ドラゴンクエストビルダーズ メタルギアファンの復興日記   作:seven river

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Episode29 禍々しき病

リムルダールの一度目の防衛戦の日の夜、今日も俺は裏切り勇者の記憶の夢を見ていた。今日で3回目だな。

夢の中で裏切り勇者は、洞窟のような場所で、何者かと話していた。

 

「わたしの名はロト。わたしの血を引きしものよ。ラダトームのから見える魔の島に渡るには、3つの物が必要であった。」

 

3つのものか···。ドラクエ1では、ロトのしるし、あまぐものつえ、たいようのいしの3つのアイテムを揃えないと竜王の島に行けなかったんだよな。

 

「俺もこの3つを集めることになるのか?」

 

メルキドの魔物の親玉であるゴーレムが現在はいにしえのメダルという名前に変わったロトのしるしを持っていたことを考えれば、リムルダールの魔物の親玉であるヘルコンドルも何か持っていそうだ。この地には雨が降るらしいし、恐らくはあまぐものつえだろう。

俺がいろいろ考えていると、裏切り勇者に話しかけるロトの声は続けた。

 

「わたしはそれらを集め、魔の島に渡り魔王を倒した。そして、今その3つの神秘なる物を、3人の賢者に託す」

 

その魔王と言うのは、ドラクエ3のラスボス、ゾーマのことだろうな。3人の賢者というのは、勇者と一緒に旅をした3人の仲間のことか?ドラクエ3では3人の仲間を連れていけるからな。

 

「再び魔の島に悪が甦った時、それらを集めて戦うがいい」

 

伝説のアイテムを集めて竜王を倒す。それがドラクエ1のストーリーだ。だが、これは自分のご先祖様にまで辛い役目を押し付けられているということでもある。

 

「他人にいろいろ言われるのはまだ分かっても、先祖にまでこんなことを言われるとはな」

 

ドラクエ1の世界では、城の兵士であっても戦おうとせずみんな勇者に任せっきりだった。これまで3回見た勇者の記憶の夢は、勇者が闇落ちした理由を俺に教えているのだろうか。

話は変わったが、ロトはまた気になる話をした。

 

「3人の賢者はこの地のどこかでそなたが来るのを待っていることだろう。」

 

ドラクエ3とドラクエ1の間は数百年空いているからそいつらが生きているはずないだろう。子孫のことだろうが、アレフガルドが荒廃した今もどこかで生きているのだろうか。もしかしたら、すでに会っているかもしれない。

最後に、ロトの勇ましい声と、勇者の文句が聞こえた。

 

「行け!私の血を引きしものよ!」

 

「くそっ、誰もがオレに任せっきりだ。なんでオレは自由に生きることが出来ないんだ!」

 

勇者の声には、怒りも含まれているように聞こえた。そこで俺の目の前が真っ暗になり、ベッドの上で目が覚める。

 

「またしても、変な夢を見てしまったな」

 

俺は夢で見たことを考えながら、寝室の外に出た。今日でリムルダールに来て1週間だ。メルキドは25日かかったが、リムルダールはどのくらいかかるのだろうか。

 

「とりあえず今日は、旅のとびらの先を探索するか」

 

裏切り勇者のことも気になるが、今すぐにどうかすることはできない。俺は旅のとびらの先で新しい患者を見つけたり、新しい素材を見つけたりするために町の一角に旅のとびらを設置した。置いた瞬間、旅のとびらから眩しい光が溢れ出す。

 

「おお、これはなんでしょう!?」

 

その光を見て驚いたようで、エルやみんなが俺のところに駆け寄ってきた。ピリンとゆきのへを除けば、みんな旅のとびらなんて見たことないはずだからな。

 

「雄也!旅のとびらが手に入ったんだ!」

 

旅のとびらのことを知っていたピリンがそう言い、エルが質問をする。

 

「ピリン様。旅のとびらとはなんでしょう?」

 

「えーっとね、この中に入ると別の場所に移動できる道具なんだ。わたしはメルキドにいたとき何回か見てるんだ」

 

ピリンの説明に、俺も付け加える。

 

「それに、旅のとびらは持ち主が行きたいところに移動できるらしい」

 

そう言うと、エルは興奮して俺に聞いてきた。

 

「と言うことは、新しい患者様がおられるところに行けるということですね」

 

「そう言うことだ。新しい薬の材料まで見つかるかもしれない。」

 

薬の話をすると、ゲンローワも喜びだした。そして、エルとゲンローワは似たような口癖を言った。

 

「なんということでしょう!これでより多くの患者様をお救いすることができますわね」

 

「なんということじゃろう!雄也よ、新しい薬の材料が見つかったら教えるのじゃ」

 

やっぱりこの二人、どこか似ているな。ただ仲がいいだけでなく、特別なつながりを感じる。年の差があるから、さすがに恋人同士ではないだろうけど。

 

「とりあえず、朝食を食べたら出発するぞ」

 

俺たちは旅のとびらを一旦離れ、調理部屋に向かった。そこで7人で枝豆を食べ、俺は準備を整えた。

みんなも食事を終え、そろそろ旅のとびらに向かおうとしていた時、エルに話しかけられた。

 

「雄也様。あの人たちは誰でしょうか?」

 

エルは町の東側を指差した。そこを見ると、二人のぼろぼろの服を着た男性が、こちらに近づいて来ていた。一人はケッパーのように兵士の兜を被っている男で、もう片方は黒い髪の男性だ。

 

「見たことないが、新しい住民じゃないか?」

 

もし新しい仲間なら、歓迎してやらないといけないな。やがて、二人は町の光の範囲に入った。だが、二人は病人らしく、町にたどり着いたところで倒れた。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

俺とエルは急いでその二人に駆け寄る。幸い、二人はまだ息があるようだ。何の病気か?と思ったが、近づくと彼らは異様な気配を放っていた。

 

「こいつら、本当に人間か!?」

 

俺がそう疑ってしまうほどだった。実際メルキドでピリンに化けていたあくまのきしがいたからな。だが、それとはまた違う様子だった。彼らは間違いなく人間なのだが、人間ではなく、魔物の気配を放っていた。それどころか、禍々しい赤黒いオーラをまとっていた。ただの病でないことは明らかだ。

俺はまず、兜を被っている男性に話しかけた。

 

「おい、しっかりしろ!」

 

「どうやらここがエディ様の墓場になるらしい。オレはもうすぐ死ぬ。お墓くらい、作ってくれよ···」

 

禍々しいオーラや異様な気配があっても気にすることはない。これまでの二人のように、治療するだけだ。

 

「死なせはしないぞ。俺たちが絶対に治してやる」

 

俺はそう言い、エディを病室のベッドに運んだ。もう一人の人と一緒に、エルに見てもらおう。エルなら、この禍々しい病のことも分かるかもしれない。

エディをベッドに寝かせた後に、俺はもう一人の男性に話しかけた。彼も、禍々しいオーラをまとっていた。彼は、話すのがやっとのようだ。

 

「はあっ、はあっ。僕はケン。遠くに見えた光に、ようやくたどり着けました」

 

ケン?日本人みたいな名前だな。ドラクエ世界では珍しい。次に、ケンは聞き逃せないことを言った。

 

「ウルス様のところから、ここに来たんです···」

 

は!?ウルスは確かゲンローワの弟子のはずだが、もう死んでいるはずだ。かなり前にウルスのところにいたのか?それともウルスが生きているのか?だとしたら、あのゲンローワの言い方は何だ?

 

「あんなところで死ぬくらいなら、ここで···」

 

こいつももうダメだと思っているのか。本当にリムルダールは暗い奴が多いな。もちろん死なせる気はないので、俺はケンを背負う。

 

「いや、ここに来たからには、お前は死ななくていい。俺たちが治療してやるからな」

 

俺はケンも病室のベッドに寝かせ、エルに診察を頼んだ。

 

「エル、お前はあの二人の診察をしてくれ。あの二人、ただの病気ではないようだしな」

 

エルは病室に入り二人の診察を始めた。この二人で病室のベッドが埋め尽くされたし、もう2つくらいベッドを作っておいたほうがいいな。俺は作業部屋に入り、2つの木のベッドを作る。それを病室に配置すると、また病室から出た。

今日は旅のとびらの探索にいくはずの日だが、もうひとつ気になることもある。

 

「ウルスが生きているって、どういうことだ?」

 

ケンが嘘をついたとはとても思えないので、俺は調合室に行きゲンローワにウルスのことを聞きに言った。

 

「おい、ゲンローワ。今日ここに来た病人がウルスが生きているって言ってたんだが、どういうことだ?」

 

俺がその話をしても、ゲンローワは答えようとしなかった。

 

「すまぬ。その話はしたくないのじゃ。何しろ、昔の辛い記憶がよみがえってきてしまうからのう···」

 

昔の辛い記憶か···。仮にウルスが生きていたとしても、何かがあったことは確実だ。ゲンローワが答えてくれない以上、知ることはできないが。

 

「別に、気にするほどのことではないか」

 

スネークのように尋問すればしゃべらせることが出来るだろうが、そこまでして知る必要はなさそうなので、俺はそのまま調合室を去った。

 

「今は旅のとびらの探索をするか」

 

ウルスの話は置いといて、今度こそ旅のとびらの中に入った。いつものように一瞬目の前が真っ白になり、離れた場所に移動させられる。

 

「お、熱帯地方みたいだな」

 

旅のとびらで移動したのは、南国風の草原にヤシの木がたくさん生えている場所だった。地球でいえばオセアニアの島のような場所だろうか。とにかく、毒沼だらけの町のまわりより、ずっとキレイな場所だった。空気もこっちのほうがいいな。

 

「さて、早速探索を始めるか」

 

広い草原にはたくさんのスライムベスと芋虫型のモンスター、キャタピラーが生息していた。旅のとびらの近くを調べようと歩き出すと、いきなり目の前に人間の男が倒れていた。

 

「こんな所に人が倒れてるぞ。死んでるのか?」

 

俺が確認すると、その男は生きていて話をしてきた。

 

「き、君は誰?おれはイルマ。もう少しで光にたどり着けるんだ。もう少しで···」

 

なるほどな。このイルマという男は、旅のとびらに入ろうとしたが、直前で力尽きて動けなくなったという訳か。確認すると、イルマも魔物の気配を放っていた。町にいる二人と同じ病気だろう。ベッドを増設しててよかったな。

 

「俺がこの旅のとびらの先にある町に連れていく。そこでなら治療を受けられるぞ」

 

「ああ、ありがとう···」

 

俺はイルマを担いで、すぐに町に戻った。もう午後になっているし、今日は旅のとびらの先の詳しい探索は無理そうだな。

 

「エル、また新しい病人だぞ」

 

町に戻るとすぐに病室に入り、イルマを3つ目のベッドで寝かせる。やはり、この3人は同じ病気で、異様な気配だ。

 

「この方も病にかかっておられるのですか···。本当に、リムルダールは病にあふれていますね」

 

今日1日で3人も病人がやってきた。エルのいう通り、本当にここは病気だらけだな。俺は病室の外で、エルが診察を終えるのを待っていた。

20分ほどたって、ようやくエルが病室から出てきた。

 

「あの3人は、なんの病気だったんだ?」

 

「実は、私も分からないのです。症状としてはエディ様は毒の病、イルマ様はマヒの病に似ています。ケン様は脱水症状を起こしているようです」

 

マヒの病というのもあるのか、初耳だな。症状がそうなだけで、原因は違うってことだよな。同じ毒の病の患者であったケーシーは、あんなオーラをまとってはいなかった。

 

「ですが、原因はさっぱり分からないのです」

 

原因が分からないと、治療も出来ないな。どうしたらいいんだ?

 

「じゃあどうすればいいんだ?」

 

「毒の病に似た症状のエディ様には、どくけしそうを与えて、脱水症状を起こしているケン様には水を与えましょう。マヒの病を治す薬はないので、イルマ様にはニガキノコを食べさせて栄養を与えましょう」

 

今はそのくらいしか対処をする方法しかないのか。しないよりマシだろうから、俺はまずエディにどくけしそうを与えた。エディは苦そうな顔をしてどくけしそうを飲み込む。

 

「何だよ、これ?どくけしそうか?少しだけ楽になった気がするぜ···」

 

効果があるかは分からないが、少しは症状が収まるだろう。俺は次に、イルマにニガキノコ焼きを与えた。

 

「イルマ、食えるか?」

 

イルマは体が痺れてうまく噛めないようだが、なんとかニガキノコ焼きを食べた。少しは栄養がつくはずだ。

 

「ううう、ありがとう。す、少し元気になった気がするよ」

 

イルマにニガキノコ焼きを食べさせ、今度は俺はケンに与えるために木のコップを使い水を汲んだ。

 

「水を持ってきたぞ、飲んでくれ」

 

ケンは俺の持っていたたくさんの水を飲み干す。これで脱水症状からは回復するだろう。だが、3人ともこれで治ってはいないだろう。なんとか治療法を見つけられればよいのだが。

 

「全員に言われた物を与えたが、これで治るのか?」

 

エルも治るのかは不安なようだ。

 

「治るのかは分かりませんが、効果はあったでしょう。彼らが治ることを祈るしかないでしょう」

 

確かにそうだな。3人が病人も来て疲れたし、今日は探索はなしにして、明日から本格的に旅のとびらの先の探索を始めよう。

俺たちはその日、いつも通り夕食を食べ、真っ暗になったらベッドで眠った。


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