宴会開始から数時間後。
食堂は死屍累々の魔境と化していた
「んにゃ……もう飲めませんよご主人さま~……」
「全く……これ以上ないくらい典型的な寝言を……」
そう愚痴りながらも、1人1人タオルケットをかけていく龍二。
一通り騒いだ後気持ちよさそうに眠る漣達を眺めながら、この後に待っている後片付けに憂鬱になる。
「布団をかけてあげるなんて、やっぱり優しいんですね、提督さん」
「艦娘には必要ないのかもしれませんけどね……そのまま寝かせておくのも何なので」
「そう言われれば、私達って風邪引くんでしょうか?」
「さぁ……?でも冬の海にも出撃するくらいですし、少なくとも人間よりは耐性ありそうですね」
「本人達にもわからんのか……改めて、艦娘って不思議な存在だよなぁ」
そんな事を考えながら、最後になった榛名にタオルケットを掛ける。
みんなすごい勢いで飲んでいたので、駆逐艦や軽巡洋艦の子達あたりは潰れると思っていたが、まさか祥鳳や榛名まで潰れるとは。
間宮曰く「皆さん久しぶりに提督と心置きなく接することが出来る機会ですし、それだけ楽しみにしてたんですよ」との事らしい。
嬉しい反面、長い間そっけない態度を取っていたことに罪悪感を覚える。
「さすがに間宮さん達は、お酒強いですね」
「ふふっ、これでも結構酔ってるんですよ?」
「そんな風には全然……って、間宮さんっ!?」
いつの間にかカウンター席の隣に座っていた間宮が、顔を火照らせたまましだれかかってくる。
なるほど、確かに酔ってるわこれ。
「私達だって皆のように甘えたかったんですよ……?」
「いやでも、駆逐艦や軽巡洋艦とは比べ物に……っ!」
「比べ物に……?具体的には何が比べ物にならないんですかぁ……?」
「そ、それは……あの……」
「あわわ……間宮さん大胆……」
「ふむ……じゃあ私も」
「お、大淀っ!?」
間宮の艶めかしい絡みに四苦八苦していると、今度は反対側から大淀が絡んでくる。
普段から真面目な大淀がこんな風になるとは……
「あ、明石っ!助けてくれぇ!」
「え、えーと……ええいままよっ!!」
「!?」
現在唯一まともそうな明石に救援を要請するが、残念ながら寝返った模様。
龍二の背中からギュッと抱き付き、吹っ切れたかのように2つの豊満な双丘を押し付けてくる。
ああ、最後の砦が崩された……
「み、皆さんちょっと離れませんか……?流石に冗談ではすまなく……」
「……冗談なんかじゃないですよ」
「え……?」
龍二の旨に顔を埋めたまま、急に真面目なトーンになる間宮。
思わず抵抗していた力を緩める。
「提督が愛佳さんと付き合ってる事は承知してます。もちろん提督が彼女を愛していることも。でも、私達も本気で提督の事を愛しているんです」
「間宮さん……」
「出会って間もないのに何を……と思われるかもしれませんが、私たちは艦娘。いつ沈むか分からないのであれば、恋に全力になってもいいんじゃないかって皆と話し合ったんです」
「……」
「って、こういういい方は卑怯ですよね。優しい提督の弱みにつけこんでいるようで……。でも、その位私たちは本気だってことだけ覚えていてほしいんです」
間宮の衝撃の告白に同意するかのように、大淀と明石が頷く。
「だから、最近提督がそっけない感じでみんな寂しかったんですよ?もちろん私達もですけど」
「まあ、一部の子たちが迫りすぎたっていうのもあるかもしれませんけどね。今の彼女さんとの差を埋めるには、多少強引に行かないと……」
大淀と明石の言葉に、先ほどの罪悪感がさらに募る。
自分はなんて残酷なことをしていたのだろう、と。
「皆、そこまで俺の事を……」
「ええ。ですから、受け入れてくれとは言いませんが、せめて皆から逃げないであげて欲しいんです」
「……そうですね、わかりました。もう皆を避けたりしません」
よし、腹を括ろう。
流石に、ここまで言われて尚逃げ回るほど軟弱ではないつもりだ。
まあ彼女達にここまで言わせてしまった自分が言うのも何だが……
龍二の言葉に、3人の顔がパアッと明るくなる。
ついでに言えば、何やら獰猛な獣のような視線を感じる。
あれ、これもしかして早まったかな?
「ありがとうございます!……では、お許しが出たのでさっそく♪」
「ちょっ!?さっきのシリアスな雰囲気はどこ行った!?」
再び3人にもみくちゃにされる龍二。
3人の猛攻は丑三つ時まで続いたという……。
◇
「あー、えらい目に合った……」
ほうほうの体で自室へ戻ってきた龍二は、そのままベッドにダイブする。
艦娘達の波状攻撃と久しぶりの酒のせいで、見るも無残なヘロヘロ具合になっていた。
「しかし、あそこまで好かれていたとはなぁ」
先ほどの間宮の言葉を思い出す。
元は体質のせいとはいえ、あの時の表情に嘘偽りは見受けられなかった。
ようは、体質はただのきっかけに過ぎないのだろう。
「うれしくもあり、辛くもあり、か。提督業も大変だよ、愛佳……」
思わずここにはいない恋人の名前を呟く。
そして抗いがたい疲労に抵抗できないまま、夢の世界へと誘われるのであった。
最近1話1話が短いですね。
そのくせ投稿は遅くなるという……
今後はしばらく短編集みたいな感じで投稿します。
あ、愛佳さんはまだ引っ込んでてください。