「騒がしいな・・・」
「そうだな。お前が言えた事じゃ無いが」
「悪かったよリーシュ・・・」
「7です」
ざわざわとした空気の中、のんびりとトランプの札を手にする4人。
トランプゲーム「ダウト」をやっているのはアレシア、リーシュ、ユイ・・・そしてもう一人、カティス。
アレシアとリーシュを見つけ絡んできたのだ。
「・・・8」
「ダウトッ!」
リーシュが札を出した途端、カティスが勝ち誇ったように叫ぶ。
リーシュの声には、躊躇うような逡巡が含まれていた・・・のだが。
「・・・っ」
笑いをこらえながらカードを表にめくるリーシュ。
そこにはハートが8個、描かれていた。
「うっ・・・わああぁぁ」
場に出されたカード全てを押し付けられるカティス。
「にしても、この騒ぎ・・・」
耳を済ませるアレシア。
かすかながら、「天才が・・・」「ヴァイス・トートの・・・」「模擬戦なんだとさ」「セリエズとか言ったよな・・・」「エース隊のMSはまだ・・・」「シミュレーターだってよ・・・」といったざわめきが聞こえてくる。
聞き取った言葉を元に、推測を加えると・・・
「どうも、天才パイロットがうちの隊長に模擬戦をしたいと言い出したらしい・・・隊長の機体が今は無いんで、シミュレーターを使うんだと」
「ふーん、見に行こうか?」
「カティスはさっさとダウトやめたいだけじゃないの?」
「違うって!」
「まあ、俺も見に行きたいしな」
「アレシアの意見に賛成しよう」
「はいはいわかった」
4人がカードを置き立ち上がった。
かつん、かつん、かつん。
足音が響く。
どうやら一年戦争時代のシミュレーターが、地下の一部に置かれているらしい。現役として優秀に稼働するため、4年間ずっと撤去されていないとフィラクは言っていた。
セリエズはフィラクの後に続いて階段を下りていた。
少し前の事を思い返す。
『・・・わかった。』
技術というのは互角の相手と競ったほうが上達すると言われている。その意味で、自分と互角な人間というのはありがたかった。
そういう意味で軽く了承したが、フィラクにとっては何か、思い入れのようなものがあるらしい。
誰か・・・エースと呼ばれる人間に対するこだわりのようなものが。
「ここだな」
扉の一つを開けながらフィラクが言う。
ギィッ・・・という音を立てて、少し淀んだ空気が流れ出す。
内部にシミュレーターが4つ、並んでいた。
MSのコクピットだけを切り取って置いたかのような印象。
シミュレーターそのものは内部に入って操作する筐体形式のため、外部からはコクピット内部そのものが見えないので、部屋の奥に外部からでも状況が見える、大きめのモニターが付いていた。
「あ~、昔使ったな、ジオニック製のS-06Fシミュレーター」
コクピットシートに腰を下ろしながら視線を巡らせる。
MSのコクピットが完全再現された内装は、MS-06F2、ジオン残党が主力として用いているザクⅡF2型の物が基準になっていた。
シミュレーターを起動。
フィラクは自機であるドム・トローペンを、セリエズは少し迷った後、ザクⅡ改の、フリッツへルムと呼ばれるタイプを選択した。統合整備計画に基づいた機体なので扱いやすく、逆に腕の見せ所とも言える。
その時、外からざわざわとした声のうねりが聞こえた。
「何だ?」
フィラクがそう言って、外部のモニターを起動すると・・・
「何を見物しに来てんだ・・・」
セリエズが先に、呆れたような声を出す。
フィラクは無言だが、いくつかの感情が混ざり合ったような表情をしていた。
「見物客だとさ、彼らに恥じないようなショーにしようぜ、天才さん?」
セリエズがフィラクに通信画面越しに語りかける。だが・・・
「冗談は嫌いだ」
「冗談言って悪かったよ」
複雑だった表情が、明確なしかめっ面に変わっただけだった。
大型モニターに何人もの視線が突き刺さる。
新しく基地に配属になったセリエズの実力が気になるらしい。
ヴァイス・トートのメンバー、元同僚であるカティス、セリエズの元上官であったガンス、先ほどフィラクとペアを組んでの戦闘をしていたサガンだけしか、彼の戦闘は見ていないのだ。
先の戦闘でドワッジに搭乗していたワズリ、グフカスタムに搭乗していたリジェイスは、彼らとは別の地点で戦闘していたため見ておらず・・・他の、基地に防衛戦力として残されていた連中も当然、初見なのだ。
「俺は天才が勝つと思うが」「俺もフィラクだな」「ん?あたしセリエズ!」「俺もセリエズだな」「カティスのお姉様にガンス隊長まで!?」「誰がお姉様だっ!」
ざわざわとした空気の中、モニターが始まりを告げた。