彼女は生き物に好かれやすい   作:彼岸花ノ丘

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地獄の魔物7

 結論を述べると、晴海の家族は全員無事だった。しかしフィアが見付け出した訳でもない。

 というのも、立花一家は夕方の大地震……つまり東京にムスペルが出現した、あの時点で自宅から避難していたのだ。勿論娘である晴海の安否は心配していたが、そこはスマホが普及している現代である。メールを用いて避難先を伝え、同じ内容を書いた紙を家の前に張れば十分と考えて避難開始。彼等は市が指定した避難所 ― 市街地から徒歩二十分ほどで付ける場所にある公民館だ ― へと移っていたのだ。尤もメールは地震で基地局が倒壊したり、日本中の人々が同時にメールを送ったりした事で、晴海のスマホには届かなかったようだが。

 無論避難所である公民館が如何に頑丈でも、土台である大地が波打つほどの揺れに見舞われては為す術もない。柱はへし折れ、屋根は崩落。自分達を包囲する瓦礫は延々と揺さぶられ、崩れてくるのを待つだけだった。

 その時、救助が入った。

 ミリオンとミィである。花中達が慌てて晴海の家へと向かう中、冷静かつ人類社会への理解が『人間並』にあるミリオンは、立花家が避難所に移っている可能性を考慮。立花家周辺の確認は花中達に任せ、ミリオン達はこの地域の避難所を巡る事にしたのだ。ちなみにミリオンが晴海にそこまで気を遣ってくれた理由は、本人曰く「あまりたくさんの人間に死なれると私が困るからね。助ける際に知り合いの身内を優先しただけよ」との事。

 かくして公民館に辿り着いたミリオンとミィは、人智を超越するパワーにより瓦礫を排除。生き埋め、否、それよりも恐ろしい瓦礫による磨り潰しという大惨事を未然に防いだのだ。

 なお、花中の友人である加奈子は此処には来ていないが……親戚の引っ越し手伝いという事で、彼女はこの町から出ている。東京から離れるほどに地震被害は軽微なものとなっている ― これはミィが確認してくれた ― ため、『ド田舎』へと向かった彼女は恐らく無事だろう。

「……という感じかしらね」

「全員助け出せた訳じゃないけど、まぁ、それなりには助けられたよー」

「そう、でしたか……本当に、ありがとう、ございます」

 自分達が行った『功績』及び『報告』を語るミリオンとミィに、花中は深々と頭を下げて感謝を伝える。

 花中達が居るのは、公民館が()()()土地の真ん中。かつては建物があり、ミリオンとミィが瓦礫を退かした事で今は更地と化している。土地の隅には大勢の人間達が居て、互いの無事を喜び合うように抱き合っていた。

 そんな人々の中には晴海の姿もある。彼女の両親を見るのは初めてだが……優しそうで、真面目そうな、とても晴海に似た雰囲気の人達だ。出来る事なら、彼女達の喜びを見ていたいところである。

 しかしそれも中々難しい。

 未だ大地は激しく揺れ、大きな地震となって花中達を襲っているからだ。巨大地震が町を滅ぼしてから、もうかれこれ三十分は経っている筈なのに。

 花中はフィアに抱きかかえられ、そのフィアが全身で振動を吸収してくれているため、殆ど地震の揺れを感じていない。が、晴海達生身の人間は違う。彼女等が抱擁しているのは、親しい人との再会を喜ぶだけでなく――――立てないほどの揺れに恐れ慄いているのも理由の一つだった。加えて地鳴りも止まず、宥め合う人々の言葉を掻き消しているので、距離を詰めないと声が聞こえ辛いというのもあるのだろう。

「それにしてもこの地震終わりませんね。東京に現れた奴が何かをしているんでしょうけど」

「何をしてるかはさっぱり、と。まぁ、間違いなくろくでもない事でしょうね」

「ぶっちゃけ嫌な予感がするんだよねぇ。早く止めないとヤバい事になるっていう」

 普段より幾らか大きな声でフィア達野生生物達が各々の意見を述べ、花中も納得するように頷く。

 この地震が普通のものでない事は、フィア達のような鋭い感覚を持たない花中にも分かる。あらゆる建物を潰す大地震が何十分も続くなんて、自然現象では考えられない事だ。

 恐らくは東京のムスペルが何かをしている。破局噴火さえもコントロールする奴の力ならば、この大地震を起こす事も不可能ではない筈だ。

 そしてこのなんらかの行動により、奴は得体の知れない『目的』を果たそうとしているのだろう。フィア達ですら「ヤバい」と思うような何かを。

 ……情報らしい情報がなく、花中にはこんな、極めて曖昧な理解しか出来ていない。何しろムスペルについて分かっているのは、彼等の種が圧倒的パワー、一片の隙もない防御能力、そして弱点不明という事ぐらいなもの。ミュータント化した個体の思惑なんて想像も付かなかった。

 こんな何も分かっていない状態で「地震の元凶である東京のムスペルを止めに行きましょう!」なんて、花中には言いたくない。ハッキリ言って自殺行為だ。しかし東京のムスペルが動き出した以上、いよいよ人類絶滅のタイムリミットが迫っていると考えるべきだろう。情報を得るため普通のムスペルを一匹捕まえる、そんな『悠長』な事をしている余裕などあるのだろうか……

「どうする? はなちゃん」

 そんな花中の心を読むように、ミリオンが尋ねてくる。考え込んでいた花中は、ミリオンの顔が今にもキスしそうなぐらい近付いていた事に気付かなかった。距離感を理解した瞬間驚きから仰け反ろうとして、自身を抱きかかえているフィアに背中を押し付けてしまう。

 だが、花中はミリオンの視線から逃げずに向き合う。

 情報は足りない。現状では勝てる要素なんて皆無だし、なんとか出来そうな策すら思い付かない。それでも今この時、戦いを挑まねば、きっと何もかもが手遅れになる。根拠はないが、花中の『本能』がそれを訴えていた。

 花中は人間だ。だから普段なら本能の訴えを……無視はしないが一時保留し、何かしらの根拠を見付けてから動き出す。されど此度の本能は喚くように五月蝿く、そしてその叫びそのものが『説得力』を持っていた。理性は説き伏せられ、訴えを脇に置いておく事など出来ない。

 なら、答えは決まっている。

「……東京に、行きましょう。あのムスペルに、勝てるとは、思えませんけど……生き残るには、それしか、なさそうです」

 花中は自分の正直な想いを、言葉に出して伝えた。

 破れかぶれの特攻となんら変わらない『お願い』。断られるのが当然だが、フィア達から反対意見は出てこない。彼女達も、今やらねば不味いという直感があるのだろう。人の身でありながら、始めて彼女達と感覚を共に出来たように感じられて、花中としてはちょっと嬉しい。

 思い残した事がない、なんて大仰なものではないし、まだまだやり残した事はたくさんある。だけどこの感覚と共に逝けるのなら、悪くはなさそうだ。

「じゃあ、早速……」

 東京へ行きましょう。

 花中はそう続けるつもりだった。言いきってしまえば、フィア達はすぐに動き出したに違いない。瞬きする間もなく空を跳び、刹那のうちにこの場から離脱出来る。

 動かないのは、花中が伝える前だったから。

「ちょおぉぉーっと待ったぁ!」

 もしもあと数秒早く花中が決断していたなら、きっと、この言葉を聞く事はなかっただろう。

 地震は未だ続いており、揺れの規模に相応しい大きさの地鳴りも響いている。声はそんな地鳴りの中でもハッキリ聞こえるほどの大声で、小心者故酷く驚いた花中は思わず開いていた口を閉じ、声の方を振り向いた。

 声がした先に居たのは、晴海だった。

 彼女は地面を這いながら、ゆっくり、ゆっくりと花中達の下に向かってきている。花中は心底驚いた。這わないとまともに動けないという震度六強ですら、倒れる建物は()()()()()()()()とされている。一面が更地となる現在進行形の大地震は最早震度七という値すら生温く、日本の気象庁が用いる基準では表現出来ないレベルだ。

 そんな中を這ってでも移動する。火事場の馬鹿力でも出さなければ、いや、出したところで恐らく無理だ。その無理を押し通すほどの力を出すからには、何か、のっぴきならない事情がある筈。

「ふぃ、フィアちゃん! あの、立花さんのとこに、行って!」

「ええ構いませんよ……全くやる気を出そうとした側からこれですか」

 花中が頼めば、肩を竦めつつフィアは軽やかな足取りで晴海の下へと向かう。人間には這っても進むのが難しい揺れも、フィアなら花中を片腕で抱えたまま歩いて突き進める。

 花中はあっという間に這いつくばった晴海の下に辿り着く。何があったのだろうか、尋ねようとして晴海を見下ろし……顔を上げた晴海はにやりと笑みを浮かべた。何故笑ったのか分からずポカンとする花中の前で、晴海は腕を伸ばし、フィアの足にしがみつく。

「あたしを置いて、何処行くつもり? ちゃんと最後まで、連れてってよ!」

 そして再び地鳴りに負けない大声で、花中達にそう告げた。

 花中はギョッとするほど驚いた。フィアも花中ほどではないが驚いたらしい。驚き過ぎて声が出なくなった花中に代わり、晴海の真意を問う。

「おや? あなたも付いてくるつもりですか? 私達これから東京の怪物退治に行くのですけど」

「やっぱりね。そうだと思ったから呼んだのよ。危うく置いていかれるところだったわ」

「ふぅん。まぁ私は構いませんけどね。別にあなたが巻き込まれて死のうがどうでも良いですし」

 思った事をそのまま言葉に出すフィア。如何に友達でも、フィアにとって花中以外の価値とはその程度のものだ。失われたところで大して気にならないからこそ、晴海の好きにさせる。

 しかし花中にとって晴海は、失われても気にならないような存在ではない。確かに今は少しでも『戦力』が欲しいところだが、フィア達からすれば晴海(人間)の力なんてものは塵芥以下だ。わざわざ連れていく理由がない。

「た、立花さん。あの、本当に、危険なんです。だから……」

「そりゃ、あたしじゃ大した力になれないけど……今更置いていかれるのはごめんよ! それに、もしかしたら今度こそ、何か気付けるかも知れないじゃない!」

「うぐっ」

 晴海の言葉に、花中は声を詰まらせた。晴海はムスペルについて、何か気付きそうになっている。もしかしたらその気付きは、ムスペル攻略のヒントになるかも知れない……「少しでも戦力が欲しい」という自ら思っていた言葉が、花中の気持ちを締め付ける。

「……ご両親は、どう言って、いるのですか」

 それでもなんとか諦めさせようと、発した言葉はあまりにも姑息なもので。

「好きにしなさいって言われたわ!」

 想定内だと言わんばかりに、晴海はキッパリと答える。

 晴海の両親は放任主義なのか? いいや、きっと違う。終わらない大地震を前にして、普通の人々でも『世界の終わり』を予感しているだろう。もうすぐ何もかもが終わる……それでも親の下を離れて何かを成そうとする娘の邪魔はしたくないのだ。自分の感情を抑え込んで娘の気持ちを優先するのだから、大きな愛情がなければ出来ない事である。

 送り出した家族の気持ちを思えば、尚更晴海を危険な目に遭わせる訳にはいかない。同時に、送り出した家族の気持ちを無下にも出来ない。

 花中は、晴海を『説得』するための言葉を持ち合わせていなかった。

「……分かりました。よろしく、お願いします」

「そうこなくっちゃ」

 花中が折れると、晴海は心底嬉しそうに微笑む。その笑みを見ていると、花中もほんの少し前向きな気持ちになれた。

「あ、そうだ。いきなりで悪いんだけど……その、立てないから手を貸してくれる?」

 そんな時に這いつくばったまま頼んでくるものだから、花中は思わず笑いが噴き出してしまう。笑われた晴海は一瞬唇を尖らせムッとしたが、すぐに花中と同じく笑い出す。

 世界の終わりを告げる地鳴りに、二人の少女の明るい声が混ざり込む。聞こえているのは自分達だけ。

 友情を確かめ合った花中はフィアに頼み、フィアは片手で晴海を持ち上げる。立ち上がる格好になった晴海は、しかし更に上げられて、まるでリュックかの如くフィアに背負われた。晴海は必死にフィアへとしがみつきつつ、気の強い笑みを浮かべる。それがなんとも頼もしくて、フィアの腕に抱えられている花中も強い気持ちを持てるようになった。

 これから挑む『強敵』は圧倒的存在だ。自分達人間は確かに非力で、どう足掻いたところでムスペルに擦り傷を付ける事すら叶わないが……自慢の脳を働かせる事は出来る。それに弱いからこそ気付ける真実が、きっとある筈。

 その気付きと人間の知恵を合わせてなんとかする。やれる事はただそれだけ。シンプルで分かりやすい。

「……良し。行こう、フィアちゃん。東京へ!」

「あいあいさー!」

 花中の合図を受け、フィアは大きく跳ぶ!

 フィアに続くようにミリオンが飛び上がり、ミィもまた追うように駆けてくる。フィア達の走力ならば、東京までさして時間は掛かるまい。

 だから花中は口を閉じ、己の心と向き合う。世界を救うなんて、大それた考えを()()()ために。

 友達を守りたいという想い。

 これだけあれば、今は十分なのだから。

 ……………

 ………

 …

 一つ、疑問があった。

 何故二度目の大地震が起きる前、テレビ局の現場取材の映像が映らなかったのか?

 ムスペルが何もかも液化させる、白い靄のような力 ― 今思えばアレは恐らく振動波なのだろう ― を放出した事により、接近が危険な事はどの報道局も知っていた筈だ。勿論ムスペルの強大さを思えば、何キロ離れていても安全とは言い難いが……現場から三十キロも離れていれば、余程の事がない限り安全だろう。

 しかし映像は送られず、音声による返答すらなかった。何か、『余程の事』が起きたとしか思えない。

 その意味では花中はちゃんと覚悟していた。地獄という言葉すら生温いほどの災禍が広がり、相手が如何に強大無比であるかを突き付けられるのではないかと。

 予感は正しかった。ただし『余程の事』が起きたという一点に限れば。

 花中は想像もしていない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて事は。

「いやーとんでもない景色ですねぇ綺麗な点には好感が持てますが」

「だね。出来れば眺めていたいけど、そんな暇ないのが惜しいなぁ」

 高度数百メートルの大空にて。絨毯のように薄く広がったミリオンの上 ― 人の姿をしたミリオンもその絨毯に乗っているが ― から、花中達は目の前に広がる光景を見ていた。

 正面の風景に対し、フィアとミィは能天気な感想を漏らす。特にフィアの声は弾んでいて、「好感が持てる」という言葉が皮肉でもなんでもない事を物語っていた。

 確かに、美しいと言えなくもない景色だ。

 時刻は今や夜となり、空には漆黒の夜空が広がっている。今日は新月なので月がないのは当然としても、一番星すら見えないのはどういう事か。

 答えは、地上が明る過ぎるから。

 地平線の先まで、大地が真っ赤に光り輝いていた。それは本来固形である筈の地面が、沸騰する溶岩と化している証。多量の白煙は水蒸気か、それとも気化した岩石か、或いは猛毒の硫化水素か。消えゆく気配すらない輝きは幻想的ですらあり、荘厳な大地の力を感じさせた。

【バルォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!】

 そしてその溶岩の中心に立つムスペルは、途切れる事のない咆哮を上げている。

 咆哮は花中達の下まで届き、人間達の全身をぶるぶると震わせた。三十五キロは離れている筈なのに、その姿は虫のように小さくしか見えないのに、まるで耳許で叫ばれているかのような存在感。生命としての力の差を、ひしひしと感じさせる。

 その雄叫びは大地を激しく震わせ、溶岩が爆発するように至る所から噴き出す。少しずつではあるが溶岩の海は広がっており、かの存在の力が徐々に世界を塗り潰していた。

 誕生初期の地球の表面は、燃え盛る溶岩に包まれていたという。

 ならばこのムスペルの叫びにより地表が溶岩に飲まれるというのは、世界の一新を意味するのだろう。どうして奴は世界を生まれ変わらせようとしているのか、その理由は定かではない。或いは大した理由などないかも知れない。出来るからやっているだけというのも、あり得る。

 世界をも気安く生まれ変わらせるとなれば、ムスペルは世界を創造せしもの、即ち神に等しい存在という訳だ。そんな神様が、恐らく世界で最も神を信仰していなかったであろう此処……東京に君臨するとは、中々皮肉が効いている。

 尤も、花中にその皮肉を笑う余裕などなかったが。

「……あの、ミリオン? 此処は、その……何処?」

 共に来ていた晴海も花中と同じく、いや、花中以上に動揺していた。自分の連れてこられた場所が東京だと受け入れられず、疑問をぶつけている。

 出来る事なら、花中としても此処が元東京だとは認めたくない。それを認めるという事は即ち、

「否定したいならご自由に。でも此処が、かつて人口千三百万人を誇った大都市の一角なのは変わらないわよ」

 ミリオンが語るように、途方もない数の人々が犠牲になったという事なのだから。

 半径三十五キロ。

 数字にすれば車で三十分程度の距離でしかないその値は、円の面積に換算すれば東京都を丸一つ飲み込んでもまだ足りぬほどの範囲となる。ムスペルを中心にした三十五キロ圏内が溶岩の海に化したという事は……千三百万人の人口を誇る東京はおろか、隣接する大都市である神奈川県川崎市や千葉県市川市も巻き込んだ筈だ。被害者数がどれほどのものとなるか、花中には想像も付かない。

 最早日本という国が立ち直る事は不可能だろう。いや、東京には世界でも有数の企業が集結し、外交などを担う行政も集中していた。影響は世界へと広がり、あらゆる分野に大きな傷跡を刻む筈だ……今後ますます怪物の出現が加速しそうなのに。

 ごくりと、息を飲む花中。諦めの感情が込み上がってくる。しかしその諦めは、今ならば悪いものじゃないとも思う。

 ここまで徹底的に諦めさせられたなら――――開き直れるというもの。失敗出来ないなんてプレッシャー諸共吹き飛ばされてしまえば、精神的な落ち着きとなる。冷静さは大切だ。変化する状況を正しく見極めねば、ムスペルの弱点など到底見付けられまい。

 それに人間的に最早手遅れという事は、フィア達にあんまり頑張ってもらわなくても良いという事でもある。大切な友達に命を賭けてくれとお願いするしかない、無力な立場としてはこれもまたありがたい話というやつだ。

「……フィアちゃん、みんな。無理そうなら、逃げても、良いからね」

「勿論そうさせていただきます……と言いたいですがちぃーとばかしそうもいかない感じですね」

「そうねぇ。多分、アイツを放置すると本当に『星』が終わりそうだし」

「流石に世界中がこうなったら、どんな猫も生きていけそうにないからなぁ。無理でもなんでも通さなきゃヤバい」

 尤も、花中の心配は別の意味でいらなかったらしい。三匹全員が真剣に答えた事で花中はそれを知る。

 フィア達も感じているのだ。ムスペルがこの星そのものを作り替えようとしていると。

 地表全てがマグマの海に変わろうと、フィア達ならば生きていけるだろう。しかしフィアが餌としている虫は死に絶え、ミィが好む野生の獣は絶滅する。飢えと渇きにより脅威の生命力を誇る彼女達もまたやがて死ぬ。ミリオンのような『インチキ』で生き延びても、人が滅びればミュータントは力を失う。

 人の世は終わった。されどフィア達からすればまだまだこの世界は終わっていないし、手遅れでもない。だから死力を尽くし、戦うのだ。

「うん。頑張ってね、みんな」

 花中に出来るのは、ちっぽけな応援だけ。

「ふふんご心配には及びません。あんな奴五分で片付けてみせましょう!」

 その応援で友達の一人が力を滾らせてくれたなら、こんなにも嬉しい事はなく。

 足踏みを揃えず飛び出す三匹の何時もの姿に、花中は一層強い希望を抱くのであった。




決戦の始まり。
人類がヤバいは何度かありましたが、地球がヤバいは異星生命体以来ですね。二回目という時点で色々アレですが。

次回は明日投稿予定です。

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