ドラゴンクエストビルダーズ メタルギアファンの復興日記 作:seven river
Episode164 邪毒に沈む
小舟で南に進み続けて2時間後、俺の目の前にメルキドの大地が見えてくる。
ラダトームのことも心配だが、今はリムルダールやマイラの2度目の復興を進めないとな。
メルキドのみんなに黒い流星のことを伝えたら、さっそくリムルダールに向かおう。
そんなことを考えているうちに、俺はメルキドに到着し、小舟を降りた。
「ロロンドたちとも、しばらくお別れになるな」
ピリンとヘイザンは今まで通りついて来てくれるだろうが、ロロンドたちとはここで別れることになるだろう。
エンダルゴと闇の戦士を倒したらまた会いに来るだろうが、別れのあいさつはしないとな。
俺はスライムやドラゴンに見つからないようにしながら、15分くらいでメルキドの町に戻って来る。
メルキドの町にたどり着くと、俺を待っていたロロンドがさっそく話しかけて来た。
「おお!戻って来たか、雄也よ。ラダトーム城はどうなっていたのだ?」
「やっぱり無事ではなかった。黒い流星は、エンダルゴがラダトーム城を破壊するために放った物みたいなんだ。3人があの流星に当たって、強い闇の力に蝕まれている」
俺はロロンドに、ラダトーム城の状況について報告する。
黒い流星を見た時に不安を感じたが、本当にあんなことになっていたとはな。
短い期間ではあるがラダトーム城で暮らしていたロロンドは、その話を聞いて暗い表情になってしまった。
「そんなことになっておったのか…我輩もあの城で暮らしておったし、心配だな」
「3人は危険な状態だけど、回復するのを祈るしかない。それとムツヘタは、メルキドも危ないかもしれないって言ってたぞ」
ロロンドを悲しませたくもないし、何としてもオーレンたちは回復してほしいな。
ラダトームの状況を話した後、俺はメルキドにも闇が降る可能性があると、ロロンドに伝える。
「どういうことなのだ、雄也よ?」
「エンダルゴほどの力もあれば、メルキドまで黒い流星を飛ばせる可能性もあるらしい。空に黒く光る物が見えたら、全速力で町から逃げてくれ」
次にいつエンダルゴが攻撃を仕掛けて来るかは分からないが、警戒は怠らないほうが良さそうだ。
共に町を作ってきた大切な仲間を、誰一人として失いたくはない。
町が壊されてしまったとしても生き残ることが出来れば、復興の意志に満ちたメルキドのみんななら、すぐに作り直すことが出来るだろう。
「エンダルゴの力はそれほどまでなのか…逃げ遅れる者が出ないよう、みんなにも伝えておこう」
「ああ、頼んだ」
俺の話を聞いて、ロロンドはみんなにも伝えておくと言った。
確かにみんなに伝えておけば、闇が降ってくる事を早めに見つけられるかもしれないし、逃げ遅れる人が出る可能性は下がりそうだ。
ラダトームに降った闇のことを話した後、俺はこれからリムルダールに旅立つことを、ロロンドに告げる。
「後、もう一つ大事な話がある。悠久の竜を倒してメルキドの2度目の復興を達成出来たことだし、俺はそろそろリムルダールに向かおうと思う」
「そういえばお主、リムルダールやマイラにも向かうと言っておったな。せっかく賑やかになったと言うのに、寂しくなるな…」
ラダトームを出発した時、俺がリムルダールやマイラにも行くと言っていたのは、ロロンドも覚えているようだ。
ついに別れの時がやって来てしまい、ロロンドは暗い顔になってしまった。
「俺もメルキドにもう少しいたいけど、エンダルゴや闇の戦士を倒すためにも、リムルダールやマイラに向かわないといけない」
「分かっておる。だが、かつてお主がリムルダールに向かった時のように、みんなで送らせてくれ」
俺もメルキドのみんなと共に、もっとこの町を発展させていきたい。
だが、メルキドを守るためにも、リムルダールやマイラでエンダルゴと闇の戦士を倒すための力をつけなければいけない。
ロロンドも無理には引き止めようとはせず、せめてみんなで見送らせてくれと言ってくる。
「俺もみんなとあいさつしたいし、もちろんだ」
俺もメルキドを去る前に、みんなとあいさつを交わしておきたい。
俺がそう言うと、ロロンドは町の中を歩いているみんなを呼びに行った。
数分経って、ロロンドはメルキドの全員を連れて来る。
アレフガルドをずっと共に復興させてきたピリンとヘイザンは、一緒にリムルダールに行こうと俺の隣にやって来た。
「これからリムルダールに行くんでしょ?雄也を手伝いたいし、また一緒に行くよ!」
「リムルダールが気になるし、鍛冶屋の修行のため、ワタシも共に向かうぞ」
「ああ、これからもよろしくな。ピリン、ヘイザン」
二人は恐らく、アレフガルド復興の最後までついて来てくれることだろう。
ピリンは料理がうまくなり、ヘイザンも鍛冶の腕がだんだん師匠のゆきのへに近づいていき、本当に心強い味方だ。
リムルダールはヘイザンの故郷だし、無事であってほしいな。
リムルダールに向かう俺たち3人が並ぶと、ロロンドは別れの言葉を言う。
「3人もいなくなると、やっぱり寂しくなるな…エンダルゴと闇の戦士を倒したら、必ず帰って来るのだぞ」
「もちろん帰って来るさ。それまでの間、しばらく待っていてくれ」
エンダルゴと闇の戦士を倒しても、精霊ルビスもひかりのたまもない世界では、平和が訪れることはないだろう。
だが、闇が降って来る危険などはなくなるので、少しは安心して過ごすことは出来そうだ。
そうなったら、またメルキドの町に戻って来よう。
出発しようとする俺たちに、みんなそれぞれのあいさつをしていった。
「いつでも待ってるからな、雄也!」
「飛天斬りを、これからの戦いにも役立ててくださいね」
「リムルダールにも硬い鉱脈があったら、またまほうの光玉を使ってみてください」
「リムルダールでも頑張るのよ」
「僕たちでこの町をもっと大きくして、雄也たちを驚かせるよ」
「短い間だったけど、ありがとうございます」
「お前たちが戻って来るまで、メルキドは我が守り抜くぞ」
みんながあいさつをし終えると、俺はいよいよ小舟に乗りにメルキドを出ようとする。
メルキドを出発する前に、俺はもう一度大きな声であいさつをした。
「みんなあいさつありがとう。また会う時まで、元気でな!」
もっと大きく発展したメルキドに、必ず生きて帰って来ないとな。
俺はそんなことを思いながら、メルキドの町の北にある海へと向かっていく。
ピリンたちが一緒ではあるものの、20分くらいで海にたどり着くことが出来た。
海に着くと、世界地図を見ながらリムルダールを目指して、小舟を漕ぎ始めていく。
地図を見ながら北東に小舟を漕ぎ続けて1時間半ほど経って、俺たちの目の前に陸地が見えて来た。
薄紫色になった土の上に枯れ木が生えており、ドロルやドロルメイジといったカタツムリ型の魔物が生息している。
「そろそろ、リムルダールの大地が見えてきたな」
かつて様々な病に人々が侵されていた地、リムルダールだ。
ここでヘルコンドルやマッドウルスを倒したのも、かなり懐かしい話になるな。
リムルダールの町の様子が気になるヘイザンは遠くを眺めてみるが、ここからは町を確認することは出来なかった。
「ここからだと、まだ町は見えないようだな」
まずは着陸しようと、俺は腕に力をこめて小舟を漕ぎ続けていく。
そして、しばらく小舟を進ませ続け、俺たちはリムルダールの東の海岸に着陸した。
かつて湖だった巨大な毒沼を超えた先に、リムルダールの町がある。
広い毒沼に橋をかけて進むのには大量のブロックが必要になるので、北にある山を使って迂回した方がいいだろう。
「まっすぐ進んだら毒沼があるから、北の山を通って迂回するぞ」
俺を先頭にして、ピリンやヘイザンもドロルたちに見つからないようにしながら進んでいく。
ドロルはそんなに動きの早い魔物ではないので、見つかる危険性は少なかった。
5分ほど進んでいくと、ヘイザンはリムルダールの空気が昔よりも淀んでいると言う。
「何か、すごく空気が淀んでいるな。昔のリムルダールでも、ここまでではなかったはずだ」
「確かに、呼吸をするだけで気持ち悪くなって来るな…」
ヘイザンに言う通り、毒気に満ちていたかつてのリムルダールにも増して、今のリムルダールの空気は汚れている。
周りをよく見てみると、ドロルの中に金色のドロルも混じっているのが見えた。
「空気の異変だけじゃなくて、新しい魔物も現れているな」
空気のかつてないほどの淀みと、新たな魔物の出現…これらを見ると、リムルダールの町も心配になって来るな。
町の人々が、新たな病に苦しめられているかもしれない。
だが、俺たちはどんな病でも治せる聖なるしずくを開発したので、大丈夫だろうと思いながら、北の山を進んでいく。
昔リムルダールを旅立つ時にピリンたちも崖登りをしているので、そんなに苦労せずに進むことが出来た。
45分ほど北の山を歩き続けて、俺たちはリムルダールの町の近くの崖を降りる。
この崖を降りたら、リムルダールの町はもうすぐだ。
早くリムルダールの町のエルたちに会いたいと、俺たちは進んでいった。
だが、崖を降りきったところで、俺たちは恐ろしい物を目にしてしまう。
「毒沼が黒くなってる…。それに、リムルダールの町が…」
かつて紫色だった毒沼が、禍々しいまでの黒色に染まっていた。
そして、みんなで作り上げたリムルダールの町が、一つの建物を残して完全に崩壊している。
故郷の町が壊されているのを見て、ヘイザンは悲しそうな顔になってしまう。
「こんなことになっていたとはな…。…でも、あの残った建物にみんながいるんじゃないか?」
「確かにその可能性もあるな。ここで立ち止まっている訳にもいかないし、みんなの無事を確かめに行こう」
メルキドでもほとんどの建物が壊されていたが、壊されていない建物の中でみんなは無事だった。
リムルダールでも、あの建物の中にみんながいる可能性はあるな。
俺はみんなの安否を確かめるために、ドロルたちを避けながら町へと近づいていく。
町にたどり着くと、俺はそこに残っている建物をノックして、声をかけた。
「俺だ、雄也だ!みんな、無事なのか!?」
だが、その中から聞こえて来たのは見知らぬ男の声だった。
「雄也…?もしかしてみんなの言っていた、伝説のビルダーなのか?」
「そうだ。リムルダールの町が心配になって、戻って来たんだ」
俺の話を聞いたことがあると言うことは、リムルダールのみんなとは知り合いみたいだな。
俺たちがリムルダールを去った後に、エルたちが見つけて治療した患者なのかもしれない。
俺が答えると、中からノリンの色違いの青い服を着た若い男が出てくる。
「残念だけど、みんなはいない。数日前突然町が壊されて、みんないなくなったんだ」
建物の外に出てきた男は、暗い顔をしてそう答えた。
確かに建物にはその男一人しかおらず、町の他の場所にも人の気配は感じられなかった。
まさか、一人を残してみんな死んでしまったというのだろうか?
「まさか、みんな死んでしまったのか?」
「死体は残ってないから、死んではないと思うぜ」
最悪の可能性も考えてしまったが、その男は否定した。
男の言う通り、リムルダールの町の中には死体は一つも落ちていなかった。
だが、生きているのであれば、みんなどこに行ってしまったのだろうか。
「じゃあ、どこにいるって言うんだ?」
「多分、大量の魔物に追い詰められて、旅のとびらを使って逃げ出したんだ。生きているなら、旅のとびらの先だ」
かつて俺たちがサンデルジュの砦を放棄したように、リムルダールのみんなも魔物に追い詰められて町から逃げざるを得なくなったと言うことか。
しかし、ヘルコンドルやマッドウルスを倒したリムルダールのみんなを追い込む魔物など、ただ者ではないだろう。
もしかしたら、滅ぼしの騎士のような変異体の魔物なのかもしれない。
でも、そもそもなぜこの男はリムルダールに住んでいたはずなのに逃げておらず、詳しくは何があったのか知らないのだろうか?
「そもそも、あんたはここに住んでいるんだろ?どうして何があったか詳しく知らないんだ?」
「数週間前、リムルダールの空気がきれいになったのに、逆に魔物の動きが激化するということがあったんだ。それから魔物がいつ襲って来てもいいように、交代で薬草を取りに行っていた。それで1週間くらい前、僕が薬草を少し遠くまで取りに行ったんだけど、帰って来た時には町は破壊されていて、誰もいなくなっていた」
薬草を取りに行っていたから、この男は強力な魔物の襲撃を受けずに済んだということか。
数週間前にリムルダールの空気がきれいになったのは、エンダルゴを生み出すために闇の戦士が、人を蝕む力をラダトームの西の城に集めたからだろう。
魔物の襲撃から1週間となれば逃げ出したみんなも危ないだろうし、早く助けに行かないとな。
「そうだったのか…。みんなが心配だし、俺はこれから旅のとびらの先を見てくるぜ」
「でも、魔物の襲撃で旅のとびらも無くなってしまった。どうやって向かうんだ?」
確かに昔なら、旅のとびらがなければ別の地域に移動することは出来なかった。
だが、今は小舟を使えば、アレフガルドのどこにでも行くことが出来る。
「俺たちが作った小舟を使って、海を渡っていく。リムルダールのどこに逃げていたとしても、助けることが出来るんだ」
みんなを探すのは大変だろうが、何とかして全員助け出したい。
俺がさっそく助けに向かおうとしていると、その男はノリンの居場所について心当たりがあると言う。
「本当に助けに行くのなら、ノリンの居場所に心当たりがある。ノリンはリリパットの釣り名人に、一緒に偉大な釣り人を目指そうって言われたらしくてな、暇さえあれば釣り名人のところで釣りをしていた。だから、今も釣り名人のところに逃げた可能性がある。他のみんなも、そこにいるかもな」
そう言えばあの釣り名人のリリパットは、俺にも偉大な釣り人を目指せよと言っていたな。
今はエンダルゴの命令で人間に味方する魔物が危険な状況に追い込まれているので、あのリリパットも助けた方がいいかもしれない。
「教えてくれてありがとう。さっそく助けに行って来るぜ」
俺がピリンとヘイザンと別れてリムルダールの町から出ようとすると、男は最後に自分の名前を名乗る。
「言い忘れていたけど、僕はコレスタ。後でまた会おう」
「もう知ってるみたいだけど、俺は影山雄也。普段は雄也って呼んでくれ。これからよろしくな」
俺もコレスタにいつもの自己紹介をしてから、ノリンたちを助けに向かう。
俺は崖登りに慣れているので、さっき降りた崖の奥にある岩山を超えて、海に出ていった。
海に出るとアレフガルドの世界地図を見ながら、俺は釣り名人のリリパットがいる、南国草原とジャングルの地域に向かっていった。