深い、深い、地の奥底。
あらゆる息吹を止める圧力と、あらゆる外皮を溶かし尽くす熱に満ちた世界。命の存在を許さないおぞましい空間を、『彼女』は悠々と泳いでいた。
――――思い描いていたのとは違う結果だった。
されどこの程度であれば問題ない。『アレ』らがどのような存在であるかについても推測は出来たし、あの程度の力ならばどうとでも出来る。むしろこうして事前に未知を知る事こそが、此度の行動の目的だ。だからこの結果には満足だ。
計画を阻むものがないのであれば、早速始めよう。そのための準備にさして時間は掛からない。仲間達への連絡……なんてしなくても連中は勝手についてくるだろうし、話したところで自分の言葉など誰も理解しない。言葉が理解出来るのなんて、精々自分の子供達のごく一部ぐらいだ。だから来なかった者については我が子含めて全て無視する事にしよう。少々
彼女は目まぐるしく思考を巡らせながら、地の奥底を泳ぎ続ける。頭の中を駆け巡る可能性はどれも自分にとって望むものであり、彼女は思わずほくそ笑む。
そしてつい、笑った。
笑い声は地の底の至る所へと広がっていく。するとその声の通り道にある熱い液体がぶるりと震えるや、瞬時に気体へと変化した。大量の気体は周りの圧力に負けて押し潰され、されどあまりの高圧故本来よりも僅かに大きく潰れる。圧力と拮抗する水準を超えた密度は反発力を生み、弾けるように圧縮された気体を膨らませた。
それが連続的に、至る箇所で、何度も何度も起きる。小さな破裂達はやがて合わさり、巨大で破滅的なエネルギーを伴った衝撃波へと変貌。衝撃波は全方位に拡散しようとするが、圧力が加わり硬くなっている下層よりも、柔らかい上層の方が遥かに流れやすい。衝撃波は重力に逆らうかの如く浮上していく。
やがてその衝撃波はこの星の表層に到達し、激しく揺さぶる。
地上の『知的生命体』は、これを地震と呼んでいる。今のはほんのちょっと笑いが漏れただけだから、きっとあまり大きな地震にはなっていないだろう……彼女はそれを知っていた。例えこの世に生を受けてから一度も見た事がなくとも、地上がどんな世界であるかを知っているのだ。
だから彼女は地上へと向かう。
此処よりももっと高い世界へ、仲間と子供達と共に向かう。否、向かわねばならない。そしてこの身に宿った力を用い、地上を『楽園』へと変えるのだ。
でなければ。
魔物が目覚める。
この星で最も恐ろしい魔物が、
地上の全てを焼き尽くすためにやってくる。
己の命を守るために。
第十九章 地獄の魔物
さぁ、強敵出現です。
次章は地球最大の決戦となります。
次回は明日投稿予定です。