ドラゴンクエストビルダーズ メタルギアファンの復興日記 作:seven river
ピリンやエル達の力もあり、俺は病人の治療を行うための部屋、病室を完成させた。日本の病院にくらべればまだまだだが、この世界ではいいほうだろう。
「ところで、雄也様···」
病室の完成を喜んでいたエルは、いつもの表情に戻り真面目な話を始めた。
「どうしたんだ?急に真面目な顔に戻ったな」
「人間はいずれ滅び行く存在。病に抗っても意味はないという人がいます」
エルが患者の治療をしたいと思っていても、病人たちはとっくに生きるのを諦めているってことか。地球でも重い病気にかかって、生きる希望をなくしている人がいる。この世界ではみんながそんな感じなのだろう。
「ですが、私は思います。人間には病と戦う力があり、知恵と勇気で立ち向かって行けると」
知恵と力と勇気か···ゼルダの伝説みたいだな。でも、その3つがあれば恐ろしい病にも打ち勝てるかもしれない。
「雄也様!作りあげた病室でこの島にはびこる病を根絶いたしましょう!もちろん、雄也様も強力してくださいますよね?」
「当たり前だろ。病に勝てないようなら、この世界を覆う闇にも勝てないからな」
俺とエルは、改めてこのリムルダールに蔓延する病を根絶しようと言った。メルキドの時より大変かもしれないけど、がんばらないとな。
「もし患者を見つけたら、病室に連れてこないとな」
病人を見つけたら、必ず助けてやらないとな。
俺はエルとの話の後、もう一度探索に出掛けようと思っていた。
「もう午後だが、もう少しくらいは探索できるだろう」
俺がこんぼうとおおきづちを持ち、拠点の外に出ようとすると、またエルに話しかけられた。
「雄也様、お出かけになるのですか?」
「ああ、まだここの近くも回れていないしな」
そう返事をすると、特に変わったことは何もないのにエルは驚いたようなことを言った。
「おお!それは本当ですか?なんということでしょう!」
探索に行くと言っただけなのに、そんなにおかしいことなのだろうか?
「俺、変なことでも言ったのか?」
「いいえ、私としたことが失礼いたしました。念願の病室ができて興奮してしまって」
さっき不安そうに話していたけど、興奮しているところもあったんだな。
「なんだ···別に用事はないってことだな」
「いいえ。実は以前、ここから西に行った場所で病にかかった方を見た気がするのです」
結構重要な話だったのか。さっそく病人を連れてくるってことだな。
だが、方位磁石も目印も地図もないので、どこが西かが分からない。
「西ってどっちの方角だ?」
俺が聞くと、エルはさっき俺が行った場所の反対を指差した。そこには広い毒沼があり、反対側に行くには土ブロックで毒沼を埋めていくか、北か南の山を通って行くしかなさそうだ。
「そこに行って、その病人を連れてこればいいんだな?」
「はい、患者様をここまで運んできて、病室のベッドに寝かせてあげてください」
俺が運ぶのか···俺は身長170センチで体重60キロくらいなんだよな。重すぎる奴じゃなければいいが。
「分かった。なるべく早く連れてくる」
「はい、お願いします」
毒沼を埋めていくと向こう岸まで1キロメートルはありそうで、1000個以上の土ブロックが必要になってしまうので、俺は北の山を通って行くことにした。
「まずはさっき行った崖を登らないとな」
北の山を通って西に行くには、一旦東に行って崖を登らないといけない。俺はその崖を登ると、リリパットに見つからないように姿勢を下げて進んだ。
「遠距離攻撃ができるモンスターって本当に厄介だよな」
俺はリリパットの愚痴を言いながら、北の山へと動いた。しゃがみながらブロックにかくれて移動しているので、かなり時間がかかった。
「ん?ここからは土が汚染されてるな」
崖を登ってすぐの所には綿毛や白い花びらが取れる草原のような場所だったが、町の北にある山の上は、毒沼ほど紫色ではないが、拠点の地面と同じようなやや紫がかった土で出来ていた。
それに、生息しているモンスターはスライムや下にいたドロルの色ちがい、ドロルメイジだった。
「リリパットほど危険なモンスターじゃないけど、避けていくか」
ドラクエの勇者だったら、剣で斬り倒して行くんだろうけど、俺はゴーレムと戦ったと言っても地球の高校生だからな。無闇な戦闘は避けよう。
そして、俺が北の山を進んで行くと、メルキドで見たことのある遺跡があった。
「これは、光のとびらか?」
メルキドから旅立った時に使った光のとびらにそっくりな遺跡だった。
「リムルダールを支配する魔物の親玉を倒したら、ここから次の場所に行くんだよな」
リムルダールを復活させてもまだアレフガルドにはマイラ、ガライ、ラダトームと3つの町がある。それらのどれかに行くことになるのだろう。
ゲームでは各エリアごとに章が別れていたので、5章まであったのだろうか。でも、どこかの町は生存者ゼロって可能性があるよな。
今さらそんなことを考えても意味はないが、俺はいつになったらアレフガルドを復活させられるのかと気になった。
「って、今はそんなことを気にしている場合じゃないな。病人を助けるのが先だ」
光のとびらを見ていろいろ考えていたため、俺の足はしばらく止まっていた。俺が再び歩き始めて15分ほど経つと、ようやく町の西側に降りられる崖があった。
「エルの話によればここに病人がいるんだよな」
その崖にはつたがかかっていなかったので、1ブロックずつ足を踏み外さないように慎重に降りて行った。
降りたところには、しっかりした草やピンクの花が生えていたが、病人らしき人はいない。だが、少し進むとたき火が置いてある小さな廃墟があった。
「こんなところにも廃墟があるのか···ん?あれは人か!?」
しかもよく見ると、その廃墟の中に誰かが倒れていた。近づいて見ると、若い男が苦しそうな表情をしていた。
「おい、大丈夫か!?」
俺はその人に駆け寄った。その人はなんとか喋れるようで、俺の顔について文句を言ってきた。
「ごほっ、ごほっ。誰だあんた?ずいぶん田舎くさい顔だな。」
実際俺はイケメンとは到底呼べない顔だった。だが、エルと会った時に頭が悪いと言われたように、この世界の人は初対面でも何でも言ってくる。
「顔のことは別にいいだろ。お前を助けに来たんだ」
そう言うと、急にその男は名前を名乗り出した。死んでも名前を覚えておいてくれってことなのかもな。
「オレはノリン。助けに来てくれたのはありがたいが、どうせもうすぐ死ぬ身だ。放っておいてくれ」
本人はもう生きることを諦めているようだが、見捨てる訳にはいかない。人間には病と闘う力があるって、証明してみせないといけないしな。
「死なせはしない。俺たちが作った拠点に来い。そこなら安全に休めるぞ」
「悪いが、オレはもう歩けねえ。あんた、オレのことを担げるか?」
「もちろんだ」
ノリンは俺よりも年上かもしれないが、病気で痩せほそっているためか背負うことが出来た。俺はスネークが人を運ぶ時のようにノリンを担ぎ、拠点へと向かった。
「まずはこの崖を登らないとな」
俺はポーチに入っていた土ブロックも使って、崖を登った。人を背負った状態で1メートルの段差を登るのは大変で手や腰が痛くなってきた。拠点に着くころには、ぎっくり腰になるかもしれない。キメラのつばさがあったら便利だが、今は持っていないし、リムルダールでキメラを見かけたことはない。
崖を登った後は、1キロ以上もある山の上の道をひたすら東に歩いていき、緑地のところについたら姿勢を下げて見つからないように進んだ。
「やっと拠点に戻ってきたか」
俺は町の東の崖を降りた頃には、もう全身の疲労が限界だった。拠点に到着すると、ノリンをベッドに寝かせて病室のもう1つのベッドに寝転がった。
「マジで大変だったな。こんなに人をかついで歩くのは初めてだったぜ」
地球では何度か人をおんぶしたりしたことはあったが、その状態で長距離を歩いたりしたことはない。
少し休んでいると、エルが病室の中に入ってきて、ノリンがいることに気づいた。
「おお!患者様を連れてきて下さったのですね」
「ああ、何とかな。ノリンって言うらしい」
俺がベッドから起き上がると、エルはノリンの様子を見ていた。病院でいう、診察みたいなものだな。
しばらくして、ノリンの状態を見て何かが分かったらしく、エルは俺に話をしにきた。
「どうだったんだ、ノリンの様子は?」
「ノリン様のお顔を見て分かったのですが、どうやら全身の体力が失われるこの地の風土病のようです」
ん?風土病って、その土地の環境が原因で起こる病気みたいな意味じゃなかったか?今のリムルダールの環境なら、そんな病気があっても十分あり得る話だが。
どうでもいいが、エルは患者にも様付けなんだな。ノリンの容態を話し、エルはこの地の病に関する説明をした。
「ここには、体力を徐々に失って命を落とす病以外にも、激しい咳で呼吸が出来ずに死にいたる病、体内を蝕まれ全身が朽ち果てる病などありとあらゆる病が蔓延しています」
どの病気も、ヤバそうな症状ばっかだな。それにしても、何故リムルダールはこんなに病が流行っているんだ?
「ちょっと聞くけど、何でリムルダールでは病気が流行るようになったんだ?」
「リムルダールに病苦をもたらしているのは、この地域を支配する、ヘルコンドルと言う魔物と言われています」
ヘルコンドルって確かドラクエ3とかに出てた鳥のモンスターだよな。何でただの鳥が病の元凶なんだ?と思ったが地球でも鳥インフルエンザとかあるし、鳥って結構危険な病原体持ってるんだな。そのヘルコンドルが、この地を支配している親玉だろうし。
「空の闇を晴らし、この地の毒を浄化するには、その空飛ぶ怪鳥を倒さねばならないでしょう」
ヘルコンドルはメルキドのゴーレムより戦闘能力的には低いだろうが、問題は空を飛んでいることか。何らかの対策をしないと勝ち目はなさそうだな。
「それに、リムルダールに病が広がったのはこの地の雨が原因だと言われています」
ヘルコンドルが病原体を撒き散らし、雨によって人に感染するという訳か。危険な雨が降るってことは、ここでは建物に屋根をつけないとダメみたいだな。
俺がいろいろ考えこんでいるとエルが、
「とりあえず今は、雄也様がお連れになった患者の治療にあたりましょう」
ノリンの治療のことに話を変えた。ヘルコンドルのことは今考えても仕方がないからな。
「患者様を見る限り症状は軽い方のようで、体力さえ戻れば快方に向かうと思うのです」
体力さえあれば、体の免疫機能で自然に回復していくということか。
「何を使えばいい?」
「おそらく、薬草を3つほど飲ませればきっと病は回復するでしょう。私は看病に専念しますので、雄也様は薬草をノリン様にお与えください」
薬草は手持ちが無かったな。だが俺もノリンを運ぶので疲れているので、ピリン達に取ってきてもらうしかないか。流石に病人に明日まで待てっていうのもおかしい話だし。
俺は病室にいるエルと別れ、ピリンたちにその話をした。
「俺はさっき病人を連れてきてただろ。そいつを直すために薬草が3つ必要なんだが、俺は運ぶので疲れきってしまったからな、代わりに薬草を取ってきてくれないか?あと、この地方では雨がふるらしいから、高さ3メートルの壁に屋根をつけてほしい。」
屋根をつけることも頼んでおいた。今日の夜に雨が降るかもしれないからな。
「じゃあわたしは、おうちに屋根を付けるね」
「ならワシは、薬草を取ってくるぜ」
ピリンが屋根つけ、ゆきのへが薬草採取をすることになった。俺も手伝いたいが足と腰が痛くて出来ない。
この世界のものはブロックで出来ているため、ピリンは10分ほどで寝室と病室に屋根をつけた。何かその間に出来ることはないかと思い、俺はエルの分の木のベッドを作った。
「俺たちも木のベッドがいいが、綿毛が足りないな」
また素材が揃ったら木のベッドにすることにしよう。木の作業台があるところに、屋根をつけたピリンは走ってきた。
「雄也、屋根をつけたんだけど、これでいいかな?」
全て土ブロックで出来ているが、雨を防ぐことはできるだろう。
「ああ、これで病人たちも安心して過ごせるな」
病人だけでなく、俺たちも雨を浴びるのは良くないからな。ピリンと話をしていると、薬草採取に行っていたゆきのへも戻ってきた。
「おおい、これでいいのか?」
ゆきのへは薬草の葉を3枚取り出した。苦そうなにおいがするけど、体には良さそうだ。良薬口に苦しって言うもんな。
「ありがとうな、ゆきのへ。さっそく与えてくるぜ」
俺はゆきのへからもらった薬草を持ち、ノリンのいる病室に行った。
「エル!薬草が準備できたぞ」
「おお!早くノリン様に与えましょう」
俺はノリンに薬草を飲ませた。初めは苦そうな表情をしていたが、しだいに落ち着いていき、さっきよりも楽そうだった。
「これは、薬草か?ありがとうな、楽になったぜ」
薬草は戦いに傷を負った時にも使えるかもしれないな。とりあえず、ノリンに薬草が効いて良かったな。
「おお!これで症状は落ち着くはずです。一晩眠れば回復するでしょう」
きずぐすりで1日で傷が治ったように、薬草も同じような効果なのか。別の患者も、こうやって治せればいいんだけどな。
「ですが、実は私は、この先がちょっと不安なのです。あくまでノリン様は症状が軽かっただけ。これからも今回のようにうまくいくとは···」
エルもやはり不安なところがあるようだ。だが、今は人間の病に抗う力を信じるしかないだろう。
「今はノリンの回復を祈ろう。話はそれからだな」
病人の前で暗い話をしたら、病人まで暗い気持ちになってしまう。病は気からと言うし、それは良くない。
「そうですね。雄也様も体を休めてお待ち下さい」
「ああ、そうだな」
リムルダールに来た初日、俺たちはかなり疲れていたので寝室ですぐに眠りについた。屋根がある部屋で寝るのは1ヶ月ぶりくらいだ。明日、ノリンが回復しているといいな。