というか、前回ぜんぜんイチャコラしてなかったですね……
お詫びもかねてラブコメ展開をば。
カランカランカラン……
「おめでとうございます!特賞の豪華温泉旅行1泊2日ペアご招待チケットご当選です!!」
「……は?」
商店街にハンドベルの音がけたたましく響く。
周囲の客から妬みの視線を浴びながらチケットを受け取るのは龍二であった。
ここは鎮守府から一番近い商店街。
一番近いと言っても、最寄りのバスでしばらく走るのだが、今日は執務に必要な備品を買いに来たのだ。
普通なら秘書艦に任せるのだろうが、毎日毎日似たような執務でストレスが溜まっていた龍二は、ここぞとばかりに町へと繰り出した。
そしてよくある商店街のガラガラを回したところ、こんな事になったのである。
「くじ運最悪の俺が特賞とか……帰りにバスが事故ったりしないよな……?」
縁起でもない事を言いながら、先ほど受け取ったチケットを眺める。
ご丁寧にも「男女」ペアチケットと書いてあり、どうしたものかと困り果てる。
「捨てるのは流石に無しだろうが、とりあえずみんなに見つかると厄介だし……帰ったら隠しておくか」
そんな事を考えつつ、鎮守府方面行のバス停へと向かう。
ここまでが1週間前の話で、この時はあんな事になるとは思っていなかった。
後になって「あの時帰る前に処分しておけば」と思っても、もはや既にアフターカーニバルなのである。
◇
「そう……だから隠してたって訳ね」
「……はい」
叢雲が執務机の上に叩きつけたチケットを見つめながら龍二は頷く。
既に諸兄のお察しの通り、1週間前厳重に隠しておいたチケットが見つかってしまったのである。
しかも見つかった理由が「チケットを見つけた妖精が、部屋の隅で取り合いをしていた」というのだから、怒りの矛先をどこへ向ければいいのか分からない。
そして、なぜ叢雲がここまでカリカリしているのかというと……
「どうすんのよコレ、チェックイン期限が明日までじゃない!」
「すまん、そこまで確認してなかった……」
「全く……普通そこは確認しておくでしょ!」
「反論の余地もございません……」
いつの間にか叱られているような構図になっているのは気のせいだろうか?
とはいえ、普通であればああいったイベントのチケットというのは、期限をしっかりと確認しておくべきである。
「お金はないけどいい賞品を」という商店街の陰謀で、期限が非常に短いチケットが賞品として出される場合が多々あるからだ。
とはいえ1週間猶予があったのだが、下手に隠していたせいで非常に際どい事になってしまった。
「ま、まあ今回は、ご縁がなかったということで……」
「そんな勿体無いこと出来る訳ないでしょ!……で、誰と行くつもりなの?」
「あれ、行くこと前提ですか?」
「期限前に私に見つかったのが運の尽きね。諦めなさい……あ、ちなみにこのチケットの存在、鎮守府の皆が知ってるから」
「さっき見つかったばかりなのにどうやって……」
「青葉に伝えたら光の速さで広まったわ」
「青葉ああああぁぁぁぁ!」
流石は当鎮守府のパパラッチ、やってくれる……!
脳内に「テヘペロ♪」している青葉が浮かび、更に苛立ちが募る。
「それでどうするの?何ならわ、私が言ってあげてもいいわよ」
「うぐ……」
「ねぇ……」
「ちょ、ちょっと考えさせてくれええええ!!」
「え、ちょっ、コラー!」
にじり寄る叢雲の迫力に耐えかねて執務室を脱出する。
ご丁寧にも、手にはチケットを握りしめながら……
◇
「ハァ……ハァ……。お、思わず逃げてきちゃったけど、叢雲には悪い事したな……でもいきなり温泉旅行とか荷が重すぎるっての……」
執務室を抜け出した後、まだ使われていない部屋へ逃げ込んで床にへたり込む。
「それにしても、このチケットどうするかな……」
「ほうほう、それが噂のチケットかぁ」
「本当に期限が明日までなんですね~」
「そうなんだよ、そのせいで大変な目に……ってうわあっ!?」
「よっ!司令官」
「お疲れ様です司令官~♪」
「な、なんで2人が……」
「何でも何も、ここ私たちの部屋だもん」
「急に司令官が入ってくるからびっくりしました~」
「……へ?」
否、どうやら使われていない部屋ではなく、間違って綾波と敷波の部屋へと来てしまったようだ。
ちなみに、まだ艦娘の少ないこの鎮守府では1人1部屋が基本なのだが、この2人だけは本人たちの希望により相部屋となっている。
まあ何れ人数が増えて来た時に全員相部屋にしないといけないだろうし、本人たちがいいのなら構わないのだが。
「ん、んんっ……えーと……」
「ど、どうした?敷波」
「いや、その……さ」
「司令官は、もう誰と行くか決めたんですか?」
「ちょっ、綾波!?そんなストレートに……」
「い、いや、まだだけど……」
「じゃあ敷波とかどうですか~?チケットの事知ってから、司令官と行きたいな~ってずっと……」
「綾波ストップ!内緒って言ったでしょ!?」
「だってじれったいんだもの」
「うぐぐ……」
内緒の話をバラされた敷波は、顔を真っ赤にしながら綾波に抗議する。
ポカポカという擬音が聞こえてきそうな抗議の手を、綾波は涼しい顔で受け流している。
さすが長女、普段のほほんとしててもやる時はやる子である。
(でも敷波か……他の子よりも若干気楽に過ごせそうな気も……いやしかし……ん?)
綾波の思わぬ提案に考え込む龍二。
そんな彼の耳に入ってきたのは、敷波の抗議の声だけではなかった。
ドドドドドドド……っという音が、若干の振動と共に近づいてくる。
そして部屋の前で止まったかと思うと、部屋のドアが勢いよく開け放たれた。
「見つけましたよ、提督!」
「うおっ、榛名か!?」
「提督、私と温泉旅行に行きましょう!絶対後悔させませんから!」
「ちょっ、落ち着け榛名!」
「大丈夫、痛いのは榛名だけですから!」
「何の話!?」
暴走した榛名に追いかけ回される龍二。
そんな2人を、綾波と敷波は茫然と見つめるのだった。
「あ~あ、せっかくのチャンスだったのに……敷波がグズグズしてるから」
「ううっ……だって急すぎるし、それに綾波が行きたがってた事もしってるし……」
「敷波……」
「そんな状態で行きたいなんて言えないよ……司令官のことは大好きだけど、綾波の事だって……」
「そっか……ありがとう、敷波♪」
「べ、別にお礼が欲しくて言った訳じゃ無いし……」
「ふふっ、敷波かわい~♪」
「こ、こらっ、抱き付くな~!」
「や~りま~した~♪」
逃げ回る龍二の横で美しい姉妹愛の物語が展開されていたが、逃げるのに必死な彼が気付くわけがなかった。
このまま部屋で逃げ回ってても埒が明かないと考えた龍二は、勢いよく部屋を飛び出す。
「提督っ、逃がしません!」
部屋を脱出した龍二を慌てて追いかける榛名。
2人が出ていった部屋では、残された姉妹の百合百合しいくんずほぐれつが展開されていた。
だが非常に残念なことに、その光景を見た者は誰もいなかった……
榛名さん、暴走しすぎです……
そして短編と言っておきながら、また話を跨ぐ体たらく。
ちぃわかった。作者に短編は向いてない(断言)