ドラゴンクエストビルダーズ メタルギアファンの復興日記   作:seven river

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Episode125 破滅への抵抗

俺が闇の戦士の城を出てサンデルジュの砦へ戻っている時、闇の力の集合体が現れたことによる激しい地面の揺れはまだ続いていた。

そんなに長い時間、強い地面の揺れを起こせると言うことからも、その闇の力の集合体の恐ろしさが窺える。

本当にそんな奴に勝つことが出来るのか…という不安が大きくなるが、俺はアレフガルドに残るという決断をしたので、諦める訳にはいかない。

そんなことを考えながら、俺はポーチにしまっていた白花の秘薬を飲んで体の痛みを癒してから、サンデルジュの砦に向かって歩いて行く。

地面の揺れに気をつけて日の当たらない暗い峡谷を歩いていると、50分くらいかかってサンデルジュの草原に戻ってきた。

 

「地面の揺れのせいで進みにくかったけど、何とかここまで戻ってくることが出来たな」

 

地面のゆれのせいでいつもより時間がかかったが、無事に砦に戻ることが出来そうだ。

今はまだサンデルジュにいる魔物の数が少ないので、そんなに警戒して進む必要もない。

 

「砦に戻ったら、まずはみんなに謝らないといけないな」

 

サンデルジュの砦が近づいてくると、俺はそんなことを考える。

今後の戦いについて話すのも大切だが、まずはみんなに魔物の計画を止められなかったことを謝らなければいけないだろう。

最後まで戦い続けるという決断はしたが、それでもみんなの期待に答えられなかったのは間違いないからな。

 

30分くらい歩いてサンデルジュの砦に戻ってくると、ムツヘタとローラ姫が心配そうな顔で辺りを眺めていた。

そして、俺が砦に戻ってきたのを見ると、2人はすぐに話しかけてくる。

 

「雄也か。さっきから何が起きているのじゃ?激しい地面の揺れが止まらぬのじゃ」

 

「ラダトーム城の西のほうに、赤黒い雷が落ちるのも見えました」

 

地面の揺れだけでなく、赤黒い雷が落ちるという現象も起きていたのか。

ラダトーム城の西という場所から考えて、これも闇の力の集合体が現れたことが原因なのだろう。

 

今の話を聞いて俺が帰ってきたことに気づいたようで、ピリンやゆきのへたち、アローインプのルミーラも砦の中から出てくる。

4人も、激しい地面の揺れや赤黒い雷に不安を感じているようだった。

 

「雄也…何が起きてるの…?やっと楽しい世界になるって思ってたのに…」

 

「この地面の揺れはゴーレムやヘルコンドルの時の比じゃねえ。間違いなくマズイことになってるぜ」

 

「ワタシもこんな揺れを感じたのは始めてだ。雄也、何がどうなってるんだ?」

 

「今まで感じたことのない、とても恐ろしい気配がするね」

 

みんなも闇の戦士との戦いが終わったら世界に平和が戻ると思っていたし、俺も今回が最後の戦いだと思っていた。

だからこそ、より不安が大きくなっているのだろう。

俺はみんなが集まっているのを見て、今何が起きているのかを伝える。

 

「みんな…本当にごめん。魔物の魂の集合体…いや、全ての闇の力の集合体が現れてしまったんだ。奴らの計画を止めることが出来なかった」

 

その話を聞いて、みんなはとても驚いた表情に変わっていった。

ゆきのへは、どうして計画を止められなかったかや、闇の力の集合体について聞いてくる。

 

「計画を止められなかったってことは、闇の戦士に負けたってことか…?それに、全ての闇の力の集合体ってどう言うことだ?」

 

ゆきのへたちもムツヘタから、魔物たちが倒れた魔物の魂の集合体を作ろうとしているという話は聞いていたが、全ての闇の力の集合体であるということはまだ知らない。

どうして計画を阻止できなかったかも、みんな気になっているだろう。

だから、俺は闇の戦士との戦いで何があったかと、魔物たちの計画について奴から聞いたことを、みんなに話した。

 

「闇の戦士との戦いの時、あいつはかつて勇者だった時の剣技や呪文を使って俺を倒そうとしてきたんだ。俺は何とか奴の攻撃を凌いで反撃して、追い詰めることが出来た。だけどあいつは、勇者としての力ではない、新たな力を持っていたんだ」

 

「新たな力…いったいどう言うことなのじゃ?」

 

闇の戦士が勇者としての力以外の力を持っているという話をすると、ムツヘタはそう聞いてくる。

 

「ひかりのたまの力を打ち消す時に使った、闇の力だ。勇者としての力を使っていた奴を追い詰めるのに力を使い果たした俺は、闇の力を使う奴を止めることが出来なかった」

 

「勇者の力を超える闇の力…そんなものがあったのか。ワシもそんなことは考えてなかったぜ」

 

「あやつは、わしらが考えていたより、遥かに強力な者であったようじゃな…」

 

ゆきのへとムツヘタは俺の話を聞いて、そんな話をする。

闇の戦士が闇の力を持っていたのは知っていたはずだが、それが勇者の力を超える物だとは思っていなかったのだろう。

闇の力を纏った闇の戦士の剣は、勇者の力を使っていた時の奴の剣の比べ物にならないほど強力であった。

俺は闇の戦士との戦いについて話した後、奴らの計画についても話した。

 

「それで、動けなくなった俺に向かって闇の戦士は、魔物の計画について話した。計画は、人間たちが考えているより恐ろしいものだということを」

 

「魔物の魂の集合体ではなく、全ての闇の力の集合体だと言っていたな…」

 

「ああ、魔物の魂に捧げられたのは、生きている魔物たちの魔力だけじゃなく、アレフガルドに満ちる全ての闇だったんだ。奴は、魔物たちの魂はあくまで依り代で、闇の力の集合体を作るのが計画の目的だと言っていた」

 

「そのアレフガルドに満ちる闇とは、どう言うことなのじゃ?」

 

アレフガルドに満ちる闇と言われてもよく分からないのか、ムツヘタはそう返す。

ひかりのたまによって空を覆っていた闇は消えたのだから、そうなるのも仕方ないだろう。

 

「ラダトームを死の大地に変えたような、生物や大地を蝕む力だ。もともと竜王やその配下の魔物たちが作り出した物なんだけど、闇の戦士の影響で竜王が倒れたあとも残ってしまっていたんだ」

 

「その力を、一つの意思ある存在にしたと言う事じゃな」

 

「そう言うことだ。だけど、その力は数百年に渡って作り続けられた物だから、全て合わせれば膨大な力になる。…俺たち人間に勝ち目はほとんどないと言えるほどだろう」

 

現れた最強の存在がどれほどの力を持っているかは分からないが、今の俺たちの力で勝てる相手だとは到底思えない。

俺はアレフガルドで戦い続ける選択をしたが、まだ不安の方が大きい。

 

「アレフガルドに平和が戻るどころか、最悪の状況に陥ってしまったようじゃな…」

 

予想以上の危機になったことを知り、ここにいる全員が暗い顔になってしまった。

そして、ピリンは悲しそうな口調で、こんなことを言ってくる。

 

「わたしにはアレフガルドに満ちる闇とかよく分からないけど、用事が全て終わって、世界が平和になったら、雄也と二人でピクニックに行きたいと思ってたの…だけど、行けなくなっちゃったんだね…」

 

幼いピリンには説明しても最強の存在のことがよく分からないみたいだが、俺の口調やみんなの表情を見て、世界が危機に陥っているのは分かったのだろう。

…ピリンは世界が平和になった後のために、そんなことを考えていたのか。

みんなも世界に平和が訪れたらしたいことがあっただろう。

それで、ここで闇の戦士を倒せていればみんなの願いを叶えられていたと思い、申し訳なく思う気持ちが強くなってしまう。

 

「楽しみにしていたのに、ごめんな…俺が闇の戦士を止められていれば、こんなことにはならなかったはずだ。みんな…本当に、本当にごめん」

 

さっきもっと体に力を入れていれば、立ち上がって奴を止められたかもしれない。

だが、後悔しても意味などなく、闇の力の集合体による地面の揺れが続いていた。

でも、俺がみんなに向かって頭を下げていると、ピリンがそんなに謝らなくてもいいと言ってくる。

 

「そんなに謝らなくたっていいよ。新しい用事が出来たとしても、そっちも終わらせればいいんだから。そしたら今度こそ、二人でピクニックに行こう!」

 

ゆきのへも、これからどうするかが大切だと言ってくる。

 

「謝るよりも、これからどうしていくかが大切だぜ。責任を感じているんなら、その闇の力の集合体をどうにかしなきゃいけねえ」

 

確かに俺はさっきから、アレフガルドで最後まで戦い続けることを決意している。

でも、みんなを今まで以上に危険な目に合わせてしまうことになるのは間違いない。

 

「俺も最後まで戦い続ける…だけど、みんなを今まで以上に危険な目に合わせてしまうことになるんだ」

 

「そんなこと気にしてねえ。どんな危険があったとしても、ワシらは乗り切ってきた。これから何があったとしても、同じように乗り切れるはずだぜ」

 

俺が頭を下げ続けたままそう話しても、ゆきのへは気にしていないと言った。

彼の後ろにいたヘイザンとルミーラも、自分たちの力があれば必ず勝つことが出来ると言ってくる。

 

「雄也と親方の力があれば、闇の力なんかに負けるはずはないぞ」

 

「どれだけ勝ち目の薄い戦いでも、人間の者を作る力があれば大丈夫だと思うね」

 

勝ち目のほとんどない戦いだと伝えても、みんなは今まで通り協力して戦って行こうと言っている。

それに、ゆきのへの言う通り謝っているだけでは責任を取ることは出来ない。

俺はまだみんなに申し訳なく思う気持ちでいっぱいだが、俺は頭を上げてこう話す。

 

「みんな、ありがとう。さっき言った通りとても厳しい戦いになるけど、出来る限りのことをする。どんな大変な目にあったとしても、必ず平和を取り戻してやるぜ」

 

勝ち目のほとんどない戦いとは言え、全くない訳ではない。

俺がゆきのへたちに向かってそう言うと、ムツヘタと姫も諦めずに、魔物たちに立ち向かって行くと言う。

 

「ワシらも諦めることはせぬ。ラダトームに戻ったら、世界を救うために何か出来ぬか考えてみるぞ」

 

「ずっと取り戻したいと思っていた美しい大地と澄みきった空、私もここで諦めたくはありません」

 

「分かった。みんな、これからも頼んだぞ」

 

みんなどんな事があっても、アレフガルドを復興させたいという意志は、なくならないみたいだな。

 

「ああ。まずは、魔物の活動がまた激しくなる前に、新しい設備を考えてやるぜ」

 

俺がそう言うと、ゆきのへは砦を守るために作れるものはないか考え始める。

みんなも自分に何か出来ることはないかと考えるために、ピリンたちはサンデルジュの砦の中に、ムツヘタはラダトームの城へと戻って行こうとする。

 

だが、ローラ姫はまだ俺に話があるようで、この場に残っていた。

 

「ところで、雄也様。闇の力の集合体が現れたという話で聞くことが出来ませんでしたが、あの方と話した時、何とおっしゃられていたのですか?」

 

最強の存在が現れるという事態のせいで忘れていたが、ローラ姫は闇の戦士の気持ちを気にしていたんだったな。

俺はまず、奴が人間を裏切って世界を滅ぼした理由について、ローラ姫に教えていく。

 

「あいつは確かに俺の思っていた通り、竜王を倒すという責務を押し付けて、自由を奪った人間やルビスに絶望していたんだけど、竜王の誘いに乗った後に自分のその気持ちについて気づいたらしいんだ」

 

「では、どうして竜王の誘いに乗ることになったのですか?」

 

竜王に寝返ってから自分の気持ちに気づいたのなら、どうして誘いに乗ったんだ?とローラ姫は不思議に思っているようだった。

俺も最初に闇の戦士からそのことを聞いた時は、どういうことなんだ?と思った。

 

「世界を裏切った理由は、ここで世界の半分を選んだらどうなるんだろうという、勇者になってから初めて与えられた選択肢に対する好奇心だったらしいんだ」

 

「好奇心…ですか。世界の命運を分ける選択肢に好奇心が湧くなんて、それほどに自由がなかったということなのでしょうね。…気づいてあげれば、こんなことにはならなかったでしょうに…」

 

俺が勇者が裏切った理由について話すと、ローラ姫は後悔の念を口にする。

確かに普通の精神状態であれば、世界を滅ぼす選択肢に好奇心が湧くなんてありえないはずだ。

ローラ姫一人でも勇者の気持ちに気づく人がいれば、世界を裏切ったり、人間を滅ぼそうとする計画を立てたりはしなかったかもしれない。

俺がそんなことを考えていると、ローラ姫は元勇者が自分のことをどう思っていたのかも聞いてくる。

 

「では、気持ちに気づいてあげられなかった私のことを、あの人はどう言っておられましたか?」

 

「自分から自由を奪った一人に過ぎないと言っていたな」

 

そのことを伝えると、ローラ姫は後悔の気持ちが強まったのか、より落ち込んだ顔になる。

だが、今からでも諦めたくはないとも言い出した。

 

「…そうですか。でも、今からでも諦めたくはありません。あの人のために、出来ることならしたいです」

 

「最愛の人なのは分かるけど、どうしてそこまで言うんだ?」

 

俺からしたら闇の戦士を連れ戻すのはもう不可能だと思っているが、どうしてローラ姫は諦めないのだろうか。

 

「私はあの人に命を救われました。だから、今度は私があの人を救ってあげたいのです。共に王国を再建して、アレフガルドを繁栄させていけば、きっとあの人は幸せになるでしょう」

 

元勇者命を助けてもらった恩を、どうしても返したいと思っているようだな。

平和な世界になってからは、二人で末永く王国を繁栄させて行こうとも思っているのだろう。

だが、人類に絶望し、人類を滅ぼすために闇の力の集合体を作り出した奴を、どうやって連れ戻すと言うのだろうか。

 

「でも、もう説得は不可能だと思うぞ」

 

「あの人はまだ生きているのですよね。今度もしお会いする時があれば、その時は私も連れていってください。私自ら、あの人に想いを伝えます」

 

闇の戦士はまた相見えることになるだろうが、その時に一緒に連れていってほしいと言うことか。

俺が説得しても駄目だったので、ローラ姫が説得しても成功するとは思えない。

だが、断っても説得しに行くと言いそうなので、俺は分かったと言った。

 

「分かった。もし今度奴に会う機会があったら、教えるぞ」

 

「ありがとうございます、勇者様。その時は、ラダトームに教えに来てくださいね」

 

俺がそう伝えると、ローラ姫は話を終えてラダトーム城に戻っていった。

ローラ姫の儚い希望が失われることはまだないみたいだが、彼女の想いは闇の戦士に届くのだろうか。

俺はラダトームに繋がる旅の扉に姫が向かっていくのを見て、みんながいる砦の中に入っていった。


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