デリート・オア・ライフ   作:サカズキ

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お久しゅうぶりです。私ことサカズキです。

アニメ化の影響か、またランキングに載りました。

これからも応援していてだければ幸いです。

では、本編どうぞ!


デリート・ダイ

古の中国で《公》とは、《私》包括した全体の呼び名。

 

変わってヨーロッパでは、君主の意を持ち得ている。

 

その名は私ではなく、我等となり。

 

凡人を越えて、力持つものとなる。

 

ではその力を守ることに使うか?

 

それとも壊すことに使うのか?

 

どちらにしろ、使うのならば違いはない。

 

守るために他を傷つけ、壊すために他を捨てる。

 

結局どうしようとも、なにかを失うのだから。

 

だが使わなければ、それは権利の放棄となる。

 

誰が傷つけるか、捨てるか。さてその選択が奴には出来るだろうか。

 

 

九十九一也は来禅高校の校舎が件のせいで休校となり、街をぷらぷらしていた。

今は自分の置かれた状態に苦笑の表情を浮かべている。

四月十日の空間震の現場にて『精霊』十香を見つけて………いや見つかり、あまつさえ目の前にキラキラした目をして。

 

「さぁデェトいくぞ!デェト!デェト!」

 

などと叫んでおるのだから。

なぜここまで嬉々としているのか。

そもそも、なぜ十香とデートすることになったのか?

それは先日の一件の時、十香と話しているとき。

突然フラクシナスからの好感度が70を越えたとかで、一歩踏み込んだ会話をと言うこと。

その次に聞こえて来たデートコールで、押しきられてデートすることになり。

その誘い文句に、この世界の旨いもの列挙して、少々オーバーにその味を伝えて興味を持たせたまではよかったが……

 

「さぁ早く行くぞカズヤ!」

 

「は、はぁ」

 

まさか十香から接触してくるとは思わなかった。

その上、彼女がここにいるのに空間震を知らせる警報がならなかった。

だがこの場合は、彼女が空間震を発生させずに来たことではなく、彼女がここにいること事態が問題だ。フラクシナスからの連絡がないなら、彼らも知らない。そこから導き出される答えは一つ。

 

(もしも、十香の機嫌をそこねる事になったら)

 

間違いなく辺りは……いやこの街が惨状になりかねない。

ASTも対処が遅れ、間違えれば一也を含めた人間を信頼しなくなり、ラタトスクのやり方も通用しなくなる。と言うことは。

 

「さぁさぁさぁ!!」

 

「分かった!分かったから」

 

「おぉ!では何からいくのだ?ハンバァガァか?ラァメンか?ケェキか?」

 

一也の心配は今のところ、街の惨状よりも自分の財布の中身を案じた方が良さそうだ。

そのあとは十香の不可思議な意匠の服を、当たり障りの無いのに変えさせて、二人で街に繰り出した。

 

一也と十香のデート中・フラクシナス艦内にて

 

「九十九一也。男性。年齢は16才で、来禅高校一年生。家族構成は両親、兄妹ともに不明、以上です」

 

神無月がタブレット端末を片手に、スクリーンの脇にたち一也の映像や画像などで、それを見つめる琴里を含めたクルーに説明する。

 

「そこよ、彼の経歴を始めて見たときに、なんで何にも思わなかったのかしら?」

 

琴里がチャプスをピンと立てながら指摘する。

同じ様に令音も続けて言を繋ぐ。

 

「うむ。少なくとも、ここにいるクルーはカズの詳細を知っていた。だが誰もそれを不思議と思わなかった」

 

「えぇ。言われるまで気が付かなかった。これは明らかにおかしいわ」

 

「ではどうするのですか?細部まで調べますか?」

 

神無月が琴里に問いかける。

琴里はチャプスをくわえ直し、顎に手を当てて思案する。

 

(調べた方がいいのでしょうけど、でもやっても今回みたいに、『言われて考えるまで気が付かない』何てこともあるでしょうし………それに)

 

何となくだが琴里は、先日明かされた一也の力をその前までは軽視していた。

だが明かされた今は下手に手を出すと、しっぺ返しが痛そうだと考え。

 

「……いえ、いいわ。今は大したことではないわ」

 

「……分かりました」

 

「この件は保留よ。はい、仕事に戻る!」

 

琴里の声と共に各々が自分の仕事をしだす。

それを見回してから琴里は令音に手招きをして、ブリッジの外へと呼び出す。

 

「言わなくても分かるわね」

 

「ああ。カズの事だろう?」

 

「えぇ。彼の力………〈事象の反転〉(リターンワールド)ね………。あらゆる事柄を反対の結果にする。チートよこんなの」

 

「そうだな。彼の認識で次第で、世界が消えることもあり得る」

 

「はぁ~……厄介な物に手を出したみたいね」

 

「そのようだな」

 

「………他人事みたいね?」

 

「事実、私から見れば他人事だ」

 

「何よ令音。世界が壊れてもいいって?」

 

「いや、そうではない。カズがそんなことをするような男ではないと言うことさ」

「まぁ、見る限りは人畜無害そうだけど。ああ言うのが最後に面倒を起こすのよ」

 

二人してふぅとため息をついた。

その意は各々反対の事だろうが。

琴里は廊下の壁に背を預け、腕を組む。

その視線は下を向いているが、何を見ているかはわからない。

 

「……………取り敢えず今は、変な事をしないで様子見ね」

 

「その方が懸命だろう」

 

背を壁から離して、悠々として足取りでブリッジに戻る琴里と、その後ろを少々よろめきながら付いていく令音。

 

 

 

 

このあとブリッジに戻った二人は、十香が現界していることを知り、大慌てになった。

 

 

「ん~~!旨いなこのケェキとやらは。いくらでもいけるぞ」

 

「あまり食い過ぎるなよ?言ったけど、こう言うのは対価がいるんだならな?」

 

「わかってる。私は金子を持っていないのでな、この例はまた今度させてもらう」

 

「あ、あぁ」

 

この時に一也は思った。これはつまり、ギャルゲで言うところの次回デートフラグではと。

と言うことは、彼女の機嫌はかなりの上限値に達していると言うこと。

変な意味ではないが、行けるところまで行けるのではないかと、そう一也は思っていたときに、ポケットの携帯が震えだした。

 

「ん?どうしたのだ?」

 

「あ、いや。ちょっと待っててくれるか?」

 

「あと一つ食べていいなら…………」

 

結構現金だなと思いつつも、いいぞと言ってから席をたつ。

店を出て、人の少ない場所に移動して携帯に出る。

 

「遅い!なにやってんのよ」

 

「どっちの意味でだ?」

 

「両方よ。なんで……いいわ面倒だし。それより、あれあるわね?着けなさい」

 

言われると一也は、ポケットから一応と渡されたインカムを耳につける。

着けた途端に携帯の通話か切れ、代わりにインカムから琴里の声がする。

 

『いきなりすぎるけど、今はそんなことより、十香とのデートを完遂するのよ。いいわね?』

 

「了解」

 

ここで一旦通信が切れたので、一也は十香の元に戻る事にした。

席に戻ると十香が幸せそうな顔で、ケーキを食べているところだった。

 

「美味いか?」

 

「あぁ!この世界にはこんなにも美味しい物があったのか………もっと早く知っておけば良かった」

 

「…………今からでも、遅くはないさ。これからたくさん知っていけば良い。僕が一緒にいるから」

 

「ぁ……………そうだな…………ありが、とう」

 

最後の言葉は俯いてしまい、よく聞き取れずに気が付かなかった。

 

 

会計を済ませて店を出ると、インカムから令音の声が聞こえてきた。

 

「カズ、聞こえるか?」

 

「聞こえます」

 

「ん。基本は君に任せるが、何かあればこちらがサポートする。安心してデートを満喫したまえ」

 

一抹の不安はあるが、彼らの優秀さは折紙つきで便りになるのは間違いない。

とにもかくにも、ここが正念場であることには変わり無い。

十香をできうる限りこの世界を好きになってもらはないといけないのだから。

 

「じゃあ十香、次にいこうか?」

 

「うむ!さて次は何が食べられるのだろうな」

 

「食うことばっかだな。いや、僕があんなこと言ったからか?」

 

「何をぶつぶつ言っている?早くいくぞ」

 

「わかったから引っ張るな!」

 

十香と繁華街でウィンドウショッピングしたり、ワゴンのアイスを買って食べたり、少しでも彼女を楽しませようと一也は頑張った。時々フラクシナスからの指示はあったが、それでも彼女はデートの間はものすごい笑顔で過ごしてくれたと、一也は感じていた。

そしてデートも佳境を迎え、夕暮れの街を見下ろしながら公園のベンチに二人が座っている。

 

「ありがとうカズヤ。今日は楽しかったぞ」

 

「なんの。今度またデートしような?」

 

「あぁ。デェトとは美味しい物がたくさん食べられるからな!」

 

「ははは、十香は色気より食い気か」

 

「ぷ~~笑うことはないだろ」

 

「いや、ごめんごめん。まぁ食べ歩きでも言いかな」

 

「あぁ。また………いけたらな」

 

「なに言ってんだよ。これからも一緒いられるさ」

 

「けど、私は………」

 

「まえにも言っただろ。生きることも死ぬことも、選ぶのは自分だ」

 

「だが………」

 

一也は勢いよく立ち上がり、夕日に照らされた十香の顔を見つめて自分の言葉をぶつける。

 

「だがもガガも無い!お前が生きたいなら、お前がそれを望むなら僕はずっとそばにいてやる!!」

 

「ッ………!!カズヤ……私は、私は」

 

「お前が願うなら、きっとそれは正しいことだ」

 

「う、ひっく………カズ……ヤ。ぐす…ありが……とう」

 

彼女は涙を浮かべるが、その顔には十香に似合う飛びっきりの笑顔があった。

その直後、一筋の光の様なものが空を裂き十香に襲い掛かりそうになる。

気がついた一也は寸前に十香の腕を引っ張り、体の位置を入れ替える。

光はそのまま一也の胸を突き抜け、一也は地面に倒れこむ。

 

「…………カズ……ヤ?おい、どうしたのだ?なんで倒れて」

 

「ぐっ、十香……にげ………ろ」

 

「………カズヤ!おい!しっかりしろ!…………なんで、こんな」

 

「とお………か」

 

「お前が………カズヤを」

 

十香の視線の先にはAST隊員、鳶一折紙の姿があった。

一也はそれを見ようと首を捻ろうとしたが、その前に意識が痛みに飲まれて消えてしまった。

 

 

 

《不甲斐ナイ》

 

また、この声?

 

《ソレハ貴様ノ体デハ無いト何度言エバ分カル?》

 

知ったことか、そんなこと。

 

《マッタク、貸シテヤッテイルノハ我ダト言ウノニ》

 

お前は、誰なんだよいったい

 

《我ハ貴様、貴様ハ我。前ニモ言ッタダロ?》

 

なんで、僕のなかに?

 

《勘違イスルナヨ仮面。貴様ノ中ニ我ガイルノデハナイ。本来ハ我ノ中ニ貴様ガイルノダ》

 

じゃあお前が元の僕と言うのか?

 

《ソウ。我等ハ悲願ノ為ニ存在スル。ソノ為ナラ、貴様ヲモウ一度蘇ラサセル》

 

は?なんだって。僕はまた死んだのか?それに我等って……

 

《サァ、今度ハ我ノ力ノ一部ヲ使ッテヤル。モウ二度ト死ヌナ》

 

おい!肝心なお前の正体が!

 

《ソノ内ワカル。ソレマデハ下手ナコトヲシテクレルナ》

 

 

一也が目をさますと狂気を形にしたように、十香のその姿はとても痛々しかった。

どういうことかと困惑して、どうするべきかと言うのがすぐに思い付かなかったが、耳に着いたままのインカムから声が聞こえてくる。

 

「ちょっと聞こえる?!一也!!」

 

「五月蝿い!最大音声で叫ぶな」

 

「そんなことよりも十香を止めなさい!あんたが倒れてから暴走しているのよ!」

 

「ッ?!」

 

一也は上体をなんとか起こして現状を今一度理解する。

十香が一方的に折紙を蹂躙しているような状況だ。

彼女はただ本当に怒りによって暴走している。一也を傷つけられたそのせいで。

 

「早く十香を止めて!」

 

「クソッ!十香ぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

一也はまだ痛みの走る体に鞭を撃ち、足を無理矢理に動かし十香に駆け寄る。

そのまま彼女のことを押し倒すようにして抱きつく。

 

「クッ!離せぇぇぇぇぇ!」

 

「十香俺だ、一也だ!落ち着いてくれ」

 

「う、うあぁぁぁ!が、ぎ!………ぁぅ…カズ……ヤ?生きて……いたのか?」

 

「あぁ。大丈夫。俺はここにいるから」

 

「ぁ、ぁぁ。よか………った」

 

彼女は涙を流しながらも一也の首に腕を回して抱き付いてくる。

一也はチャンスは今しかないと、不謹慎かもしれないが十香にあるお願いをした。

 

「十香。その、目を瞑ってくれないか?」

 

「なぜだ?」

 

「頼む。でも、変なことはしないから」

 

「ん。わかった」

 

そういって十香は素直に応じてくれた。

これからすることに多少罪悪感を感じるが、一也は十香の唇に自分の唇を重ねる。

 

「ぁ………ん………ちゅ」

 

「ん…………」

 

唇を重ねた瞬間に十香の中の精霊の力が、自分の中に流れ込んでくるのがわかる。

士道の力とは違い、一也の場合は精霊の力そのものを奪い去ることになる。

これからは十香が変に暴走することは無いが、逆に一也の力が増すことになる。

それがこれから一也自身を苦しめ、彼女たちを傷つけるとは知らない。




アニメで十香デッドエンドが終わる前になんとか投稿。
(私の現住所が関西なので、一話遅いです)

色々と要素をぶちこんでいきますが、どうかご了承を。
ついでにキャラ設定追加しました。まぁそんな重要なことは書いてないですが。

では、また次回

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