ドラゴンクエストビルダーズ メタルギアファンの復興日記 作:seven river
ムツヘタたちとの話を終えた後、俺はラダトームの枯れ木の森へ向かって歩き始めていた。
さっきも見た通り魔物の活動が激しくなっていたが、俺は枯れて黒くなった草に隠れて見つからないように進んでいく。
「いつかラダトームにも緑を取り戻したいけど、闇の戦士を倒してからになりそうだな」
今だに死の大地が広がるラダトームを見て、いつか全域を浄化したいとは思うが、今は闇の戦士と決着をつけることを優先しなければいけない。
そのためにも準備を早く進めたいと思い、俺はメタルスライムのいる場所へ急いでいく。
そして、15分くらいで枯れ木の森にたどり着くと、俺はさっそくメタルスライムを探し始めた。
「ここがヘイザンの言ってた枯れ木の森だろうし、メタルスライムを探し始めるか」
俺はまず辺りを見渡しながら、メタルスライムの姿がないか調べる。
なかなか見つからないが、今日中に武器を作りたいので、俺はさまざまな場所を探す。
メルキドやリムルダールでは偶然見つけることが出来たが、自分から探すとなるとなかなか見つからないな。
それでも20分ほど木に隠れながら探索を進めていき、メタルスライムの姿を視界に捉えることが出来た。
「少し時間がかかったけど、何とかメタルスライムが見つかったな。逃げられる前に仕留められればいいんだけどな」
俺はこの前メタルスライムを見つけた時と同じように、気配を消して奴の背後に回る。
そして、音をたてないように腕に力を溜めて、ニ刀流での回転斬りを放つ。
「回転斬り!」
メタルスライムは直前で俺の存在に気づいたが、すぐに攻撃をかわすことは出来ず、大ダメージを負って倒れていった。
奴の逃げるスピードは俺でも追い付けないほどの速さだろうし、一撃で仕留められてよかったぜ。
奴が倒れたところにはメタルゼリーが落ちており、俺はそれをポーチにしまった。
「これでまずは1個手に入ったし、5個くらい集めておくか」
メタルゼリーをしまった後は、次のメタルスライムを倒すために再び探し始める。
俺が左手に持つメタルのけんと、ゆきのへが使うメタリックハンマーを作るだけでもメタルゼリーは3つ必要だからな。
それに、もし武器が壊れてしまった時のために予備を用意しておいたほうがいいので、俺は5個くらい集めたほうがいいとも思った。
「時間はかかるだろうけど、今のうちに集めておくか」
そこで俺は、メタルスライムを見つけてはさっきと同じような方法で倒していき、メタルゼリーを回収していく。
メタルスライムの数は少ないが、地道に探していくことで何体も見つけることが出来た。
そして、2時間くらいメタルスライムを探し続けて、5個のメタルゼリーを集めることが出来た。
俺はメタルゼリーを集め終えると、サンデルジュに戻るためまずはラダトーム城に戻ろうとする。
帰ったら午後になっているだろうが、みんなの武器を作る時間は十分にあるな。
だが、ラダトーム城に戻って来ると、玉座の間にいたローラ姫が外に出てきて俺に話しかけてきた。
「雄也様。さっきあなたとムツヘタは、闇の戦士···勇者様を倒さなければいけないと言っておられましたね···」
さっきの俺とムツヘタとの会話は、姫にも聞こえていたのか。
ローラ姫は寂しそうな顔をしながらそう言ってくる。
俺は早くサンデルジュに戻りたいと思っているのに、何の用なのだろうか?
「そうだけど。何か聞きたいことでもあるのか?」
「そうではないのですが···本当にあの人を倒さなければいけないのか気になったのです」
その言葉を聞いて、姫が玉座の間の設計図に玉座のいすを2つ書いていたことを思い出す。
姫はあの勇者に助けられ、恐らくは宿屋でお楽しみもしているので、やはり奴がいつか帰って来るのではないかと儚い希望を持っているようだな。
でも、世界を裏切ったのは間違いなく勇者自身の意思なので、その儚い希望が叶うことはないだろう。
「世界を裏切ったのは間違いなくあいつ自身の意思だから、戦いは避けられないと思うぞ」
「勇者様自身の意思、ですか···どうしてそう思われるのですか?」
俺が戦いを避けられないことを話すと、姫はどうしてそう思うのかと聞いてくる。
自分の意思以外で裏切ること以外はありえないからでもあるが、一番の理由は7回も夢で見た勇者の記憶から、彼が人々に絶望していることが見えたからだ。
夢で見たなんて言っても信じてくれないかもしれないが、俺は勇者の記憶を話すことにする。
「実はこれまで俺はビルダーの力で、勇者の記憶を夢で見てきたことがあるんだ」
「夢であの人の記憶を···一体何があったのですか?」
今までビルダーの力で普通の人には出来ないことを何回もしているので、姫も夢で記憶を見たことを信じてくれているようだ。
だが、ローラ姫の愛が一方的なものであることを知ったら彼女はとても悲しむだろうから、本当に言っていいか確認することにした。
「あんたが知ったら悲しい思いをするかもしれないけど、言ってもいいのか?」
「はい。あの人に何があったのか、ずっと前から知りたいと思っていました」
それでも知りたいというのは、まだ僅かにローラ姫の裏切り勇者に対する想いが残っているからだろうな。
勇者に助けられたので、今度は勇者に対して何かしてあげられないかという気持ちがあるのだろう。
その返事を聞いて、俺は姫に勇者の記憶について話し始める。
「俺が夢で見たのは、勇者に竜王を倒してくれという多くの人々の姿だ。少しの期待なら良かったんだろうけど、過度な期待は勇者にとって苦痛だったみたいなんだ。それで、どこへ言っても勇者様と言われ、自分を一人の人間として扱ってくれないことにあいつは絶望して何度も怒りの声を上げていた。だから、自分から人として生きる自由を奪った人たちや、自分を勇者として導いたルビスがいる世界なんて救いたくないと思ったんだろう···あいつは罠だと分かっていただろうが、竜王の誘いに乗った」
「あの人がそんな事を思っていたなんて···私は気がつきませんでした」
俺が勇者の記憶について一通り話すと、ローラ姫はさらに暗い表情になって言う。
勇者をやめたいなんて言えば、「精霊ルビスに選ばれたあなたが何をおっしゃっているのですか」とか、「そんなこと言わずに、竜王を倒して光の玉を取り戻してください」などと言われるのは間違いないので、彼も必死に自分の気持ちを隠していたんだろうな。
「あいつも勇者をやめられないことは分かっていたから、本当の気持ちを隠していたんだ。それで、よりあいつは人々への絶望を強めることになった」
誰もが自分のことを分かってくれない状況なんて、俺には理解できないな。
俺がそう思っていると、ローラ姫は勇者のために何か出来ることはないか聞いてくる。
「では、私が勇者に対して出来ることは何かないのですか?」
全ての人類に絶望し、新たな魔物の王となったあいつを今更俺たちの仲間にするのは不可能だと思うので、出来ることと言えばもう二度とこのようなことが起こらないようにすることだろうか。
勇者でない俺が竜王を倒した今の世界であれば、それは実現することが出来そうだ。
「あいつ自身に出来ることは残念だけどないと思う。俺たちに出来るのは、同じようなことが起こらないように防ぐことだな」
「そうですか···でも、彼に会ったらこれだけは伝えてください。もし良かったら、またこの城に戻ってきてくださいと」
俺はそう言ったが、ローラ姫にはやはり勇者に対する想いが残っているようだな。
あいつ自身からはまだ話を聞いていないので、つれ戻せる可能性も0ではなさそうだが。
「分かった。あいつに会った時には一応言ってみるぜ」
俺はそう思ってローラ姫に言う。
奴がいま人類に対してどんな感情を持っているのか、いろいろ話もしてみたいな。
長い話をしてしまったが、ここで俺はローラ姫と別れて、サンデルジュに繋がる旅のとびらに入った。
旅のとびらから歩いて15分ほど歩いてサンデルジュの砦に着くと、俺はしばらく休んでからメタルゼリーを加工するために工房へと入っていく。
姫との話で忘れていたけど、俺がラダトームへ行ったそもそもの目的は新しい武器を作るための素材を集めることだったからな。
闇の戦士を説得するにしても手下の魔物との戦いは避けられないだろうから、俺は武器作りを始める。
「まずは俺が左手に持つメタルのけんからだな」
俺は最初に鉄のインゴットとメタルゼリーを1個ずつ使い、メタルのけんを作った。
メタルのけんは見た目の色はてつのつるぎなどと対して変わらないが、固さはどんな攻撃であっても1ダメージしかくらわないメタルスライムと同じくらいのものだった。
おうじゃのけんには敵わないかもしれないが、とても強そうな剣だ。
「メタルのけんが出来たから、次はメタリックハンマーだな」
これならどんな敵でも大ダメージを与えられると思いながら、次はハンマーを作っていく。
ハンマーは必要な素材が多いが、メタルゼリーは残り4つもあるので俺はすぐに作業を始めた。
剣の時と同じようにビルダーの魔法をかけていき、メタルゼリーをハンマーの形に加工する。
「これでメタリックハンマーも出来たし、ヘイザンに教えて来るか」
メタリックハンマーも出来上がると、俺はそのことをヘイザンに伝えに行くことにする。
メタルの武器は彼女が考えたので、完成したことを教えておいたほうがいいだろう。
「ヘイザン、ラダトームでいろいろあって時間がかかったけど、メタルゼリーで武器を作れたぞ」
俺が拠点の中を歩いていたヘイザンにそう言って話しかけると、さっそくどんな感じの武器になったか聞いてきた。
「おお、君なら今日中に作れると思っていたよ。それで、強そうな武器になったか?」
おうじゃのけんには及ばなくても、相当強力な武器ではあるので、作って良かったと言えるだろう。
「メタルスライムと同じくらいのすごく固くて強力な武器になったぞ」
「それなら良かった。ワタシは戦えないけど、君の役に立てたみたいだね!」
俺が強い武器になったと言うと、ヘイザンはとても嬉しそうな顔をする。
彼女のお陰で魔物への勝ち目も上がるだろうから、感謝しておかなければいけないな。
「ああ、ありがとうな、ヘイザン。今日作った武器も使って、必ず魔物との戦いに勝ってやる」
まだ師匠のゆきのへには及ばないにしても、ヘイザンも一人前の鍛冶屋だと言えるだろう。
俺はヘイザンに感謝の言葉を言った後、今日は休もうかと部屋に戻っていった。