ドラゴンクエストビルダーズ メタルギアファンの復興日記 作:seven river
リリパットたちが住んでいるのは、かつて巨大キャタピラーがマヒの病を振りまいていた、マヒの森だ。
俺は世界地図を見ながら、マヒの森へ向かって小舟を進めていった。
リムルダールの町がある地域からあまり離れていないので、そんなに時間はかからないだろう。
そして、15分くらい小舟を漕ぎ続けて、目の前にマヒの森が見えてくる。
「そろそろマヒの森か…結構木が枯れてるな」
マヒの森はたくさんのヤシの木に覆われていたが、たくさんの木が枯れているのが遠くからでも見かけられた。
これもリムルダールの周りの湖を黒く染めた、禍々しい力の影響なのだろうか。
俺はノリンやリリパットの無事を確認するため、マヒの森への上陸を急いだ。
マヒの森に上陸すると、俺は生息している魔物に警戒しながらノリンたちを探し始める。
「ここにも新しい魔物か…気をつけないとな」
すると、背中が橙色、腹部が緑色になっているキャタピラーを見つけることが出来た。
奴らもルビスの死後に現れた新種の魔物だろうし、特に気をつけないといけないな。
他にも、普通のキャタピラーやメイジドラキーが、この森に生息している。
俺はヤシの木の裏に隠れながら、慎重に歩いていった。
しばらく進んでいくと、森の中に誰かが倒れているのが見つかる。
「誰かが倒れてるな…あれは、リリパットか…?」
人間とは違う体型をしており、おそらくはリリパットだろう。
釣り名人かは分からないが、人間の味方だったら助けないといけないな。
俺はそのリリパットに近づいていき、周囲の魔物に見つからないように小さな声で呼びかける。
「どうしたんだ、大丈夫か?」
だが目の前に立つと、そのリリパットがさっきのオーレンたちのように、異様な状態になっているのに気づいた。
身体中が濃い紫色に染まっており、高熱と呼吸困難でとても苦しそうな表情をしている。
闇の力に蝕まれたかのようだが、この場所に強い闇が降った形跡はないので、原因は他にあるのだろう。
リリパットは衰弱した身体を何とか起こして、俺の声に答えた。
「見ない人間だナ…ワタシもこの森も、モウ終わりダ…早くココから、逃げるンダ…」
「あんたたちを助けに来た。ここで何があったんだ?」
逃げろと言われても、味方のリリパットやノリンたちを見捨てることは出来ない。
このリリパットを治す事が出来るかは分からないが、リムルダールの町へ連れて帰ろう。
俺が聞くと、リリパットはここで数日前起きたことを話し始める。
「ワタシたちとキャタピラーがマヒの森ノ縄張りヲ争ってイタ時、人間二助けて貰っタことガあってナ…それからワタシたちハ、人間ノ味方ヲしていたンダ…」
リリパットを助けたと言うのは、俺がマヒの森の巨大キャタピラーを倒したことだろう。
魔物同士なのに、なぜリリパットがマヒの病にかかっていたのかは気になっていたが、縄張りを争っていたからだったのか。
昔のことを思い出していると、リリパットは話を続ける。
「それで、暗黒魔導二町ヲ壊されタ人間ヲ保護していてんダガ、キャタビウスたちに見つかッテしまッテな…」
キャタビウスというのはさっきの橙色のキャタピラーのことだろうが、暗黒魔導というのは何なのだろうか?
「暗黒魔導って、どんな奴なんだ?」
「黒くテ巨大ナまほうつかいデ、人間ノ力でも倒すことガ出来なかッタらしいンダ…」
黒くて巨大なまほうつかい…恐らくはまほうつかい系統の魔物の最上位種である、だいまどうの変異体なのだろう。
リムルダールを壊滅させるなんて相当強力な魔物でないと不可能だと思っていたが、やはり変異体の仕業だったのか。
暗黒魔導の軍勢は、リリパットの里も壊滅させに来たと、目の前のリリパットは言った。
「暗黒魔導ハキャタビウスの報告ヲ受けテ、ワタシたちノ里にも手下ノ魔物ヲ送りこんダ…それだけでなく、邪毒の病も振り撒いたンダ…」
暗黒魔導はエンダルゴの手下だから、人間に味方する魔物も皆殺しにするつもりなのだろう。
奴が振り撒いた邪毒の病というのは、一体どんな物なんだ?
「邪毒の病って、何なんだ?」
「暗黒魔導ガ新種ノ魔物と共二生み出した、かつてないほど強力な病ダ…魔物ノ襲撃ヲ生き延びた仲間モ、それで死んダ…ワタシも…もう…」
今まではなかった強力な毒素…暗黒魔導はそんなものを作ることも出来るのか。
このリリパットが異様な状態になっていたのも、邪毒の病が原因のようだ。
暗黒魔導を倒し、邪毒の病の治療法を見つけなければ、リムルダールの2度目の復興を達成することは出来なさそうだな。
メルキド以上に復興が大変かもしれないが、何としても達成したい。
まずはこのリリパットを助けるために、俺はリムルダールの町に連れて行こうとする。
「あんたを死なせる気はない。リムルダールの町に連れて行くから、まずはそこで休んでくれ」
「無駄ダ…ワタシは、もう助からナイ…」
このリリパットは無駄だと言っているが、俺は諦めたくはない。
薬師のゲンローワを救出すれば、邪毒の病を治す薬もきっと作り出すことが出来るだろう。
俺はリリパットを背負って、小舟に乗せるために海へと向かっていく。
「俺たちの仲間には薬師がいる。その人の力があれば、きっと助かるさ」
邪毒の病にかかったリリパットの身体は、燃えるように熱かった。
人間とリリパットの体温は違うだろうが、ここまでの高熱はリリパットの体でも耐えられないようで、担いでいる間にもだんだん衰弱していく。
何とか町にたどり着き、薬が出来るまで生き延びてくれと、俺は祈り続けた。
しかし、そんな思いも届かず、海の近くまで来たところでリリパットは、
「人間…やっぱり、もうダメだ…」
僅かな声でそう言って、動かなくなってしまう。
「おい、頑張ってくれ!しっかりしろ!」
そう呼びかけたが、リリパットはもう息がなく、返事をしなかった。
俺は周りに魔物がいないことを確認して人工呼吸を行ってみたが、効果はない。
助かってくれと祈り続けたが、リリパットが息を吹き返すことはなかった。
そして数分後、リリパットは青い光に変わって、消えていってしまう。
「…くそっ、助けられなかったか…」
…メルキドだけでなく、リムルダールでも俺は多くの魔物の仲間を失うことになった。
このリリパットも仲良くなった人間たちと一緒に、楽しく暮らしていきたいと考えていたことだろう。
あの時闇の戦士を止めることが出来ていればこんなことにはならなかったのに…と、俺は強く思う。
これから暗黒魔導を倒しても、エンダルゴを倒しても、闇の戦士を倒しても、もう仲間たちが戻って来ることは無い。
俺はしばらくその場で、リリパットを助けられなかった悲しみに沈んでいた。
…だが、いつまでも悲しみに沈んでいる訳にもいかない。
このマヒの森の中には、まだ生き残っている人間やリリパットがいることだろう。
闇の戦士を止められなかった者の責任として、一人でも多くの仲間を救いたい。
俺は再び立ち上がり、マヒの森の探索を続けていく。
「残念だったけど、立ち止まってはいられないか…ノリンと釣り名人を探そう」
ノリンと釣り名人は、恐らくこの森の中にいることだろう。
さっきのリリパットのように、邪毒の病に感染していないといいな。
二人を見つけるために、俺は昔行った釣り名人の小屋へと向かっていく。
15分くらい森を歩き続けて小屋にたどり着いたが、中には誰の姿もなかった。
「この小屋にはいないのか…どこに行ったんだ?」
小屋の中にいないのならば、どこに行ったのだろうか?
俺は近くに二人がいないか確かめるために、辺りを見渡す。
すると、ノリンが黒紫色に染まった身体を引きずって、海に近づいているのが見えた。
「ノリンはいたけど、邪毒の病にかかっているのか…」
ノリンも邪毒の病にかかっているようだが、まだ動けるようなので、さっきのリリパットよりは症状が進行していないのだろう。
これなら助けられる可能性もありそうだが、どうして海に向かっているのだろうか。
そう思っていると、ノリンは海の前で止まらず、海に落ちようとする。
それを見て、俺はすぐに走り出して、ノリンが落ちないように足を支え、陸の方に戻した。
「危ないぞ、ノリン。何をやっていたんだ?」
「あんたは…雄也か…?何で…こんな場所にいるんだ?」
俺に体を支えられたのに驚いて、ノリンはこちらを振り向く。
すると、ノリンは身体の色だけでなく、目まで異様な状態になっているのに気づいた。
生気がなく、全てに絶望したかのような目をしている。
雰囲気の重かったリムルダールの町でも明るく振る舞っていたノリンがこうなってしまうなんて、何が起きてしまったのだろうか。
「エルから聞いたかもしれないけど、この世界は勇者の裏切りで荒廃した。その元勇者のせいで強力な魔物がたくさん現れてな、リムルダールが心配で戻って来たんだ。それで、リムルダールを立て直すために、あんたを助けに来た」
俺はノリンに、リムルダールに戻って来た経緯を話した。
助けに来たとも伝えたが、ノリンも自分は助からないだろうと言った。
「ここまで来てくれたのに悪いけど、オレはもう助からねえ…町の聖なる草はなくなったし、ゲンローワの爺さんも生きてるか分からない。それに仮に助かったとしても、あいつがいない世界で、生きていく気力はねえ」
確かにリムルダールの町が壊滅したことで、数百年間探究者の保管庫で守られてきた聖なる草は、完全に絶滅を迎えてしまった。
ゲンローワも町から逃げた後の一週間で、死んでしまった可能性もある。
だが、このままリムルダールの町を見捨てることはしたくない。
それと、ノリンが言うあいつというのは、誰の事なのだろうか?
「あいつって、誰の事なんだ?」
「あんたに釣り竿を教えた、釣り名人のことだ…あいつは少し前、邪毒の病で死んじまったんだ。オレはあいつを救うために薬も考えたんだけどよ、どれだけ魚を食べても、オレはバカだからな…何も作ることは出来なかった…。一緒に偉大な釣り人を目指そうって約束してたんだけど、それを叶えることも出来なくなった…。絶望したオレは、あいつの後を追おうとしてたんだ」
ノリンと一緒にいない事から嫌な予感はしたが、釣り名人は亡くなっていたのか…。
ただの仲間ではなく、ノリンと釣り名人は共に偉大な釣り人を目指す特別な仲だったのだろう。
親友を亡くしたことで明るかった性格は失われ、自殺までしようとしていた。
釣り名人の死を話したノリンは、自分もここで死ぬんだともう一度言う。
「オレはあいつを追って、ここで死ぬ…もう、放っておいてくれ…」
確かに今のノリンには、生きていく気力はないだろう。
しかしこのままでは、釣り名人だけでなく、ノリンも偉大な釣り人にはなれなくなってしまう。
邪毒の病が治れば、何とか立ち直ることも出来るかもしれない。
俺はリムルダールの町に彼を連れて行くために、ポーチから小舟を取り出して、海に浮かべる。
「あんたも町の大事な仲間だし、放ってはおけない。この舟に乗せて、リムルダールの町に連れて行くぞ」
「どこに連れていっても、どうせオレは死ぬんだ…そこまで言うなら、好きにしてくれ」
生きることを諦めているのには変わりないが、ノリンはリムルダールの町に行くのは無理には拒まないようだ。
俺はノリンを担いで小舟に乗せ、リムルダールの町へと戻っていく。
リリパットの里の他の生き残りや町の仲間たちも、助け出せるといいな。
一人でも多くの仲間を救い、リムルダールの2度目の復興を達成させたいと、俺は思いながら舟を進めていった。