機動戦士ガンダム0084 ―砲撃戦線―   作:リゼルC型

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第22話「エースの名」

ラテーケン・バズの砲弾が飛ぶ。

ザクⅡ改に吸い込まれるように真っ直ぐ。

そして・・・爆発。

「勝っ・・・!?」

フィラクの表情が安堵と喜び、そして失望の色に変わる。

しかし・・・

「?」

戦闘終了すると、自動的にデータの表示がされるはずのシミュレーターが、データを告げない。それは・・・

「っ!上っ!」

フィラクの勘が、危険を告げる。

上空に・・・それも、MSの推力で跳べる限界高度よりも少し高い所に、ザクⅡ改はザク・バズーカを真下に向けた状態で居た。

ザク・バズーカの砲身がわずかに角度を変え、ドム・トローペンへと向けられる。

「どうやってあんな・・・!」

バズーカの砲弾が連続で放たれ、ドム・トローペンへと降り注ぐ。

「くそっ!」

MMP-80マシンガンを連射しつつ回避行動を取る。

バズーカの砲弾は、数発が空中で爆発し、残りは地表へとぶつかり爆発した。

一方ザクⅡ改は、バズーカの反動で基地の外側へと落ちて行った。

 

一方のセリエズは、シミュレーター内で少し荒れた呼吸を繰り返しながら、笑みを浮かべていた。

あの時、外壁に囲まれた状況でバズーカの砲弾が飛んできたとき、セリエズは自分が狙っていた状況と現状がぴったりと重なった事を実感した。

あの時セリエズはザクⅡ改を、ラテーケン・バズの砲弾のコースより僅かに高い位置に浮かせた後、ザク・バズーカを使って飛んできた砲弾を撃ち落としたのだ。

それによって起こった爆発は、周囲が外壁に囲まれた空間になっていた事により行き場を失い、爆風は一方向・・・そう、真上へと集約したのだ。

それだけではMSが高く浮き上がることは無いが、セリエズは集約された爆風に「乗る」ようなタイミングでブーストを吹かせる事で、高くへと浮き上がった。

だが、誤算だったのはフィラクの反応の速さだった。

爆風と共に急上昇したため、一見どこへ行ったかも分からない筈であり、反応が遅れたところに空中からの射撃によって相手を墜とすのが狙いだったのだが、フィラクは予想より早いタイミングでこちらに気付き、ギリギリの所でかわされた。

「さすが・・・といった所かな」

軽くブーストを吹かせる事で、減速して着地時の負荷を和らげながらセリエズは呟く。

外壁を飛び越え、フィラクのドム・トローペンが姿を現した。

 

外部モニターでその戦闘を見ていたメンバーのほとんどは、唖然としていた。

ヴァイス・トート隊のメンバーと、元同僚のカティス、セリエズの元上官であったガンスだけが、面白い、と言わんばかりの笑みを浮かべていた。

お互い、彼らの予想以上の動きをしている。

「恐ろしい部下達だ・・・戦力としては頼もしいがな」

ガンスが口を開く。数を並べ立てる事のできないジオン残党の現状では、高い能力を持っているパイロットはありがたいと言える。

だが・・・

「扱いに困る部下というのもなかなか見られんぞ」

「セリエズもフィラクも、命令には従うし、扱いにくい訳じゃないと思うんだけどなぁ・・・」

ガンスの言葉に対して、友人でもあるカティスが呟く。

二機の動きは予想以上に良かった。

ガンスやカティスが知っている一年戦争時代とは雲泥の差の実力を、セリエズは見せている。フィラクも、基地の誰もが見たことの無い実力を発揮していた。

モニターに視線を戻す。二機は互いに動き回り、射撃を織り交ぜつつ隙を探し合っていた。

 

シミュレーターによって再現された排莢が、カラカラと地面を転がる。

ザクⅡ改のMMP-80マシンガンの弾倉が地面に落ち、腰から新たな弾倉が取り出される。ガシュン、という音。

そして再び、連続する発射音。

基地のすぐ外の砂漠にて、二機が動き回る。

お互い、隠れる場所は無い。

「仕方ない・・・!」

セリエズは、ザクⅡ改のホバーを起動させた。

砂煙が上がり、すべるような動きへと変わる。

セリエズはMMP-80マシンガンをドム・トローペンへ投げつけると、右手にヒート・ホークを握り突っ込んだ。

バジィッ!

高熱を持ったもの同士がぶつかる音がする。

ドム・トローペンがヒートサーベルで受け止めたのだ。

MMP-80マシンガンを投げつけた時点でフィラクは、格闘攻撃を仕掛けてくると読んでいた。

ドムトローペンがぐっとヒートサーベルを押し出す。

ザクⅡ改はあっさりと弾かれた。

「・・・?」

予想外の反応にフィラクが違和感を覚える。

ザクⅡ改は倒れこみながら、左腕に隠し持ったシュツルム・ファウストを放っていた。

MMP-80マシンガンを投げつけたのは、「格闘攻撃に移行する」と思わせ、ヒート・ホークへと意識を集中させるためだった。倒れこむ動きの中で、自然に放たれたシュツルム・ファウストが本命だったのだ。

それに気付いたフィラクが、咄嗟にドム・トローペンの左腕で防ぐ。

『左腕、損壊。』

シミュレーターが無機質に告げた。

「やられるものか!」

フィラクが叫ぶ。

シュツルム・ファウストを撃った時の姿勢から立て直したセリエズのザクⅡ改に、左腕を失ったドム・トローペンが真正面からヒート・サーベルを構え追いすがる。

ザクⅡ改がそれを迎撃する姿勢を取った瞬間に、フィラクはホバーの出力を上げた。

砂煙が上がる。

「なっ!?」

セリエズが驚きの声を上げるが、咄嗟の反射で機体をひねった。しかし間に合わない。

真後ろに回りこんだフィラクが、ザクⅡ改の膝関節をヒートサーベルで斬り裂いていた。

倒れこむザクⅡ改に、ドム・トローペンがヒートサーベルを大きく振りかぶる。

「とどめだエース!」

振り下ろされるヒートサーベルを・・・

無力に食らうのでは無く、受け止めるのでも無く。

ヒート・ホークの角度を、斜めにする事によってセリエズは必殺の一撃の受け流した。

ヒート・サーベルが地面をえぐり、砂煙が僅かに上がる。

「なっ・・・!」

ザクⅡ改はそのままの勢いでヒート・ホークを振り、ドム・トローペンのモノアイを叩き潰した。

そして、バックパックのスラスターを吹かせ、ドム・トローペンごと基地の外壁に叩きつけた。

「だらああああっ!」

衝撃で動けなくなったドム・トローペンのコクピットに、ヒートホークを振り下ろす。

シミュレーターが、模擬戦の終了を告げた。


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