ドラゴンクエストビルダーズ メタルギアファンの復興日記 作:seven river
暗黒魔導を倒した翌日、リムルダールに戻って来てから6日目の朝、俺は邪毒の病にかかった9人の様子を見に行っていた。
ノリンたちはもう感染からかなりの時間が経つが、まだ生きているだろうか。
「ノリンたちもまだ、何とか生きているみたいだな」
すると、衰弱が激しかったノリン、セリューナ、ザッコ、ケンの4人も、まだ息はあるようだった。
だが、高熱と呼吸困難で、もう言葉を話すことすら出来ない状態だった。
早く薬を作って、回復させてやらないとな。
「ゲンローワは、もう薬を思いついたのか?」
ゲンローワは昨日、明日には薬の作り方を思いつけると言っていたが、どうなったのだろうか?
俺は薬が作れるようになったか聞くため、調合室に向かっていった。
だがその途中、昨日の朝のようなエルの大声が聞こえて来る。
「ゲンローワ様、どうなさったのですか…!?」
エルは焦った声で、ゲンローワに呼びかけている。
まさか、薬を作っているゲンローワに何かあったのだろうか。
エルの声は調合室から聞こえており、俺はそこに向かって走っていった。
「どうしたんだ、エル!?ゲンローワに、何かあったみたいだけど」
調合室の扉を開けると、いにしえの調合台の前で倒れているゲンローワと、彼を心配そうに見つめるエルの姿があった。
ゲンローワの体は、コレスタたちと同様の黒紫色に染まっている。
昨日は元気だったのに、邪毒の病にかかってしまったようだな。
「どうやらゲンローワ様も、病にかかられてしまったようなのです。もう暗黒魔導は倒したのに、どうして…」
エルもゲンローワから聞いたのか、俺が暗黒魔導を倒したことは知っているようだ。
薬師のゲンローワが、毒素の扱い方を間違えたと言う事は考えにくい。
こんな時にゲンローワが邪毒の病に感染したのは、暗黒魔導を倒しても、汚染は消えていないからだろう。
今のアレフガルドには、ルビスの加護が失われたことに加え、ひかりのたまのように、魔物の力を消し去る物ももうない。
「…暗黒魔導を倒したところで、汚染がなくなった訳じゃないからだ。でも、まさかゲンローワがな…」
暗黒魔導を倒したことで、町が壊滅する危険性も減り、新たな汚染も起こらなくなったので、確かにリムルダールの2度目の復興に大きく近づいた。
だが、既に汚染されている空気や水は、もう戻ることはない。
そこで俺は、暗黒魔導が死に際に言っていた、もうリムルダールに未来はないという言葉を思い出した。
ゲンローワは俺たちに向かって、苦しそうな声で話しかけて来る。
「すまぬ…毒素の解析は出来たが…薬の作り方を思いつけなかった…。おのれ暗黒魔導…死してなおも、わしらを苦しめるとは…!」
毒素の解析は出来たが、薬を開発する前に発症してしまったのか。
薬師のゲンローワが倒れてしまえば、邪毒の病の治療薬は作れない。
どうしようかと思っていると、エルが代わりに薬の開発を続けると言った。
「私が薬の開発を引き継ぎます!ゲンローワ様は病室で、ゆっくり休んで下さい」
だが、エルに薬を作ることは出来るのだろうか。
そもそもリムルダールの町にゲンローワを呼んだのも、俺やエルに薬の知識がなかったからだ。
「薬の知識はないんじゃなかったのか?」
「昔はそうでしたが、リムルダールに光が戻った後、ゲンローワ様に教えてもらったのです。邪毒の病の薬も、作れないことはないはずです」
俺がリムルダールを去った後、ゲンローワはエルに薬の知識を教えていたのか。
ゲンローワほど詳しくなくても、もしかしたら邪毒の病の薬を作れるかもしれないな。
エルも邪毒の病になってしまう可能性もあるが、そこはもう感染しないことを祈るしかない。
薬の開発はエルに任せて、ひとまずはゲンローワを病室に運ぼう。
「そうだったのか。じゃあ、とりあえず俺は、ゲンローワを病室に連れていくぜ」
「ありがとうございます、雄也様」
「本当に済まないのう…雄也、エルよ…」
俺たちに向かって、ゲンローワはもう一度謝った。
俺は彼のことを背負って、さっきも行った病室に向けて歩いていく。
病室に入ると空いているベッドにゲンローワを寝かせて、外に出た。
「エルは必ず薬を作るから、それまで待っていてくれ」
エルが薬を作れるかは分からないが、今は彼女を信じるしかない。
俺は病室を出た後、病人たちのために何か出来ることはないかと考えていた。
しばらく考え続けていると、不安そうな顔をしたエルが調合室から出て来る。
まだ薬を開発した訳ではないだろうが、何の用だろうか?
「雄也様、ゲンローワ様が書いた毒素の解析のまとめを見るに、私でも薬を作ることは出来そうでした。…ですが、まだ数日はかかりそうですね…」
エルでも薬を作ることは出来るが、結構な時間がかかるみたいだな。
ノリンたちは様子を見るに、持っても後一日くらいだろう。
数日も経てば、マロアたちも危ないかもしれないな。
何とかして、早く作ることは出来ないのだろうか?
「それだと、みんなは助けられない。何とか、一日で作る方法はないのか?」
「私はゲンローワ様ほど薬の知識はないので、どうしても時間がかかってしまいます。今は薬草を飲ませたり、料理を食べさせたりして、体力を保ってもらうしかないでしょう」
そういえばかつてのリムルダールでも、薬がまだ作れていない時は、栄養のある食べ物を食べさせたりしていたな。
ノリンたち4人はもう食べ物を食べられる状況ではないので、薬草を与えるしかないだろう。
白花の秘薬は、防衛戦や暗黒魔導との戦いの後に俺が飲んだので、無くなってしまった。
時間を短縮出来ないなら、エルの言う通り体力をつけさせて、生き延びるのを祈るしかなさそうだ。
「そうか…なら、食事が出来ないほど弱っているノリンたち4人には薬草を、まだ大丈夫なマロアたち6人には食べ物をあげよう。薬草と食べ物は、俺が集めて来る」
「それなら、6人の皆様には、それぞれが好きな食べ物を与えましょう。栄養のある食べ物なら、好きな食べ物を食べた方が、気分も明るくなると思うのです」
エルは昔ミノリとヘイザンを治療した時も、二人の好みの食べ物を与えていたな。
確かに気分が明るい方が、病に打ち勝てる可能性は上がるかもしれない。
旅のとびらも再入手したことだし、それぞれが好きな食べ物を集めて来よう。
俺はエルに、6人にどの食べ物を与えればいいか聞いていった。
「分かった。6人にどの食べ物をあげればいいか教えてくれ」
「マロア様にはフライドポテト、コレスタ様にはニガキノコ焼き、クロティム様にはバゲット、ケーシー様にはえだまめ、ゲンローワ様にはゆでガニをお願いします。オラフト様は釣り名人の釣った魚を食べていたと聞いたので、イワシの炭焼きが良いでしょう」
俺はみんなの食べ物の好みなんて知らなかったが、エルは把握していたんだな。
エルが挙げた食べ物はどれも、昔のリムルダールでも病人に食べさせた物だ。
レンガ料理台も必要になりそうだが、町の近くと南国草原と密林を回れば、全て集めることが出来るだろう。
「じゃあ、さっそく集めて来るぜ」
「料理が出来たら、私も一緒に食べさせに行きますね」
「ああ、分かった」
俺はみんなの好物を聞くと、エルと別れて薬草と食べ物を集めに行った。
エルは調合室へと戻っていき、薬の開発を続ける。
俺はまずは薬草とえだまめを集めるために、リムルダールの東の山へと向かっていった。
東へ向かう道の途中には、相変わらず多くのドロルリッチが生息していた。
俺はいつも通り隠れて進んでいき、ブロックやつたを使って山を登っていく。
山を登ると、俺はどくやずきんに気をつけながら薬草とえだまめを集めていった。
「薬草もえだまめも、これからも使うかもしれないし、たくさん集めておくか」
えだまめは美味しい食べ物だし、薬草も怪我をした時に必要になる。
この先のリムルダールにも必要になると思って、俺はおうじゃのけんを使ってかなりの数を回収していった。
十分な数が集まると、俺はニガキノコを集めに枯れ木の森に向かっていく。
「薬草とえだまめはこれくらいでいいな。次はニガキノコを取りに行こう」
黒く染まった毒沼の近くを歩いていき、またスライムやドロルリッチたちから隠れていく。
ニガキノコが目に入ると、俺はまた両腕の武器を使って採取していき、ポーチにしまっていった。
ニガキノコは名前の通り、とても苦い味のするキノコだ。
コレスタが、こんなキノコが好きだとは思っていなかったな。
薬草などよりは必要数は少ないだろうが、俺はニガキノコもたくさん集めていった。
「この地域で集められるのは、これで全部だな」
ニガキノコもポーチにしまっていくと、今度は旅のとびらに入るために一旦リムルダールの町に戻っていく。
また慎重に歩いていき、15分くらいで帰って来ることが出来た。
リムルダールの町に戻って来ると、俺はふとい枝とひも、さっき手に入れたニガキノコを使ってつりざおを作っていく。
つりざおが出来ると、次は青い旅のとびらに入って、南国草原に向かっていった。
「つりざおも作ったし、次はイワシだな」
ここでは、釣りをしてイワシを手に入れよう。
海はすぐ近くなので、俺は特に魔物にも会わずに歩いていった。
イワシがかかるのを待っている間、俺は昔ノリンと一緒に釣りをしたのを思い出す。
「またノリンと一緒に、釣りに行ってみたいぜ」
ノリンは釣り名人の元で修行したので、かなり上達していることだろう。
またノリンと一緒に魚釣りに行って、みんなで美味い魚を食べたいぜ。
そのためにも、必ずノリンたちを邪毒の病から救ってやらないとな。
そう思っている間に、俺のつりざおに何かの魚がかかる。
「そろそろかかったな」
竿を引き上げると、そこには大きめのイワシがかかっていた。
俺は釣り上げたイワシをポーチにしまうと、また旅のとびらをくぐって町に戻った。
今釣ったイワシを石炭を使って焼いて、イワシの炭焼きにしよう。
イワシも集めると、今度は俺は赤い旅のとびらを通って密林に入っていく。
移動がかなり楽になるし、旅のとびらを取り返せて本当に良かったな。
ここでは、石炭と小麦、レンガ、いもを集めないといけない。
「崖を登りながら石炭を集めて、崖の上で小麦を集めよう」
旅のとびらの出口となっている場所は、3方向を土で出来た山に囲まれた場所だ。
俺はまず崖に埋まっている石炭を集めていき、山の上に登っていった。
山の上では敵のリリパットに気をつけながら、小麦を集めていく。
小麦も集まると、俺は水没した密林へと向かっていった。
「レンガといもは、密林を越えた先だったな」
レンガもいもも、密林を越えた先の遺跡の辺りにしかない。
俺はキラークラブやまかいじゅに気をつけながら、濡れるのを我慢して密林を歩いていった。
ゆでガニを作るためのカニの爪も必要だが、それは昨日の戦いで倒したキラークラブから手に入れているので、今は集めなくてもいいな。
30分くらい歩いて遺跡地帯にたどり着くと、レンガといもを集めていく。
「レンガといもを集めたら、レンガ料理台を作ってみんなに料理をあげよう」
俺が作った料理で、みんなが少しでも元気になってくれるといいな。
そう思いながら、俺はレンガといもを集めていった。
途中でまほうつかいやしりょうのきしと言った魔物も目撃したが、今は戦う必要はないので、隠れて回収していく。
レンガといもも集まると、俺はまた密林を歩いて、旅のとびらに戻っていった。
町に帰って来ると、俺はまず今まで使っていた料理用たき火を回収し、工房に入っていく。
その料理用たき火は俺が出かけている間、ピリンたちが作った物だ。
「この料理用たき火を使って、レンガ料理台を作っていこう」
そして、さっき手に入れたレンガとこの前集めたさびた金属を使って、レンガ料理台を作っていった。
レンガ料理台があれば様々な料理が作れるし、この先も役立つだろう。
俺はレンガ料理台が出来ると、さっき料理用たき火があった部屋に置いて、みんなの分の料理を作っていった。
「レンガ料理台が出来たし、さっそく6人分の料理を作っていくか」
まずはえだまめとニガキノコを、火を通して食べられるようにし、それから他の料理も作っていく。
イワシは石炭を使って炭焼きにし、丁度いい焼き加減になったところで回収した。
バゲット、フライドポテト、ゆでガニはただ焼くだけでは作れないものだが、ビルダーの力を使うことで、あまり時間をかけずに完成させることが出来る。
6人分の料理が出来ると、俺は調合室にいるエルに知らせにいった。
「エル、みんなの分の料理を作って来たぞ。これから食べさせに行こう」
「おお、ありがとうございます、雄也様!まだ薬の開発は進みませんが、皆さんの体力がつくといいですね」
やはりエルの薬作りは、なかなか進んでいないようだった。
でも、薬草や料理で体力をつけることで、薬が出来るまで生き延びてほしいな。
「ああ。みんな、薬が出来るまで耐えてほしいな」
俺はエルにそう言って、彼女と一緒に病室に向かっていった。
病室では俺とエルが分担して、病人たちに薬草や料理を与えていく。
それぞれの好きな食べ物をもらって、マロアたちは何とか体を起こして嬉しそうに食べていた。
これで6人は、少しは体力がついたかもしれないな。
しかし、体の衰弱が激しいノリンたち4人は薬草を飲ませても、苦しそうな表情のまま変わらなかった。
「マロア様やゲンローワ様は、しばらくの間は大丈夫でしょう。…ですが、ノリン様たちは、薬草でも症状が改善されませんね…」
この世界の薬草は即効性であり、飲んだ瞬間痛みが消えたこともあった。
それでも症状が変わらないと言う事は、よっぽど衰弱が激しいのだろう。
4人は朝よりも症状が悪化しており、いつ力尽きてもおかしくない状態だった。
数日間持つ可能性は低いが、もう祈るしかない。
「ああ…。このまま弱っていく一方だけど、生き延びることを祈るしかないな…」
「私も出来る限り、薬の開発を急ぎますね…皆様と共にリムルダールを発展出来ることを、私も祈ります」
エルはみんなの回復を祈りながら、また調合室に入っていった。
だが、もうどうしようも出来ないのではないかという思いも、俺の中に浮かんでしまう。
しかし、俺はそんな思いをはらって、4人が耐え抜くことを祈り続けていた。