機動戦士ガンダム0084 ―砲撃戦線―   作:リゼルC型

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第26話「砂漠の轍(わだち)」

基地のコンクリートを進んでいたタイヤが、砂漠の砂を踏みしめる。

それに気付いたのだろう。ジム・コマンドが振り返る。

「残党の新手か!?」

ギガンの姿を見て取ったジム・コマンドのパイロットが、90mmマシンガンを構えるが・・・

ガギィン!

耳障りな金属音を立てて、右腕ごとマシンガンが弾け飛ぶ。

「なっ・・・!?」

ジム・コマンドが振り返るワンテンポが、先制射撃の優劣に直結したのだ。

ギガンのキャノンの砲塔後部から、シュゥゥ・・・と熱風が排出される。

だが、ジム・コマンドのパイロットは即座に機転を利かせた。左手でビームサーベルを取り出し、接近してくる。

「懐に入れば!」

左右にジグザクにスラスターを吹かし、被弾のリスクを下げながら突っ込んできたジム・コマンドが、大きくビーム・サーベルを振りかざし・・・

勝利を確信する、ジム・コマンドのパイロット。

ガッ!

その表情が驚愕に変わった。

袈裟切りに振り下ろされた手が、途中で止まる。

ギガンの左手が、ジム・コマンドの左手を押さえていた。

「ならばパワー差で押し切る!」

「甘い」

コツン、と音がする。

「えっ・・・?」

コクピットに、ギガンの右腕の120mm四連装機関砲が押し当てられる。

ジム・コマンドにこれを防ぐ手段は無かった。

弾丸が撃ち込まれる。

コクピットが確実に破壊されている事を即座に確認し、セリエズはアレシア、リーシュ・・・そしてフィラクに回線を繋いだ。

「聞こえるか?」

「隊長!」

「遅いですよ」

「悪い・・・事情は後で話す。敵MSのほとんどはまだ基地内部に侵攻できていない。ここで食い止める行動は変わらないが・・・現在、北と西の二方向から敵が攻めてきている。ここは北側だが・・・敵を誘導するなり追い込むなりして、敵を北西方面へと向かわせる。西側のフィラクも聞こえてるな?敵を北西方面へ追い込み、敵を分散させず包囲する」

「聞こえてますがが・・・難しいですよ?」

「何故?」

「こっちに・・・堕天使の紋章の部隊が」

「グラナートロート・ルシファー隊か・・・!」

復讐を望む心が、ぎり・・・と軋む。

「奴らは戦闘狂だ。こちらが動けば追ってくるだろう」

「了解」

 

時間は少し前に遡る。

「でやぁぁぁぁぁ!」

カティスに撃ち込まれた攻撃を防いだリジェイスのグフ・カスタムは、立ち上がり剣を抜き払うと、グレモリーの陸戦型ガンダムへと突っ込んで行った。

「馬鹿っ!」

カティスが叫ぶが、突進は止まらない。投げられたシールドがコクピットに当たった衝撃で軽い脳震盪こそ起こしたものの、操縦が十分できる。

「カッコ付けてばっかり・・・!」

ドム・トロピカルテストタイプが再び動き出した。

「食らえっ!」

距離を詰めたグフカスタムが、左手にヒート・ソードを持ち替えながら斬りかかる。

「はははははッ!面白い奴だ!・・・だが、踏み込みが足りん!」

グレモリーが後ろへとかわす。そのままビームサーベルを抜くと、横薙ぎに斬り払った。だが・・・

「チェックメイト」

リジェイスが、陸戦型ガンダムの「真後ろ」から切りかかった。

リジェイスのグフカスタムは、左腕にヒート・ソードを持ち替え斬りかかるのと同時に、右腕でヒート・ロッドを陸戦型ガンダムの後方の地面へと放ち、陸戦型ガンダムの反撃と同時にアンカーを巻くことで、即座に後方に回ったのだ。

一瞬にしてそれを読み取ったグレモリーが、ビーム・サーベルの柄をペン回しの要領でくるりと180度持ち替え、後方へとビーム刃を突く。驚異的な反射といわざるを得なかった。

「なっ・・・」

コクピットに刺さるかと思われた軌道を、かろうじてヒート・ソードで受け流す。しかし代わりにヒートソードは、刀身が溶断され、持ち主の手を離れて砂に突き刺さった。

「くっ・・・!」

リジェイスが冷や汗を浮かべる。

「だからカッコ付けて油断するなって言ったでしょ!」

ドム・トロピカルテストタイプのヒート・サーベルが、陸戦型ガンダムを狙い突き出される。

今しもグフカスタムにトドメを刺そうとしていたグレモリーだが、即座に回避しこれをかわす。

「さっき助けてもらった分はこれで貸し借り無しね?」

カティスの言葉に、リジェイスが呻く。

「俺・・・かっこわりー・・・」

一方グレモリーは、半笑いといった表情でドム・トロピカルテストタイプを見ていた。

「先ほど俺に惨敗を喫したくせに・・・だが、意地になって向かってくる奴は嫌いじゃない!」

グレモリーは、胸部マルチランチャーからネットガンを選択。

ドム・トロピカルテストタイプが格闘攻撃を仕掛けてくる寸前で、射出した。

「お望み通りに殺してやろう!」

「っ・・・機体が!」

陸戦型ガンダムは再びビームサーベルを構え、動きの取れない相手のコクピットを狙い斬り払った。

カティスがやむなく、スラスターを吹かせて真上に飛ぶ。

コクピットを狙って振られた一撃は、コクピットにこそ当たらなかったものの、ドム・トロピカルテストタイプの脚部を切断。カティス機は動けない状態となった。

「隊長はやらせないと言った筈だ!」

剣の無いリジェイスが立ち上がり、ブースター出力を最大まで上げ、タックルを仕掛ける。しかしかわされるどころか、脚を引っ掛けられバランスを崩してしまった。

「呆気ない・・・実に呆気ない。」

ビームサーベルが振り下ろされた。

リジェイスのグフカスタムが、コクピットを斬り裂かれる。

「嘘・・・」

カティスが呟く。

モニターの通信画面に、『SIGNAL LOST』の文字が表示される。

「うそ・・・」

コクピットを境に、上半身と下半身に分かれたグフカスタムが駆動音をやめる。

「う・・・そ・・・」

コクピットに、焼かれた肉片が付いているのが、機体のカメラに無慈悲にも映る。

「嘘っ!!」

嘆きが叫びに変わった。

「はん、お前のオトコだったのか?まあどっちでも変わらないだろう。すぐに同じ所に送ってやるんだからな」

「あ・・・ぁ・・・」

振り上げられたビームサーベルが視界に入るが、体は脱力しピクリとも動かない。

死ぬ・・・

そう思った瞬間だった。

ドォ・・・ォン!

陸戦型ガンダムの振り上げた右腕が、唐突に攻撃を受け、ビームサーベルが吹き飛ぶ。

「これ以上やらせるか!」

フィラクのドム・トローペンだった。

再びフィラクがラテーケン・バズを撃つ。グレモリーが素早くそれをかわした。

(カティスのそばから離れてくれたか)

フィラクが安堵し、そしてラテーケンバズを全弾発射。腰からシュツルム・ファウストを取り出し両手で発射。追加でMMP-80マシンガンを連射した。

陸戦型ガンダムが居る場所だけではなく、陸戦型ガンダムが回避可能な地点にも射撃を放つ。

物理的に回避不可能な面制圧だった。

「くっ・・・!」

これにはグレモリーも焦る。しかし、胸部バルカンで出来る限り撃ち落としつつ、多少の被弾を覚悟で自ら突っ込んだ。

「こういう奴がいるから、戦闘は愉しい!」

空になったラテーケン・バズの弾倉を陸戦型ガンダム投げ捨て、新たな弾倉をセットし、再びドム・トローペンがバズーカを構える。

「距離を詰められれば意味が無いぞ!」

グレモリーが近距離まで詰め、左足から二本目のビームサーベルを取り出しつつ斬りかかる。

しかし振り払った右腕は、地面に落ちることとなった。

ラテーケン・バズの弾倉を投げつけ死角を作った際、左手でヒート・サーベルを抜いておいたのだ。そのまま、左腕は機体の後ろに隠し、バズーカを持っていると見せかけ近接を誘い、うかつに振った腕を切り落とした。

「悪いが・・・こっちは怒っているんだ」

そこへ、セリエズの通信が入ったのだった。

 

ギガンの砲撃が、曲射軌道を描いて撃ち込まれる。

「リーシュ!砲撃で敵を動かせ!」

「わかってます!」

「アレシア!」

「敵の目を引き付けろ、でしょう!」

「心を読んだ・・・ニュータイプって奴か?」

「4年も一緒ですから大体分かりますよ」

アレシアのドム高機動試作機はスラスターを吹かせると、数の差が圧倒的な相手へと突っ込んでいく。彼が攻撃を受けないよう、中距離にセリエズのギガン、その少し後方からリーシュのザク・キャノンが援護する。といっても、アレシアの視界に入っている機体より、彼の視界外の敵機を優先的に狙っていく。その他、味方機にデザートザクとドワッジ、グフが居たが、彼らには敵を基地の北西方面へ追い込むために敵陣の東側から攻撃を仕掛けてもらった。

少しずつではあるが、敵は移動させられている。

「流れに乗せた・・・!」

ジム・キャノンの砲撃をかわしつつ、セリエズが突っ込んでいく。

「隊長!」

リーシュが叫ぶが、結局その後の言葉は発せず、援護に徹した。

ギガンが四連装機関砲を撃ちつつ突っ込んでいく。同時に、キャノンで敵機に砲撃していく。敵機が退ける場所が、基地の北西方面にしかなくなるように。ジム改4機、ジム・コマンド2機、量産型ガンタンク1機による反撃の勢いこそあったが、ギリギリの所で北西方面へ押し出す事に成功していたようだ。

近場に露出している岩を盾に、敵の攻撃を防いだ瞬間、セリエズの後方から、ドム・トローペンが弾かれたようにこちらへと押し出されてくるのが見えた。

「攻撃を受け流し続けるのも限界か・・・」

フィラクが呟くが、敵をおびき寄せる地点まで来ているのを確認し、少し安堵の息を洩らす。

西側のその他の敵機も、フィラクの部下に追われつつ北西方面へと向かわされていたようだ。ジム・コマンド、ジムカスタム、ジム改が一機ずつ確認できた

セリエズが通信画面を開く。

「敵を誘い込んだ!ユイ!」

「了解!迫撃砲、お願いします!」

セリエズの声を受け、ユイが言う。それは即座に砲撃班へと伝わった。

「迫撃砲、発射!」

ずらりといくつも並んだ迫撃砲がいっせいに発射され、高い軌道を描きつつ、連邦のMS部隊へと襲い掛かった。

「誘い込まれたかっ・・・!まあ、ここまでで十分だ・・・」

グレモリーがいち早く察すると、素早く退避した。ジオン側の機体も退避する。ジム・コマンド2機、ジム改2機が大破し、他の連邦のMSも攻撃を受ける。

「くそっ・・・!」「最初からここに・・・!?」「避けろ・・・!」

誘い込まれた事に気付くも、時既に遅し。迫撃砲の攻撃の後に残った機体は6機だった。

「このままやられるか!」

一機でも多く・・・と思ったのだろうか。

しかし、中波した量産型ガンタンクの砲撃をかわしてアレシアが突っ込み、ヒート・ランサーを叩き込んだ。

もはや、戦局は覆されていた。

ジム・カスタムのマシンガンがザクⅡF2型を蜂の巣にするが、背後からデザートザクにヒート・ホークを叩き込まれる。セリエズのギガンが、タイヤ故の小回りを生かして回り込み、背後から砲撃を叩き込み、ジム改、ジムコマンドが一機ずつ撃破された。

リーシュのザクキャノンの砲撃でさらに一機が撃破される。

「お前で終わりだ!」

フィラクが、迫撃砲で右腕を破壊されたジム改へとラテーケン・バズを撃つ。

残り一機となった事に気付いたジム改が、死への恐怖故か、過敏なほどの反応速度でこれを回避。数発を避け続けたものの・・・

「がぁっ!」

脚部に被弾。さらにヒート・サーベルを突き立てられる。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・、あ・・・。」

彼が視線を上げると、ギガンの120mm機関砲が突きつけられている。

「俺・・・俺・・・」

ガガガガガガガガガッガガガ・・・

連射された銃弾が、ジム改の機体を痙攣したように揺らし・・・そして動かなくなった。

シュゥゥゥゥ・・・

「撃破・・・確認」

機関砲から、硝煙が揺れるのを見つめながら、セリエズは冷めたような声で言った。


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