初めての出撃指示を出すため、龍二は3人を呼び集める。
「神通と漣にはいきなりで申し訳ないんだけど、鎮守府正面海域の哨戒に行ってもらいたいんだ。…2人とも大丈夫かな?」
「わ、分かりました…頑張ります」
「どんとこいですよ~!」
「ありがとう。うちの鎮守府の初陣ってこともあるし、あまり無茶はしないでくれよ?」
「心配しなくて大丈夫って言ってるでしょ?もっとシャンとしなさい!」
「いったぁ!!わ、わかってるよ」
心の中の心配が顔に出てしまっていたのだろう。
叢雲に背中を叩かれ、改めて気合を入れなおす龍二。
いくら本人たちがやる気満々でも、提督自身が不安そうにしていてはいけない。
不安は伝染し、些細なミスの原因となる事だってあるのだ。
「そういえば、旗艦はどうしようか…叢雲は大本営で実戦経験があるんだっけ?」
「実践というか、他の提督候補の初期艦と演習しただけよ。砲は撃ったことあるけど実戦には程遠いわ」
「だとしても多少のアドバンテージにはなると思うし、今回の旗艦は叢雲にお願いするよ」
「…わかったわよ、しょうがないわね」
言葉とは裏腹に、頼られてちょっと嬉しそうな叢雲。
すまし顔でごまかしてはいるが、頭の艤装がピコピコ動いている事に気付いていない。
「ん~?なんだかちょっと嬉しそうですなぁムラっち~♪」
「べ、別に嬉しくなんて…って、ムラっちって私!?」
「もちろん♪」
「やめて、なんか字面が嫌」
「え~…」
「あはは…」
これから出撃だというのに、この緊張感のなさである。
緊張でガチガチになるよりはまだマシかもしれないが…
そんなグダグダなやり取りのを眺めていた龍二の元へ、工廠長が歩み寄ってきた。
「みなさん、出撃前にこちらをお持ちください。妖精たち一同からの餞別です」
「これは…?」
「61cm三連装魚雷です。魚雷としての性能は低いですが、主砲のみでは心もとないと思いまして…」
「おお~!妖精さんの優しさが心に染みますなぁ~」
「ありがとうございます工廠長、装備にまで頭が回りませんでした。提督なのに情けない…」
「いえいえ、初陣ですし仕方ないですよ」
3人は妖精たちから魚雷を受け取りそれぞれ艤装に装備すると、工廠の奥にある出撃スペースへ移動する。
工廠自体が鎮守府敷地内の端に作られており、奥は直接海につながっている為そのまま出撃することも可能なのだ。
「それじゃ、行ってくるわ」
「行ってきますね、ご主人さま!」
「神通、出撃します」
「うん、みんな本当に気をつけて。俺は執務室にいるから、何かあったら逐一無線で連絡すること。あと、中破以上のダメージを受けたら…」
「はいはい、即撤退ね。何度も言わなくて大丈夫よ」
「ご主人様は心配性ですなぁ」
「それも提督の優しさ故ですよ…」
まるで遠足に行く子供を心配する母親のような龍二を前に、思わず苦笑しながら海面に降り立つ3人。
そして旗艦の叢雲を先頭にして、海面を滑るように出撃していく。
そんな3人の姿が見えなくなるまで見送り続けた龍二は、工廠長に挨拶を済ませ足早に執務室へ戻るのだった。
◇
「ひゃー!!風が気持ちいい~~♪」
「そんな事言ってられるのも今のうちだけよ。帰る頃には潮で髪がギシギシになってるから」
「ンモ~、ムラっちってばリアリストなんだから…」
「だからそのムラっちってのやめて!」
「みなさん、比較的安全な海域だからといって慢心してはいけませんよ…」
「はーい」
和気藹々と駄弁りながら海上を進む3人。
その姿は、傍から見れば氷上でスケートを楽しんでいる少女にしか見えない。
「しかし…なんでしょう、あのご主人さまは。もう一目見た時にビビっと来ましたね」
「確かに、不思議な魅力のあるお方でした…。何というか、常にお傍にいたくなるというか…」
「そうかしら…普通の司令官だと思うけど」
「おやおや~?その割には、旗艦に指名された時嬉しそうだったけど?」
「う、うっさい!そんな事ないわよ!」
「ムキになる所があやし~い♪」
「だーっ!!もう真面目にやりなさい!」
「ふふっ、すっかり仲良しですね」
女3人寄れば姦しいとはよく言ったものである。
「でも、そういう事ならライバルが1人減ったってことでいいのかにゃ?」
「ライバル?」
「そう、提督LOVE勢としてのね!私はもう一目惚れしちゃったからガンガン攻めるよ!」
「提督LOVE勢ってアンタ…」
「わ、私もそれ立候補します!」
「ちょっ、神通さんまで!?」
「む、強敵現る…でも諦めないよ!漣はしつこいから!」
「私だって…負けません!」
本人の与り知らぬところで争奪戦の火蓋が切って落とされたようだ。
ちなみにここの艦娘は叢雲を含め、龍二に恋人がいることをまだ知らない。
「ちなみにまだ紹介してなかったけど、うちの明石さんと間宮さんもアイツに気があるみたいよ」
「うぇ、さすがご主人さま…。明石さんはともかく間宮さんには料理っていう武器があるし、胃袋掴まれたら厄介だなぁ」
「アンタ…明石さんに言いつけるわよ」
「ちょっ!それだけはご勘弁を!!」
そんなアホな事を話していると、叢雲の艤装に内蔵された無線にノイズが走る。
『聞こえるか?そっちの様子を報告してくれ』
「通信は問題ないわ。まだ敵影も無しね」
『了解、そのまま哨戒を続けてくれ』
「分かったわ…と言いたいところだけど、ちょうど敵影を発見したわ」
『敵の編成はわかるか?』
「駆逐イ級が1体だけね…偵察?それともはぐれかしら?」
「経験値大量獲得チャンスktkr!!」
「やかましい!!…ま、どの道1匹なら肩慣らしにもならないわね」
『漣は何を言ってるんだ…。それはそれとして、油断はするなよ?海上では何が起こるか分からないし…』
「分かってるわよ…それじゃ、記念すべき第1戦目と行きましょうか!」
叢雲が啖呵を切ると、3人は敵影めがけて砲撃を開始する。
それは、佐世保鎮守府が稼働を始めた瞬間を意味するのだった。
今回もなかなか短いですね…
だからいつまで経っても話が進まんのだ!