ドラゴンクエストビルダーズ メタルギアファンの復興日記 作:seven river
リムルダールに来て二日目、朝俺が寝室から出ると病室のほうから男の声が聞こえてきた。
「うおおお!治ったぜ!」
その声が聞こえたと同時に、病室の扉が勢いよく開けられ、ノリンが走って出てきた。薬草のおかげで無事に病気が治ったようだ。
「ノリン、起きてきたのか」
「ああ、昨日オレを助けてくれた人か!ありがとな!」
ノリンは昨日までの病気が無かったかのように元気に話している。俺はノリンにいつもの自己紹介をした。
「まだ名前を言ってなかったな。俺は影山雄也。いつもは雄也って呼んでくれ」
「雄也か、よろしくな!」
ノリンも助けてくれたお礼か、俺たちの仲間になってくれそうだ。
「それにしても、病気って治すことが出来るもんだったんだな!オレは一度病気になったら、必ず死ぬもんだと思ってたぜ。実はいつ死んでもおかしくないって諦めてたんだ」
確かに昨日は、放っておいてくれなんて言ってたもんな。地球では考えられないが、この世界では病気はかかったら必ず死ぬものと思われているのか。
「でも、これで分かっただろ。人間には病と闘う力があるってことが」
「ああ。助けてくれた礼もあるし、オレもお前らと一緒にここに済ませてもらう!これからよろしくな!」
「ああ、もちろんだ」
俺とあいさつをして、ノリンは俺たちの作った建物を見て回っていた。これまでの人々と同じように、建物というものが珍しそうだった。
「ノリン様が元気になられてよかったですね!」
俺とノリンとの会話を見ていて、エルがそう言った。薬草の力もあるが、エルの看病のおかげでもあるだろう。
「エルの看病のおかげだろうな。人間には病と闘う力があるって証明できたし」
「はい!本当に良かったです」
昨日エルが言っていたようにこれからも上手く行くとは限らないが、今はそう信じるしかない。
「ところで、雄也様」
「ん、どうしたんだ?」
今日もエルは、俺に相談があるようだ。もしかして、別の患者がいるのだろうか。
「雄也様にお会いでき、私の夢だった病室も作り、そこで患者様を治療することができたのですから、私はこの地での患者様の治療を、もっと本格的なものにしたいと考えています」
もっと本格的なもの?ノリンよりも重い症状の人でも治せるようにってことか?確かに今の状態では難しいかもしれない。
「それで、新しい設備を作ってほしいのか?」
「いえ、私は病に立ち向かうための特別な薬を作りたいのです」
確かに、薬がなければ治せない病気もあるな。でも、俺は薬の作り方なんて知らないし、ピリンやゆきのへも知らないだろう。
「俺、薬の作り方なんて知らんぞ。エルは知ってるのか?」
「実は、私も薬の作り方は、何一つ知らないのです」
病気に詳しいはずのエルも知らないのか。このままだと、薬を作ることはできなさそうだな。
「だったらどうするんだ?誰にも作れないってことだぞ」
「そこでなのですが、南の丘にいるゲンローワと言う薬師を連れてきてくれませんか?彼は薬について多くの知識を持っています」
この世界にも、薬師なんていたのか。その人がいれば病に対抗できるかもしれない。
「分かった。俺が呼びに行ってくる」
俺が南の丘に行こうとすると、エルはゲンローワの性格について話した。ちょっと問題のある性格なようだ。
「あと、雄也様。彼は気難しく強情な人なのです。雄也様ならなんとかなると思うのですが···」
「まあ、出来る限り説得はする」
どんな奴だったとしても、薬師がいたら心強いからな。なんとしても呼びにいくべきだろう。
「お願いします。彼をここに連れてきてください!」
エルもそう思っているようなので、俺はゲンローワを呼びに拠点から出発した。
「また一度東にいかないといけないのか。」
昨日行った北の山であっても、今から行く南の丘であっても、一度東にいってからまわるしかない。3方向が毒沼に囲まれているので、本当に移動が大変だ。
ゲンローワも病人かもしれないし、魔物に襲われる危険もあるからな、早めに見つけたほうがいいだろう。
南へ進んでいくと、途中でメルキドにあったような壊れた家があった。
「誰もいないな。ん、紙がおいてあるぞ」
その紙には、かすれた文字で文章が書かれていた。
このリムルダールの地は、ヘルコンドルによって支配されている。聖なるしずくで病を癒し、ヘルコンドルを倒せば、光がさすだろう。しかしそれは、所詮我らの力では叶わぬことだ。
誰が書いたものか分からないが、エルの言っていた通り、ヘルコンドルがリムルダールを支配する魔物の親玉のようだ。メルキドでは最後まで魔物の親玉が分からなかったのに、この地方では最初から分かっているのか。それにしても、魔物の親玉を倒せば解決って、難しい話だけど単純だよな。
「ヘルコンドルもそうだが、この聖なるしずくって何だ?」
聖なるしずくで病を癒し、と書いてあるが、特殊な薬か何かのことだろうか。現段階では、材料も見た目も何も分からない聖なるしずくは閃けないので、俺はゲンローワの捜索に戻った。
「ここがエルの言ってた南の丘か」
しばらく歩くと、町の北の山より低い崖があった。ここを登った上も、町の近くの高台と同じように、緑地になっている。
登ったところにいるモンスターも、スライムベスやリリパットと行った高台と同じものが生息していた。
「また隠れて進まないといけないな。」
ここではメルキドのようにじょうぶな草がないため、草地の箱を作ることは出来ないが、なんとか見つからないように進んでいった。途中で見つけたが、そこには豆のような植物があった。
「これは豆か。茹でれば枝豆として食べれそうだな」
自力でも作れるが、俺は茹でた枝豆の作り方を魔法で調べた。
えだまめ···まめ3個
1つ作るのに3ついるのか。えだまめも同時に3つできるんだろうけど。
俺は豆や白い花びらを広いながら歩いていった。すると、墓の前でお参りをしている老人が見えた。
「あれがゲンローワって人か?老人だとは聞いていないんだけどな」
もっと若い人を予想していたが、メタルギア5にはコードトーカーっていう老人の寄生虫研究者がいたからな。老人の薬師がいても不思議ではない。
「それとあの墓、数が足りないな」
その人の前には5つの墓、正しくいえば墓は4つしかないが、5つ置く分のスペースがあるという状態で、1つ足りないようだ。
俺はとりあえず、その老人に話しかけた。
「おい、あんた誰だ?」
その老人は俺に気付き振り向いた。髪の毛はほとんどはげていて、残った髪も白髪で、ヒゲも白色だった。かなりの高齢のようだ。
「ん?お主こそ、誰じゃ?見慣れぬ顔じゃが」
そして、その老人は目の前の墓を見ていった。
「もうどのくらいの人々を弔ったか。医学とはなんと、無力なものなのだ···」
医学が無力なもの?薬師っぽい言い方だが、何か暗いことを言ってるな。
「それより、俺はゲンローワって人を探しているんだが、あんたがゲンローワか?」
俺がそう聞くと、老人はうなずいた。
「そうじゃ、いかにもわしがゲンローワじゃ。お主は何故わしを探しておる?」
俺の思った通り、この人がゲンローワだったか。印象とはかなり違うが。
「俺は影山雄也。いつもは雄也って呼んでくれ。俺は実はこの世界で伝説って呼ばれてるビルダーって奴で、エルって女の人に言われてあんたを呼びに来たんだ」
「なんと、お主が伝説のビルダーで。エルに言われてわしを連れに来たと···?」
「ああ、そうだ」
しかし、ゲンローワはついてこようとしなかった。
「すまぬが、帰ってくれぬか。今のわしは、何もやる気がせぬでの···」
さっきも見て思ったけど、ゲンローワは昨日のノリンよりも諦めムードだな。それに、俺のことをビルダーだとまだ認めていないようだ。これは説得が難しそうだ。
ゲンローワは、再び墓を見て言った。
「あと一人弔いたいのじゃが、もうそのための木の墓すらないのじゃ。わしのことはどうか放っておいてくれ」
確かに墓がないのは困るな。作ったところで説得できるかは分からないが、一応墓は作っておいたほうがいいだろう。俺は木の墓の作り方を調べた。
木の墓···ふとい枝3個、ひも1個 木の作業台
素材は今あるもので作れるようだが、町に一旦戻って木の作業台を使わないといけないようだ。
「一旦戻るか。ん、宝箱かあるな」
ゲンローワのいた場所の後ろに、宝箱が置いてあった。何が入っているのかと開けてみると、俺が一番欲しかった道具、キメラのつばさが入っていた。
「キメラのつばさだな。これがあれば病人をすぐに運べる」
3つあったので、その1つを使うことにした。俺はキメラのつばさの力で飛び上がり、拠点へと戻った。
「雄也様、ゲンローワ様は来てくれなかったのですか?」
俺が希望の旗の台座に着陸すると、俺にそう聞いてきた。
「結構説得は難しそうだな。だが、あいつは死者を弔うための墓がなくて困っていた。墓を作ってもう一度説得してみる」
「お願いします、雄也様」
エルにも俺たちも薬の知識はないが、どうしても来てくれないのなら、自分たちだけでなんとかするしかない。
俺は木の作業台で木の墓を作り、ゲンローワの所に持っていった。
「ゲンローワ、木の墓を作ってきたぞ。これでいいか?」
俺が木の墓を設置すると、ゲンローワは俺がビルダーであることは認めたようだ。
「素材から墓を作るとは、お主はまことに伝説のビルダーなのだな」
「分かってくれたか」
「お主、エルにそそのかされたのじゃな?薬を作り、共にこの地の病を根絶しようと」
しかし、ゲンローワは俺たちの拠点に来る気はまだないようだ。それに、よくわからない理論を言い出した。
「よいか、そもそも死とは抗うべきものではない。自然の摂理として、受け入れるべきものなのじゃ」
俺は本当にこの人が薬師かよ!?と思った。この人は完全に病や死に対抗することに諦めきっているようだ。
「何だ、そのよくわからない理論は?」
「分からぬか?死を逃れようとするのは人間だけじゃ。おこがましくも、愚かしいことだとは思わぬか」
確かに人間だけかもしれないが、それだから人間らしいと思うのだが。それに、自然の摂理というのも、この場合においては違うだろ。
「そうかもしれないけど、これは自然の摂理なんかじゃない。魔物どもが悪意を持って人間を殺そうと病を振り撒いてるんだ。このどこが自然の摂理だって言うんだ?本当はもっと生きられた人でも、魔物のせいで命を落としているんだ」
「確かに、そうかもしれぬな。ずっと同じ状況だったから分からなかったのかも知れぬが、これは魔物の仕業じゃった。だが、恐ろしい力に抗うことに変わりはない。」
「それに、死に抗ったり、恐ろしい力に抗ったりするからこそ、人間らしいと思うんだけどな」
人間はどんな困難が来てもそれを乗り越えようとする。俺はそれが人間という生物の良いところだと思うが。
「なるほど。そう申すか。お主、ずいぶんそれっぽいことを抜かすではないか」
俺は別に自分の意見を言っただけなんだけどな。
そして、ゲンローワは少し考えたのち、俺たちの拠点に行くと言った。
「いいじゃろう。お主が作った集落に言ってみようではないか。エルとお主の覚悟のほどを、このわしが見極めてやろうぞ」
「ああ、よろしくな」
俺はキメラのつばさを使い、ゲンローワと共にリムルダールの拠点に帰還した。
「おお、ゲンローワ様を連れて来てくださったのですね!」
ゲンローワの姿を見て、エルはとても喜んでいた。薬が作れるようになったからという理由以外でもエルは喜んでいる様子だったが、それが何なのかは分からなかった。
「ここがお主らの作った集落か」
ゲンローワは病室や寝室をみた後、俺に話しかけてきた。
「雄也よ、お主は本当に分かっておるのか?病と闘うことは死ぬこと以上に辛く苦しいものだということを」
確かに地球でも病と闘うのを諦め安楽死を選ぶ人がいる。そういうのを見ると分からない話でもない。
「ああ、分かってるよ。それでも俺たちはやろうとしてるんだ」
メルキドを復活できたので、リムルダールも復活出来ないはずはない。
「いいじゃろう。ワシもここに住み、病に対抗する薬を研究することにしよう。ビルダーであるお主が一緒ならこの地に蔓延する病も克服できるかもしれぬ。よろしく頼むぞ」
俺はゲンローワとの話のあと、エルと話した。
「それにしてもあいつ、よくわからない理論を言ってたりしたな」
俺はそのことが気になって、エルに聞いた。だがエルはさほど気にしていないようだ。
「それはゲンローワ様の癖なのです。あまり気になさらないでくださいね」
いや、めちゃくちゃ気になるんだが。昔からあんな奴だったとは思えないし。
「ゲンローワ様はこの世界では珍しい薬の知識を持つ薬師と呼ばれる存在です」
この世界では珍しいか、確かにメルキドの住民は誰も薬の話なんてしてなかったな。する必要がなかったのかもしれないが、知らない可能性が高い。
「彼とも協力し、この地の病と闘っていきましょうね」
「ああ、協力することは大事だからな」
暗い人だが、ゲンローワがいれば病に打ち勝てやすくなるだろう。
その日の夜、俺はノリンとゲンローワの分のベッドを作り、明日に備えて休んだ。仲間を二人加え、リムルダール復興二日目は終わった。