ドラゴンクエストビルダーズ メタルギアファンの復興日記   作:seven river

50 / 225
Episode49 闇に染まりし不死の者

俺たちは、ヘルコンドルを倒した後に起きた出来事に唖然としていた。

 

「おお、何が起きたのでしょうか!?ヘルコンドルは倒されたはずなのに···」

 

「何者なのじゃ!?伝説の素材を奪っていったのは」

 

あまぐものつえが伝説のアイテムだと言うのは、みんなも知っているのか。だが、ヘルコンドル以外の強力な魔物のことなど、考えてはいないようだ。

俺には、その魔物が何なのかは、だいたい予想がついていたが。

 

「多分、ウルス···マッドウルスだ。強大な魔物になった、ゲンローワの弟子だ」

 

俺がウルスの名を口にしたことを、ゲンローワや他のみんなは、とても驚いていた。

「なんじゃと!?ウルスが、伝説の素材を奪っていったというのか?」

 

マッドウルスはとてつもなく禍々しいオーラを放つ魔物なので、あまぐものつえを闇に染めることもできないはずはない。

 

「ですが、どうしてウルス様が魔物になったのですか?」

 

俺が恐らくそうだ、と答える前に、エルがウルスのことについて聞いてきた。

俺も話しておきたいが、これはゲンローワの辛い過去だから、話していいのか、一応聞くか。

 

「ゲンローワ、ウルスのことを話していいか?」

 

「もちろんじゃ。今さら隠すこともない」

 

ゲンローワが良いと言ったので、俺はウルスとゲンローワの過去について話し始めた。

 

「ウルスは、病を治すために様々な研究をしていた。そして、その途中に恐ろしいことを閃いてしまったんだ」

 

「恐ろしいこと···?昔から気になっておりましたが、何があったのですか?」

 

そう言えばエルはゲンローワと長い間過ごしてきたから、ウルスにも会ったことがあるかもしれないし、余計に気になっているんだろう。

 

「死ななくなる代わりに、魔物になってしまうという方法だ。ウルスはその研究を完成させて、たくさんの人に使った」

 

「じゃあ、まさかオレたちは?」

 

俺の話を聞き、エディは何かを思い付いたような顔をしていた。

魔物化の病にかかっていた3人は、やはりウルスのところに行ったようだ。

「ああ、エディ、ケン、イルマにもその魔物化の病を植え付けた。俺たちが浄化の霊薬で治したけどな」

 

「やっぱりか。あのヤロウ、オレたちを騙してたんだな!」

 

「僕もウルス様のところに行った後、ここに来たんです。まさかそんなことをされていたなんて」

 

「おれも、何とか病が治らないかウルスのところに行ったんだ」

 

騙されたと言うのも無理はないな。ウルスに悪意はなかったとは言え、愚かなことをしたことに代わりはない。そう考えると、マッドウルスは人間の愚かさから生まれた魔物だと言える。

 

「別にウルスは悪意があって魔物化の病を作った訳じゃない。だけど、ウルス自身もその病に感染し、最後には強大魔物になってしまった。そいつを俺は狂ったウルス···マッドウルスと読んでいるんだ」

 

マッドとは、狂っていると言った意味のはずだ。元は悪気がなかったとはいえ、今は完全に狂っている。

 

「そうか、この地での最後の戦いの相手は、我が弟子であるのか···」

 

マッドウルスの話をすると、ゲンローワは暗い顔になった。俺も人間だった者と戦いたくはない、師匠であるゲンローワにとってはなおさらだろう。しかし、リムルダールを解放するには、戦うしか、殺すしかない。

 

「気持ちは分かる。でも、戦うしか方法はないんだ」

 

ゲンローワは少し悩んだが、うなずいた。

 

「分かっておる。我が弟子であろうと、襲ってくるのなら倒すまでじゃ。それに···ウルスも早く苦しみから解放されることを願っているはずじゃ」

確かに、ウルスは魔物になって苦しんでいるのかもな。せめて、楽にしてやりたいってことだろう。

 

その時だった、リムルダールの地が、再び揺れたのだ。その揺れは、ヘルコンドルが来た時より強かった。

 

「そろそろマッドウルスが来る。空を飛んでいる訳じゃないから、俺も近づいて戦うぞ。エルたちは聖なる矢を使って少しでも動きを止めてくれ!」

 

マッドウルスはゾンビの魔物なので、聖なる矢が効くだろう。

全員が配置について、しばらくした後、マッドウルスが現れた。

 

「あれがマッドウルスだ、行くぞ!」

 

この前見た時と同じように、全身が漆黒に染まり、血のように赤い目で俺たちを睨み付けていた。

リムルダールでの最後の戦いが、ついに始まった。

 

「皆様、相手が誰であろうと、必ず勝ちましょう!」

 

最初に、エルの掛け声で5人が聖なる矢をマッドウルスに放つ。

 

「ヘルコンドルだろうが、マッドウルスだろうが、必ずあたいたちが倒してみせるよ!」

 

「ウルス様、これ以上狂わないでください!」

 

「おれたちがこのリムルダールの闇を晴らしてやるぜ」

 

「オイラたちの町を攻めるんじゃないべ!」

 

みんなはそれぞれに言葉を発しながら聖なる矢を当てるが、マッドウルスは少しも止まらず、俺たちの町に近づいてくる。

 

「やっぱり麻痺の効果は効かないか」

 

聖なる武器には不死の魔物に麻痺の効果があるが、マッドウルスには全く効かなかった。

エルたちはそれでも諦めず、聖なる矢を撃ち続ける。だが、それはかえってマッドウルスを凶暴化させるだけだった。

 

「グギャアアアアアーーー!」

 

マッドウルスは恐ろしい叫び声を上げると、大弓を使うエルたちを鋭く睨む。そして、口の中に力を溜め始めた。

 

「な、何をするんだべ?」

 

「とんでもない攻撃が来そうだ」

 

それを見て、イルマやザッコも恐ろしい攻撃が来るのではないかと恐れていた。

そして、力を溜め終えると、マッドウルスは口から5つの巨大な毒の砲弾を放つ。それはこの前のリビングデッドが放ったものより10倍ほどの大きさで、5人の真上に落ちてきていた。

「みんな、攻撃が来るぞ!」

 

俺はその毒の砲弾を見て、エルたちにそのことを伝える。エルやケーシーはマッドウルスを撃ち抜くことに必死になっていたが、攻撃に気づいてよけた。

毒の砲弾は、5人が使っていた大弓に直撃した。もし当たっていたら一撃で死ぬかもしれないし、一撃ではなくても毒で死んでしまうだろう。

大弓とその近くの屋根はバラバラに壊れ、毒の液体が建物の中にまで入っていった。

 

「くそっ、部屋の中が汚染された」

 

毒を片付けないと部屋を使うことは出来ないだろう。だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

マッドウルスはついに町の光の中に入り、建物を壊そうとしていた。奴の闇の力が原因で、ルビスの光も弱まっている。

 

「私達の大切な町は決して壊させません!まだ大弓は残っています。それで何とか倒しましょう」

 

5台の大弓が壊されたが、まだ3台残っている。8個も作っておいてよかったな。エルはまだ残っている大弓を使い、マッドウルスを撃ち抜く。残り2台はケーシーとケンが使い、聖なる矢を次々に放つ。

そしてついに、マッドウルスの体に大きな穴があき、少し弱らせることができた。だが、倒すのにはまだまだ聖なる矢が必要だろう。100本作っていたとしても、足りなくなる。

ヘルコンドルのように動きを止めて、全員で叩きのめそうと思っていたが、その作戦では勝てないようだ。

 

「俺たちもあいつを斬り裂きに行くぞ」

 

俺とゆきのへはてつのおのを、ゲンローワとエディとケンははやぶさのけんを持ち、マッドウルスに近づいていく。

 

「ズギャアアアアアアアア!」

 

下からも上からも狙われたマッドウルスは、さっきより大きな叫びをあげた。

今度は何を使うんだ?と思っていたら、マッドウルスは呪文を唱えるような行動をとった。

 

「こいつはもう人間じゃないから、魔法まで使えるのか」

 

この世界では呪文も物作りの力と同様に、竜王に奪われているようだが、魔物となれば使えるようになるのだろう。ただのくさったしたいには呪文は使えないが、マッドウルスほどの奴であれば別だな。恐らくこいつが使うのは闇の呪文だろう。

マッドウルスが呪文を唱えると、町に俺たち全員を巻き込むような特大の闇の力が解き放たれる。

そして、その闇の力が町の中で炸裂した。

俺たちは何とか剣で防ごうとしたが、かなり吹き飛ばされてしまった。

 

「何て強いんだ···ドルモーアか?」

 

俺は地面に叩きつけられた痛みに耐えながら、起き上がる。みんなも呪文に気付き、直撃は避けられたが、町の建物は大きく壊され、希望のはたも折れかけていた。

マッドウルスが使ったのは、恐らくドルモーアだろう。闇の呪文であるドルマ系の呪文の3段階目、ドルモーアを受ければこのくらい破壊されるのも当然なのだが、ここまで町が被害を受けたのは初めてだ。

今まで作り上げてきた町を壊され、みんなもショックを受けている。

 

「おお、なんということじゃ···町がボロボロになっておる」

 

「せっかく皆様と作り上げてきた町なのに、どうしてこのようなことに···」

 

このようなことをしても、マッドウルスはまだ町を破壊しようとしていた。希望のはたを完全にへし折り、全ての建物を跡形もなく消し去るまでやめないのだろう。ウルスは狂っているとは分かっていたが、まさかここまでするとはな。

 

「みんな、町は後で直せばいい。今はあいつを倒すことに集中しよう」

 

俺がそう言うと、ゆきのへも俺に続いて言った。

 

「雄也の言う通りだ。壊れた町なんていくらでも直せる。今は敵を倒すことだけに集中するんだ」

 

そう言えば、メルキドを旅立つ時にロロンドも言っていたな。壊れた町などいくらでも直せる。大切なのはそこに住む人間だと。

必ず勝って、リムルダールを復活させてやる。

 

「わかったぞ。わしも諦めはしないのじゃ」

 

「あたしも頑張ります!ヘルコンドルを倒したんですから、こいつも倒せないはずがありません!」

 

「悪気はなくてもお前はオレを騙した。それに、町まで破壊するなんてよ。絶対に許さねえ」

 

俺とゆきのへに続き、近接武器を持つゲンローワ、ミノリ、エディもマッドウルスに斬りかかっていった。

「俺たちに勝てると思うなよ」

 

近づくと、マッドウルスはみんなを殴ってくる。その動きはゾンビとは思えないスピードで、攻撃を当てるのがやっとだった。

 

「くそっ、こいつ、こんなに動きが速いのか!?」

 

5人で囲んでも攻撃をほとんど防がれ、恐らくこれまでに出会った敵の中で最強の奴だ。

俺ははやぶさのけんとぎんのおのの二刀流で、マッドウルスの動きを必死に止めようとする。だが、その度に弾き返され、俺の腕に強い痛みがはしる。

 

「どうやったら止められるんだ?」

 

俺の腕の力も限界に来ていた時、ゆきのへが何とか動きを止めようと、マッドウルスに掴みかかり、腕をぎんのおので斬りつけた。

マッドウルスはゆきのへを振り払おうとするが、ゆきのへは懸命にしがみつき、俺にこう言った。

 

「雄也!速くこいつを斬り裂くんだ!」

 

ゆきのへは腕の力が尽き、マッドウルスに投げ飛ばされる。俺は、動きを再開する直前に渾身の一撃を放った。

 

「回転斬り!」

 

俺の放った回転斬りで、マッドウルスは胴体に大きな傷を負った。さっきの聖なる矢で受けたダメージもあるので、かなり弱ってきているはずだ。

それでも、マッドウルスは抵抗を続けてきた、体勢を立て直したと同時に、口から町を闇に包む霧を吐いてきた。

 

「暗黒の霧!?こんな技まで使えるのか」

ドラクエ10のマッドスミスも使う技、暗黒の霧だ。マッドウルスはこんな厄介な技も持っていたのか。

 

「前が見えない!マッドウルスはどこにいるんだ!?」

 

暗黒の霧により視界がほぼ真っ暗になり、マッドウルスの姿も仲間たちの姿も見えなくなっていた。

そして、仲間たちの悲鳴とマッドウルスの叫び声が、何度も聞こえてきた。

 

「みんな、どうなってるんだ!?」

 

声を頼りに俺はみんなを探そうとするが、途中でいきなりマッドウルスに体を掴まれた。

マッドウルスは俺に傷をつけられたことを怒っているようで、すさまじい視線を送りつけてくる。

 

「何をするつもりなんだ?」

そして、マッドウルスは俺のすぐ近くで、毒の砲弾を溜め始めた。俺は掴まれているため離れることも武器を使うこともできない。

俺はスーパーリングをしているため毒は防げるが、至近距離で放たれたらさすがに耐えきれないだろう。

 

「クソッ、何か方法はないのか!?」

 

俺は何とか抜け出す方法を考えたが、少しも思い付かない。

そして、毒の砲弾が放たれるその時だった、誰がが俺を突き飛ばし、代わりに毒の砲弾を受けたのだ。

 

「何が起きたんだ!?」

 

やがて、暗黒の霧の効果がなくなり、視界が元に戻った。

誰が俺を助けてくれたのかと思い、吹き飛ばされた方向を見ると、ゲンローワが倒れていた。

エルたちもそれに気づいて、ゲンローワに駆け寄る。

 

「ゲンローワ様!しっかりしてください!」

 

エルはゲンローワに声をかけると、辛うじて意識があった。だが、今にも力尽きそうな状態だった。

 

「何で俺を庇ったんだ?」

 

「お主には恩があるからのう。エルが倒れてわしがお主に助けを求めた時、お主は断らず聖なるしずくを作った。本当に感謝しておる」

 

そう言うと、ゲンローワは意識を失った。エルのことも、最初は彼女の願いを聞き入れようとしたが、ゲンローワに頼まれて断れなかったな。

ゲンローワは今、そのことを恩に俺を助けてくれた。俺も、ゲンローワを助けてやらないとな。

 

「このままだと死んでしまう。何とか治療しないと」

 

回復しないといけないが、きずぐすりやくすりの葉では効果がないほどの重傷だ。

その時、俺はポーチにあるアイテムが入っていることを思い出す。

 

「そう言えば、遺跡でいのちのきのみを見つけたな。これが使えるかもしれない」

 

いのちのきのみは体力ゲージのない現実では使い道がないと思っていたが、生命力を強化する力を持つすごい木の実だ。これを使えばゲンローワを治せるかもしれない。

 

「エル、これをゲンローワに食べさせてくれ。俺はマッドウルスとの戦いに戻る」

 

「分かりました、雄也様!」

 

俺はエルにいのちのきのみを渡すと、未だに倒れないマッドウルスのほうを向いた。だが、マッドウルスは動きを止めていた。

 

「ゲンローワ様···私は···私は···なんてことを···!まさか、ゲンローワ様まで傷つけてしまうなんて!」

 

マッドウルスの中から、元のウルスの声が聞こえてきた。自分の師匠を殺しかけてしまったというショックで、一時的に正気を取り戻しているようだ。

 

「早く···私にとどめをさしてくれ···これ以上傷つける訳には···いかない」

 

ウルスの最後の理性がマッドウルスの身体を止めているようだ。倒すなら、今しかないだろう。

「今だ!ウルスの気持ちが動きを止めている!」

 

俺、ゆきのへ、ミノリ、エディは全力でマッドウルスに斬りかかつた。

ゆきのへは頭を、ミノリは腕を、エディは足を斬り刻む。そして、最後に俺が大きな傷を負っている胴体に、もう一度渾身の回転斬りを放った。

 

「回転斬り!」

 

ついにマッドウルスは力が尽き、青い光を放って消えようとしていた。ウルスが、最後に俺にこう言い残した。

 

「ありが···とう。たすけて···くれて。あまぐものつえを···伝説の杖を···掲げるんだ···」

 

殺したのに助けた···か。エルの時も最初はそう思っていたが、殺したほうが救われるということもあるんだな。

マッドウルスが消えたところを見ると、ヘルコンドルを倒した時にも見た、あまぐものつえの部品が落ちていた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。