目が覚めたセリエズが真っ先に聞いたのは、「ここは・・・?」という問いだった。
それに対してユイが答える。
「北アメリカ、アリゾナにある連邦軍の基地。本来ここから数十キロ先のジオン軍基地に降下する予定だったけど・・・」
ユイは扉の方を見る。
「捕まっちゃった♪」
テヘペロ、とでも言わんばかりの調子でユイが言う。
リーシュとアレシアも同じ部屋に入れられていた。
「大気圏は突破できたのか・・・」
「感謝してくださいよ隊長~。隊長の機体をコムサイまで回収したの、俺ですからね?」
アレシアが笑いながら言ってくる。
「そうか、ありがとう」と、セリエズも応えておいた。
そして起き上がろうとして、セリエズは驚いた。
体が持ち上がらない。
「はぁ~、情けねぇ・・・」
そんな言葉が口から漏れる。
「敵MSを8機撃退したんですから、情けないはないでしょう」
と、リーシュが答えた。
結局セリエズは、ユイに抱きかかえられながら起こされた。
軍人の娘としてそだったユイは、細い腕からは予想がつかないが力が強く、自力で起き上がれないセリエズを軽々と起こし、壁にもたれさせた。
「ありがとう・・・」
「隊長、うらやましいですなぁ~」
「黙ってろアレシア」
セリエズはニヤニヤしているアレシアを睨みつける。
「バカ男子三人、そこまでにしなさい」
ユイが締めくくる。
「俺は何も言ってない、巻き込むな」
とリーシュが抗議するが、ユイは無視して話を続けた。
「現実的な話をするよ。私達が、この地域・・・アリゾナ砂漠の基地の防衛の為に地球へ送られた。で、位置から察するに、私達が行く予定だった基地に対して襲撃を繰り返していると思われるのはこの基地なの」
「なるほど・・・ある意味幸運だな。内側から揺さぶりをかけてみるか?」
「そう。ただしこの部屋を脱出できなければ、そんな事できるはず無いのは分かるわね?」
「脱出が最優先ですか」
「いいね、やってやんよ!」
「考え無しにやってやんよなんて言わないでくれる、バカシアさん?」
「ちょっ、違っ、バカじゃないし!」
「私にはきちんと策があるから、あんたとは違うの」
ユイに煽られてアレシアが真っ赤になる。
アレシアがユイに殴りかかろうとした。
だが、かわされた挙句、腹筋にパンチを食らってアレシアは気絶した。
「病人一人、いっちょ上がりっ!」
ユイはそう言って、ドアの外に向け、「病人です!意識がないんです!」などと叫びだした。
セリエズが呆れて呟いた。
「白々しいったらありゃしない」
ややあって、「何があった?」と言いながら、連邦軍の軍人がドアの窓から顔を覗かせた。
「彼が倒れて・・・意識が無いんです・・・」
辛そうな表情を作りながらユイが言う。
アレシアが倒れているのは、ドアの窓からでも見えたようで、その軍人はドアを開けて入ってきた。
途端にユイが素早く懐に入り、身長の低さを生かして真下から強烈なアッパーを叩き込んだ。
「がっ・・・」
「おお、今のでまだ立てる?」
ユイはそう言ってにっこり笑うと、よろけている彼の股間部に蹴りを叩き込んだ。
セリエズとリーシュが、反射的に顔をしかめた。
生身の戦闘でなら、この隊でユイに敵う人間はいない。それどころか三人がかりですら5分と保たないほど、ユイの格闘技術は圧倒的だった。銃を取り上げられた今、彼女が最大の戦力なのだ。
セリエズは、アレシアを起こしてやり、開けたままになっているドアから、4人で脱出した。