提督は今日も必死に操を守る   作:アイノ

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第18話

とある日の執務中、その日の秘書艦である榛名に相談を受けた。

その相談内容というのが……

 

「なに?皐月の様子がおかしい?」

 

「そうなんです……」

 

と、いう事らしい。

ローテーションからするとそろそろ皐月が秘書艦の日が来るが、それだけに最近じっくりと皐月の様子を見ていない事に気付く。

各艦娘のコンディションすら知らないとは……叢雲あたりに聞かれたら提督失格と言われそうだ。

 

「具体的にはどういう感じなんだ?」

 

「なんというか、すごく元気が無いんです。本人は明るく振る舞っているつもりみたいなのですが……」

 

「いつも笑顔で元気いっぱいな皐月がか……そう言えば最近皐月の笑顔を見てないな。鎮守府もなんとなく暗い感じがするし」

 

「はい……。しかも初春さんの話では、たまに思いつめた様な顔になるとか」

 

「それは由々しき事態だね……初春って、今日は出撃も遠征も無かったよな?」

 

「明日の早朝から遠征なので、今日は何も予定はなかったかと思います」

 

「ありがとう。ちょっと詳しい話を聞いてくるよ」

 

「はい、お願いします……」

 

心配顔の榛名に見送られながら、執務室を後にする。

しかし元気のない皐月か……改めて考えると、ちょっと想像できないな。

とりあえず詳しい話を聞かない事には解決も何もあったものではない。

そんな事を考えていると、いつの間にか初春の部屋の前に着いていたので軽くノックしてみる。

 

「おーい初春、いるかー?」

 

「なんじゃ、主様か?」

 

リラックスした声と共に、初春が部屋から出てくる。

かと言って、身だしなみがキチンと整えられている辺り、だらだらとしている訳ではなさそうだ。

普段からその辺りに気を使っているのが見て取れる。

 

「休みの所悪いな。ちと皐月の事で話があってさ」

 

「ちょうどよかった。わらわも相談しようとしていた所じゃ」

 

「初春も気づいてたのか」

 

「もちろんじゃ。皐月と一緒にいる時間は、この鎮守府の誰よりも多いと自負しておるからの」

 

「慕われてるもんな、初春は」

 

「姉妹艦というわけでもないんじゃがな……正直なぜあそこまで慕われているのか、わらわ自身にもわからんのじゃ」

 

「あの子なりに思うところがあったんだろうな。まあ嫌われてるわけじゃ無いんだし、気にするなよ」

 

「そうじゃな……っとすまぬ、立ち話に興じてしまったのう。とりあえず入るかえ?」

 

「入り口で話すような内容じゃないしな。お邪魔するよ」

 

初春に促されながら室内へと足を踏み入れる。

予想通り部屋の家具は和風に統一されており、隅々まで掃除が行き渡っているのが見て取れる。

こういう女性らしい部分に皐月も惹かれたのではないだろうか……本人ではないので定かではないが。

 

「流石にきれいにしてるなぁ。家具のセンスなんかも初春にぴったりだ」

 

「これ主様よ、あまり女子の部屋をじろじろ眺めるものではないぞ」

 

「すまんすまん、何分女性の部屋に入る機会なんて少ないからな」

 

「全く……」

 

口ではそう嗜めながらも、テキパキとお茶やお茶請けを出してくれる。

口調とは裏腹に、嬉しそうな表情をしながら。

和風ツンデレとは新境地だ……デレ成分が多すぎる気がしないでもないが。

 

「ありがとう。それで、皐月の件なんだが……」

 

「うむ、正直対処に困っておってな……元気が無い事に気付いたのは3日ほど前になるかの」

 

「3日前というと、遠征中の皐月達に深海棲艦の奇襲があった時だな」

 

「具体的には、襲撃で負傷した皐月が鎮守府で目覚めてからじゃな」

 

「あの後からか……」

 

3日前、皐月や初春を含む遠征艦隊に輸送船団の護衛をお願いしたのだが、そこに深海棲艦の奇襲があった。

なんとか退けたものの、皐月が大破寸前まで負傷して気を失ってしまったため、任務は失敗になってしまった。

もちろん皐月が無事なら任務の失敗などどうでもいいのだが。

 

「本人はなんか言ってたか?」

 

「任務を遂行できなかった事に対して謝りには来たが、その後から元気が無くてのう。本人は明るく振る舞っているようじゃが……」

 

「榛名も同じこと言ってたな。あと、時々思いつめた様な表情をしてるって」

 

「うむ、1人でいる時によくそんな表情をしておるよ。本人に聞いても「何でもない」の一点張りで埒があかんのじゃ」

 

「そうか……」

 

「主様よ……どうか皐月の元気を取り戻してくれんか?これ以上あのような皐月を見ているのは辛いのじゃ……」

 

「もちろん、出来る限りの力は尽くすよ。どこまでできるか分からないけど」

 

「主様ならきっと上手くやってくれる、そんな気がするのじゃ。何せみんなが慕う主様だからのう。もちろんわらわもじゃが」

 

愛用の扇子で顔を隠すようにして呟く初春。

後半部分で少し顔が赤くなったような気がするのは気のせいではないだろう。

 

「わかった。とりあえず皐月と話してみるよ」

 

「よろしく頼みますぞ、主様よ……」

 

初春の心からの願いを聞きながら、部屋を後にする。

早速皐月と話がしたいんだが、この時間は一体どこにいるのだろうか。

とりあえず皐月の部屋へと向かおうとした龍二の足は、焦った声色の榛名に呼び止められたために進めることが出来なかった。

 

「てっ、提督!!」

 

「榛名か。どうした?そんなに慌てて……」

 

「さ、皐月ちゃんが……」

 

「皐月?皐月に何かあったのか!?」

 

「1人で出撃してしまいました!!」

 

「!?」

 

榛名の衝撃発言に、思わず一瞬だけ思考が停止してしまう。

ハッと我に返った龍二は、すぐさま自分にできることを模索するのであった。

 

 

 

 

目の前で断末魔を上げながら、8匹目のイ級が沈んでいく。

皐月は最後まで見届けもせずに、弾薬と魚雷の装填を急ぐ。

視線は既に次の敵へと移ってはいるが、身体のいたる所に裂傷があり、顔には玉のような汗が滲んでいる。

この世に生を受けてから月日は流れ、だいぶ戦闘には慣れてきたとはいえ、イ級数匹でこの体たらく……睦月型である自分をこれほど恨んだことは無い。

 

そう、睦月型。

駆逐艦としては初の「61cm魚雷」を搭載し、太平洋戦争でも第一線で戦った名駆逐艦である。

だが製造が早かったためか、他の駆逐艦の艦娘に比べると、コストこそ安いものの艦自体の性能は低い。

故にその性能差が皐月のコンプレックスになっていた。

そこへ止めと言わんばかりに先日の奇襲があり、自分だけが大きく損傷し任務も失敗に終わってしまった事が悔しかった。

だが生まれ持った性能は変えることが出来ない。ならばと考えたのが練度で補う方法だった。

 

「司令官に怒られちゃう……かなっ!」

 

9匹目のイ級に砲撃を浴びせつつ、頭の中では龍二の事を考える。

彼は任務が失敗した時も、怒ることはなかった。

ただひたすらに自分のことを心配し、更には敵の情報を把握できていなかった自分を責める位のお人好し。

そんな優しい彼が大好きで、だからこそこれ以上お荷物になりたくなかった。

 

「……っと、9匹目撃破。弾薬も心もとないし、そろそろ一旦戻ろうかな」

 

怒られるのを覚悟して出撃こそしたが、いざその時になると途端に足が進まなくなる。

怒られる未来予想を頭の中から無理やり排除するかのように、ツインテールを鞭のようにしならせながら頭をブンブンと横に振る。

よしっ!と気合を入れなおし、鎮守府へ向かおうとした瞬間……

 

「……えっ?」

 

ドーンという凄まじい衝撃と爆発音が間近で轟き、そこで皐月の意識は途絶えた。

 

 

 

 

「ん、んん……ここは……?」

 

「鎮守府の医務室じゃ。とんでもない無茶しおって……」

 

「はつはる……姉ちゃん……?」

 

目を覚ますと、皐月の頭を撫でつつも、顔を心配そうに覗き込む顔が1つ。

皐月が姉と慕う初春だった。

 

「初春姉ちゃんが助けてくれたの……?」

 

「わらわだけではないがの。あと少し遅かったら沈んでおった所じゃった。主様が素早く救出の指示を出してくれたおかげでこうして生きておる事、忘れてはいかんぞ?」

 

「そっか、司令官が……」

 

そこまで考えて、またみんなに迷惑をかけてしまった事に気付く。

結局のところ、どうあがいたところでお荷物にしかならないのだろうか。

そんな結論に辿り着いた頃には、自然と涙が溢れていた……

 

「っく……ボクは本当に役立たずだ……」

 

「やはりそういう事だったんじゃな、最近の思いつめた様な顔は……」

 

「他の皆みたいに司令官の役に立てなくて……悔しくて……練度を上げれば少しはと思って……」

 

「全く……誰にも失敗というものはあるじゃろ?たまたま今回はそれが重なってしまっただけじゃよ」

 

「でも……」

 

「それに、主様も皐月をお荷物などと思ったりしておらんよ。安心せい」

 

「……うそだよ」

 

「まあわらわが言っても信じないのなら、本人に聞いてみるんじゃな」

 

そう言い残すと、初春は皐月の頭をくしゃくしゃっと撫で、そのまま医務室を後にする。

そして入れ替わりで龍二が入ってくる。

 

「司令官……」

 

「よかった、目が覚めたんだな」

 

「ごめんなさい、迷惑ばっかりかけて……」

 

「……実はな、いまの2人の会話聞いてたんだ。初春に言われてドアの向こうで待機して、な。だから皐月の気持ちは理解したつもりだよ。それを踏まえて言わせてもらうと……」

 

「……」

 

「もう、無茶はするなよ……?皐月には皐月にしかできない事がちゃんとあるんだから……」

 

「えっ、しれい……かん……?」

 

てっきり怒られると思っていた皐月は、思わず驚きの声を上げる。

それもそのはず、げんこつの1つも覚悟していたのに、気付いてたら龍二に抱きしめられていたのだから。

 

「皐月の元気ないと、なんというか鎮守府が暗くなるんだ。今回だって皆心配してたし、さっきだって全員が我先にと皐月の救助に行きたいと志願してきたんだからな。皐月はこの鎮守府になくてはならない、ムードメーカーなんだよ」

 

「ボクが……」

 

「それにさっき初春も言ってたけど、失敗は誰にだってあるさ。もちろんそれが重なることだってある。でもその失敗を怖がってちゃ先に進めない。大切なのは次に同じ失敗をしない事なんだ」

 

「……」

 

「だから、自分をお荷物だとか役立たずだとか思わないでくれ。というか皐月がお荷物なら、未だに書類仕事で失敗を重ねてる俺は粗大ごみか何かだよ……」

 

「……ふふっ、何それ」

 

「え、いや……元気づけるために小粋なジョークをだな……」

 

照れながらあたふたする龍二を見つめつつ、いつの間にか涙が止まっている事に気付く。

そして優しくて暖かい司令官に包まれながら、これまたいつの間にか自然と笑顔になっていた。

ああ、だからボクは司令官の事が……

 

「それで元気づけてるつもりかい?かわいいね!」

 

「ちょっ、そりゃないよ……」

 

司令官がくれた笑顔を、向日葵の花のように咲かせながら。

しかし、身体はギュッと龍二を抱きしめたまま。

 

(大好きだよっ、司令官……♪)

 

声には出さず、心の中で呟く。

満開に咲いた向日葵は、もう萎れることはないだろう。

龍二と言う身近な太陽を見つけたのだから……

 




はい、という事で皐月回でした。
短編で書こうとするとわりかし長くなるという……どういうことなの?

そして最後の方、くっさいですね。
自分が書いたものを見直すと「誰が書いたんやこれ気持ち悪っ」ってなる事が多いのですが、今回は半端ないです……

さて、次回は誰回になるのか……
まだ全く考えてないので、これから頑張って考えます。

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