提督は今日も必死に操を守る   作:アイノ

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さぁ、いい感じにドロドロしてまいりました。


第14話

「……」

 

「……?」

 

(どうして……どうしてこうなった……)

 

食堂のとある一角。

そこにはとんでもない冷たい空気を放つ艦娘たちと、事情が呑み込めないにも関わらず微笑みを絶やさない愛佳がいた。

そして、2つの勢力に挟まれるようにしながら、絶望という2文字を前面に押し出した龍二が俯いている。

まさに三者三様とはこのことか。一部団体様だったりするが。

 

「ねえ龍二、彼女達の事紹介してくれないの?」

 

「あ、ああ。そういえば紹介がまだだったね―――っ!?」

 

「……」

 

とりあえず艦娘の紹介をしないと―――。

そう思い彼女たちの方を見ると、ひどく怒りを帯びた目線で睨まれた。

思わず「ヒィッ」と声が出そうになるが、恋人の手前みっともない姿を晒すわけにはいかないと、無理やり呑み込んで無かったことにする。

決してちょっとチビったりはしていない。いいね?

 

「えと……もしかして私、歓迎されてない?」

 

「い、いや、そんな事ないよ。みんないい子だけど人見知りなんだよ。なっ?」

 

「……」

 

「ま、まあいいや。とりあえず紹介していくよ。まず彼女が―――」

 

気まずい雰囲気になりつつも、このままでは埒が明かないので艦娘の紹介を始めていく。

艦娘達も龍二の顔を立てる為か、一応形だけの挨拶を済ませていく。

ある者は敵意むき出しで、ある者は表情こそ微笑んではいるが目が笑っていなかったり。

愛佳自身も、自分に向けられる感情を受け止めつつも、人見知りなら仕方ないと納得させる。

さすが何度もクラス委員を務めただけあり、彼女もわりとしたたかである。

 

「以上でうちの艦娘は全員だよ。今後はもっと増えるだろうけど」

 

「ほへー……。噂には聞いてたけど、みんな可愛い子ばっかりだねぇ」

 

「まあ、な。それも悩みのタネの1つなんだけど……」

 

「ん?なんか言った?」

 

「いや何も」

 

危うく余計な所まで聞かれそうになった。

正直な所、愛佳にはこのまま何も知らずに帰ってほしい、というのが本音だ。

もちろん邪険に扱いたいわけではない。真実を知った愛佳に心配されるのが嫌なのだ。

 

先日工廠長から聞いた話を前提に考えれば、ここにいる艦娘達は予想以上に自分を慕ってくれているはずだ。

もちろん慕ってくれるのは嬉しい限りではあるが、それは「仲間」としてであって、「愛している」という意味で慕われても困ってしまうのだ。

だが先ほどの艦娘達の態度を考えるに、もはや前者である可能性は消えたと思っていいだろう。

ふと、第3者がこの状態の艦娘を見たらどう思うか……と思案しようと思ったが考えるのをやめた。

どう考えても今の彼女たちは……

 

「何か聞こえた気がするけど……まあいいや」

 

「ははは……それより、なんで急にここへ?」

 

「だって―――」

 

「ごめんなさい、少しいいかしら?」

 

とりあえず急にここへ来た理由を愛佳に尋ねようとした所で、叢雲に遮られる。

ここへ来てなんだ?と思ったが、叢雲自身は愛佳を見つめたままだ。

要するに、話があるのは愛佳ってことか……どうしたものか。

 

「えと、叢雲さん……でしたっけ?なんでしょうか?」

 

「ちょっと貴女に話があるんだけど……漣っ!」

 

「よしきた!ご主人さま、ちょっとこちらへ~……」

 

「へっ?ちょ、ちょっ漣っ!?」

 

「は~いこっちですよ~」

 

「コラ、引っ張るなぁ~!!」

 

ガッチリと腕をつかまれ、そのまま引きずられていく龍二。

途中漣と叢雲が頷きあっている所を見るに、どうやら確信犯らしい。

扉まで辿り着くも、さらにそのまま外へと引きずられていってしまう。

明らかに体躯の小さい漣に引きずられる龍二を、愛佳は最後までぽかんとした表情で見送っていた。

見た目はアレでも中身は艦娘。ただの人間が太刀打ちできる訳がないのである。

 

 

 

 

部屋を後にした二人の声が聞こえなくなった頃。

何とも言えない雰囲気を残したままの食堂で、叢雲が話し始める。

 

「あなたがアイツの……龍二の彼女なのね」

 

「う、うん。そうだけど……」

 

「さっきの紹介以外に、私たちの事何か聞いてる」

 

「『出会ってからまだ間もないけど、大切な仲間だ』、としか…」

 

「『仲間』ね……」

 

『仲間』という言葉を聞き、少しだけ辛そうな表情を浮かべる叢雲。

予想だにしなかった叢雲の表情を、愛佳は間違った方向に受け取ってしまった。

 

「もしかして龍二……あんまり信用されてない?」

 

「へ?」

 

「なんか辛そうな顔してたから。でも、あの人は親しい人を蔑ろにする人じゃ……」

 

「大丈夫、それはみんな分かってるわ。問題はそこじゃなくて……ね」

 

「??」

 

龍二が艦娘達に信頼されてない訳ではない事が分かってホッとするものの、ではなぜあんな表情をしたのか。

別に問題があるようだが、言いにくそうにしている叢雲を見て再度不安になる愛佳。

叢雲自身も、思わず弱気な態度を見せてしまった事に驚く。

叢雲の立場からすれば言いにくいのは間違いない。だがそれ以上に、一度覚悟したはずなのに臆病風に吹かれた自身を恥じる。

気合を入れなおすため自身の頬をパチンと叩くと、愛佳に衝撃の事実を伝える。

 

「単刀直入に言うと、惚れちゃったのよ。そ、その……龍二に」

 

「……へ?」

 

完全に予想していなかった告白に、思わず呆けた声を上げる愛佳。

自分の恋人であると認識した上での発言なのだ。

思わず呆けるのも仕方ないと言えるだろう。

 

「え、えーと、冗談……ってわけじゃないよね?」

 

「もちろん本気よ。ついでに言うと、龍二の事が好きなのは艦娘全員よ」

 

「全員が龍二の事を……好き?」

 

「ええ」

 

「……」

 

更なる衝撃発言の追加爆撃により、頭の中が真っ白になる。

叢雲の後ろで、各々が頬を染めてたりこちらを敵意むき出しで睨んでいる辺り、本当にタチの悪い冗談ではなさそうだ。

愛佳は、まだ衝撃発言の余波を引きずっている頭をフル回転し、彼女たちの意図をなんとかくみ取ろうとする。

ハーレムでも作ってその一員になれってこと?もしくはこの場で邪魔者は殺害するつもりじゃ……?

いやいや、龍二も『いい子たち』って言ってたし、きっとその点は大丈夫……なはず。

 

「ごめん、1つだけ聞かせてほしいんだけど……私に話した理由は?」

 

「理由はいくつかあるけど、とりあえずの目標は『宣戦布告』かしらね」

 

「宣戦布告…」

 

「そう。ここの艦娘の殆どが自分の恋心に気付いた後に、想い人に恋人がいる事を知らされたの。もちろん私もその1人よ」

 

「……」

 

「というか私が一番最初だったんだけどね……」と、少し辛そうに話す叢雲。

口を挟めそうにない雰囲気の為、愛佳は聞きに徹することにする。

 

「それで皆を集めて事実を伝えて……。最初はみんな諦めると思ってたわ。私も諦め気味だったし……」

 

「……」

 

「でもみんな予想以上に龍二の事が好きみたいで、最終的には誰一人諦めなかったわ。そして私も思わず勇気をもらっちゃった、ってわけ」

 

「それで、宣戦布告……」

 

「ええ。艦娘一同、龍二の事を諦めるつもりはないから!」

 

なんとか事実を伝えることができた為か、スッキリした表情の叢雲、そして反比例するかのように表情が曇っていく愛佳。

 

「まぁ、既にアイツの恋人である貴女にしてみれば、「後からしゃしゃり出てきて何を!?」ってところよね」

 

「それは、まぁ……」

 

「私達には過去が無い……正確に言えば建造されてからの付き合いだから、正直今のあなた達の間に割りこめる自信はないわ」

 

「そう、そうよね……」

 

そうだ、愛佳には長年培ってきた龍二との信頼関係があるのだ。

これだけはどの艦娘にも覆すことのできない真実であり、艦娘と愛佳の決定的な差である。

少しだけ自信を取り戻した愛佳に、叢雲は「でも……」と続ける。

 

「今回は特別だけど、基本的に鎮守府は一般人入場禁止。となると今現在、彼と一緒に過ごせるのは艦娘だけよ」

 

「あ……」

 

「それにまだキ、キスもしてないのよね?」

 

「それは、付き合い始めた矢先に龍二が出頭しちゃったから……」

 

「理由はどうあれ、私たちはこのアドバンテージとチャンスを逃すつもりは無いわ」

 

「……」

 

ここまで捲し立てるように発言してきたが、ふと愛佳に視線を移すと今にも泣きそうになっている。

叢雲もここまで責め立てるつもりは無かったのだが、どうにも龍二絡みとなると熱くなってしまうようだ。

 

「あの、ごめんなさい。別に責めるつもりは無くて、ただ単に私たちの気持ちを全て知ってもらおうと……」

 

「うん……。でもごめん、私だって龍二の事が好き。だから私だって諦めないよ!」

 

「そう……そうよね、それでいいわ。でもそれなら貴女自信はどうするつもり?龍二を提督業から降ろす?」

 

「私は……」

 

どうすれば龍二との仲を守れるのか、必死に考える。

提督業から降りてもらうというのも確かに手ではあるが、曲がりなりにも海軍所属となり、尚且つ数少ない提督業としての極秘情報を知っている以上、日常生活でも規制や監視が付くのは目に見えている。

それにお人好しの龍二の事だ、きっと途中で提督を辞めるという選択肢に「はい」とは言わないだろう。

 

ああでもないこうでもないと考えた結果、1つの選択肢に行き当たる。

実現には相応の準備が必要だが、龍二の為なら何のそのである。

その選択肢のお蔭で、龍二の胃に多大な負担をかける事になるなど気付きもしないまま……

 




この場にいたらそれだけで胃が大破しそうですね……
ちなみに次発装填済みなので、明日も投稿できそうです。

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