機動戦士ガンダム0084 ―砲撃戦線―   作:リゼルC型

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第25話「戦場への再臨」

カティスの乗るドム・トロピカルタイプの一閃をかわしたグレモリーが不敵に笑う。

「なかなか楽しめそうな相手じゃないか・・・奴が来るまでの時間潰しにはちょうどいいだろう」

「時間潰しで殺されるんじゃ割に合わないわね・・・死ぬ気は無いよ!」

「それでいい!そうでなきゃ愉しくないからなぁ!?」

言うが早いか、陸戦型ガンダムが胸部マルチランチャーから閃光弾を射出する。

閃光が辺りを包み、カティスの視界が奪われた。

「どうやら口だけのようだな!期待して損したぞ」

陸戦型ガンダムが距離を詰め、ビームサーベルを振り下ろす。

「・・・っ!」

カティスが咄嗟に操縦桿を捻りかわしたが・・・

ドム・トロピカルタイプの左腕が砂漠に落ち、砂丘の斜面を滑り落ちていく。

溶断された跡に熱が燻り、パチパチと火花が散っている。

さらに陸戦型ガンダムの胸部バルカンが発射されるが、今度は即座に反応して回避する。

しかし・・・

「嘘ッ!」

ドム・トロピカルテストタイプが回避した先へと吸い込まれるように投げつけられる、陸戦型ガンダムのシールド。

シールド先端が正確にコクピットに当たり、衝撃が走った。

「うっ・・・」

「大したことは無かったな」

陸戦型ガンダムが100mmマシンガンを構える。

死ぬかも知れない、その瞬間だからだろうか。カティスは衝撃に揺らぐ頭の中で、無意識に行動していた。

無意識のうちに動いた手は、コクピットの隅で地味に存在していたレバーを最大まで押し上げる。

砂煙が辺りを包み込む。

「何っ!?」

ホバー機能の出力調整を最大にして、砂煙を巻き起こしたのだ。

グレモリーが一瞬動揺するが・・・

「目隠しをしようと、砂煙の中に居る事は分かってる」

冷静さを取り戻し、100mmマシンガンの引き金を引いた。

「奴ほどじゃないが、それなりに愉しませてもらった礼だ。あの世で喜びやがれ」

連射されるマシンガン。砂煙の中から聞こえる金属音に、射撃が当たっている事を確信した。

やがて弾が切れ、100mmマシンガンからは煙が立ち上るだけとなった。

「次の玩具を探さなきゃな・・・」

そう言ってグレモリーがその場を去ろうとしたその時。

ブォォ・・・ン

砂煙の中に光るモノアイ。

「まさか?」

砂煙が風に吹かれゆっくりと消える。

シュゥゥ・・・と、いくつもの弾痕から煙が立ち上っているが・・・

「カティスさんはうちの小隊の隊長でね・・・触らせる訳には行かないんだよ」

それは全て、「盾」に刻まれた痕だった。

砂煙を払うようにしてその機体は立ち上がる。その蒼い機体が剣を抜き払った。

「リジェイス・アルバ、グフカスタム・・・参戦させてもらうぜ」

 

カティスが陸戦型ガンダムと戦闘を行っているちょうどその頃。

格納庫内部にフィラクがいた。

「メインカメラ起動、サブカメラ起動・・・ホバーシステムON、各種計器異常なし、システムオールグリーン。ドム・トローペン、フィラク・シグマ、出撃します」

ブゥン・・・と音を立て、モノアイが光る。

フィラクはコクピット内部で軽く手をグー、パー、と動かした後、操縦桿を握った。

格納庫の扉が開き、サンドブラウンのドム・トローペンが陽光に照らされる。ラテーケン・バズを手に持ち、腰の後ろにMMP-80マシンガンを予備としてマウントする。さらにMMP-80マシンガンのマガジンを腰前面に装備、左腰にシュツルム・ファウストを2丁と、出来るだけの装備を施したドム・トローペンが、格納庫を出て行った。

退避していた整備士達が再びハンガーに戻ってきて、格納庫の扉を閉めた。

そこへ、怪我人を軍医のいるテントへ送り届けたセリエズがやって来た。

「ガイリッシュ整備長!出せる機体は無いんですか!?」

セリエズのザクは大気圏突入時に破壊され、強奪した装甲強化型ジムも破壊されている。

どちらも仕方ない事だったのだが、今の彼には機体が無かった。

「まともな機体は・・・ねぇな」

「まともな?」

「誰も乗りたがらねぇ機体があるんだが・・・あんちゃんが乗るには不足があるんじゃねぇか?」

「出せればなんでもいい!」

セリエズが大見得を切る。

ガイリッシュ整備長は、フン・・・と鼻で息をつくと少し考えて言った。

「アレなんだがなぁ。」

彼が顎で指し示した先には。

MSとは言いがたいフォルム。脚部はタイヤに、右腕はもはや「手」ではなく、左腕ももともな指がない。コクピット部分は強化ガラスで、恐らくそのままでも外が見えるだろう。頭部の代わりに砲塔が付き、その分、十字のモノアイレールが胴体に付いている。

「ギ・・・ギガン?」

セリエズが目を白黒させる。

「うっそだろオイ・・・」

「だから誰も乗たがらねぇと言ったろう?で、どうする?共食い整備に使われる寸前だったんでな、一応聞いておこうと思ってなぁ」

「乗るさ」

「乗るのか?」

「動けて、攻撃が出来れば最低限戦えるんだ。アレシアとリーシュも出てるんだろ?」

「・・・わかった。死んでも保障はせんぞ」

「今さら死んだって、無くすものなんて無いからなぁ」

そう言ってセリエズは昇降機でコクピットハッチに近づくと、ハッチのサイドにある蓋を下げてスイッチを押し込んだ。

コクピットハッチが開く。

内部のパイロットシートに座ると、コクピット内部の配置を見回す。ペズン系の配置は見たことがあるため、即座にどうなっているのか分かった。逆に言えば、見ただけで、動かすのは初めてなのだが。

「武装は180mmキャノン砲、120mm四連装機関砲、主砲同軸機関銃・・・。メインエンジン起動、射撃管制システム異常なし。ギガン、セリエズ・シュテイン、出撃します!」

ゴゥン・・・という音を立てて格納庫が開く。ギガンのタイヤが地面を噛み締め、前進を始めた。

 

ジム改のビーム・サーベルが、ザクⅡF2型を切り裂く。紙一重でコクピットには当たらなかったものの、機体の左側を持っていかれ、機体が大きく傾いた。

その瞬間、リーシュのザク・キャノンがキャノン砲を放つ。

「攻撃の瞬間、隙が出来るからな」

ドッ・・・と重い振動を響かせ、砲弾がジム改の頭部を砕く。

ザクⅡF2型のパイロットから通信が入った。

「あ、ありがとうございます!助か」

通信画面がブラックアウト。

頭部を砕かれ闇雲に振り回されたビームサーベルが、不幸にもコクピットを直撃してしまったのだ。

「くそっ・・・一撃で撃破できていれば・・・」

だが、ジム改が不意に溶断された。

「戦闘中に考え事なんかするな!」

アレシアのドム高機動試作機だった。

リーシュが言い返す。

「お前は日頃から何も考えて無いだろ」

「そう・・・じゃない!いいから援護に集中してくれ!」

「・・・了解」

言うが早いか、ドム高機動試作機がさらに前線へと飛び出す。

アレシアの右から来る機体を、リーシュがキャノン砲で撃ち抜く。右腕が跳ね飛んだのが照準で確認できた。

そして射点を移動する。

ミノフスキー粒子下とはいえ、射角等から射撃位置を特定することは可能だ。出来るだけ動き回ること、リーシュはこれを前提として行動している。

「戦闘範囲が広いな・・・基地外部の西から北にかけて全面が戦場になってる。ここからじゃ西側は狙えないが・・・」

北側の方が数が多い。主戦力は北側と見て間違いないだろうと判断し、援護射撃を続けた。

前線に出たアレシア機の、足元の地面に敵の砲弾が直撃する。

「あっぶねぇ・・・」

反射的に位置を変えると、第二射が来た。

「砲撃の数・・・他の連中に攻撃してる分も合わせると3機か」

ホバーの特性を利用し不規則に移動し攻撃をかわしつつ位置を変えていく。

次々と、砂と砲弾の破片が舞い上がる。

数箇所から砲撃を受けた角度から、連邦側の支援機の射点を割り出す。

アレシアがリーシュへとデータを転送する。

「位置情報転送、リーシュ!」

「座標確認!弾道計算完了・・・」

リーシュがキャノン砲の角度を上方へ修正。砲撃。弾道軌道を描いて、指定された座標へと砲弾が撃ち込まれる。

「着弾確認・・・当たったのは二機だな」

「野郎・・・一機どっか行きやがった」

「射点を変えたんだろう。慎重な人間ならそうする」

「ならどっかに・・・」

そういった矢先、砲撃が飛んでくる。ただし今度は、同時に陸戦型ジムがアレシアの方へと向かってきたため、対応が遅れた。

かろうじて直撃だけは避けたものの、爆風で機体が滑る。陸戦型ジムがそこを狙いすましたかのように100mmマシンガンを撃ち込んだ。

「く・・・っっそぉ!」

アレシアが咄嗟の策として、機体を陸戦型ジムの懐に飛び込ませた。弾丸が装甲表面にいくつもの弾痕を描いていく。

突っ込んだドム高機動試作機は、陸戦型ジムのマシンガンを持つ腕を掴んで跳ね上げ、逆にMMP-80マシンガンをコクピットに押し当てる。

「でやあああぁぁぁ!」

何発もの弾丸が打ち込まれ、絶命したかのように機体が動かなくなる。

「危なかった・・・」

その横を、右肩のシールドにスパイクが付いたザクⅡF2型が駆け抜けていく。

「くそっ、あの邪魔な戦車モドキを潰してやる!」

「おい、無茶な事はやめろ!」

ある程度の距離に近づいたところでザク・バズーカを構えるが、脚を止めた瞬間に、機体の上半身が吹き飛んだ。下半身が倒れ、その傍に時間差で落ちるザクの上半身。

「言わんこっちゃ無い・・・」

アレシアのドム高機動試作機が、もう一度立ち上がった。

 

「なんでそんな機体で出てきたんです!?」

通信画面から飛び出してきそうな勢いでフィラクはそう言った。

「機体がこれしかなかったんだ、仕方ないだろ?」

「だからってギガン?無茶な真似をして・・・下がっていてください!」

「戦場に出るなって意味の『下がっていろ』なら聞かないからな。後方で援護させてもらうが」

「そういう・・・いや、わかりました」

フィラクのドム・トローペンが北側へ向かう。

その後を追って、セリエズが基地の外壁の北側へと向かった。

「ユイ、戦場の全体像は?」

「データを送りますよ、隊長」

ユイがそう言って各種のデータを送ってくる。

いくつものデータがめまぐるしく動いていくのを、脳内で素早く情報処理し戦況の全体を把握、戦闘の流れからの今後の状況を予測していく。

「機体こそ心許ないが・・・前回はユイが居て動けなかった分、今回は本領発揮と行きますか」

基地のコンクリートを進んでいたタイヤが、砂漠の砂を踏みしめた。




ザクⅡF2型、装甲強化型ジムと来て、ギガンです。
今まではその場にあった機体を用いていましたが、本格的に自機が決まりました。
そういう意味では「主人公機の初登場」と言える気がします(25話とは遅すぎる)。

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