ドラゴンクエストビルダーズ メタルギアファンの復興日記   作:seven river

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Episode139 世界への報復

俺たちが来たのを見てルビスは戦いの手を止め、嬉しそうな顔で感謝の言葉を言ってくる。

 

「来て下さったのですか。もう命令はしないと言いましたのに、ありがとうございます」

 

「あんたには感謝しているからな。見捨てたくはなかったんだ」

 

ルビスとは今まで何度も話したことがあるが、直接会うのは初めてになるな。

彼女が殺され、ひかりのたまが壊される前に来ることが出来てよかったぜ。

闇の戦士を止められるかは分からないが、出来る限りのことはしたい。

 

「…来なくてもいいと言われたのに、来やがったのか。そこまでしてこの精霊を助けるとは、お前はどこまでも愚かな人間だな、影山雄也」

 

ルビスを助けに来た俺を、闇の戦士はそう言いながら見下すような目で見てきた。

奴は俺たちに向けて、かつて自分を追い詰めた数百年前の人間も、今の人間も何も変わっていないと言ってくる。

 

「お前は本当に、ビルダーになって幸せだと思っているのか?今の人間どもも、オレに竜王を倒す責務を押し付けた数百年前の人間と何も変わらないと言うのに」

 

確かに今の人々も、俺のことをビルダーという特別な存在として見ているだろう。

だが、共に世界を復興させていく一人の仲間としても見てくれているはずだ。

闇の戦士が人間だった頃と違って、俺にだけ重い責務を押し付けたりはして来なかった。

奴はどう言った意味で、そんなことを言ったのだろうか?

 

「この前も言ったけど、確かに最初は急にビルダーに選ばれて嫌だと思っていた。だけど、みんなと協力して世界を復興している内に、ビルダーになってよかったと思い始めたんだ」

 

「協力か…本当に人間どもは、望んでお前に協力していたと思うのか?」

 

俺がそう言うと、闇の戦士は人々が望んで俺に協力していたのかと聞いてくる。

俺は今までの間たくさんの人々と共に町を作ってきたが、誰も嫌々協力していたようには見えなかった。

厳しい戦いになっても、みんなで乗り切ろうと頑張っていたはずだ。

そうでなければ、ここまでアレフガルドの復興を進めることは出来なかっただろう。

 

「もちろんだ。もしそうじゃなかったら、ここまでアレフガルドの復興を進められなかったと思うぞ」

 

「なら、なんでビルダーの伝説なんて物があったんだと思う?」

 

そう言えばアレフガルドの多くの人々は、俺がビルダーだと名乗る前からビルダーという存在を知っていたな。

でも、ビルダーの伝説の存在と、人々が望んでアレフガルドを復興させているかに、どんな関係があるんだ?

ビルダーの伝説が出来た理由を、闇の戦士は知っているのだろうか。

 

「俺は深く考えたことはなかった…あんたは知ってるのか?」

 

「オレも真相は知らないけど、だいたいの予想はついている」

 

闇の戦士も数百年の間封じられていたので、真実を知ってはいないようだな。

だが、ビルダーの伝説が出来た理由について一つの予想を持っているようで、奴はそれを話し始める。

 

「人間どもはかつて、竜王を倒す、世界を救うといった偉業はルビスに選ばれた勇者が行うべきことであり、普通の人がすべきことではないと考えていた。だから、世界の復興も、自分たちで行うのではなく、ルビスに選ばれた人間に任せるべきだと考えたんだろう。そして、いずれ現れるだろうその者のことをビルダーと呼んで、語り継いでいったんだろうな」

 

そう言えば、数百年前の人間であるラスタンやオーレンは昔、竜王を倒すのは勇者の役目であると言っていたな。

それと同じように、アレフガルドを復興させるのは自分たちではなく、ビルダーの役目だと考えるようになったと言うことか。

闇の戦士は、人々が世界の復興をビルダーに任せようとした理由は、他にもあると言ってきた。

 

「理由は他にもあるはずだ…魔物がはびこる世界を復興させると言うのは非常に危険なことで、命を落とす恐れがあるからだ。人間どもは平和な世界を作りたいと思っていたが、そのために命を危険に晒したくはない…だから、自分たちのかわりに伝説のビルダーに、世界を救ってもらおうと考えたんだろう。もし自らアレフガルドを復興させる気があったのなら、ビルダーの伝説なんて生まれなかったはずだ」

 

俺は魔物に支配されたアレフガルドを復興させている間、何度も命の危機に会ったし、数百年前の人もそうなることは予想出来たはずだ。

平和な世界を作ることを、他人に任せたくなることもありえるだろう。

数百年前の人々が自らアレフガルドを復興させようとしていたなら、確かにビルダーの伝説は生まれなかっただろうな。

もしそうなら、物を作る力を持った者の出現ではなく、自らが物を作る力を得ることを望んだはずだ。

ルビスは、闇の戦士の予想は正しいと言ってくる。

 

「…その通りです。世界が荒廃した後、僅かに生き残った人々は、竜王を倒す使命を負った勇者が現れたように、世界を復興する使命を負った者がいずれ現れるだろうと考え始めました。そして、人々はその者のことを、物を作り出す者という意味の、ビルダーと呼び始めました。こうして出来たビルダーの伝説を何百年も語り継いで行き、人々はビルダーの訪れを待ち続けていたのです」

 

また、俺のビルダーの力がなぜ生まれたのかについても、ルビスは話した。

 

「雄也の持つビルダーの力は、数百年の間ビルダーの伝説を信じ続けていた人々の想いを、私が力に変えた物です」

 

人々の想いを力に変える、ルビスは精霊だからそんな事も出来るのか。

ビルダーの俺が現れたのが、アレフガルドが荒廃して数百年も経ってからなのは、ビルダーの力を生み出すのに、それだけ多くの人々の想いが必要だったからなのかもしれない。

ルビスの話の後、闇の戦士は数百年前の人々も、今の人々も何も変わっていないことを確信していたようだった。

 

「やはりそうだったか…ビルダーの伝説を信じ続け、自ら世界を復興しようとしなかったのは今の人間も同じだ。人間どもは本心では、アレフガルドの復興を全てお前に押し付けたいと思ってるんだろうな」

 

確かに俺が来るまでアレフガルドのほとんどの町は廃墟だったし、ビルダーである俺が来たことにみんな喜んでいた。

闇の戦士は、人々は仕方なく協力していただけだと話し始める。

 

「人間どもが仕方なく協力していたのは、お前一人ではどうしようも出来ないほど、魔物の数が多かったからだろう。もし今より魔物の数が少なかったら、今の人間どもも数百年前の人間どもと同じように、世界の復興という責務をお前一人に押し付けていただろうな」

 

…ルビスや闇の戦士の話から考えると、確かに人々は数百年前と変わっておらず、俺にアレフガルドの復興という責務を押し付けたかったのかもしれない…。

だが、最初はそうだったとしても、今は違っているはずだ。

もし仕方なく協力していたのなら、復興している間にみんなが楽しそうな顔をすることはなかっただろう。

 

「確かに最初はそうだったのかもしれない…。でも、一緒に町を作っていく内に、みんな心から協力するようになってきたはずだ。だから、みんなの暮らすこの世界を壊させたくはない」

 

奴は人間は仕方なく協力していることを確信しているようだが、俺はみんなが進んで楽しく協力していることを確信している。

俺の考えを闇の戦士に伝えると、俺の後ろにいたローラ姫も心から協力していると言った。

 

「私も雄也様と同じ考えです。私たちは心から望んで、共にアレフガルドを復興させたいと思っております」

 

俺とローラ姫の考えを聞くと、闇の戦士は呆れ返ったような顔になる。

そして、俺たち3人を殺そうと、剣を構えてきた。

 

「…この話を聞いてまで、本当にそう思っているのか。そこまで人間どもが大事だと言うのならば、そこの精霊と共に消し去ってやろう」

 

俺とルビスも剣を構えようとするが、ローラ姫は俺たちの前に出て、闇の戦士を説得しようと話し始める。

 

「お待ちください。私は人々だけでなく、あなたにも幸せであってほしいのです。どうか戦いを止めて、アレフガルドの復興を手伝ってくださいませんか?」

 

ローラ姫は闇の戦士を説得するためにここに来たが、うまく行くのだろうか?

もし奴を連れ戻すことが出来たら、こちらの戦力が増えることになり、アレフガルドに平和が戻る可能性が上がるだろう。

 

「…お前のことは雄也からも聞いていたが、何を言われようとオレは人間どもの元に戻る気はない。エンダルゴや魔物たちと共に、闇に満ちた世界を作っていくつもりさ」

 

だが、やはり闇の戦士は説得に応じようとせず、魔物として生きていくと言う。

人々と共に生きるより魔物たちと生きるほうが幸せになれると、奴は思い続けているようだな。

 

「オレの幸せを願うのなら、魔物たちの味方に付くか、ここで死ぬかを選ぶんだな。あんな人間どもといては、オレは楽しく生きられない」

 

「そんなことはありません。必ず私たちなら、数百年分を取り戻すほどの幸せを作ることが出来ます」

 

でも、ローラ姫も必ず幸せな暮らしを作って見せると、元勇者を何とか説得しようとした。

平和な世界を作り、そこでみんなと共に楽しく暮らしていけば、確かに数百年分を取り戻すほどの幸せを手に入れることが出来るのかもしれない。

しかし、闇の戦士に魔物たちとの暮らしを捨てることは出来ないようで、奴は語勢を荒らげてローラ姫に言い返す。

 

「そんな不確かな事を信じて、かつてオレを勇者として持て囃した人間どもやルビスに協力しろと言うのか?…オレの味方をしてくれた魔物たちを、捨てろと言うのか!?」

 

「今の人々は、あなたを特別な存在ではなく、一人の仲間として見てくれるはずです。信じられないかもしれませんが、きっと楽しく暮らすことが出来るでしょう」

 

魔物たちやエンダルゴと言うのは闇の戦士にとって、人間であった時には出来ることのなかった、大切に思える仲間というものなのだろう。

何を言われても、奴は俺たちに協力するつもりはないと話し続けた。

 

「例え本当に人間どもが変わっていたとしても、それでもオレは魔物たちとの暮らしを失いたくはない。あいつらとの暮らしを超える幸せは、お前たちには作れないだろうな」

 

「いいえ。必ずあなたを、今より幸せにして見せます。私たちと一緒に、世界の復興を進めていきましょう」

 

ローラ姫も必ず幸せな暮らしを作り出すと、元勇者に言い続ける。

だが、竜王が死んでから魔物たちと共に暮らし続けてきた闇の戦士に、姫の言葉を信じることはどうしても出来なかった。

 

「無理に決まっている。どうしても魔物たちとの暮らしを捨てろと言うのなら、ルビスやビルダーとともに、ここで斬り捨ててやる」

 

ローラ姫の説得をこれ以上聞こうとはせず、奴は剣を構えて彼女を睨みつける。

やはり非常に厳しい戦いになるだろうが、戦いは避けられなさそうだな。

 

「待ってください!」

 

「もういい、諦めてここで死ぬんだな!」

 

姫はなおも説得を続けようとしていたが、闇の戦士はそう言って彼女を剣で叩き斬ろうとした。

ルビスはすぐに動きに対応して、剣で奴の攻撃を受け止める。

強大な闇の力を纏った奴の攻撃は、ルビスの剣の力でも受け止めるのが精一杯のようだった。

 

「戦いは避けられないようですね…ですが、今は先ほどと違って雄也もいます。雄也の力もあれば、あなたにも負けることはないでしょう」

 

でも、俺の力もあれば勝てないことはないだろうとルビスは言う。

確かにルビスが奴の攻撃を受け止めている間に俺が攻撃を加えれば、ダメージを与えることは出来るだろう。

しかし、闇の戦士は俺たちに勝ち目はないと言ってきた。

 

「雄也が増えたところで無駄なことだ。お前たちへの復讐心から生まれた闇の力に、適うことはないだろうな!」

 

闇の戦士は腕に力をこめてルビスを押し倒し、後ろに下がる。

そして、さらなる闇の力を剣と盾にこめようとしていた。

 

「復讐心から闇の力が生まれたって、どういう事なんだ?」

 

闇の力が復讐心から生まれたと言うのは、どう言うことなのだろうか。

闇の戦士が非常に強大な闇の力を持っているのは知っているが、その闇の力が生まれた理由は聞いたことがなかったな。

 

「オレが人間どもを裏切った時、竜王はオレに闇の力を与えて体を変異させ、この姿に変えたんだ。その時にオレの持っていたロトのつるぎと、竜王の手下の魔物が回収したロトのたてから宝玉か抜き取られた物が、オレの手に与えられた」

 

俺が聞くと、闇の戦士は一度武具に力をこめるのを止めて、闇の力が生まれた理由や、奴が持っている剣と盾について話し始めた。

ロトのつるぎとロトのたては偽物だと思っていたが、宝玉を抜き取られただけで本物だったようだな。

ドラクエ1には登場しなかったロトのたても、竜王は回収していたのか。

オレがそう思っていると、最初は強力な闇の力は与えられていなかったのだと話す。

 

「竜王がオレに与えた闇の力はあくまで体を変異させるためのもので、そんなに強力ではなかった。だが、オレの幸せを奪い、竜王を倒し、生き残った魔物たちまで殺そうとした人間どもやルビスへの憎しみと復讐心や、オレが勇者だった時から持っていた魔力のおかげで、闇の力は強大なものへと変わっていったんだ。アレフガルドに満ちる全ての闇を、一点に集めることも出来るようになった」

 

憎しみや復讐心と言った負の感情は、闇の力を強めることが出来るのか。

竜王は闇の戦士を手下として利用する訳ではなく、狭い城に閉じ込めていたので、強力な闇の力を与える必要はなかったんだろうな。

だが、勇者の時から持っていた魔力の影響もあって、今の奴の闇の力はルビスを殺せるほどになっている。

 

「今日がその復讐を果たす時だ。お前たちを殺して、全てを闇が支配する世界を生み出してやる」

 

闇の戦士は俺に話をした後、再び力をロトのつるぎとたてに溜め始める。

奴の武具にはさっきまでとは比べ物にならないほど闇の力がこもっており、暗黒色へと変わった。

宝玉が抜き取られたところには、闇の力の塊と思われる黒い宝玉も現れる。

ロトのつるぎとたてだけでなく、奴の被っていた王冠や着ているマントまでもが、暗く染まっていった。

 

「精霊だのビルダーだの、そんな奴らの力は何の意味も持たない…もう諦めて、この剣に斬り裂かれるがいいさ!」

 

闇の戦士の持っている全ての物が黒く染まると、奴はそう言って剣を構え、俺たちに斬り掛かろうとして来た。

確かに奴の闇の力は、俺とルビスの力があってもどうすることも出来ないかもしれない。

だが、ここまで世界を復興してきた者として、ここで負ける訳にはいかない。

そして、俺と闇の戦士との、3回目の戦いが始まった。


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