと。
「でも、今はまだだ。もうちょっとだけ待ってくれ」
「………貴方がそう言うなら」
一也はベンチに座りながら空を見上げる。少し雲のかかったネズミ色になり掛けたその空を。
見上げると、頬にポツリと何かが落ちてきた。液体のようだ。
「って雨かよ!」
二人は荷物を持ち、すぐにその場を離れた。傘のない二人は大通りに出てタクシーを拾う。
だが一也はそれには乗らなかった。
「僕は歩いて帰るから。美九は荷物あるだろ?じゃあ運転手さんお願いします」
美九は一也も一緒にと言ったが、一也が先に扉を閉めて走っていった。
元々二人の家はかなり離れているので、代金を心配するなら、ここから家の近い一也が乗らないのは正解なのだが、そう言う訳ではないので車内にいる間美九はずっと膨れていた。
◇
雨のなかを全力で走っている一也。出来るだけ屋根のある場所を通っていたが、既に服は全身びしょ濡れで意味がない。ゆえ、今はほとんど関係なく家を目指している。
その時ふと目線を横に移動させると。
ズルベッタァァァァァァンー!
盛大にずっこけている少女を目にしたのだ。
最後のはまぁ原作見てる人なら分かりますね。
分からなくても次回出ますけど
あと見てくださった方、出来れば評価の方を………
リクエストなんかもあれば随時募集中です
それでは、また次回