ドラゴンクエストビルダーズ メタルギアファンの復興日記 作:seven river
力尽きて動けなくなっていた俺と闇の戦士は、しばらくして再び立ち上がった。
闇の戦士は何度も体内を斬り裂かれ、もう死にかけているはずなのにまだ余裕な表情をしている。
体力の限界だった俺がまだ来るのか…?と思い奴の様子を見ていると、突然地面が激しく揺れ始めた。
「くっ…闇の戦士は追い詰めたのに、何が起こっているんだ…!?」
今までの町で魔物の親玉が襲撃してきた時のような地響きに、俺はまた体勢を崩してしまいそうになる。
何が起こっているのかと思っていると、闇の戦士はまもなく魔物たちの計画が達成されると言い出した。
「人間の破滅の時だ。まもなくアレフガルドの地に、魔物の魂の集合体たる最強の魔物が現れる」
サンデルジュの砦を出る時、ムツヘタは最強の存在が現れるまであと僅かだと言っていたが、ついにその時が近づいて来てしまっているのか。
だが、闇の戦士はまもなく現れると言っているので、まだ現れた訳ではないはずだ。
まだ間に合うと思って、俺は痛む全身に力を入れておうじゃのけんを構える。
「もうほとんど時間がないってことか…でも、ここであんたにとどめを刺して計画を阻止してやるぜ」
闇の戦士は弱っているので、魔物の計画が達成されるまでの間にとどめをさすことが出来るはずだ。
だが、闇の戦士は余裕な表情を続けるどころか、まだ追い詰められていないと言った。
「とどめを刺すだと…?お前は所詮、勇者だった頃のオレを超えただけだ。人間がどれだけ足掻こうが、オレたちの計画を止めることなど出来ない」
勇者としての力を超えただけ…?余裕の表情や今の言葉から考えると、闇の戦士はまだ俺に見せていない力を持っているのだろうか。
確かにさっき奴が使っていた呪文は、ドラクエ1の勇者が覚える呪文や、その上位の呪文だけだった。
「もしかして、まだ俺に見せていない力を持っているって言うのか?」
「ひかりのたまの力を消し去る時に使った、強大な闇の力だ。勇者だった頃のオレには勝てても、この闇の力には勝てないだろう」
闇の戦士が闇の力でひかりのたまの効果を打ち消したのは知っていたが、その力は戦闘に使うことも出来たのか。
勇者としての力に打ち勝つことさえ大変だったのに、それを上回る闇の力となれば、勝ち目は薄そうだな…。
だが、ここで計画を達成されれば今までの俺たちの復興活動が無駄になってしまうので、俺は再び剣を構えて闇の戦士に斬りかかっていく。
「それでも、ここで魔物の計画を達成させるわけにはいかないな」
しかし、さっきまでの戦いで受けた傷のせいで腕に力が入らず、全力の攻撃を叩きつけることは出来そうになかった。
「無駄だと言っている。オレを不幸にした人間の世界の破滅を大人しく見てろ!」
そして、闇の戦士は弱っている俺の様子を見て、そんなことを言い出した。
それと同時に、奴は闇の力を使って剣に力を溜めて、近づいてきた俺に叩きつけてくる。
今までも闇の戦士の剣から凄まじい闇の力を感じることが出来たが、今はその比ではないほど強大であり、剣がその力によって黒く輝いていた。
「諦めるんだな、影山雄也!」
俺は奴の剣を避けようとしたが、素早く動くための体力が残っておらず、受け止めるしかなくなる。
しかし、受け止めるにしても腕に力が入らないので、直撃を避けることは出来たが、おうじゃのけんが弾き飛ばされ、俺は再び倒れ込んでしまった。
「くそっ…もう計画は止められないのか…?」
ここまで上手く進んできたアレフガルドの復興を、失敗に終わらせる訳にはいかない。
だが、今の俺は立ち上がることすら大変なので、闇の戦士の闇の力に敵うとは到底思えなかった。
俺が何とかもう一度立ち上がろうとしていると、闇の戦士は魔物たちによって町が壊されて行くのを見ながら死んでいけと言ってくる。
「そうだ、もう計画を止めることは出来ない。魔物たちに町が壊され、人間たちが殺されていく様子を見ながら死んでいくがいいさ」
またそれだけでなく、闇の戦士は魔物たちの計画が、俺たち人間が考えているよりも恐ろしいものだということも話した。
「それと、現れた最強の存在を倒せばいいと思ったかもしれないが、人間にそれは不可能だ。オレたちの計画は、お前たちが思っているより遥かに恐ろしいものだからな」
俺やムツヘタが知っている魔物たちの計画は、竜王や倒された魔物たちの魂に魔力を捧げて蘇らせるというものだ。
魔物の魂の集合体というだけでも恐ろしいのに、それだけではないということなのか…?
「どう言うことだ…?」
「確かに今回の計画でオレたちが生み出そうとしているのは、魔物の魂の集合体だ。だが、倒れた竜王や魔物たちの魂に捧げているのは、岩山の城の魔物の魔力だけじゃない。アレフガルドに満ちる全ての闇を捧げているんだ」
アレフガルドに満ちる全ての闇…?空を覆っていた闇はひかりのたまに吸収されているはずなので、この地に残っている闇の力といったら闇の戦士の力くらいのはずだ。
闇の戦士も魔物たちの魂に力を捧げているというのは考えられるが、それだけならアレフガルドに満ちる闇なんて言い方はしないはずだ。
「アレフガルドに満ちる闇…?あんたの力とは別なのか?」
「ああ。リムルダールに満ちる、人を蝕む闇の力…ラダトームに満ちる、生命を朽ち果てさせ、死の大地に変える闇の力…それだけじゃない、今でもアレフガルドのあらゆる地に闇の力は満ちている。ひかりのたまによって封じられたのは、空を覆う闇の力だけだ」
空だけでなく地上にも闇の力が満ちており、そちらはまだ消えていないということか。
確かにラダトーム全域を死の大地に変えるのには、膨大な闇の力が必要だったと考えられるな。
もしそれほどの闇の力を捧げられたのであれば、魔物の魂の集合体どころでは済まされない、とてつもなく恐ろしい存在になってしまいそうだ。
「それをあんたが、魔物たちの魂に捧げていたのか」
また、計画が始まってから1週間程度で最強の存在が現れようとしているのも、膨大な闇の力を捧げているからだという。
「そうだ。オレたちの計画が急速に進んだのも、そのアレフガルドに満ちる全ての闇の力のおかげだ」
俺は今まで数百体の魔物が魔力を捧げているから計画が急速に進んでいるんだと思っていたが、そんな理由があったのか。
とにかく、魔物の魂をあくまで依り代と言えるほどの膨大な闇の力の集合体が現れるとなれば、尚更阻止しなければいけない。
「それなら、尚更阻止しないといけないな…でも、もう武器がない…」
俺はそう思いながら全身の痛みを我慢して立ち上がるが、俺の両腕に武器はなく、拾ったとしても闇の戦士を止められるほどの力は残っていない。
それを見て、闇の戦士は計画を完成させようとしているのか、呪文を唱えるような構えをとる。
おそらくさっき言っていた、アレフガルドの大地に満ちる闇の力を魔物たちの魂に捧げることをしているのだろう。
「もうお前に出来ることはない。人間の破滅の始まりをそこで見ているがいい」
そして、闇の戦士が闇の力を魔物たちの魂に捧げるにつれて、地面の揺れが大きくなってくる。
闇の戦士を止めることは限りなく不可能だが、ここで何もしない訳にはいかない。
俺は少しでも計画を遅らせられないかと、弾き飛ばされたおうじゃのけんを拾って、闇の戦士に叩きつけようとする。
「くそがっ…!何とか止められないのか!?」
しかし、力が残っていない俺の攻撃では、奴を少し食い止めることも出来ない。
「人間は消え去るべきだ、もういい加減にしろ!」
闇の戦士は俺の攻撃を軽く弾き返し、闇の力を捧げ続ける。
俺は何度も奴に向かっておうじゃのけんを叩きつけたが、どうすることも出来ない。
そしてついに、魔物の計画が達成される時が来てしまった。
この世の物とは思えないおぞましい叫び声が聞こえ、地面の揺れがさらに激しくなる。
そして、闇の戦士は俺に向かって、もう人間は終わりだと言ってくる。
「オレたちの計画は達成された。アレフガルドに満ちる全ての闇の集合体は、すぐにお前たちの町を破壊し尽くすだろうな。物を作る力を持つビルダーを遣わせ、人間の町を復活させるというルビスの試みは失敗に終わった。人類はもう終わりだ」
そう言うと、闇の戦士は倒れている俺を残して、この小さな城から出ていく。
さっき町が壊され、人々が殺されていくのを見ながら死んでいけと言っていたから、ここでは殺さないということか。
闇の戦士の人類に対しての、特に幸せを奪った存在である俺に対しての恨みはとてつもなく強い。
俺に復讐する方法としてはこれが一番だと思ったのだろうな。
闇の戦士が去った後の城の中で、俺はこれからどうしたらいいんだと考えていた。
「この状況を、どうやって覆せばいいんだ…?」
そうやってしばらくしていると、俺の耳にルビスの声が聞こえてきた。
ルビスもアレフガルドに最強の魔物が現れ、大変な状況になってしまったことに気づいたみたいだな。
「あなたと闇の戦士とのやりとり、私も見ていました…大変なことになってしまいましたね」
「ああ。せっかくあんたにビルダーの力を貰ったのに、こんなことになってしまった…」
この状況は、ルビスの力があっても覆すことは出来ないだろう。
アレフガルドに満ちる全ての闇の力と、ルビスを激しく憎んでいる闇の戦士が相手では、ルビスも対応することは出来なさそうだ。
せっかく世界を復興させる力を貰ったのに、こんなことになってしまい、本当にルビスに申し訳ない。
「闇の戦士を止めることが出来なくて、本当にごめんなさい…」
謝ってもこの状況が変わる訳ではないが、俺はルビスに謝った。
ルビスもこんな状態になってしまったことを、悲しんでいるだろうからな。
だが、ルビスは自分も謝らなければいけないと俺に言ってくる。
「謝らなければいけないのは私もです。私は今まで闇の戦士の言う通り、人を自分の道具のように思っていました。だからいつも、『すべては精霊の導きのままに』と言い、人間は私の導きに従うべきだと考えていたのです。もちろん、あなたも例外ではありません」
つい2週間くらい前も、ルビスは俺に『あなたは竜王を倒しに行く勇者ではありません』と、人の行動を制限するようなことを言っていた。
まあ、精霊と人間という関係なので、そんな考えになるのも仕方ないだろう。
だが、数百年前の勇者の裏切りと、今回の最強の魔物の出現。闇の戦士によって引き起こされたこれらの出来事の責任は、自分にもあると彼女は考え始めているようだな。
『すべては精霊の導きのままに』という考えを、改めようとしているようだ。
そう思っていると、ルビスは話を続ける。
「ですが、闇の戦士の話を聞いて思ったのです。私の導きのせいで、一人の男を不幸にしてしまい、やがてそれが世界を滅ぼしたと。だから、精霊の導きなどやめて、人の生き方は自分で決めさせるべきなのではないかと」
それで闇の戦士がルビスを許すかは分からないが、確かに彼女は考えを変えたようだ。
そして、ルビスは俺に、勝手にアレフガルドへ連れてきて、ビルダーとして遣わしたことを謝る。
「ですから、私はあなたに謝らなければいけません。私の思いだけであなたをアレフガルドに連れてきてしまい、本当にごめんなさい」
「さっきの話は聞いていただろ。あんたのおかげでみんなに会えたんだし、俺は恨んでなんかいないぞ」
「ですが、勝手に連れてきたことは紛れもない真実です」
俺が謝る必要はないと言ったが、ルビスはそう話してくる。
また、俺を大変な状況になってしまった今のアレフガルドから、地球に返すことも出来ると言ってきた。
「せめてもの償いなのですが、私は今あなたを地球に返すことも出来ます。そうすればあなたは、魔物と戦って死ぬこともなく、普通に暮らすことが出来るでしょう」
確かにこのままアレフガルドにいたら、俺は戦いの中で死んでしまうかもしれない。
闇の戦士から最強の存在が現れたことを聞いた直後には、絶望の中で地球に帰りたいとも考えていた。
だが、ルビスの声を聞いて、やはりそう言う訳にはいかないとも思った。
ルビスは確かに俺を無理やりアレフガルドに連れてきたが、俺はそれでも彼女に感謝している。
ここで地球に帰るなんて選択をしたら、ルビスやみんなを見捨てたことを後悔して生き続けることになってしまう。
それは、この先待っているどんな戦いよりも辛く苦しいものとなるだろう。
だから、ルビスの作ったこの世界を見捨てて、地球に戻ることなんて出来ない。
「いや、俺はアレフガルドに残る。こんな状況になってしまったのも、俺が闇の戦士は止められなかったからだ。あんたや人々のためにも、俺が責任を持って最後まで戦い続ける」
「本当にいいのですね?これからの戦いは勝ち目のほとんどない、非常に厳しい戦いとなるでしょう」
ルビスもこれからの戦いが厳しく、勝ち目が薄いものになると忠告してくる。
それでも、ここでルビスやみんなを見捨てるなんて出来ない。
「ああ。それでも俺はアレフガルドで戦い続ける」
「分かりました…それがあなたの選択なのであれば、私は止めることはしません。すべてはあなた自身の選択のままに…」
俺の気持ちをはっきり告げると、ルビスはそう言って去っていった。
もう全ては精霊の導きのままに…とは言わずに、あなた自身の選択のままに…と言っていたな。
闇の戦士や闇の力の集合体に勝てるかは分からないが、俺はアレフガルドに残る選択をした。
だから、出来る限りのことはしなければいけない。
そう思って、俺は闇の戦士の城から出て、サンデルジュの砦へ戻っていった。