ドラゴンクエストビルダーズ メタルギアファンの復興日記   作:seven river

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Episode33 朽ち果てし亡骸

リムルダールに来て11日目の朝、俺は昨日まんげつ丸を与えたイルマとザッコの様子を見に、病室に入った。

 

「あいつら、治ってるといいんだけどな」

 

病室では早起きしたエルが病人の様子を見ていて、ザッコが起き上がっていた。どうやら、まんげつ丸は効果があったようだ。

彼は、俺を見つけて話しかけてきた。

 

「あんた、もしかしてオイラを助けてくれた人だべか?あんがとな!」

 

ザッコは元気になり、普通に話せるほどまで回復しているようだ。そして、俺はザッコに対して、いつも通りの自己紹介をした。

 

「俺は影山雄也だ。いつもは雄也って呼んでくれ」

 

「雄也さんって、言うのか!よろしくな!」

 

ザッコは笑顔であいさつをした。これで町の仲間も8人になるな。最終的にはどれくらいまで増えるんだろうか。俺がそんなことを考えていると、ザッコは笑顔から、心配そうな顔に変わった。

 

「あとはまだ起き上がれねえ、友達のイルマを治してやりてえが···。オイラとは、違う病気かもしれないべ」

 

やはり、友達のことが気になっているのか。かもしれないじゃなくて、確実に違う病気だ。イルマにもまんげつ丸を与えたが、回復する様子は全くない。むしろ酷くなっている様子だ。禍々しいオーラもだんだん強くなってきている。

 

「ああ、明らかに違う病気だな」

 

「雄也さんもそう思うべか。オイラ、隣で見てたんだけどよお、ずっと身体をかゆがって血が出るまでかきむしってやがんだぞ?」

 

俺は知らなかったが、確かに3人の身体を見るといくつも出血した跡がある。こんな症状を起こさせるモンスターなんて、見当もつかないな。だが、なんとしても助けないといけない。

 

「今は治す方法はないが、必ず治してやりたいな」

 

俺がそう言うと、ザッコは少し安心した顔をする。

 

「ありがとう雄也さん。絶対に治してやるって、約束だべ?」

 

「もちろんだ」

 

俺がその返事をすると、ザッコは病室の外へ出ていった。この町のことを気に入ってくれるといいのだが。

 

「雄也様、ザッコ様を治すことができましたね」

 

ザッコが出ていくと、エルが俺に話しかけてきた。病人を治すことができて、エルも嬉しいだろう。

だが、エルもザッコと同じように治らない3人を心配しているようだ。

 

「しかし、治療を行ったはずなのに治らないどころか、逆に悪化していく患者様が多くいらっしゃいます。彼らからはおぞましい気配が感じられ、こんな症状は見たことがありません」

 

禍々しいオーラや魔物の気配については、エルも気づいてたんだな。だが、エルはそれ以外にも気になることがあるようだ。

 

「それに、あの3人はウルス様のことを言っていました。ウルス様は、確かゲンローワ様の弟子だったはず。ひょっとすると何か関係があるのでしょうか?」

 

ウルスとあの病気の関係か···よく分からないな。ウルスは3人がかかっている病の研究でもしているのだろうか。

 

「今は分からないな。ゲンローワも話したくないらしいし」

 

俺も気にならないことはないが、無理にしゃべらさせるのはよくないだろう。よっぽどのことがない限り、本人が教えてくれるのを待つしかないな。

 

「そうですよね。私もそこまで気になるわけでもありません。ところで、雄也様」

 

エルはウルスの話を一旦やめて、話題を変えた。

 

「実は、1つ作りたい部屋の設計図を書いたのです」

 

病室以外にも作りたい部屋があったのか。どんな部屋なんだろうな。

エルが持っていた設計図を見ると、仕立て台という作業台が1つと、クッションいすが2つ置いてある部屋だった。

この前魔法で調べたら、確かいしのおのは仕立て台で作れるはずだったからな、武器を作る部屋がほしいのだろうか。あの時にエルに仕立て台のことを聞いていれば良かったな。

 

 

 

「武器の部屋か?」

 

「いいえ、私はキレイな服を作るための部屋がほしかったのです」

 

武器ではなく、新しい服を作るための部屋なのか。メルキドで全員の服を作ったピリンもいるし、あったほうがいいかもしれない。少なくとも、武器を作るために仕立て台は必要だ。

 

「そう言うことか。確かに、服がキレイなほうが雰囲気も明るくなるよな」

 

「はい!私も作るのをお手伝いします」

 

エルも手伝ってくれるなら、土ブロックを入れるための持ち運び収納箱が必要だな。

 

「なら、そのための道具を作らないとな」

 

俺は作業部屋にある木の作業台で持ち運び収納箱を作って中に土ブロックを入れ、エルに渡した。

 

「この中に入っている土ブロックを使って壁と天井を作っておいてくれ」

 

水飲み場の時もそうだったが、壁や天井を作るのは任せることが多い。壁などを作っている間に俺が家具を作る方法が、一番早く出来るからな。

俺は再び作業部屋に入り、2つのクッションいすを作る。その後、仕立て台の作り方を調べた。

仕立て台···木材5個、綿毛3個、ひも3個

どれも、旅のとびらの先でたくさん入手できた素材だった。かなりの在庫があるはずなので、すぐに作ることができるな。

 

「これに魔法をかけてと···」

 

ビルダーの魔法をかけると、それらの素材は短時間で仕立て台へと変わっていく。仕立て台は、服や布を作るための形になっていて、とても武器が作れるようには思えなかった。

 

「本当にこれで武器が作れるのか?」

 

俺は試しに、今作った仕立て台で、いしのおのを作ってみた。すると、この前俺が持っていたいしのおのと全く同じものができた。どうやら、本当に仕立て台で武器が作れるらしい。

 

「原理は分からないが、とりあえず新しい部屋において、ピリンに教えるか」

 

俺は作業部屋から出て、調理部屋にいるピリンに話しかけにいった。

 

「おい、ピリン。服を作るための作業台が出来たんだ。みんなの服を作ってくれないか?」

 

服の話をすると、ピリンは喜んで調理部屋から飛び出してきた。どうやら、早く作りたくて仕方がないようだ。

 

「ありがとう雄也!実はわたしこの町に来てからずっと、みんなに服を作ってあげようと思ってたんだ!」

 

「その作業をするための部屋も出来てるはずだ」

 

俺とピリンは、エルの作っている部屋を見に行った。すでに壁と天井が完成しており、あとは扉をつけるだけでよかった。俺はその中に仕立て台、クッションいすを置き、そして入り口にわらのとびらを設置した。それを見て、エルも喜んでいる。

 

「おお、雄也様!私の考えていた衣装部屋が完成しました。本当にありがとうございます!」

 

「これぐらい簡単だ。みんなのための服はピリンが作ってくれる」

 

俺がピリンの話をすると、エルは初耳らしくとても驚いた。まあ、10歳くらいの女の子が服を作るなんて、本当にすごいことだけど。

 

「ピリン様は、服を作ることが得意なのですね」

 

「うん。みんなのお洋服を作るから、楽しみに待っててね!」

 

ピリンは服を作るために、さっそく衣装部屋に入っていった。彼女が部屋の中に入るのを見て、エルも改めてお礼をしてくる。

 

「雄也様。病室だけでなく、衣装部屋まで作っていただき、本当にありがとうございました!」

 

そんな時だった。この前の襲撃の時のように、再びリムルダールの空に、鳥の羽ばたく音が聞こえた。俺が空を見上げると、やはりヘルコンドルがこの地に迫ってきていた。

俺は衣装部屋が出来て喜んでいるエルにそのことを伝えた。

 

「エル、喜んでいる場合じゃないようだ。ヘルコンドルがまた町に近づいてきている」

 

その話を聞くと、エルの顔は一瞬にして怒りの表情となった。エルの性格からして、この地に病をもたらすヘルコンドルが絶対に許せないのだろう。

 

「患者様の治療も終わらず、これからと言う時に···!雄也様、ヘルコンドルはまた手下の魔物を呼ぶはずです」

 

さすがに、まだヘルコンドル本体と戦うことにはならないか。だが、今回は前より強力な魔物を連れて来ているはずだ。

 

「ああ、このことをみんなに知らせるぞ!」

 

俺は町のみんなを呼び、ヘルコンドルが迫っていることを話した。それを聞いて、全員が戦闘に備える。今日病気が治ったザッコも、エルのように石を投げることで戦ってくれるようだ。

ヘルコンドルは町の近くにつくと、大きな雄叫びをあげる。そして、その声と同時に多数の魔物が現れた。

 

「キャタピラーにリカントマムルか。ん?あれは何だ?」

 

大量のキャタピラーと、赤色のリカント、リカントマムルがほとんどだったが、中心に隊長と思われる人の形をしたモンスターがいた。

人の形と言っても全身が朽ち果てており、まともな自我も存在していない。

 

「くさったしたいか。こんな奴もいるんだな」

 

ドラクエでは、確かくさったしたいと呼ばれているモンスターだ。そのくさったしたいを中心に、魔物の軍勢はリムルダールの町に向かってきていた。

 

「この町を守り抜くのじゃぞ!」

 

「ワシも頑張って戦うぜ!」

 

俺、ゲンローワ、ゆきのへは魔物たちを迎え撃ちに走っていく。リムルダールの2回目の防衛戦が始まった。

 

まず、前衛にいたキャタピラーが回転して突進してくる。マヒの森で何回もその攻撃に対応しているので、かわすのは容易だ。スピードも巨大キャタピラーより遅い。

 

「お前らの攻撃はもう慣れてるんだよ!」

 

俺は突進しているキャタピラーの横に回り込み、いしのおのを叩きつける。一撃では死ななかったが、怯んだところにもう一回攻撃すると、倒すことができた。

 

「こいつらも結構弱いな」

 

マヒの森にいた子供のキャタピラーよりは強いものの、大した力はなく、数も20匹くらいと10分の1以下だ。

それに、今回は町のみんなもいるからな。

 

「わしらの町を壊すでないぞ!」

 

ゲンローワとゆきのへも、キャタピラーの攻撃を受け止めて、なぎはらったり叩きつぶしたりする。キャタピラー軍団を次々に倒していき、残り数体になった。

奴らは、俺たちのところに一斉に突進してくる。俺はかわすのではなく、近づいていしのおのに力を込めた。

 

「これで終わりだ!回転斬り!」

 

キャタピラーたちは体を引き裂かれ、青い光になって消えていく。

 

「よし、キャタピラーは全部倒したな!」

 

奴らが全滅したのを見て、リカントマムルが殴りかかってくる。キャタピラーと違い攻撃力や知能も高そうなので、気を付けて戦わないといけないな。

4体いるリカントマムルのうち、俺とゆきのへとゲンローワが一体づつ相手をし、残りの一体はエルたちに足止めしてもらおう。

リカントマムルはしゃべることが出来るらしく、俺を威嚇してくる。

 

「ビルダーめ、お前は絶対に倒してやるぞ」

 

しゃべるモンスターが防衛戦に来るのはリムルダールに来て初めてだな。もちろん、何を言われようと負ける訳にはいかない。

リカントマムルは、俺を鋭い爪で攻撃してきた。

 

「かなり鋭いな。だが、この爪ごと引き裂いてやる!」

 

俺はその爪をいしのおので受け止め、リカントマムルの爪が割れるほどの力を入れる。強靭な爪もさすがに耐えきれず、砕けてしまった。

 

「ぐぬうっ!何てことをするのだ」

 

激しい痛みで、リカントマムルは動きが止まる。だが、すぐに立ち直り、大きく飛び上がってもう片方の爪で俺を切り裂こうとした。3メートルくらいジャンプし、俺へ目掛けて爪を降り下ろす。

 

「消えろ!ビルダーめ!」

 

俺は攻撃を受ける直前に避けて、リカントマムル地面に着地した瞬間に背後から回転斬りを放つ。強力なモンスターであろうが、生物である以上痛みは感じるので、再び動きが止まる。

 

「お前なんかが俺を倒せると思うなよ!」

 

俺はリカントマムルの内臓にいしのおのを突き刺し、思い切りえぐった。

 

「ぐぎゃああああああ!」

 

リカントマムルは大声で悲鳴をあげて、倒れていった。奴は、爪のような素材を落とした。だが、今は拾っている場合ではない。

俺は別のリカントマムルと戦っているみんなの方を見た。エルたちと戦っているリカントマムルは石を投げつけられまくり、顔の形が変形している。

 

「これでとどめです!」

 

弱ったのを見て、3人は同時に大量の石を投げつけた。そして、リカントマムルの目や鼻、頭を潰して倒した。

 

「あと2体みたいだな」

 

俺はエルたちがリカントマムルを倒したことを確認し、次はゲンローワとゆきのへの様子を見る。ゆきのへはおおきづちで頭を叩き潰して倒せていたが、ゲンローワはリカントマムルの攻撃を受けていた。それに、目が回っているかのような変な動きをしていた。

 

「ゲンローワ、どうしたんだ?」

 

俺が話しかけると、ゲンローワはいくつか傷を負っているが、話はできる状態だった。

 

「目が回ってうまく戦えない。奴の攻撃を受けると視覚が混乱するようなのじゃ」

 

リカントマムルの攻撃にはそんな効果もあったのか。くらわなくてよかったな。

俺はゲンローワと戦っていた残り1体のリカントマムルにいしのおのを向けた。目が回っている状態で戦わせるのは危険だろう。

だが、その俺の背後から隊長のくさったしたいが殴りかかってきた。

 

「くそっ、2体に挟まれたか」

 

くさったしたいの力は強かったが、殴られても意識を失うほどではなかった。だが、リカントマムルも俺のことを狙っている。

 

「ビルダー、挟み撃ちにしてやろう!」

 

「そうはさせるかよ!」

 

その事に気付き、ゆきのへはリカントマムルをおおきづちで叩く。エルたちも、リカントマムル目掛けて大量の石を投げる。

 

「雄也!お前はそのゾンビを頼むぜ!」

 

「ああ、分かった」

 

リカントマムルをみんなに任せ、俺はくさったしたいに斬りかかった。くさったしたいは人間の皮膚と同じくらいの柔らかさで、普通に斬ることが出来た。だが、ゾンビなので痛覚が全くないためか、怯むことはなく攻撃中の俺を殴り付けた。

 

「くそっ、いてえな!」

 

顔面を殴られ、鼻血が出てきた。だが、ここで動きを止めるとさらに攻撃を受ける。俺は痛みに耐えながらくさったしたいの側面にまわり、いしのおのを降りおろす。

 

「ぐひゃひゃひゃ!」

 

すると、くさったしたいは訳の分からない声を発し、俺に向かって殴る、蹴るなどの攻撃をしてくる。幸いにして動きは遅いので、俺は殴ってきた隙に腕を切り落とす。次に蹴り攻撃が来たので俺はジャンプしてかわし、くさったしたいの腹を斬りつけた。

痛みは感じていないようだが、全身を斬られくさったしたいは追い詰められた。

その時だった、くさったしたいは俺から離れ、ゲンローワの所に向かっていった。

 

「ゲンローワサマア···ゲンローワサマアアアアア!」

 

何だ!?こいつは今、ゲンローワの名前を呼んでいた。しかも、ゲンローワを殺したいという感じの声ではなく、助けを求めているような声だった。しかし、相手はモンスターであり、混乱が治ったらしいゲンローワは、くさったしたいをひのきのぼうで殴った。

何故くさったしたいがゲンローワの名前を呼んだかは分からないが、今は考えている時間はない。俺は奴の後ろから回転斬りを放った。胴体を切り離されれば、さすがに動かなくなるだろう。

 

「回転斬り!」

 

そして、くさったしたいは上半身と下半身を切り離され、力尽きた。だが、最後にもう一度ゲンローワの名前を叫んだ。

 

「ゲンローワサマアアアアアアアアア!」

 

今度は、助けてくれなかったことを嘆くかのように。


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