機動戦士ガンダム0084 ―砲撃戦線―   作:リゼルC型

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前話で気絶したセリエズの意識の中。
ストーリーの一つの区切れ目なので息抜きして読んでください


第5話「少女の瞳」

これは夢だろうか。それとも、死に際に見る、走馬灯というヤツだろうか。

セリエズは、EMS-04「ヅダ」のコクピットにいた。

(これは・・・あの時の飛行性能試験か・・・)

ジオニック社のザクと、ツィマッド社のヅダの、制式採用を賭けた勝負。

この日、セリエズは新米テストパイロットとして、ヅダに搭乗していた。

士官学校をトップの成績で卒業したセリエズの、初めての任務だった。

(あの時・・・確か・・・)

そう考えるのとほぼ同時に、セリエズ機の隣を飛行していた機体が爆発した。

「3番機、応答してください!3番機!」

オペレーターの声が響く。ユイの声では無く、ツィマッド社のオペレーター。

「何が起きた!」

1番機に搭乗していた、ジャン・リュック・デュバル少佐が叫ぶ。

「ヅダ3番機、応答しません!4番機、2番機も・・・」

セリエズは思い出した。

(そうだ・・・この事件がきっかけで、ザクが採用された。俺の機体は右腕と左足が損壊したっけ。まあ、ザクになろうとヅダになろうと構わなかったんだ、自分はツィマッドの専属では無く、雇われてただけだから)

そう考えているうちに、「夢」の場面は移り変わる。

 

ツィマッドから、お蔵入りになる予定のヅダを押し付けられたセリエズは、少しばかり苛立ちを感じていた。

ツィマッドからすれば口止めのつもりだったのだろう。セリエズが死ねば、外部に情報が漏らされる心配も無い。死人に口なしとはよく言ったものだ。

所詮自分は軍の中の消耗品だと、まざまざと見せ付けられた気がした。

そして、ヴァイス・トート隊に配属された日。

同じように、死んでも生きても構わないと暗に突きつけられたメンバー達。

親が死に、身寄りが無くなったユイ、毒ガスに侵されたコロニーの中で、奇跡的に救助されたリーシュとアレシア。

(そう・・・始めて会ったのはルウム戦役の一週間後だったな・・・)

だが、皮肉なことに彼らは次々に高い戦果を挙げていった。

ヴァイス・トート隊の名は広まっていった。

 

ア・バオア・クーでの戦いの頃には、リーシュ、アレシアにリックドムが配備されていが、セリエズだけがヅダを愛用していた。

(また、あの部隊か)

ヴァイス・トート隊と何度も交戦した連邦のエース部隊。

ア・バオア・クーでの交戦で、セリエズは相打ちとなった。

いや、セリエズが道連れにしたのだ、その部隊を。ヅダのエンジンを暴走させて。

(あの時、俺は死ななかった・・・死んでもいいと思っていたはずなのに)

 

そして星の屑。コロニー作戦は成功した。

「いいか、一人でも多く突破して、正面のアクシズ艦隊にたどり着くのだ。我々の真実の戦いを、後の世に伝えるために!」

そう言って、アナベル・ガトーは散っていった。

ドラッツェに搭乗していたセリエズも同様に、敵艦隊に突っ込んで行った。ジオンは嫌いだし、ガトーのことも綺麗ごとばかりで好きではなかった。

未だにジオンにいる自分自身が嫌いだったからこそ、特攻という手段を取ったのだ。今でこそエース部隊だが、一度は死んでもいいと捨てられてすらいたのに。

(結局は脱出した・・・ユイの事が頭をよぎって・・・なぜそれだけで死ぬことをやめようとしたのか、未だに分からないけど・・・)

撃沈されたサラミスの残骸には、酸素と食料が残っていた。

しかしそこで、同様にパイロットだけが生き残った例の部隊と出くわした。

拳銃を突きつけあったセリエズと、敵の隊長。だがお互い、結局は引き金を引かず銃を収めた。戦いは既に終わっていたのだ。

(あの時も・・・)

セリエズはふと思い出した。

(何度も死にかけた。それでもいつも、目が覚めた時にいつも俺を見ている瞳があったから。あの瞳を裏切りたくなかったのかも知れない・・・悲しませたくなかったんだ、きっと)

死にたくない、悲しませたくない。自分は死んでもいい消耗品じゃなかった事を気付かせてくれた瞳を裏切りたくない。

そう、強く思った。

 

セリエズの目が覚めた。

ゆっくりと目を開いていくと、いつも自分を見つめていた瞳と目が合った。

ユイの表情が、ゆっくり変化する。

苦しげな目でセリエズを見つめていたユイは、セリエズが起きたのを見て、本当に嬉しそうな笑顔になった。


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