提督は今日も必死に操を守る   作:アイノ

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遅くなりましたが投稿します。


第11話

龍二の爆弾発言から一夜明け、現在時刻一〇三〇。

カリカリとペンを走らせる音を執務室に響かせながら、龍二は苦手な書類仕事を進めていく。

どこか心配そうな表情を滲ませながら、それでも何かを待ちわびているような仕草が垣間見える。

理由は単純、今しがた工廠から建造が完了したとの連絡があり、本日の秘書艦である皐月が迎えに行っているからだ。

 

「本当はすぐ工廠に行って確認したかったんだけどな…」

 

万が一戦艦も空母も生まれなかった場合もう一度建造しなくてはならないので、出来ればこちらから出向きたかったのだが、皐月が迎えに行くと言い出したのだ。

やんわりと断ろうともしたが、あんな純粋無垢な笑顔で「まっかせてよ、司令官!」なんて言われたらもはや任せるしかあるまい。

彼の名誉のために言っておくと、彼はロリコンではない。恐らく父性に近いものだ。多分。

ちなみに提督補佐の大淀には、今日から別室にて作業してもらうことにした。

執務室には机が一つしかなく、今までその机で2人して作業していたのだが、空き部屋の掃除が完了したのでそちらに移動してもらったのだ。

本人はものすご~~~~~く不満そうだったが、「公平を期すためですから…仕方ないですね」と何やら意味不明なことを呟きながら移動していった。

 

「あれはどういう意味だったんだろうか…」

 

何か賭けでもしていたのだろうか…大淀はそういう事に興味が無い勢筆頭な気もするが。

そういえば、朝食の時に艦娘達から向けられる視線もいつもと違っていた気がする。

食い入るような視線というのだろうか…そんな目線を向けられながらの朝食は非常に居心地が悪かった。

 

「まぁ、考えても分からんしな…仕事しよ」

 

気合を入れなおして止まっていた手を再び動かそうとしたが、執務室の扉を叩く音に再度ストップがかかる。

軽快なノックの音と共に、扉の向こうで快活な声が発せられる

 

「司令官、2人を連れて来たよ!」

 

「ああ、ありがとう。入っていいよ」

 

「はーい、失礼しまーす」

 

元気いっぱいな皐月を先頭に、新たに建造された2人が「失礼します」と入ってくる。

机の前まで来ると龍二に向かって敬礼し、それぞれ自己紹介を始める。

 

「高速戦艦「榛名」着任しました!」

 

そう言葉を発したのは、巫女服と赤いミニスカートに身を包んだ、黒髪ロングの清楚な少女だ。

頭に黄金色のカチューシャのようなものを付けており、艶のある黒髪とのコントラストが美しい。

清楚な風貌ではあるがハキハキとした喋り方で、一瞬で「ああ、いい子なんだろうな」と想像できてしまう不思議な魅力がある。

 

「軽空母「祥鳳」です。よろしくお願い致します!」

 

榛名の後に続く彼女もまた、美しい黒髪を腰まで伸ばした清楚なイメージの少女だ。

服装は弓道着のようなものを着ており、髪の先は可愛らしいリボンで纏められている。

…それはいいのだが、今から弓を射るわけでもないのに上着を半分肌蹴ているのはなぜだろうか。

胸に巻かれたサラシが露出してチューブトップのような状態になっており、少し目線の置き場に困ってしまう。

 

「提督の須藤龍二だ。まだまだ新米提督だけど、これからよろしくお願いするよ」

 

そう言いつつ2人に微笑みかけると、案の定照れたような表情を見せる2人。

こちらを見つめる視線も、少しずつ熱っぽいものに変わっているような気がする。

 

(ふむ…)

 

その表情を見た龍二は、一瞬だけ思案顔になった。

そして他の艦娘に聞こえないよう「一つ仕事が増えたかな…」と小さく呟くと、すぐに表情を笑みに戻す。

どうやら誰にも気づかれなかったようだ。

 

「戦艦も空母もうちでは初めての艦種になるから、2人とも頼りにしてるよ」

 

「はい、榛名にお任せください!」

 

「お役に立てるよう、頑張りますね!」

 

「うん、頼んだよ。…皐月、鎮守府の案内をお願いしてもいいかな?」

 

「任せて!隅々までちゃ~んと案内してみせるよ!」

 

「一二〇〇になったらそのまま食事にしてくれていいからね」

 

「は~い!行こっ、榛名さん、祥鳳さん!」

 

2人の手を引きながら、元気に執務室を出ていく皐月。

人懐っこい彼女の事だ、戻ってくるころには仲良しになっている事だろう。

 

「しかし、なんとか1回で戦艦と空母が来てくれて良かった…」

 

そう呟きつつ、ホッと胸を撫で下ろす龍二。

正確には祥鳳は正規空母ではないが、例の海域では敵空母の存在は確認されていないようなので、軽空母でも十分制空権は取れるだろう。

それに、未だ資源の少ない我が鎮守府としては、コストの安い軽空母はむしろ大歓迎である。

後は、任務開始までにどれだけ錬度の向上といい装備の開発が望めるかにかかっている。

 

「…そういえば、戦艦と空母用の装備の開発指示、まだ出してなかったな」

 

結局工廠に行くことになるのかと、少しだけ肩を落とす。

外は昨日に引き続き絶賛異常気象中で、見てるだけでも汗が出てきそうだ。

 

「工廠長に聞きたいこともあったし、仕方ないか」

 

人知れずぼやきながら、執務室を後にする。

開発の指示を出すとともに、ふっと湧いた疑問を解消する為に…。

 

 

 

 

「おや提督さん、どうしました?皐月さんなら2人を連れて戻りましたが…」

 

「ああ、そっちは先ほど会ったのですが、2人用の装備の開発指示を出してなかったなぁと」

 

「なるほど、開発の方ですね。ではこちらへ…」

 

工廠長に促され、開発スペースへと向かう。

開発スペースとは言っても、建造とは違い仰々しい機械などは無く、大きな作業テーブルがポツンと置かれているだけだ。

開発用のレシピを指示すれば、妖精たちが資材を使ってテーブル上でカンコンと作業を始めるわけだ。

 

「さて、戦艦と空母ということは…とりあえずは主砲と艦載機レシピですかな?」

 

「そうですね。あと、それとは別に…」

 

開発用のレシピ集を確認しながら、工廠長と開発の予定を立てていく。

艦娘は生まれた時点でいくつか装備を所持しているが、性能やバランスが悪く正直そのままでは心もとない。

そんな状態のまま出撃させるのは心臓に悪いので、ここ最近は開発に重点を置いてきた。

…欲しい装備がなかなか出ずヤケクソで開発を行い、大量に資源を消費して大淀に怒られたのも今やいい思い出である。

 

「…分かりました。ではこの予定で開発を進めますね」

 

「お願いします。…あっ、あと一つ聞きたいことが」

 

「おっと、なんでしょうか?」

 

早速開発を始めようとしていた工廠長を慌てて引き留める。

開発の予定組に熱中しすぎて、もう一つの本題を忘れる所だった。

 

「艦娘って、もれなく提督に好意を寄せるようになったりしますか?」

 

「…どうしてそうお思いに?」

 

「ええと、それが…」

 

「自惚れかもしれませんが」と前置きをした上で、思い当たる出来事を片っ端から伝えていく。

挨拶を交わした時の態度の変化、毎日のように食事やお茶会等に誘ってくる積極的なアプローチ、昨日の風呂場での事件、そして今朝の謎の熱視線etc…

 

「九割九分自意識過剰だとは思うのですが、何となく気になりまして…」

 

「なるほど。…結論から言うと、生まれた当初から好意をもって生まれてくるという事はありません」

 

「デスヨネー…」

 

「もちろん自分を生み出してくれた存在な訳ですから、それなりの信頼はあるでしょうけど。ただ…」

 

「ただ…?」

 

「提督さん、初めてお会いした時に私が言った言葉、覚えてますか?」

 

「初めて会った時、ですか…?」

 

はて、何か特別な事を言っていただろうか?

ゆっくり思い返していると、とある発言に行き当たった。

 

「そう言えば…不思議なオーラが出てるとか、妖精に好かれやすくないか?と聞かれた記憶が…」

 

「ええ、そこです。提督さんからは、普通の人間にはない『妖精に好かれるオーラ』が出てるんです」

 

「確かに昔から妖精に好かれてた気はしますが…てっきり『妖精と会話できる能力』を持つのが周囲に私しかいないからだと思ってました」

 

「いくら妖精が好奇心旺盛といっても、無暗矢鱈に人間に寄って行ったりはしませんよ」

 

「なるほど。でもそれと一体何の関係が………まさか!?」

 

「そう、本題はそこです」

 

とある結論に行きついた龍二の肩に、ピョンとジャンプして飛び乗る工廠長。

妖精の体格からするとあり得ないジャンプ力だが、そんな事を気にしている余裕は龍二には無かった。

 

「どうやら、そのオーラは艦娘の皆さんにも効果絶大のようですね」

 

「ああぁ…なんてこったい…」

 

工廠長を方に乗せたままくずおれる龍二。

足場が揺れても一切動じないあたり、さすが妖精である。

 

「好かれはすれど嫌われる事はないわけですし、そんなに落ち込むこともないのでは?」

 

「事はそう簡単じゃないんですよ…」

 

「??」

 

首を傾け不思議そうな表情を浮かべる工廠長。

あまりあちこちに言い触らしたくは無いのだが、説明の為に仕方なく故郷に恋人がいる事を伝える。

無論、未だプラトニックなお付き合いをしている事までしっかりと。

 

「それはそれは…。艦娘の皆さんはご存知で?」

 

「昨晩、叢雲にだけ伝えました」

 

「あー、なるほど…」

 

「熱視線ってそういうことか…」と呟きながら、うんうんと頷く工廠長。

そして面白い事を見つけた子供のような極上の微笑みを龍二に向けながら、一言。

 

「これから面白い事になりそうですね!」

 

「勘弁してください…」

 

無慈悲なトドメの一言に、再度くずおれる龍二。

建物内に工廠長の楽しげな笑い声が響き渡った。




ついに龍二が真実に直面しましたね…

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