彼女は生き物に好かれやすい   作:彼岸花ノ丘

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第十六章 異種族帝国
異種族帝国1


 二月を迎え、日本列島の寒さは最高潮に達していた。

 平年でも特に寒いこの時期だが、今年は例年と比べ際立って寒い。過去十年より平均気温が八度ほど下がる見通しだと気象庁は発表している。今日の朝の気温もマイナス六度と、この地域では滅多にない寒さとなっていた。雲一つない空で朝日は燦々と輝いていたが、地上に降りた霜が溶ける気配はない。

 あまりにも過酷な寒さ。怪物による現環境破壊、それによる気候変動が原因ではないかといわれているが……定かではない。地球環境とは様々な ― 太陽活動の強弱や人類が排出した温室効果ガス、火山噴火や地球の『色合い』など ― 要因が複雑に絡み合った結果生まれるものであり、これが全ての原因だと呼べるものはないからだ。

 大自然の摂理を解き明かすには、人間の英知というのはまだまだ弱々しい。ましてやコントロールなど夢のまた夢だ。起きてしまった事象に対し、その場しのぎをするのが精いっぱい。

 今日の花中の格好も、そうしたその場しのぎの一環だ。高校の制服の上に着るのは、学校指定のコートの中でも特に防寒性の優れたもの。中にある羽毛がしっかりと体温を捉え、外の寒さから守ってくれる。首回りにはふわっとした厚みのあるマフラーを巻き、耳当ても装着。手袋も靴下も厚手のものを身に着けた。

 家にある衣服を総動員し、最高の温かさを作り上げた。極寒という、現代人類には手に負えない自然の猛威に敬意を表した結果が、今の花中の姿なのである。

「うふふふふ今日の花中さんはもこもこしていて可愛いですねぇんふふふふー」

「可愛いわねぇ。幼稚園児みたいで」

「確かに幼稚園児にいそうだよね」

 なお、人外の友達三匹には子供扱いされたが。フィアは背後から花中に抱き付き、両サイドには慈母のように優しい笑みを浮かべたミリオンとミィが並んで歩く。友達に囲まれてとても嬉しい陣形であるが、中心に立つ花中は赤らんだ頬をぷくりと膨らませた。

「むぅぅー……子供扱いしないでよぉ」

「いやぁこれはちょっと無理ですねぇ。だって実際とても可愛いですし勿論花中さんは何時も可愛いですけどね」

「まぁ、でも幼稚園児は言い過ぎたかもね」

「だね。精々小学生ぐらいだよね……くくく」

 純粋に花中を愛でるフィアに対し、ミリオンとミィが顔を逸らして笑い出す。

 自分が小学生並に小さい事は自覚しているが、小学生だの幼稚園児だの言われると流石にムッとくる。花中は唇を尖らせ、自分の身体を抱き寄せているフィアの腕をギュッと握り締めた。

 そんな他愛ない話をしながら住宅地の中を歩いていると、花中は道路の端に立つ二つの人の姿を見付ける。場所、時間、共に事前に決めていた通り。花中はちょっと歩みを速めて、フィア達も足取りを合わせてくれる。

「おはよう、ございます」

 立っていた二人にある程度近付いた花中は、花中としては大きな声で挨拶。

「おっ。大桐さん、おっはー」

「おはよう、大桐さん」

 人の姿こと、加奈子と晴海は花中よりずっと大きな、普通の声で挨拶を返す。次の瞬間加奈子は目を輝かせ、晴海も微笑ましげな表情を浮かべる。

 ……自分の両サイドを歩く人外二匹と似たような表情だったので、花中は上機嫌な笑顔を一瞬でむくれ面に変えた。

「……なんですか。その笑顔は」

「いや、今日の大桐さんはまた随分と可愛いなぁと思って」

「うん。これはアレだね、ハムスター的な感じ」

「ほんと、大桐さんは小動物ファッションが似合うわねぇ……高校生なのに」

「動物を模したタイプのパジャマとか、素で似合いそうだよねー」

 尋ねれば、予想通りの答えが。花中はますます頬を赤くして、ぷくりと膨れる。耳当てがいらないぐらいには、頭はぽかぽかと温まっていた。

 どうしてこうも子供扱いされるのか。確かに背は低いが、しかしあと二ヶ月で高校三年生の身である。顔立ちとか雰囲気とか、そうしたもので大人っぽくなってる筈ではないか……と思ってもみたが、よくよく考えると自分の顔立ちがこの数年で劇的に変わった気はしない。スタイルも、ほぼ変化なし。このまま歳を重ねても、なーんにも変わらないような気がしてくる。

 あれ? もしかしてわたし、二十歳になっても子供扱いされそうな感じ?

 気付いてはならぬ真実に至ってしまい、愕然とする――――そうして花中の頭がしょうもない絶望に浸っていた時、不意に甲高いアラームがあちこちから聞こえてきた。びくりと花中は飛び跳ね、晴海や加奈子も目を見開いて驚きを見せる。平然としていたのはフィア達だけだ。

「花中さん。スマホがなんか鳴ってますよ」

「え? あ、そ、そっか」

 変わらず冷静なフィアから指摘された花中は、コートの内側に手を入れ、内ポケットの中を弄る。そこにしまったスマホを取り出せば、アラーム音は一層強く聞こえた。

 花中はすぐにスマホの画面を見る。

 そこに表示されていたのは、緊急地震速報を知らせるものだった。

「うわー、どうしようか晴ちゃん?」

「どうって言われても……」

 晴海達もスマホを取り出しており、けたたましく鳴り響くスマホの画面を見てぼやく。

 大きな地震が起きれば、例えば家の塀などが崩れてくるかも知れない。道路が陥没したり、マンホールの蓋が外れたり……道路が歪めば電柱が倒れて、切れた高圧電線が襲い掛かってくる可能性もある。下手をせずとも大怪我、死の危険だって否定は出来ない。しかしながら此処は住宅地のど真ん中で、身を隠せる場所など何処にもなかった。

 なので本来はもっと慌てるべきなのだが……花中達の傍には、天災すら凌駕するパワーの持ち主が三匹も居る。例え塀が崩れようが、道路が陥没しようが、高圧電線が襲い掛かってこようが、フィア達の前ではそよ風のようなものだ。小娘三人を守るぐらい造作もない。

 加えてこの警報、条件次第では外れる事もままあり。

「あ、アラーム消えた……何もなかったね」

 今回は揺れ一つ感じる事もなく、警報は終わりとなった。

「花中さん花中さん。先程の五月蝿いやつはなんですか?」

「えっと、さっきのは、地震が来るよーって、知らせてくれるやつだよ。偶に、外れるけど」

「ふぅん人間は教えられないと地震が来る事も分からないのですか。そんなのでよく今まで絶滅しないで済みましたね」

「あはは、そうかも」

 フィアの意見に、花中は笑いながら同意する。現代は情報化社会と呼ばれるほど多量の情報が飛び交っており、世界の裏側の事も十数分後には知れるほど高速化している……が、どれだけ高速化しようとも、『足下』に来た情報を最初に知るのは自分自身だ。

 人智を超えた恐ろしい怪物達は、人間の手が及ばない領域に潜んでいる。そして彼等は突然人の領域に姿を現す。情報を待っていては、怪物の襲来は予測出来ないだろう。人類が怪物達の襲来から生き残るには、科学の発展に頼るよりも、もっと己の野生を研ぎ澄ます必要があるかも知れない。

「えーっと……震源は静岡の方みたいね。うわ、震度六弱だって」

 尤も、遠く離れた事を正確に知るには、やはり科学技術が一番だろうが。

「うわぁ、結構な大地震じゃん」

「ええ。でもまぁ、最近の家は耐震性凄いし、直下型で津波の発生はないみたいだから、そこまで被害は大きくならないんじゃない?」

「ふぅーん。でも静岡ってさ、富士山の近くだよね。噴火とかの予兆だったりして」

「……縁起でもないわねぇ」

 加奈子と晴海の会話を聞きながら、花中は頭の中で現状の予測を組み立てる。

 建築技術の進んだ現代日本で、最も注意すべき地震被害は津波であろう。問答無用で全てを持ち去る悪夢のような大災害だ。その心配がないとなれば、晴海が言うようにあまり大きな被害は出ない筈。

「……んー……?」

 そうして花中が安堵している横で、何故か加奈子が眉を顰めていた。何か不穏な情報でも見付けたのかと思い花中は寒気を覚えるが、しかし加奈子の顔はそこまで真剣にも見えない。

「えっと、小田さん? どうかしましたか?」

「ん? いや、大した事じゃないんだけどさぁ」

 尋ねてみると、加奈子は手をひらひらと横に振りながら笑顔を見せる。

「なんか、SNSでやたらUFOネタが挙がっててさー。しかもさっきの地震に絡めた内容なんだよねぇ」

 そうしながら伝えた話は、確かに大した話ではなかった。

「あー……なんか、この地震は、宇宙人の仕業、みたいなの、でしょうか?」

「ううん。そーいう感じじゃなくて、単に目撃しましたってだけの話。写真もアップされてるね。まぁ、大方閲覧数増やしたいだけだと思うけど」

「不謹慎ね。怪我人とかいるかと知れないのに……」

「いや、不謹慎な奴はまだマシじゃないかなぁ。本気で言ってるのに比べれば」

「そう、ですね。ネットの書き込みとかで、その手のものを見ると、ちょっと引きます」

「あ、大桐さんもそーいうのは引くんだ?」

「一応、親が科学者なので、オカルトはあまり……宇宙生物が来ているのに、UFOを否定するのも、変な話、ですけどね」

 わいわいと、平凡な日常会話を花咲かせる花中達。地震の被害が小さそうなので、安堵した、というのもある。女三人寄れば姦しい、とはよく言ったもので、乙女達の会話は中々止まらない。

「こらー、そこの小娘達ぃー。いい加減学校に行かないと遅刻するわよー」

 ミリオンからの忠告がなければ、本当にそうなってもおかしくなかった。

「おっと、そうだった。うっかり話し込んじゃったわね」

「ご、ごめんなさい! 気付かなくて……」

「いやー、これこそ連帯責任ってやつじゃない? あとまた無駄話を始めるより、さっさと行こー」

 加奈子が先に歩き出し、晴海も続けて進み出す。花中も慌てて二人の後ろを追った。

 もしも。

 もしも一人でじっくりと考えたなら、与えられた情報を鵜呑みにしなければ、花中は気付けたかも知れない。

 静岡県から花中達の暮らす町がある地域は、日本列島という括りで見ればかなり近い。近いのに、自分達の足下は全く揺れなかった。震度六という大地震が起きた筈なのに。

 そして先程から押し黙っている友の顔を見たなら、確信を持てただろう。

 彼方を見据えるフィアとミィの目に、強い警戒心が宿っていたのだから――――

 ……………

 ………

 …

「おはよー!」

「おはよー」

「お、おはようございます」

 自分達の教室に辿り着き、加奈子は元気よく、晴海は極々普通に、花中は少しおどおどしながら朝の挨拶をする。フィアとミリオンは無言のまま花中達と共に教室へと入った……ミィは例によって校舎の外で留守番だ。廊下が壊れてしまうので。

 緊急地震速報後の立ち話で、普段より少々到着が遅れた花中達一行。教室内は何時もの到着時より少しだけ多くの生徒が居て、何人かが挨拶を返してくれた。自分の挨拶に反応がある事に、花中は少し感動する。この程度の事は最早日常なので、本当にちょっとだけだが。

 それに今日は、教室の雰囲気が少々奇妙である。感動は何処かに飛んでいき、花中は教室内を見渡し……覚えた違和感が間違っていないと確信する。

「なんか皆さんやけにスマホばかり見てますね」

 花中に抱き付いたままのフィアが指摘するように、スマホを見ている生徒がとても多いのだ。朝からスマホ弄りをしているクラスメイトなんて珍しくもないが、今日はその数がかなり多いように見える。

 花中が疑問に思う中、共に教室までやってきたミリオンがスマホ弄りをしている男子の集団へと歩み寄った。完全な部外者であるミリオンだが、フィア同様花中のクラスメイト達とはしっかり交流している。大半の男子生徒との仲も良好だ。

「おはよう、みんなして何を見ているのかしら?」

「あ、ミリオンさん。おはよう」

「おう、おはよう。今日、緊急地震速報があっただろ? あれからなんかやたらUFOの目撃例があってよ」

「UFO?」

 ミリオンと男子生徒の会話に聞き耳を立てていた花中は、此処でもUFOが出てくるのかと少し呆れた。同時に、ちょっとした疑問も抱く。

 確かに地震直後には、UFOの目撃例が増えるという話がある。それらの大半は、報道ヘリやドローンの見間違い、或いは地震という『異常さ』からなんらかの特殊性を見出そうとした結果だ。今回のSNS上の出来事もそうに違いないと、勝手ながら思っていた。

 しかし、いくらなんでも盛り上がり過ぎではないか?

 冷静に考えてみれば、地震発生直後に大量の投稿が生じるだろうか? 津波などによる壊滅的被害はないとしても、震度六もの大地震があれば多少なりと混乱が生じ、『悪ふざけ』をしている余裕などないと思うのだが……

「ちなみに、どんなUFOなの?」

「待ってろ、今見せる……ああ、この動画が良いな。ほらよ」

 ミリオンも花中と同じ疑念を抱いたのか、男子生徒達により深く尋ねる。と、男子生徒の一人がミリオンにスマホの画面を見せてきた。

 ミリオンはその画面を覗き込む。ミリオンの背中側からやり取りを見ている花中には、ミリオンがどんな動画を見て、どんな反応をしているのかは分からない。ごくりと息を飲んで、その反応を待ち……

「何コレ。映画か何かのプロモ?」

 首を傾げながら、男子生徒に訊き返した。

「あはは、そう思うよね。でもこれが、さっきの大地震の後に目撃されてるUFOの動画だよ」

「あんまりにも馬鹿馬鹿しくて、逆に広がってる感じだな」

「成程ね。でも、どうせやるならもうちょっとクオリティを上げてほしいわねぇ。ここまで露骨だと、逆にフィクションって言ってるようなものじゃない。CGの質は高いと思うけど」

「だよねー」

 和気藹々と交わされるミリオン達の会話に、花中は胸を撫で下ろす。どうやらただのおふざけ映像らしい。地震直後に大量に流れるあたり少々民度の低さを感じるが、何もないならそれに越した事はない。

 それと今更ながら、多量のUFOが目撃される事態について、可能性が一つ思い浮かんだ。

 怪物の出現だ。なんらかの怪物が大量発生し、空を埋め尽くす。その怪物が鳥や飛行機に似ていない、例えば円盤型飛行生物だったなら、誰もがUFOとして動画を投稿するに違いない。もしもそんな事が起きたなら、間違いなく日本は終わりだろう。

 尤もミリオンがフィクションと断じたからには、その可能性は低い筈。いや、むしろ自分より早くこの可能性に気付いたからこそ、クラスメイト達が見ている『UFO』の正体を確かめようとしたのかも知れないと花中は思う。

 自分の浅はかさを猛省しつつ花中が安堵していると、ミリオンは男子生徒達に手を振りながら別れる。それからすたすたと花中達の下へと戻ってきた。

「あ、おかえりなさ」

「さかなちゃん、今どんな感じ?」

 そして花中の出迎えを無視して、フィアに声を掛ける。

 いきなりの無視に、声を掛けた花中はポカンとなった。傍に居た晴海や加奈子も同じだ。

 例外は、ミリオンに話し掛けられたフィアのみ。

「かなり接近しています。そろそろ見えてくるんじゃないですかね……敵意は感じませんけど」

「そう。私も同じ意見だけど、直下はヤバいかも。一応距離は取りましょ」

「んー私はそこまでせずともと思うのですが……まぁ安全第一ですかね」

 フィアとミリオンは素早く意見を交わす。難しい言葉は使っていない二匹だが、花中には彼女達が何を話しているのか分からない。何か、大事なところを聞き逃しているような違和感を覚える。

 しかしその違和感の原因を追求する事は出来なかったが。

 何故ならフィアが花中に抱き付いたままその身を反転。堂々と教室から出たからだ……無論、ホームルームが間もなく始まるから教室に居なければならない花中を引き連れて。

「……え? え、フィアちゃん?」

「すみません花中さん今日は学校を休みましょう」

「えっ? えっ?」

 いきなりの一日休学宣言に、花中は困惑してしまう。学校を勝手に休むのはダメな事。しかしフィアがなんの理由もなしに、無理矢理自分を学校から連れ去ろうとするなんて思えない。

 ミリオンもフィアと共に教室から出て、フィアの隣に並ぶ。フィアを止める事はしない。二匹はかなりの早歩き ― 人間からすると全力疾走染みた不可思議スピードを出しながら ― でどんどん教室から離れていく。

 ついには玄関までやってくると、フィアは花中をお姫様抱っこの体勢で持ち上げ、ミリオンは下駄箱から花中の靴を取り出した。履かせる暇などないと言わんばかりに。

「ちょ、ちょっと待って!? 何? 何してるの!?」

 ようやく我を取り戻した花中は、慌てて二匹の友達を問い詰めた。

 フィアはミリオンの顔を見遣り、ミリオンは肩を竦める。

「待ちなさいそこのケダモノ共っ! 大桐さんを何処に連れて行くつもり!?」

「何々? なんかあったのー?」

 そこでほんの僅かながら足を止めたお陰か。後ろから聞き慣れた声が聞こえるようになった。

 花中がフィアの肩を登り、身を乗り出すようにして背後を見れば、そこには息を切らしてこちらに走ってくる晴海と加奈子の姿がある。どちらも通学鞄を持ったまま。すぐに追い駆けてくれたらしい。

 友人達の行動に嬉しさを覚えつつ、花中はフィアとミリオンの顔を見る。

「……どんな感じ?」

「もうそこまで来てますね」

「そう、思ったより速かったわね」

 ミリオンが尋ねると、フィアは呆れたように答える。ミリオンはため息を吐き、諦めたように肩を落とした。

 次いで、世界が変わる。

 突如として、辺りが暗くなったのだ。しかもちょっと薄暗くなった程度ではない。まるで夜中のような、濃密な暗闇が校内を満たしたのである。近くにあるフィアの顔どころか、自分の手すらろくに見えない状況だ。

「ふぇっ!? な、何!?」

「停電かな?」

「朝なのにこの暗さが停電な訳ないでしょーが!」

 混乱する花中の問いに、加奈子がボケて、晴海がツッコミを入れる……トリオ漫才のように流れてオチを付けたが、周囲が光学的に明るくなる気配はない。

 いや、そもそも晴海が言うようにこの暗さは異常だ。今は朝のホームルームすら始まってない早朝。この時間帯の太陽ならば、例え分厚い雨雲に阻まれようとも、読書するのに支障ないぐらい地上を照らしてくれるもの。快晴から一気に暗くなり目が慣れていない事を差し引いても、周りが見えないほど暗くなるとは考えられない。

 しかも段々と周囲の気温が低下しているのか、寒さが強くなってきた。日光がなくなった事が原因だろうが、局所的に暗くなっただけでは考えられないほど急激である。この暗闇現象が、かなり広範囲で起きているのだと推測出来た……尤も、『何』が起きたのかは一層分からなくなったが。

「ふぃ、フィアちゃん? 何があったの……?」

「ああじゃあ見てみますか? 丁度真上に来ていますし」

 堪らずフィアに尋ねると、フィアは危機感のない口調で提案してきた。

 あまりにも能天気な意見に花中が思わず頷くと、フィアは早速とばかりに歩き出す。暗くて周りはよく見えないが、方角的に校舎の出口の方へと進んでいるらしい。

 花中が思った通り、フィアは校舎の外へと出た。屋内よりも野外の方が若干明るく、注視すればものの輪郭が見える……外でもこの程度だ。これなら月夜の方が遙かに明るいだろう。

 一体何が起きている?

 事態の原因を予想すら出来ない、が、要因は察しが付く。外が暗いという事は、何かが太陽光を遮っているのだ。

 だから花中は頭上を見上げ、そして目の当たりにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分達の町を覆い尽くすほどの、超巨大円盤の姿を――――

 

 

 




初っ端から出現する謎円盤。
個人的にはインディペンデンス・デイに出てくる系の、真っ平らな円盤が好きです。

次回は明日投稿予定です。

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